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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第四部 奔走
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5.黒歴史なう



「はぁっ、疲れた~。いやー、ちょっとやってみたかったんだよね。ありがと、ミレスちゃん」


「ん」


 多少なりともオタクの道を進んできたから中二病の時期もありましたよ。さすがに卒業してますよ。

 でもさ、大人になっても子どもの頃の夢というか、思いっきり振り切りたくなるときとかない?

 私はある。必殺技を、思いっきり叫んでみたい。誰もいない広い空間で叫んで、しかもちゃんと攻撃自体も実際に伴うものだとしたら最高でしかない。


 ということで、思いつく限りの必殺技を頭に浮かべて、叫んでみた。かっこよさげな外国語を嬉々として調べていた学生時代が懐かしい。

 広範囲すぎて疲労感が凄いけど、達成感も凄い。だって必殺技を叫んで、実際に必殺技を幼女が繰り出して、危獣を全滅させたんだもの。テンション爆上がりよ。

 誰もいなくて本当によかった。楽しそうに訳分からない言葉を叫びながら危獣を倒していく女と幼女と霊獣なんてホラーでしかない。


「人の目があるところで痛いことできないしね」


「……」


「ミレスちゃん? どうかした?」


「ん、ん」


「キィウエゥア~」


「しらないほうが、いいことも、ある」


「もー、二人して何通じ合ってんの、可愛いんだから~」


 いつかキィちゃんの言葉も分かるようになったらいいな。







 メイエン家の鉱山とは比較にならないくらいの危獣の群れを倒しただけあって、その絶大な力を振るった幼女とリンクしている私への負荷も凄かった。

 平原を突っ切って再び林に差し掛かったところで急に電池が切れたように倒れた。キィちゃんの上で黒い枝に拘束されて助かったけど。まあよくブラックアウトしなかったもんだ。


 そんな訳で恐らく数時間ほど意識があるものの魂を飛ばしていた状態となっていた私を気遣うように、幼女が食べられそうな果実を取ってきてくれた。ミレスちゃんマジ天使。

 今までの幼女なら絶対に私から離れなかっただろうけど、ヒスタルフにいた時から稀に一人でどこか行くことがあったんだよね。それでちょっとした事件に関与したこととかあったけど、まあ要するに成長しているってことですね。

 自立心が芽生えて嬉しい反面、親離れして悲しいような。いや、産んだことないけど。


「はぁ……ありがと、ミレスちゃん。おいしかった」


「ん」


 やっぱりミレスちゃんの選ぶものにはハズレがないね。グルイメアで生き延びられたのもそのお陰だし。


 さて、大分体力も回復したし町を目指しますかね。


「ミレスちゃん、町は近い?」


「もうすこし、さき。もっとさきに、おおきいの、ある」


「おお! じゃあ大きい方に行こ。キィちゃん、お願いできる?」


「キィゥッ」


 それからノンストップで走り続けてもらった。

 目前のシャワーとベッドに嬉しさが抑えきれなかった。


 いくつか小さな町(村かも)を過ぎて、比較的大きな町へとあと少しというところで、キィちゃんに驚かれることも危惧して歩いていくことにした。

 普段なら死にそうな顔で宿に向かうところなんだけど、危獣の群れを一掃したときのテンションが持続しているのか、自分でも分かるくらい上機嫌だった。


「~♪ ~~♪」


 お気に入りの曲の鼻歌なんて歌ったりして、後で思い返すと気持ち悪い。

 もちろん中二病テンション持続中の私に羞恥心なんてものは存在しなかった。

 遥か上の高台から無事に下りられたこと、キィちゃんの有能さ、より強くなったと実感した幼女に加え、土や砂まみれの身体からやっと解放されると思ったら、普段なら憂鬱なはずなのに楽しみでしかなかった。


「~♪ ~~♪ ~ぅおっ」


 だからまあ気づかなかった。

 妙なテンションで若干スキップまじりに鼻歌を歌っていたら、誰かとすれ違うなんて。


「──!」


 チラッと見えたけど、美人だった。何だか胸元を押さえていたけど、どうかしたのかな。急いでいたみたいだし──と思いながらも心臓はバクバクとうるさかった。


「いや、見られた?」


 急に我に返る。

 恥ずかしい。いい歳して何やってるんだ。スキップ&鼻歌なんて許されるのは小学生までだ。いやごめんなさい偏見です。


「ミレスちゃん、何で教えてくれなかったの……」


「たのしそう、だったから」


「う、ううううぅぅぅ」


 もちろん幼女を責めるのは筋違いだとは思ってる。思ってるけど、しばらく羞恥心に悶えそう。

 あの美人さんともう会わないことを願うしかない。


「キィウエゥア~」


 何だか頭上のキィちゃんに同情された気がする。


「切り替えていくしかない……」


 とぼとぼと町まで歩く。遠くから見た感じでも大きそうだったけど、なかなかに活気があるようだった。


 ひとまず早く宿に行って寝よう。寝て全てを忘れるに限る。







「これ、ここのお金じゃないね」


「えっ」


 耳に入ってくる町の人たちの会話から大陸共通語で安心したのも束の間、向かった宿屋で衝撃の事実。

 やっぱりという気持ち半分、宿屋にまで来たのに泊まれないのかという絶望半分。

 いや、事前に情報収集しなかった私が悪いんだけど。


「ここ、シィスリーじゃないんですか」


「シィスリー? 随分遠いところから来たんだね。ここはダナレのルムギナだよ」


 何てこった。シィスリーは遠いのか。言葉は通じるからギリギリ同じ大陸内ってところ? 本当に何でここまで飛ばされたのか……。


「お金があるんだったらエコイフで換えてきなよ」


「なるほど! ありがとうございます!」


 ここでみんなの味方、エコイフの登場。銀行機能があるくらいだから換金機能もついてるか。何と便利な。


 ということで、ここは一つしかないらしいエコイフに向かい、ドアを開く。


「──ぁ」


 受付の一人がこちらを見て動きを止める。

 おお美人さん──と思ったら、とある光景が脳裏を過った。


「さっきの──」


「上機嫌に歌ってた方ですか」


「ああああああああああああ」


 覚えてる! すれ違ったのは一瞬だったのに!

 いやその前から鼻歌は聞こえていたかもしれないけど。何というフラグ回収!!


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