15.どういうこと?
「よく分かんねーけど、何もないならよかった」
「何もなくないでしょ、見た? このクソ可愛い幼女」
うんざりしている様子のハリと穏やかな表情のガルテンさん。より一層ハリの顔色が悪く見える。
「そういやもう行くんだっけ? 少しゆっくりしていけばいいのに」
「ありがたい言葉だが、なるべく早く目的地へ行きたいからな。より早く、長く、彼の地での貢献を積んで民として迎え入れてもらえるように」
「ま、早く安全なところでゆっくりしたいしな」
確かに不安要素は排除してから羽を伸ばしたいか。いつどこで捕まるか分からないし。私もタルマレアから逃げてるときはそうだったな。今は力強い味方も増えたし、何よりミレスちゃんとキィちゃんがいるから安心だけど。
「じゃあ元気でね。もしテア様に会ったらよろしく」
「ああ。色々とありがとな」
「このご恩、忘れない。彼の地で安定した暮らしを手に入れたら、必ずや貴殿たちに礼を尽くすよう努める」
「こちらこそキィちゃんのことありがと!」
最後に握手をして、また会えることをお互いに願いながら二人を見送った。
ちゃんと合法ドラッグの草も換金できたみたいだし、これからの旅は今までよりはマシになるといいな。
「じゃあこのままエコイフに行きますか」
「ん」
『はーい!』
昨日収穫したエブサを納品して謝らないとね。
◇
「あっ、ヒオリ!」
エコイフに入ってすぐ、少し焦ったようなブライジェが駆け寄ってきた。
「よかった」
「何が? とりあえずエブサ渡してきてもいい?」
「え?」
幼女の黒い枝に手伝ってもらいながらエブサの入った袋を運ぶ。
ちょうど昨日の絶望していた職員さんがいたので、その前のカウンターに袋を乗せた。
「昨日はすみませんでした。これエブサです。足りますか?」
「……え?」
寝不足なのか目の下に隈をつくっているお兄さんが、理解できない様子で首を傾げる。
「これ、全部エブサか!?」
いつの間にか袋を開けて中身を見たブライジェが大きな声を出す。
「そうみたい。足りないならまた探してくるけど……」
「いやいや、まず一日でエブサを見つけるなんて、それにこの量有り得ないだろ!?」
「見つかったんだからよかったじゃん」
「それはそうだが……!」
ブライジェが大声で騒ぐせいか、周囲の人たちからの視線が集まる。何だか居心地が悪い。
顔色の悪いお兄さんはというと、袋の中身を見つめて震えていた。
「……ぁ……ぁ……」
小さく呻いているのが怖い。倒れないよね?
「ありがとうございますぅぅぅぅぅうううううう……」
エブサの入った袋を抱き締めて涙を流すお兄さん。ちょっと情緒不安定じゃないですか。
「本当に規格外だな……ああ、そうだ! ヒオリ、こっちよりもっと大変なことがあるから来てほしいんだ!」
「ああ、何か用事があるんだっけ」
「エブサの報酬は後で受け取ってくれ、それよりだな」
「報酬なんていいよ。昨日はこっちが悪かったんだし」
「それとこれとは別だ! 下手したら発見するのに幾月もかかるんだぞ!? 見つかったとしてもこんな量が採れることはまずない。かなりの報酬になるからもらっておいたほうがいい。だがそれよりも大変なことになっていてな。とにかく来てほしい」
エブサのことに驚けばいいのか、その用件とやらに焦っているのか、とにかく忙しない様子のブライジェに連れられてエコイフを後にする。
「どこに行くの?」
「町長のところだ。今、フォールサングの使者が来ていてな。多分ヒオリたちを探しているんだが……」
フォールサングって大変なことになってた隣国だっけ。その使者が私に何の用? というか何で知られてるんだ。
「ヒオリの偽物が騒いでいるんだ」
「何じゃそりゃ」
私の偽物? 騒いでる? どれも身に覚えがなければ想像もつかない。そういう偽物って本物の真似して何か得がある場合でしょ。私を騙って何の得があるんだか。
「前にモッダ平原に聖女一行が現れたって言ったよな。それ、ヒオリたちだろう」
「え?」
「見返りもなく嬉々として危獣を倒す連中がヒオリたち以外にいるなんておかしいと思ったんだ」
何か凄い言われようなんだけど。
というかそんなことした覚えは……あ。いやいや、平原みたいなところで危獣の群れを一掃したことはあったけど。あの時、誰もいなかったよね!?
「……ちょっと、ミレスちゃん?」
「ひぃ、たのしそう、だったから」
「え、ええぇ……」
特に害がある訳でもないから黙っていたんだろうけど。ウキウキで必殺技叫んでたの、誰かに聞かれたってこと……!?




