44.ゲームのイベントのような
ガヴラとルジェークさんと別れ、最後にドニスさんたちに挨拶に向かえば、新婚夫婦さながらの二人に見送られ(末永く爆発しろ)、ニカちゃんからも若干の嫌味を含んだお見送りをされた(可愛いから許す)。復旧作業をしていた周囲の人たちも暖かく見送ってくれてありがたい限りだ。
今度ここに来たときは元通りの町になっているといいな。
「さて、私たちも行きますか」
「ん」
「キィゥッ」
腕の中のミレスと肩の上の霊獣が呼応してくれる。どちらも軽すぎて心配になるレベルだけど、定位置を考えたらありがたい。
「そういえば君の名前は何ていうの?」
「キィェゥ」
「ない、って」
「え、そうなの」
霊獣とか聖獣ってそんなものなのかな。
そういえばあののんびりとした喋りの精霊も特に名乗ってなかったしな。いや、あれはただ言ってなかっただけってことは十分に考えられるけど。
「ミレスちゃんみたいに契約したら名前をつける、というか教えてもらう方式でもなさそうだしねぇ」
「キィキィァ、キィゥ」
「ひぃとは、きちんとしたけいやくじゃないから、なまえつけられない」
「何と」
じゃあやっぱり契約したら名前を与えられる方式なんだ。それか名前をつけることで契約が完了するのか。
どちらにしろ、多分私に力がないからできないってことだろうけど。
というか、ミレスちゃんとはきちんとした契約なんだ? 精霊がちょっと違うみたいなこと言っていた気がするけど。
「じゃあどうしようか。キィちゃんって呼んでもいい?」
「キィゥッ」
「じゃあキィちゃんで」
安直すぎるけど、反応的に了承は得られたみたい。
「それじゃ、出発! ミレスちゃん、お願いしていい?」
「ん」
「キィェゥ!」
いつものように黒い枝便にお願いしようとしたら、それを制するかのように肩から飛び降りたキィちゃんが目の前に立ちはだかった。いや、立ってる訳じゃなくて飛んでるんだけど──そんなことはどうでもいい。
「どうしたの? 何かあ──いでっ」
理由を問えば、なぜか突っ込んできたキィちゃん。額同士がぶつかり、その衝撃に蹌踉めく。
「な、に──」
抗議の声一つでも上げようとしたところ、目の前のキィちゃんが淡い光に包まれていく。
そしてまるで進化でもしているかのように、ぐぐぐっと身体を膨張させていく。
「え、ええー……」
「キィゥッ」
光が終息した霊獣は、その何倍以上にもなった身体で擦り寄ってきた。
何だこれは。ポメラニアンサイズがグレートデン──いやそれ以上のサイズになっている。私の肩に乗っていたのに、私の二倍以上の大きさになっているんですが。
「キィちゃん……小動物じゃなかったの」
「キィアエゥ、キュゥァ」
「これで、ひぃをのせられる、って」
「本当に何でもアリだな異世界。いや、ありがたいけれども」
そんなこんなで、幼女の黒い枝にお世話になることなく、霊獣の背に乗って移動するという何ともよくあるファンタジーを満喫することになるのだった。
◇
「ふぅ。ありがと、キィちゃん」
「キィゥッ」
光に包まれたキィちゃんは元のサイズに戻ると、定位置となった肩に乗ってきた。
自在に大きさ変えられるの便利だね。
ちなみに、乗っていたら振り落とされないとか風圧が気にならないとかの加護的なものはあることにはあるらしいんだけど、案の定私には享受できない恩恵だった。
まあそんな時のために防護マスクを買ったんだし、キィちゃんも速度調節してくれるからいいけどね。黒い枝に拘束されて多足生物のように走る奇妙な光景を気にしなくていいだけ大分ありがたい。この世界で四足歩行の動物に乗るのは珍しくないみたいだし。
「おお、ヒオリ様ですね! ようこそいらっしゃいました」
目的地に着いて出迎えてくれたのは小柄で少しふくよかな男性。身なりからしてそれなりの地位の人だということが分かる。
「マルウェンやヒスタルフに加えモーナルエの噂もかねがね……。わたくしデロー家当主ボドワルと申します」
「どうもお世話になります。テア様──領主様から立ち寄って欲しいと言われたのですが」
「はい。ひとまず我が家にお越しいただけますか」
「はい」
やって来たのはとある町。モーナルエ──ドニスさんたちのいた町とはまた別の、メッズリカの領地の端だ。少し先に行けば別の管轄の領地になるらしい。
テア様からお願いされた寄り道は細かい内容もあるからとりあえずそこに行って話を聞いてくれ、というものだった。
先方にも連絡をしておくから面倒事はないはずだと言われたけど、この前の町でのいざこざで辿り着くのが遅くなったから少し心配だ。いや、私たちありきで問題を放置しておくのもどうかとは思うけど。
まあこれまでにお願いされたことと言えばほとんどが危獣退治だったり自然災害の後処理だったりと、ミレスちゃんの力でどうにかなるものだったから今回もそんなところだと思う。
ちゃちゃっと片付けて、当初の目的である魔気の濃い遺跡に行きたいところだね。




