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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第三部 追従
156/240

40.霊獣の力


「ひ、ヒオリさん」


 震えるドニスさんの声に、すっかり色々失念していたことを思い出す。


「あ、すみません、つい」


「ああ、いや、その……」


「霊獣は、怒ってないのね?」


 恐る恐るといった様子で三人がこちらを見ている。


「ひぃ、たすけた。ひぃ、あるじ」


「ということで、怒ってないみたいです。よかったですよね──って、え? 主?」


「キィゥッ」


「ひぃが、くすり、もってきたのも、わるいのと、きりはなしたのも、しってる。だから、あるじ。さっき、けいやくした」


「ミレスちゃんが長文喋ってる……じゃない、さっきのあれ、そうだったの!?」


 そういえば幼女と初めて会った時と同じ感じはした。そしてそれが契約だったらしいこともいつだか聞いた。

 ということは、さっき知らない内にこの霊獣とも契約したってこと?


「ニカちゃん、霊獣と契約できる人間なんてほとんどいないって言ってなかった……?」


「はい……霊獣が契約者に選ぶ人間は、霊力が高く相性が合った者だと……」


「キィェゥ、キィァッ」


「ちから、なくても、あわなくても、できる。けいやくしたいから、した」


「キィゥ、キィキィァ」


「ひぃに、ちから、なくても、だいじょうぶ」


「そ、そんなことが……」


 その後、たどたどしい幼女の通訳を聞くと、どうやら契約して戦う時に霊力の相性と相乗効果でパワーアップするけど、今の時代ならそんなことしなくても十分らしい。さっきのピラミッドオブジェみたいな奴なら契約者の霊力が高くないと話にならないけど、そもそも契約するだけなら霊力を消費する訳ではないと。

 それなら契約する意味があるのかといえば、双方に霊力の結びつきができるかららしい。私から霊獣の感知はできなくても、逆はできると。

 何でそんなことをしたがるのか。答えは簡単。相手を把握しておきたいという──要は、主人のためのストーカー機能。


「……」


 それを裏付けるかのようにガヴラがじっと霊獣を睨んでいた。

 怖いよ。霊獣にもガヴラにも、そんなに慕われるようなことをした覚えがないから余計に怖いよ。


「ニカちゃんも治癒術で助けてくれたんだよ。それにドニスさんの助言がなかったら聖雫だって手に入らなかったし」


「キィゥァキィゥ」


「ひぃが、いいって」


「やだ、モテ期……?」


 なんて、冗談を言っている場合じゃない。


「ちょっとその件はさて置くとして、霊獣が元気になったなら今度は町の被害状況を確認しないと」


「そ、そうだね」


 顔が引き攣る三人と霊獣を睨むガヴラを背に、元来た道を戻った。







 意識のある人たちはみんなドニスさんの指示で避難したとのことで、町外れにあるその避難場所まで案内してもらった。

 普段なら通行の際に面倒となる獣道、というか障害物が偶然役に立ったみたいだった。


 岩陰に隠れていた人々はみんな生気を失っていた。何かに怯えるようにガタガタと震えている。

 衣服には血飛沫が、そして腕や足を失った人もいた。酷い状況だ。

 そんな危獣と黒い球の攻撃で負傷した人たちを見てニカちゃんが走り出そうとすると、


「キゥァ」


 肩に乗っていた霊獣が一声鳴いた。

 そして羽を広げて飛び立ったかと思えば、霊獣の身体が淡い光に包まれた。

 その光は霊獣を中心にどんどん広がり、辺り一帯を包み込む。


「あ……」


 身体がじんわりと暖かくなる。今までの気怠さも、疲労感も、いつの間にかなくなっていた。


「お、おい……!」

「え、嘘」

「どうなってるんだ……!?」


 町の人たちの驚く声に目を向けると、そこには驚きの光景が広がっていた。


「い、痛くない……」

「おれの足……!」


 倒れていた人たちはみんな傷などなかったかのように起き上がり、抉れていた皮膚も、なくなっていた腕や足も、元通りになっている。


「こ、こんなことが……」


 唖然としているニカちゃん。

 治癒術以上の奇跡を目の当たりにしてみんな驚きの表情を隠せない。


「キュゥァ」


 霊獣が一鳴きして戻ってくる。肩に着地した霊獣はすりすりと頬に近寄ってきた。

 可愛い。可愛いんだけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。


 今更だけど、これはこの子の仕業か。 

 凄い。霊獣ってこんな回復魔法使えるんだ。チート過ぎないか。


「痛くない……!」

「う、腕が──っ!」

「一瞬であんな怪我が治るなんて……!」

「ああ、ああ、ありがとうございます……!」


 ようやく傷の治りを実感したみんなが涙を流して歓喜している。


「ドニス……!」


 クレーラさんの大声に振り向くと、彼女がドニスさんに抱きついているところだった。

 何と、ドニスさんの筋力まで回復したらしい。

 両足で立つだけでなく、しっかりとクレーラさんを受け止めたドニスさんは、驚きつつもしっかり抱き締め返していた。


「ヒオリさん、ありがとう……! 本当に、何と言ったらいいのか……!」


「よかったですね。私じゃなくてこの子のお陰みたいですけど」


「本当にありがとう……!」


「キィッ、キュゥアキゥ」


「じぶんの、せいだから、って」


 そういえばあの危獣やピラミッドオブジェから逃げ回っていたって言ってたっけ。一体どこから連れてきたんだか知らないけど、罪悪感はあったのかな。


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