6.ぎぶみー休息
「その件につきましては記憶から抹消していただけるとありがたいのですが……」
「はぁ」
表情の乏しい顔で素っ気ない声を出す美人さん。クールビューティ。
でもよく見ると女性って確定できる感じでもないんだよな。この町の人たちはみんなローブみたいなもの着てるし、室内で見る姿も浴衣みたいな感じというか神官とか術士が着ているようなタイプ。だから体型が分かりにくい。
それに美人さんは髪型もボブだし声もちょっと聞いただけだけどちょっとハスキー。こんなに可愛いもとい美人が女の子な訳がない、みたいなタイプかもしれない。
「あの……?」
じっと見つめたまま固まる不審者に向かって用件を促してくる美人さん。
「あ、すみません。この国のお金を持ってないので換金したいんですけど……」
「それではこちらにどうぞ」
仕事だからか嫌悪感を出すことなく案内してくれる。優しい。
「ん……?」
ATMのような台にカードを翳すと台の上方に出てくる数字。それが何だかおかしい。
あれ、桁増えてない? 気のせい?
しばらく見てなかったとは言え、前に得たヒスタルフでの成果(幼女が見つけた資源とかなぜか絶賛されたなんちゃってコンクリートとか)で定期的に入る分を考慮しても多い気がする。
キィちゃんを助けるときの騒動で、ボスラフさんの知人の商人さんに形見的な感じでボスラフさんのカードを渡したんだけど、それだけでもかなりの価値があるのに中身までは受け取れないと言われてお金だけ自分のカードに移した。それでも大分増えたなと感じたんだけど、桁まで変わることはなかった。
「……テア様かな」
考えられるのはそれしかない。
真相を確かめる術もないし、何より疲れている。今ここでごちゃごちゃ考えても解決しないならスルーするに限る。
「よし」
とにかく無事に機械で換金を終えてほっとした。これで宿に泊まれる。
ちなみにこの国の通貨は楕円形だった。シィスリー通貨のプラカードみたいな感じは変わらないけど、小判っぽい。相変わらず描いてある文字や絵のようなものはよく分からない。
「イウリオ!」
威勢のいい声がした方を思わず見ると、美人さんに笑顔を向ける爽やかな男がいた。ローブから覗く腕は筋肉質で、めちゃくちゃ美形って訳じゃないけど陽キャっぽいしモテそう。
どう見てもアプローチしているようにしか思えないけど、当の美人さんは軽くあしらっているようだった。残念だったね。
そんな二人を尻目に通り過ぎようとすると、なぜか陽キャ男の視線がこっちに向いた。
「君! もしかして頭の上にいるのって、霊獣じゃないか?」
その人の声が結構なボリュームだったもので、周囲のざわめきが強くなる。やれ「やっぱりそうなのか」やら「こんなところに霊獣!?」やら。
ここに入ってから何だか見られていると思っていたけど、感づかれていたのか。てっきり黒髪とかこの国ではない恰好が珍しいとか(ローブなのは同じだけど)、醜態を晒して奇声を上げたからかと思ってた。
「い、いや~……」
どうしたものか。隠すのが得策なのかどうか分からない。面倒なことにならないのはどっちだ。
怪訝な目半分、目の前の爽やか陽キャみたいに羨望なのか期待なのか目をキラキラさせているのが半分。
疲労感も重なって思考を放棄しかけた時、受付の奥にいたおじさんが口を開いた。
「霊獣使いが来るなんて久々だ! こんなに若いのに凄いな。結界を見に来てくれたのか?」
「え? いや、その」
「さっき換金していたところを見るに来たばかりなんだろう。イウリオ、この町を案内してやれ!」
にっこり満面の笑顔のおじさんの圧に勝てず呆然としていると、イウリオと呼ばれた美人さんは小さく溜め息を吐きながらも「はい」と答えた。
面倒臭そう。だよね。私もその立場ならそう思う。
いや、そこに私の意思はないんか。
もう否定するのも辞退するのも煩わしくて、先導するイウリオさんについていく。
ああ、宿が遠ざかっていく……私の楽園が……。
「こちらは露店が並んでいます」
「あっちの肉焼きがうまいんだ」
補足情報を適宜追加するのは横に並ぶ爽やか陽キャ。頼まれてもいないのについてきた。多分イウリオさん目的だろうけど。
ちなみに名前はブライジェというらしい。眩しい笑顔で「よろしくな、ヒオリ! 堅苦しい感じはなしでいいか?」と言われて頷くしかなく、やっぱり陽キャは凄いなと思った。苦手なタイプだけど、好意はイウリオさんに向かっている分こっちへの被害は少ない気がする。
「ヒオリたちはどこから来たんだ?」
「あー、シィスリーだよ」
「随分遠くから来たんだな」
「みたいだね」
「?」
そういえば転移してきたみたいと言って通じるんだろうか。この辺の情報収集をしたいけど、ここまでどうやって来たんだってなるよね。
「霊獣を連れた人って珍しくはないの?」
「ダナレは術士が多いから王都にはいるな。モッダ平原の結界を張ったのも王都からの派遣部隊だし。その中に霊獣を従えた術士もいたはずだ」
何だ、いるのか。幻と化しているって話だったけど、国によって違うんだろうか。近隣だったら話くらい聞くだろうし、本当に遠いところに来てしまったんだな……同じ大陸ってだけまだマシか。
他にも色々と質問したいことはあったけど、体力が限界なので案内と補足を聞くだけにした。もう足が限界だ。
「──このくらいですか」
「ありがとうございました」
「お疲れさん!」
表情が乏しいながらも面倒そうなイウリオさん、疲弊MAXの私、爽やか笑顔のブライジェ。
三者三様で解散となる。
二人の姿が見えなくなったあと、盛大に溜め息を吐いた。
「つ゛か゛れ゛た゛」
「よし、よし」
「キィゥ」
本当に二人が癒しだよ。




