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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第四部 奔走
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2.克服できる日は来るのか


 そよぐ風は少し冷たく、意識が覚醒したばかりの私には少し辛い。目を覚ますには十分だけど。


 それにしても本当に何があったんだろう。

 ここも遺跡の一部、だと思うには無理がある。周囲一帯は山や木々が広がり、明らかに室内ではない。

 実は遺跡の下に違う世界があった、なんてこともなさそう。青空にヒビが入っている訳でもないし。

 まさかここに来てよくあるダンジョンみたいな構造だったということはないよね。ファンタジー要素満載な世界だけど意外と現代的な部分があるし、何となくその線はないように思う。


 一番考えられるのは、転移だろう。遺跡の奥で何かしらの原因があってどこかに飛ばされたと考えるのが簡単だ。

 グルイメアの時の転移は幼女の力や意志だったかもしれないけど、今回の場合だとそうする理由がない。だから偶然というか意識的なものではないと思う。そういう術でも仕込まれていたのかな。防衛機能みたいな。

 でもそう考えると分かる気もする。あれだけ濃い霊気があると知ったら欲しがる人は多いだろう。遺棄場の泉の話を思い出す限りは碌なことにならない気がする。


 とまあ、考えるのはここまでにして、動かないことには事態は変化しないし何も分からない。


「ミレスちゃん、ここがどこか分かる?」


「ん、ん」


 ふるふると首を横に振る可愛い幼女。やっぱり心当たりはないか。


「どのくらい意識飛んでたのかな」


 幼女を抱えて立ち上がると、霊獣は定位置である頭の上に身体を落ち着けた。


 改めて周囲を見回すと、朽ちた石柱が何本かあった。何か儀式にでも使われていたのか、建物でもあったのか。それ以上のことは分からない。

 ひたすら続いているように見える砂地をしばらく歩くと、今いる場所がとても高い位置だということが分かった。


「うへ」


 あまり高いところは得意じゃない。絶叫系が苦手なのと似ているかもしれない。


 一体どこから下りたらいいのか、数メートル先は断崖絶壁だった。見渡す限り岩肌と木々だ。町のようなものは見当たらない。


 ちょっと探索がてら隣国に遊びにいくのもいいかなとは思っていたけど、全く見当もつかない場所に行く予定はなかった。テア様からの依頼も、終わったら一応連絡を入れて欲しいって言われてたし。領地内なら領主様宛てに手紙を出すこともできるのに、これじゃ無理だ。

 美しい微笑みで目の笑っていないテア様が頭に浮かんで少しだけ冷や汗をかいた。

 いや、これは不可抗力……。


「ひぃ」


「ん?」


「ひと、いる」


「え? どこ?」


 幼女の指差す方向に目を凝らすが、全く分からない。半魔族だし常人の身体能力とはかけ離れているんだろうけど、視力どのくらいあるんだろう。


「キィゥッ」


 思考の寄り道をしていると、キィちゃんが元気に鳴いた。するとみるみるうちに巨大化していく。


「キィエゥッ」


「え、いやまさか」


「ひぃ」


「いやいやいや、さすがにちょっとそれは」


「キィゥ……」


 いや、そんなつぶらな瞳で悲し気な表情しても駄目だからね。

 後ろには何本か石柱が立っているだけ、多分四方は断崖絶壁。

 となると、ここから出る方法は一つしかない。それは分かる。分かるけど、さすがに無理。


「だいじょうぶ。ひぃ、おちない」


「こ、怖いものは怖いんだよ……!」


 どう見ても急斜面とかいう問題じゃない。大分下の方で岩と木が見えるくらいだ。

 絶叫系大好きな人でも失神しそうなくらいの高さと障害物だよ。無理だよ。ただでさえ幼女の黒い枝ジェットコースターで若干トラウマなんだよ。


「ひぃ、しんじて」

「キィゥッ」


 うっ、狡くない!? 私が二人に弱いって知ってこんなに畳みかけてくるなんて……!


「ずっと、ここにいる?」


「キィエウ?」


「説得の仕方まで人間味増して……!」


 いい歳した私なんかが駄々をこねても可愛くも何ともないしむしろ見苦しいのは分かってる。


「私、死ぬならミレスちゃんの手がいい……」


「しなない」


 なおも泣き言を吐く私を優しく介抱しながら霊獣に乗せてくれる幼女。一生推す。


 及び腰になりながらも巨大化したキィちゃんに跨ると、落ちないという言葉を有言実行するかのように幼女の黒い枝が身体に巻き付いた。しっかりとキィちゃんと固定されていて、力を入れてもびくともしない。これはかなり有能なシートベルト。見た目はダサいけど。


「キィゥッ」


 ゆっくりと地面から足が離れる。思わずぎゅっと目を閉じキィちゃんにしがみつく。

 多少障害物はあれど平地なら慣れたけど、さすがに崖を下りるのは怖い。

 この浮遊感が苦手だ。ブランコを大きく漕いで前に進むときみたいな。何かこう、どこがとは言わないけどひゅんとする。


「ひぃ」


「ん……?」


 幼女に服を引っ張られ、浮遊感が酷くないこともあって薄らを目を開ける。


「え!?」


 何と、宙に浮いていた。断崖絶壁を駆け降りるでもなく、ゆっくりと降下していく。


「そういや、羽あったんだ」


 普段は私の頭の上にいることが多いし、巨大化している時は馬のように走ってばかりだったから失念していた。めちゃくちゃ便利なものがあるじゃないか。

 とは言え、高いところと独特な浮遊感が苦手な私にはこの状況を楽しむことはできず、ただただ早く地上に降りられないかと祈るばかりだった。

 以前鳥になりたいなとかぼんやり思ったことあったけど、訂正。人間でよかった。

 異世界転移・転生モノで飛行物体に平然と乗っている人は普通じゃない。多分心臓に毛でも生えている。


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