10.事なきを得た
「ちょっとキィちゃん!」
もきゅもきゅと咀嚼し、ごくんと嚥下するキィちゃん。
これ、ラスイチって言ってたよね。
「すみませんすみませんすみません」
「どっ、どっ、どうしてくれるんです!?!? あれがなければ他に探しようがないじゃないですか……!!」
絶望的な表情をして項垂れる職員さん。
いや、本当にその通りで。
「キィゥッ」
「だいじょうぶって」
「だ、だ」
「すぐに探してきます!!」
この場で謝罪していても始まらない。
これでもかというほど目を見開く絶望的な職員さんと驚くイウリオさん、ブライジェを尻目に、急いでエコイフから出て町の外に向かった。
今までの仕事でやらかしたレベルで心臓がバクバクと鳴っている。少し方向は違うけど、無銭飲食、食い逃げ──そんな言葉が脳裏を過る。
「本当に分かるの!?」
町中を走りながら呑気に頭上で丸まる霊獣に問う。
「キィゥ」
「信じるからね……!」
◇
ひたすら走って力尽きそうになったところを巨大化した霊獣に拾われ、しばらく木々の間を進むこと数十分。
「キィゥ」
「これが、そう」
「え、どれ?」
霊獣と幼女が示したその草は、他の草と何が違うのかさっぱり分からない。
というか、収穫するのにどれだけ時間がかかるのやら……。
「キィゥ」
「このむこう、たくさんある」
キィちゃんが言うには、この辺にちらほら、そして少し先にたくさん生えているらしい。
それなら少しは希望があるか……。
「ふぅ。こんなもんでいいでしょ」
キィちゃんがどんどん見つけてそれを幼女の黒い枝に手伝ってもらいながら収集。周囲が少し薄暗くなってきた頃には、それはもうたくさんのエブサを回収することができた。
途中からは途轍もないスピードで幼女が回収してくれたから助かった。何でも、私を介してキィちゃんが示すエブサが分かるらしい。私なんかでも役に立ったならよかったよ、本当。
ちなみにこの袋は四十五リットルのゴミ袋くらいの大きさで、それが四袋あるから結構な量だと思う。
一つの薬を作るのにどれくらい使うのか分からないけど、色んな種類に使うとしても結構持つんじゃないかな。足りなければまた集めに来ればいいし。
「キィゥッ」
「ぶへっ」
べちっと顔にしがみついて来るキィちゃん。何事かとその身を剥がせば、幼女が服の裾を引っ張る。
「もっとむこう、いいのある」
「え? ちょっ、待っ、ぁぁぁああアアアッ!!」
久々に黒い枝に掴まれて驚くとともに、急に走り出して絶叫する。
だからこういうの無理なんだってば!!
◇
「ッスゥ、ハァーー……」
「キィゥッ」
「ひぃ、これ」
どこかに連れ出されたと思ったら意外にも安全運転で、予告ないアトラクションに私だけが打ちのめされているだけだった。ビビりなんだよ、悪いか。
体調は悪くないとは分かっているからか、最早私の気持ちなんて気にもせず、二人はこれが見せたかったとばかりに髪や服を引っ張る。
その指差した先にあるのは、蔦とつくしが融合したような植物。
「これは?」
「キィアキィエィゥ」
「いいくすりのもと」
「キィェイァウ、キュゥア」
「ごうほうどらっぐ、めちゃたかい」
「だから語彙」
本当にこれからの幼女が心配なんですけど。人前で変なこと口走らないといいんだけど。
「じゃあこれも回収しよ。てかさっきせっかく採ったエブサは置いてきたけど大丈夫かな……」
「ん。かくした」
「え、ありがと」
あんな一瞬でそんなことまで。気が利くな。




