13.無意識のソレ
「それにしても、ここからグルイメアまでってまた結構な距離がありますよね」
失礼ながらお金とかどうしているのかと思えば、主にガルテンさんの持ち物を売って資金を得ていたらしい。これからは何かしら依頼を受けつつ目的地まで行こうかと考えていると。ヒスロ便も長距離だと結構お金かかるしね。
ハリには同じ転移者として、そして似たような境遇からしてちょっと親近感が湧いているのもあって、何かしら力になりたいとは思う。ガルテンさんもいい人そうだし、ここで会ったのも何かの縁だよね。
「これ、結構いい値段で売れるみたいです。資金の足しにしてください」
幼女曰く合法ドラッグの元となる草が入った袋をイケオジへ差し出す。
「主殿を助けてもらい、ここまで運んでくれた上にそこまで世話になる訳には」
「じゃあガルテンさんの話を聞かせてください。霊術とか召喚とか詳しいんでしょ? 情報料ということで受け取ってくださいよ」
イケオジは考えるように黙ると、少し困ったような顔をして礼を言った。
「私が知っていることであれば何でも話そう」
「ありがとうございます。じゃあどうしようかな……あ」
ある程度のことはフェデリナ様やヘナロスさん、テア様に聞いたけど、まだまだ知らないことはたくさんある。そこでふと思い出したのは、ここへ来たときのこと。
「シィスリーのとある遺跡の奥に立ち入ったらこの国に飛ばされたんですけど、それって召喚とか霊術とか関係あるんですかね?」
「……ふむ。今より大昔、霊術がもっと栄えていた時代には転移の術が当たり前に存在していた。毎回術を発動しなくてもいいよう、主要地へ術陣を施していたという。シィスリーにあるカヒーレッタ、それからここダナレにあるンド遺跡にも確かそういった痕跡が残っていたはずだ。ンド遺跡は風化が激しくその面影はほとんどないと聞いたが……」
「はー、なるほど」
つまり昔の転送システムが残っていて、何かしらの理由で魔法陣が発動してこっちに飛ばされたってことか。
確かに飛ばされたところには遺跡と言われたらそうかもしれない残骸があった。発動条件が分かれば、とちょっと期待したけど明らかに魔法陣っぽいものはなかったし、今は一方通行なんだろう。
「転移の術、使えたら便利ですよね。使える人ほとんどいないみたいですけど」
「そうだな……術陣と高位の術士が数人いれば可能かもしれないが、あまり実用的ではないだろうな」
「そっかー。ミレスちゃんはともかく、キィちゃんならちょっとその辺いけるかなとか思ったんだけど」
さっきからおいしそうに料理を平らげている霊獣に目を向けると、ガルテンさんはまた少し困ったような表情で笑う。
「かつて精霊や霊獣との親交が常だった頃ならばともかく、単身で転移の術が使えるのはこの大陸でも片手で数えるほどだろうな。まあ、我が国……いや、カサンクラインが知ったら絶対に放っておかないだろうが」
「精霊信仰が強い国なんですよね。行くことないだろうけど、そんなとこに飛ばされなくてよかった」
「精霊教会の数も多いからな。一番の問題はキィ殿が恐らく本当の霊獣であることだろう」
「本当の霊獣? 偽物とかあるの?」
「カサンクラインを含め霊獣使いは少なくないが、近代の霊獣は人工的なものに近いのだ」
本物の霊獣はかなり珍しく、現代の人間との相性や霊力が分不相応であり契約など到底無理。仮に契約できたとしても、対等な関係ではなく人間側に不利になる。RPGでいうこところのレベルが高くて命令を聞かない使い魔みたいなもの。
だから今の霊獣は、中でも霊力が高かったり後天的に霊力を付加したり、強化された動物を指すことがほとんどらしい。契約というよりは従属になるみたいだけど、本物の霊獣と契約するよりかなり安全で普及しやすいんだとか。何というジェネリック霊獣。
「天然物のキィちゃんは存在だけでやばいってことか」
「霊力が先天的か後天的かどうか分かる人間はそうそういないが、気を付けるに越したことはないだろう」
「忠告ありがとうございます」
というか、普通分からないのにそれが分かるガルテンさんは本当に凄い人なんだろうな。何で国はこんな人をヤっちゃおうなんて思ったんだろうか、もったいない。
「その何とかの森って近くまで行って、どうすんだ? オレら、その国にずっといれんの」
やっと復活したらしいハリが目の前の料理をつつきながらガルテンさんに問う。
「市民権を得るためにはその国へ移住届を出すか、何かしらの貢献をしなければなりません。恐らくシィスリーも同様でしょう。しかしそうなると我々の居場所がカサンクラインに知られる危険性も高くなります。もちろんどちらもせずに移住する人間は少なくありませんが……」
違法になるようなこと、義に反することはやりたくないんだろうな、ということはガルテンさんの言動を見ていたら分かる。どうにもいいところの出みたいだし。
「その辺も含めて雲隠れできないか、テア様に聞いてみますよ」
「何から何まで……申し訳ないな」
「むしろ多分喜ばれるんじゃないかな。働き手が足りないって言ってたから」
「何と。働く場まで与えてくださるのか」
鉱山の問題が解決して、周囲の片づけとか発掘作業とか、あとはミレスちゃんが見つけた資源場所での調達、貧民街の開拓とか、私が知ってるだけでもやること盛沢山だからね。テア様もエメリクも倒れそうなくらい忙しいみたいだったから、ガルテンさんみたいないかにも力と体力に優れてそうな働き手は両手を上げて迎え入れてくれるでしょ。
異世界から来た私と評判の悪いミレスちゃんに対して取引を持ち掛けてくるくらいだし、二人が追われている事情とか素性に関しては特に追及されないはず。
「ほんとオレ、何もできることないな」
ぽつりと呟くように言うハリ。ガルテンさんが柔らかな笑みを浮かべてハリを見る。
「私は主殿の手足、いや付属品とでも思っていただければ。私の為すこと全ては主殿の功績なのです」
いや、おっも。重いよ。
割と年上だけど顔もいいしガタイもいいし、タイプな人はいると思う。乙女ゲーならちょっと異色の攻略対象として十分。
だけど悲しいかな相手は一般人男性。
「……アンタのそれ、どうにかなんないの?」
「それとは?」
はて、と首を傾げるイケオジに若干遠い目をするハリ青年。
きっとここに来るまでに似たようなことがいっぱいあったんだろうな。




