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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
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18.そしてまたn難


 ローイン隊長はいつも前線の部隊で指揮を執っていた。その方に向かって走る。

 どこから危獣が湧いて出てくるのか分からない。組織のトップがいなくなれば統率が取れなくなる。その二点だけが思い浮かび、ひたすらローイン隊長の元へ走った。

 ダズウェルさんの制止も聞かないまま飛び出したから、もう護ってくれるような人はいない。


 比較的小さな危獣に構っている暇はない。調査隊が倒せないようなレベルの危獣を優先して攻撃していく。調査隊の兵たちは驚きながらも別の危獣と対峙してくれていた。お陰で私が追われることは少なくなる。


 隊長の元へ走るにつれ、段々と気分が悪くなっていった。吐き気と頭痛、倦怠感。ミレスと初めて会ったときと同じだ。


「おい! しっかりしろ!」


「クソッ」


「駄目だ、これじゃ持たない!」


 森の中、少し開けた場所に前線部隊と思われる人たちを見つける。


 そこは、私たちがいた場所が安全地帯だったのではないかというほどの死地だった。


 多くの兵たちが血を流し倒れている。比較的大きな危獣の亡骸は、数体。明らかに数では劣っているものの、負傷率が段違いだ。

 その理由は、兵たちの視線の先にあった。


「隊長……!」


 震えるような声。剣を向けるその先には、あまりにも巨大な危獣がいた。トラウマレベルの熊の危獣の二倍はありそうな、見上げるだけで首が痛くなるサイズ。

 猪のような鼻と口からはみ出す巨大な二本の牙、頭には左右に伸びる角と中央にそれ以上に太く鋭利な角。力士像のような太腕が二本、枝のような突起が無数に生えている。四本の脚に背中には四枚のコウモリのような羽。蛇のような鱗を持つ尻尾は二又に割れている。まるで複数の動物を組み合わせたキメラみたいだった。

 何よりも、異臭が酷い。硫黄のような、何かが腐ったような、鼻を刺激する臭い。

 異形の危獣からはまるで溶け出すように液体や皮膚が地に落ち、周囲が腐敗している。


「隊長!」


 最前線で剣を構えるローイン隊長に向けて太腕が飛んでくる。剣で受け止めるものの、傷が浅いばかりか力に押されて数十メートルほど地面を後退する。


「──っ」


 腕を振り払い、剣で斬りつけるも腐り落ちる部分が飛び散るだけだった。その間にも、別の腕で周囲の兵士たちに殴りかかり、数人で受け止めるのが精一杯なところを蛇のような尻尾が襲う。すぐさま隊長が尻尾を斬りつけ、今度は中身が見えるほどの傷を負わせる。

 もう一度、同じ場所をローイン隊長が斬りつけ切断した。大きく血飛沫を上げうねる尻尾。斬られた尻尾は地面に落ち、びちびちと魚のように跳ねている。残った尻尾の切断面からは濃紺の液体が滴り落ちたかと思えば、今度は勢いよく何かが突き出てきた。


「嘘、だろ……」


 やっとの思いで片腕を弾き返した数人の兵士から絶望に満ちた声が漏れた。


 尻尾が、再生した。薄汚れた尻尾とは明らかに違う、真新しい鱗の尻尾。


「何て再生力だ……」


 パワーもあり、身体は硬く、斬られた部位は何のダメージもないかのように腐り落ち、巨体すぎるがゆえその体積は大して変わったように見えない。それに加えて再生能力の高さ。

 明らかに、今までとは比べ物にならないくらいの化け物だ。


「……ミレス」


 祈るように小さな身体を抱き寄せた。どこまで通じるのか分からないけど、ミレスを信じるしかない。


「右だ!」


 休む間を与えることなく腕と尻尾が次々と兵たちを襲う。唯一の救いはそれほどまでに動きが俊敏ではないところ。幾度となく繰り返される攻撃を、掠り傷を負いながらも避け切れている。

 それが余計に、出だしができない要因ともなっていた。

 近づきすぎれば私たちに攻撃が向けられるかもしれないし、回避できる自信は到底ない。

 それにミレスの力は強大だけど、その分影響力も強い。味方識別機能なんてついているとは思えないし。このまま攻撃したら味方に当たる気がしてならない。


「ど、どうしよ」


 考え倦ねている間にも、敵の攻撃は止まないし味方は負傷していく。


 もし攻撃して、周りの人たちも巻き込んでしまったら。呪いのような力を身に受けて、ミレスが恨まれてしまったら。

 悩んでいる場合じゃないと自分を鼓舞したのに、踏み出せない。


「えっ」


 突然ミレスに服を引っ張られ、顔を下げた。同時に、ドンッ! と鈍い音を立てて目の前の太い木の肌が抉れる。

 振り向き様に何かが視界を横切った。そして目の前には、頭を失った熊の胴体。


「……え」


 ブシャーッと勢い良く首の断面から血飛沫が上がり、黒い靄に包まれる。

 ゆっくりと倒れる巨体を見ながら、ようやく後ろから熊の危獣に襲われたのだと分かった。

 ミレスがいなかったら私の首が飛んでいたに違いない。それほどまでに抉れた太い木は、もう一度同じ攻撃を与えれば倒れてしまいそうだった。


 ミレスにお礼を言う前に思わず激戦の渦中へ視線を向ける。


「アサヒ!?」


 驚くローイン隊長なんて新鮮だな、なんて思う間もなく異形の危獣がこちらを向いた。

 のそりとその巨大な体躯を方向転換すると、これまでの動きは何だったのかというくらいの速さで駆け寄ってきた。


「ヴォルラォァァァァアア……!」


 地響きするほど低く大きな鳴き声を上げて、突起物の生えた太い両腕を振り被る。

 手を伸ばす。ミレスから伝わる“何か”が指先から駆け抜けても、腕の動きは止まらない。もう一度、指先から駆け抜けた“何か”を感じたときには、両腕は大きく反れ天に向かっていた。


「何、だと」


 異形の危獣を追って近寄ってきていた兵士が信じられないといった目で見ているけど、私は違うことに驚いていた。


「ミレスの攻撃が、効いてない……?」


 あれだけ一撃必殺だったのに。腕を切断するどころか傷一つすらついていないように見える。


「いやいや、強すぎでしょ……!?」


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