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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
16/240

16.n難去って


「ではファルナーニンセグ。頼むよ」


「チッ」


 ローイン隊長と入れ替わりにダズウェルさんがやってくる。

 見張り交代ですね。相変わらず凄い人相ですね。

 でもまあ、少しは歩み寄ってみますか。イケメン様のお墨付きももらえたことだし。


「ローイン隊長と仲が良いんですね」


「あ?」


 早速失敗した。睨まないでよ。


「隊長さんが言ってました。昔馴染みだって」


 めげない。少しでも情報を引き出したい。

 イケメン隊長のほうが聞きやすいけど、体調を気にかけて数分も会話したらすぐに定位置に戻ってしまう。ゆっくりと怪しまれないよう会話を続けてこの世界の情報を得るためには、いつも傍で見張っているダズウェルさんが適任だ。あまり率直に聞いて、探られている、スパイだなんて思われたくないからね。


「……」


 今日も駄目か。口を開いてくれる様子はない。


 しばらくすると兵の一人がやってきて、無言で皿とパンを差し出した。投げつけられたり地面に置かれたりしないだけマシだよね。


「ありがとうございます」


 小さくお辞儀をして受け取る。兵士は無言のまま立ち去った。


「ミレス、食べない?」


 一応毎回聞いてみるけど、いつも返答は同じ。小さく首を振ったあと、胸に寄りかかってくる。可愛いな。相変わらずの癒し、砂漠のオアシス。


「いただきます」


 黄緑色のスープは薄味で具も小さい。まずくはないけどおいしくもない。パンはとても硬いのでスープに浸して柔らかくする。数回目の食事だけど、毎回同じメニューで同じ味。食せるものをもらえるだけありがたいんだけど。まさかあのイソギンチャクが恋しくなるとは思わなかった。


 ちなみに私だけ質素なメニューというわけではなく、同じ鍋や袋から配給されているし、ダズウェルさん含め部下の人たちの食事やその反応を見る限りは同じもののようだった。

 これで料理のスキルとか持っていれば、おいしい料理を振る舞って好感度アップ! なんてイベントもあったかもしれない。普通の料理は人並みにはできるけど、見たこともない・予想もつかない異世界の食材を使った料理なんてハードルが高すぎる。ただでさえ危険人物扱いなので、大人しくしているに限る。







「大分“気”も薄くなってきたな」


「もうすぐ第五指定区域か」


「ああ、やっとだ」


 今まで雑談など全くしなかった兵士たちが私語を挟んでいる。

 調査隊の人たちと行動を共にして三日。昨日から徐々に会話は増えていた。彼らの言動には疲労が滲み出ていて、危険な地域を脱することへの安堵があるように思える。


 これまでに聞こえた会話を含め情報を整理しよう。

 ここはグルイメアの森といって、とても危険な地域であり、危険度に応じて五区の分類がある。今いるのは四番目の区域で、もう少しで五番目の区域に入る。五番目の区域は比較的安全で、一般の領地との境のため広く取られているらしい。


 “気”というのは目に見えない毒のようなもので、兵士たちが皆私より疲弊して見えるのはそのせいらしい。異世界人だから効果がないのかミレスのお陰なのか分からないけど、今のところ私への影響は見られない。分かりにくい恩恵だけど、何の能力もない一般人にはとてもありがたい。


「休憩だ」


 中でもリーダー格の男が周囲の兵たちに声を掛けた。

 前回の食事からあまり時間が経っていないし小休憩だと思われる。兵士たちもその場で待機といった感じだ。


 それにしても珍しい。今までは明るいうちにできるだけ進んでいたのに、前回の食事休憩からそんなに経たずにまた休憩だなんて。何かあったのかもしれない。


 保護のためか監視のためか、どうやら私たちは調査隊の真ん中くらいにいるらしく、危獣も前後の部隊が討伐している。前後からの討ち漏らしや左右からの襲撃はほとんどダズウェルさんが対応していた。

 隊長率いる前部隊が采配を担い歩みを進めているようで、前方から休憩のお達しが来ていた。大体は辺りが暗くなってきてからの休憩の伝令なので、明るい内から続けて休憩の指示が来るとは何かあったに違いない。


 まあ何かあっても私にできることなんてないしな、と思いながら近くの小川に近寄った。

 適度に冷たい透き通った水。そういえば水は綺麗なのに魚は全く見かけない。

 魚に限らず、虫とか小さな鳥はいるけどその他森の中にいそうな小動物すら見かけないのはこの森の特徴なのか。それとも大所帯の人間に近づかないようにしているだけか。危獣とかいうモンスターがいるくらいだし、無害な小動物は淘汰されたのかもしれない。

 リスとかウサギとか見たいなぁ。モフモフ的な癒しが欲しい。


「────!」

「──! ──!」


 呆然と川の流れを見つめていると、遠くから揉めるような声が聞こえてきた。何の騒ぎかと思えば、今度は誰かが走ってくる。兵士の一人だ。


「ファルナーニンセグ! 至急応援を……!」


 息も絶え絶えの兵士が、少し離れたところで私を見張っているダズウェルさんに向かって叫ぶ。いつもなら私に聞こえないように小声で報告するのに、それすらしないとはよほどのことがあったらしい。


「何があった」


「それがっ、危獣が出たのですが……っ」


 ダズウェルさんの後方、何かを見て報告の声が途切れる兵士。驚き、言葉を失っている。

 ダズウェルさんが不審に思い、振り返ったその時だった。


「おい!」


「嘘だろ!?」


 動揺する周囲の兵たちより一歩遅れて辺りを見渡すと、そこにはどこか見覚えのある大きな熊に似たモンスターが多数、こちらに牙を向けていた。


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