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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第三部 追従
149/240

32.実験結果


「ヒオリさん、イレーニカさん」


「あ、はい」


「はい」


「よろしくお願いします」


 一礼して顔を上げるドニスさん。その表情に不安は見えなかった。


「じゃあニカちゃん、よろしくね」


「はい」


 ドニスさんにはベッドに身体を倒してもらって、ニカちゃんが準備に入る。


「────」


 ニカちゃんが閉眼して小さく何かを呟き始めると、ドニスさんの身体が薄ら発光した。

 幼女のお陰で大分この世界の環境に慣れたのか、恐らく霊力であろう流れのようなものが以前よりはっきり見える。

 凄い、ファンタジー要素を実感できる。本当に自分が使えないことが残念。


「────」


 唸るようにしながらも術を続けるニカちゃん。ドニスさんの表情は特に変わらない。強い痛みはないらしい。


 そうしてしばらく時間が経った後、ドニスさんを包む光がすぅっと消えた。

 一呼吸置いて、二人が目を開ける。


 ニカちゃんはドニスさんを、ドニスさんは天井を見つめたまま固まっている。


「……」

「……」

「……」

「……どう、でしょう」


 沈黙に耐えかねて、つい口を出してしまう。


「……痛く、ない」


 ぽつりとドニスさんが呟く。


「本当ですか!? 成功!?」


 驚くこちらを尻目に、上体を起こすドニスさん。信じられないといった様子で足を触っては目を見開く。


「常に痛みと痺れはあったんだ。身体を動かすと痛みは増していた。だけど、今はそれがほとんどない」


 ま、マジか。凄すぎるな、治癒術。本当にヘルニアだったのかどうか分からないけど、何でもアリか。普通手術してもすぐに症状が治まるものではないし、身体にメスを入れるから創部痛が残る。術後管理が不要とか、ヤバすぎる。

 感動なのか興奮なのか動悸が治まらない中、ドニスさんは目に涙を浮かべてこちらに頭を下げてきた。


「本当に、本当に、ありがとうございます……!」


「無事上手くいってよかったです。こちらも良い経験になりました。原因は取り除けましたが、しばらく使われていないため歩行に支障はあるでしょう」


「はい、訓練していきます……!」


 いい話だなーと思いながら頷いていると、急にニカちゃんが振り返る。


「ヒオリ様。規格外だとは思っていましたがここまで来ると驚愕と感嘆を通り越して最早呆れという感情が近いかもしれません。いえ、ヒオリ様を疑っていたとか軽視していたということではありません。それほど前例もなく、いっそ禁忌と言ってもよいほどの思想であり、しかしそれを実行に移す意思を持ち得る説得力があったために引き起こされた奇跡とも言えるかもしれません。いいですか、ヒオリ様。これは世界的な発見と言ってもいいでしょう。治癒術、いえ霊術はさらなる発展を遂げるため──」


 真顔で興奮したニカちゃんの話は、それから十分くらい続いた。







 それからまた数日経ち、ドニスさんのところへ向かうと筋トレに励んでいるようだった。司令塔として仕事をこなしながらリハビリも欠かさないなんて凄いね。それに特に治療による副作用なんかもないみたいで良かった。


 ちなみにニカちゃんは興奮状態のまま話し続けていた最中、急に電池の切れたロボットのように動かなくなり、座っていた椅子から崩れ落ちた。

 一日ほどで復活した本人は、ベッドに横たわりながら申し訳なさそうに原因を話してくれた。

 ただでさえこの町の大人数を治療した上、ドニスさんの治療という大仕事もあり霊力不足だったやらストレスやら緊張から解き放たれたやら──つまるところ、エネルギー不足その他色々でぶっ倒れたという訳だった。

 確かにあれだけの人数と新しい試みとして治癒術を使って、無事な訳ないよね。一般人も術士も霊力の総量なんて分からないけど、ニカちゃんは結構凄い方だと思う。

 というか幼女を始め、爺やとかテア様、ガヴラとか、恐らく普通の人からかけ離れているだろう人たちが周りに多かったから感覚が麻痺していたかもしれない。自分が霊術を使えないからっていうのもあるだろうけど。

 霊力は無限じゃないんだよね……。ごめんね、ニカちゃん。無理させて。


 さて。ここには復旧の前線を担うクレーラさんの他には私しか女性がいないから必然的にニカちゃんの看病をすることになるんだけど(その原因を作ったのも私だし)、そのせいかニカちゃんから向けられる視線に熱が籠もるようになった気がする。時々照れ臭そうに布団で顔を隠すその姿は可愛いとは思うものの、いつからこんな子煩悩みたいになったのかと。いや、子どもというより妹だけど。

 もっとドライだったはずなのに。他人に対して興味がなかったはずなのに、今人生で一番感情的かもしれない。

 そしてニカちゃんへの対応がゆるゆるになるにつれ、やっぱり幼女からの視線は鋭く冷たい気がするし。どんどん自我とか情緒が育っているのは嬉しいことだけど、メンヘラ気味なのが気になるところ。


「あ、あの!」


「えっ」


 頬杖をついて飲み物を飲むという行儀の悪い恰好で少し遠くを見つめると、何だかよそよそしい態度のクレーラさんとドニスさんがいた。


「移動するなら、手伝うわよ」


「でも、もう痛みはなくなったし」


 お互い目を逸らしながらもじもじと話す、いい歳した大人二人。


 ドニスさんの治療が無事上手くいったあの日から、クレーラさんは泣いたり怒って感謝の言葉を叫んだりと自分自身でも分からないくらい情緒が荒ぶっていた。

 一頻り喚いたあとに、今度は恥ずかしくなったのか、障害の減った今後に想いを馳せているのか、クレーラさんは挙動不審になった。それを受けてドニスさんも同じくらい挙動不審に。


 それから毎日こうである。

 まるで付き合いたての中学生同士のような光景を、毎日繰り返している。

 いや、それは偏見か。今時小学生以下でも惚れた腫れた付き合っただの言うらしいし。


 ちなみに復旧作業をしている町の人たちもいる中のこの光景、ざわついたのは一瞬で、すぐにみんな温かく見守る態勢に入っていた。


「ま、まだ本調子じゃないでしょ。それに歩くのだってできないんだから」


「う、うん……」


 なぜか顔を赤らめて視線を落とす二人。

 何だこれ。


「ほ、ほら」


「あ、ありがとう」


 いつものようにドニスさんを背負うクレーラさん。

 気づかないのか、気づかない振りをしているのか、二人とも顔が真っ赤である。


「はよ告れ」


 もどかしい二人に思わず一言が零れ出た。


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