12.彼らの事情
年末年始も関係なく仕事なので個人的にお正月感はないのですが明けましておめでとうございます!
今年ものんびり更新していくのでお付き合いいただけたら嬉しいです。
つい転移と聞いて同じ故郷だと思い込んでしまったけど、むしろその可能性のほうが珍しそう。一体どのくらいの世界が存在しているんだろう。
「どうやら、彼女も主殿とは違った世界から来たようですな」
「そうなのか……残念な気もするけど、仕方ないか」
素早く事情を察して納得するイケオジと落ち込む様子の青年。
私もちょっとは落胆したけど、別に元の世界に戻りたいって訳じゃないしな。
「召喚されたかどうかってどうやって分かるんです?」
「主殿と同じで成人にしては霊力がほとんどないからな。それに私は長らく召喚の儀に携わっていたから、そういった勘も働く」
「召喚の儀! 出た、ファンタジー要素。てか、あれ。そういやそんなことしてる国があるとか聞いたな」
「この大陸で召喚の儀を行っているのは一国しかない。恐らく母国だろう」
それからイケオジことガルテンさんが青年・ハリと出会うまでの話を聞いた。
以前ヘナロスさんに聞いた精霊信仰の強い国というのは、ガルテンさんの母国だった。ガルテンさんは国直属の軍人で、主要人物の護衛をしていた。また、召喚された人の通訳をできる術を引き継いでいる唯一の人物だった。
数十年ごとに召喚の儀を行っては、召喚者に国の発展に貢献してもらっていた。霊力に似た力を持っていたり、独自の知識で新たな文化を築いたり、それなりに召喚はうまくいっていた。
しかし今回の儀式で召喚されたのは、何の力も持たない普通の人間。元の世界の文化や発展具合も自国と似ていてこれといった知識の応用もできそうにない。前回の召喚者が武人として功績を残していただけに、落胆は大きかった。それに世界中で危獣が活発になってきているせいで、精霊の寵愛を受けたという象徴として祀り上げるにはコスパが悪い。
そんなこんなで、せっかく召喚したものの今回はなかったことにして次回に期待しようということになった。本来なら次の召喚まで様々な準備と期間が必要となるが、前回の対象者がいなくなれば期間など一部の条件がクリアできる。
つまり、消してしまおうということだ。
勝手に召喚されて勝手にその生を強制終了させられることに不信感と罪悪感を抱いたガルテンさんは、こっそり召喚者であるハリを逃がそうとした──が、その思惑がバレて罠にかけられ瀕死状態となってしまった。それを救ったのがその場に居合わせたハリだった。持っていた薬草で必死にガルテンさんを治療しようと試みた。
代々国の上層部の護衛を務めていたガルテンさんの家系は特殊な体質だった。ハリの極僅かな霊力との繋がりを持ち、一命を取り留めた。
そして自分を救ってくれたハリを主として守ることを誓い、命からがら何とか国を抜け出した二人はこうして逃げる日々を送っている。
以上、説明終わり。
「本当に主殿との相性が合ったのは偶然だった。主殿でなければ私は助からなかっただろう」
「よく分かんねーけど、相性がよかったのはいいとして、主とか言うのは違う気がすんだけど」
「命という一生分の恩を返すにはそうするしかない故、納得していただきたい」
二人の成り行きが結構ヘビーだけど、仲良くやれてるんならいいよね。
それにしてもガルテンさんの体質、ゾダの一族っぽい。この世界は霊力ありきだから、似た体質は他にもあるのかも。
「ガルテンさんってその国の中でも結構強かったんでしょ? それに唯一の通訳者だったのにいなくなったら国もかなりのダメージだろうね」
「……もともと召喚の儀に頼った発展など間違っていたのだ。国自らの力で成り立ってゆかねばならん」
「そりゃそうだ」
一個人ならともかく、国が他人の力にばっかり頼ってちゃ駄目だよね。
「一回に召喚できるのって一人までって言ってたよね。それじゃ私はその国の召喚で来た訳じゃないってことか」
「本来は危獣に対する戦力のために召喚が行われていたが、その空間の狭間が歪んだ時に影響を受けることがあるらしい。召喚以外にも、様々な理由で開いた世界の歪みから人間が場所や時間を問わず往来してしまうことがあると聞いたことがある」
「はー、なるほどね」
つまり何らかの原因で空いた穴からこの世界に通じてしまった、みたいなことね。
召喚された訳じゃないっぽいと知って、よかったような、ちょっとだけ残念なような。まあ色々大変なことはあったけど幼女に出会えたから結果オーライか。
というか、よくある神様的なものが介入してなくて普通に人が消えただけなら、元の世界で私が行方不明になったままってことか。無断欠勤になって職場には申し訳ないけど、どうもできないしな。家族は普段から連絡取らなかったし、いなくなってることに気づいてなさそう。
いや、さすがに職場から連絡行くか。
まあ考えたところで私には何もできないし、せいぜい頑張って貯めた貯金を有効活用してくれとしか。
「立ち話も何だし、そろそろどっか行かねー? オレ、腹減った」
「そうですな。ヒオリ殿、近くに休める場所はあるか?」
「私たちが泊まってる町に案内しますよ。この辺では栄えてるほうみたいだし」
「それはありがたい」
「じゃ、面倒だからちゃちゃっと行きますか。ミレスちゃん、キィちゃん、お願いしてもいい?」
「ん」
「キィゥッ」
ぐぐぐっと巨大化する霊獣、それに乗っかる幼女を抱いた私。そして幼女から黒い枝が伸びると、イケオジと青年をまとめて縛り上げた。
「ちょっ、はっ!?」
「これは、どういう──」
「ォわァァァァァアアアアアア!!」
イケオジが言い終わる前に、キィちゃんが走り出す。私には慣れた速度だけど、一般人には恐怖でしかないだろう。ハリの反応が最早懐かしい。
◇
「凄いな。これほどの速度で走ることができるとは」
「……」
町に着いていつものご飯屋さんで着席すると、イケオジは感心したように頷き、青年はぐったりした様子で項垂れた。
ちなみに帰り道で収穫したエブサの大袋を回収するのも忘れなかったよ。その辺ミレスちゃんもキィちゃんもしっかりしてるよね。
「さて、ハリが復活するまで適当に頼んで食べますか」
「数日野宿する予定だったが、本当に助かった」
「それはよかったです」
到着した料理を適当に分けながら相槌を打つ。ハリの顔色はまだよくならない。
「これから二人はどうするんですか?」
「もうここまで来れば追っ手はないと思うが、確実にその気が失せるようグルイメアの森を目指している。あの周辺に近寄ろうとする者はいないからな」
「グルイメアの森か。懐かしいな」
「懐かしい……?」
訝しげにこちらを見るイケオジに、そういえばこっちの事情は何も知らないんだったなと思い出した。
幼女と霊獣の反応から二人が怪しくないのは保証済みだし、簡単にだけど幼女と出会ってから今までのことを話した。その上で、グルイメアの近くに行くならシィスリーのメッズリカ領をお勧めしておいた。
「国自体は私もよく知らないですけど、あそこの領主様はいい人なんですよ。色々お世話になってて」
「かのグルイメアの忌み子というのも信じられないが、平然としている貴女も相当なものだな。主殿といい、召喚者は度量がある」
うーん。私は結構考え方とかマイノリティなほうだと思うけど、それ抜きにしても、転移してきたら詳しい事情も分からないし肝が据わって見えるのかもね。




