21.気になる木
いいねやブクマ、感想までありがとうございます…!とても嬉しいです!
それにしても時間経つの早すぎじゃないですか、先週更新してないってマジですか…?
「あれ? キィちゃん、いつもより大きい?」
『もっと大きくなれるよ~。いつもはつかれるからやらないけど』
なるほど。のんびり屋のキィちゃんらしい。一体どのくらいまで大きくなれるか気になるところだけど、誰かに見られて面倒になっても困る。その点はキィちゃんに感謝だ。
それにしてもこの子、知らないだけでもっと色んなことできるんじゃないだろうか。あんまり能力が高いとそれこそ面倒なことに巻き込まれかねないからまあいいか。特に今困っていることもないし。
そんな一幕もありつつキィちゃんに乗ってひたすら走り続け、例のモッダ平原へと差し掛かる頃にはすっかり陽が昇っていた。昼食にしたいところだけど、ピクニックをしている暇はない。
いつもはもっとスピード出せるんだけど、今はマルデインさんと一緒だからそうもいかない。一応キィちゃんとの契約の加護的なやつが段々パワーアップしてて、今や高速で走る際に身体に受けるダメージはかなり軽減されている。でもマルデインさんには適応されないのである程度スピードを落とすしかない。
初めはもっとスピードを上げていたんだけど、盗み見たマルデインさんの顔に死相が浮かんでいたから本人に気づかれないように徐々に減速してもらった。マルデインさん、自分を責めてしまいそうだからね。
そうして豊かとは言えない草が広がる荒れ地を進んでいると、遠くに大きな何かが聳え立つのが見えた。周辺に木が生えていないから余計に目立っている。
近づくにつれその大きさに驚く。大樹と呼ぶに相応しいほどの大きな木。いくらこの平原が広いからといって、気づかないはずがないくらいの存在感。多分、前に私たちがここを通った時にはなかったはず。
「何あれ……」
しかもその大樹の周囲には瑞々しい草花が広がっている。荒野に近いこの平原で明らかに異質だ。
いや、綺麗なんだけどね。一週間くらいしか経ってないのに一体何があったのか。
「──」
後ろにいるマルデインを見ると、感慨深げに大樹を見つめていた。
私たちの様子を察したのかキィちゃんが減速して走りを止める。
「すっご」
大樹の幹に近づくと、何年も前から生えてましたけど? みたいな存在感を余計に感じる。何だかデジャヴ──と思ったらあれだ、遺棄場の霊大樹だ。この大きな木も似た印象を受ける。というか私でも分かるくらいの霊気を感じる。
「あれ? ということは、これって霊大樹……?」
「はい。数年前に危獣に蹂躙された霊大樹です」
何と。実は平原にあったのか。じゃあやっぱり遺棄場の時と同じで、枯れたと思った木が実は完全になくなった訳じゃなく、魔気──今回は危獣がいなくなったことで復活したのか。
……ん? 遺棄場はミレスちゃんが浄化してくれたけど、これは違うよね? 生命力が違うとか? でも遺棄場の泉のほうが霊気が凄そうだったけど……いやあれは浄化されたからであって向こうの方が瀕死だったのか……?
「──これは憶測にすぎないのですが」
脳内で混乱している私が分かりやすい表情をしていたのか、マルデインさんが話し出す。
「危獣の屍が栄養となったのかもしれません」
「ええ?」
「通常であれば、危獣は生死に関わらず魔気を纏い我々人間には害でしかありません。しかし、ヒオリ様方が倒してくださった危獣たちには魔気がほとんど感じられなかったのです」
うーん。ミレスちゃんが攻撃する時に魔気も吸収してるって言ってたから、それと関係あるんだろうか。
腕の中の幼女を見ると、何のことか分からないとばかりに首をこてんと傾けた。クソ可愛いな。
「仮にそうだとして、いくら何でも死骸を養分に成長するには早すぎないですか?」
そういう微生物が死骸を分解するのって数カ月とか数年単位の話じゃないのか。それにいくら平原といっても、臭いとかそんなに簡単になくなるものかね。
いや、あれだけの危獣が一匹残らずいないばかりかこうして青々とした緑が広がっているこの光景が、事実を物語っているのかもしれないけど。異世界恐るべし。
「かつてこの地にあった霊大樹は、周囲に様々な木や花、果実を実らせ、フォールサングとダナレの繁栄を導いてきたと言われております。その力は長い年月を経て衰退したようですが、それでも両国を危獣から守ってくださる尊き大樹だったのです」
「元々のポテンシャルが凄かったってことかな。まあ何にせよ霊大樹が元に戻ったならよかったです」
「私共が知る限りでは一番の隆盛でございます」
「へー、そうなんだ」
栄養が十分すぎて育ち過ぎたのかな。
「これでしばらくはまた両国ともに栄華を迎えることでしょう。危獣の憂いがないことが一番の贅沢ですから」
兵隊の隊長さん(強面)なのに言葉が丁寧すぎて怖い。まるで神を信仰するかのような目で見つめられてちょっとぞっとする。
キィちゃん、霊獣にしては結構な力を持っているみたいだし、精霊信仰の強い国に行ったらどうなるんだろうか。想像するだけで恐ろしい。
やっぱりさっさと用事を終えてまた旅に出よう。のんびりふらふらと国々を回っているほうが気が楽だ。
◇
再びキィちゃんに乗って出発すること数時間。ふわふわ毛並みの最高級の座席とマルデインさんという屈強なシートベルトで快適だったドライブも、さすがに辛くなってきた。ずっと同じ体勢なのは疲れる。
平原を抜けて森のようなところに入ってしばらく経ったし、そろそろ町が見えて来てもいいと思うんだけど。
「マルデインさん、まだですか……」
「フォールサングには入っております。半日ほどでここまで進むなど考えられないです。本当に凄い」
「はは……今日はこのくらいにしませんか」
「元々中継地点として準備させていただいておりました町の宿がございます。もうしばしお待ちいただけますか」
「はい……」
何もしてないのに活気を失っている私とは違い、速度に慣れたのか平然な顔をしているマルデインさん。次からはもっと速度を上げて早めに王都に向かってもらおう。このペースだと私の身体の節々がやばい。
「あれは……」
マルデインさんが何かを見つけたのか小さく呟く。私には木しか見えないけど。
「ひと、いっぱいいる」
『ひとがいっぱいいるよ』
幼女と霊獣の声が重なる。みんな視力いいね。
しかしまあこんな木しかないようなところに人だかりなんて何事だろうか。
それから少しすると、確かに遠目に人らしき集団が見えた。ヒスロもいるようで、立ち往生している様子だった。
「キィちゃん、止まってくれる?」
『はーい』
「ここは私が」
道を塞ぐ列の最後尾に向かってマルデインさんが先行する。その後をついてくと、項垂れるように道に座り込む人々がいた。
「どうかしたのか」
「あ、あなたは」
「兵士か! 助かった。この少し先で森猫の親子が暴れ回っててな……どうにか護衛が対応してくれてたんだが、さすがに討伐はできないみたいでな」
「町への道を塞いで通してくれそうにないんだ。少しでも近づこうものなら威嚇をしてくる」
「森猫か……」
マルデインさんが難しい顔で唸るように呟く。
森猫って何。ヤマネコとかウミネコじゃないのか。




