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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第三部 追従
137/240

20.理解しがたい


 話が済んだところで少し冷めてしまった炒め物をみんなで食べた。

 硬いパンをそのまま食べると口の中の水分が大半持っていかれそうだったので、アヒージョ風にしてみたら好評だった。調味料とか油があってよかったよ。


 料理ができないみんなは素材をそのまま齧るしかなく、久々に調理されたものを食べられたと喜んでいた。中には涙ながらに感謝する人も。

 ハードル上げまくるから少しびびってたけど、気に入ってくれてよかった。

 一転して好意的な雰囲気となり、何だか餌付けしたみたいになってしまった。まあ食事は大切だしね。


「ドニスの言うこと、信用するのね」


 一緒に食後の片付けを手伝ってくれていたクレーラさんがぽつりと呟くように言う。

 みんなはこれからのことを作戦会議しているみたいで、こちらを気にする様子はない。


「作り話かもしれないって思わなかったの」


「この状況で嘘を吐く意味が分からないなって。町の中の状態は少しですけど見てきたし、町長さんの話はともかく大体の辻褄は合います。それに皆さんが敵だったとしても、この子には絶対に勝てないですから」


 器用に背中に掴まっている幼女は危険を示していない。それにこの場所を伝えてきたのはこの子だ。最近の言動を考えても、事情を把握するためだけじゃなく困っている人たちを助けるためだと思ってもいいかもしれない。

 クレーラさんの言い方だと、実はドニスさんが悪い人でクレーラさんたちを従えて私たちを騙しているみたいに聞こえなくもないけど、自分の身を挺してドニスさんを庇うようにしていたところを見ても、それはないと思う。仮に操られていたとして、他人を守ろうとあんなに瞬時に動けるとも思えないし、そんな身体能力があるならもっと別の行動もできそうだからね。


「私は、みんなみたいに急に態度は変えられない。だからあなたの話はまだ信じないわ」


 あ、それが本音か。確かに疑っていた相手の料理がまずまずおいしかったからって、掌を返すように好意的になるのもね。単純っていうか、素直っていうか。


「別にいいですよ。敵意剥き出しにしてくるとか攻撃してくるとかじゃなければ。それに強いのはミレスであって、私はただの保護者みたいなもんですから」


「ひぃ、あるじ。ごしゅじんさま」


「こら、余計なこと言わないの」


 幼女の口から発せられるその言葉に心臓を撃ち抜かれる思いはするけど、この場では私が偉そうに思われそうでしょ。元からガヴラはあんな態度だし。


「本当に変わってるわね」


「え?」


「領主様にも気に入られて、ゾダの一族を従えるなんて、よほどの貴族でもないと無理よ。普通、もっと態度が大きくなるものよ。むしろ、横柄に振る舞うものだわ」


「まあ何度も言ってますけど、ほとんどがこの子のお陰ですし、私自身が凄い訳じゃないですから。それに、どれだけ偉かろうと横柄な態度を取るのは嫌いです」


 以前の職場の上司を思い出す。今なら話のタネで終わるけど、当時は本当に殺意すら込み上げていた。

 なぜ仕事が終わらないのか、やり方がおかしいんじゃないのか、残業代請求なんてもっての外、エトセトラ。

 うるせえ! ずっとデスクに座ってパソコン弄ってるだけのお前に言われる筋合いねえんだわ! 明らかに全員のキャパ超えマンパワー不足に次々仕事を回すんじゃねえちったあ手伝えや!


「ふふ」


 恨みや怒りを思い出しそうな私とは正反対に、なぜか笑うクレーラさん。馬鹿にしているようではないみたいだけど、ちょっと意味が分からない。


「貴族がみんなあなたみたいな人ならいいのにね」


「え。いやあ、それはどうかと」


 不正なんかはしないだろうけど、だらしなくて不真面目だし、何より二次元ロリコンがそんなにいっぱいいたら怖いよ。


「領主様が保証するくらいだもの。本当に──」


 なぜか優し気な表情を見せていたクレーラさんだったけど、急に真顔になった。


「どうかしました?」


「今、揺れなかった?」


「私は分からなかったですけど……」


 日本にいたときもあんまり地震って気づかない方だったんだよなぁ。動いてたら全然分からないし、多分寝ていたらそれなりの震度でも気づかない。


「まただ」


「ああ、揺れたな」


 他の皆さんは鈍感な私とは違って揺れに気づいているらしい──と思っていたら、ドンッ! と鈍い物音がした。音源が遠いのか、はっきりとした音ではなく原因は分からない。


 その内、ぱらぱらと小さな石や砂のようなものが天井から降ってきた。さすがにここまで来れば、揺れているのは分かる。


 断続的に音と揺れは起こり、全員が身構える。

 いつの間にかクレーラさんはドニスさんの傍にいた。


 何が起こっているんだろうか。ガヴラは大丈夫なのか。


「ひぃ。がぅ、もどってきた」


「え、本当?」


 コンコン、と遠くで何かを叩く音が聞こえる。

 近くにいた一人がドニスさんに視線をやり、頷く。

 扉を開けると、またコンコンと音がした。さっきよりは大きく、そしてはっきりと聞こえる。恐らく地下通路の入り口の蓋を叩いているんだろう。


「ガヴラが戻ってきたみたいなので、見てきますね」


「本当に彼なんですか?」


 扉近くにいた男性が少し困ったように言う。


「この子が言うんだから多分そうだと思います」


 一つ灯りを借りて、暗闇の中の階段を上る。

 少し間を置いて、後ろから数人がついてくるのが分かった。


「ガヴラなの?」


 入り口の扉が頑丈そうなのは分かっていた。このくらいの声では普通の人間には届かないと思うけど、多分ガヴラなら大丈夫だという根拠のない自信があった。

 私の声に答えるように、再度コンコンとノックするような音がした後、ガラガラと音を立てて扉が開かれた。

 隙間から差し込む光に、思わず目を細める。その日差しを遮るように、誰かがそこにいた。


「ヒオリ様、申し訳ありません」


「え、何が?」


 突然の謝罪の声に、安心半分、困惑半分。

 こちらからは逆光になっていてガヴラの表情が見えない。


 スッと差し出された手を取り、外へ出ると、来た時とは違う光景が広がっていた。


 少々、視界が開けている気がする。行き止まりだと思っていた壁も、裏路地のようだった通路も、まるで隔たりをなくしたように──。


「──いやいやいや」


 まるで特撮モノで怪獣が暴れたのかと思うほどの倒壊具合だった。見渡せる限り、町の半分ほどは建物が崩れている気がする。

 そして、町の人たちはみんな倒れていた。周囲には血溜まりも見えていて、生死は分からない。


「お、おい、何だこりゃ……!?」


「オレたちの町が……!!」


 後ろに続いて隠れ家から出てきた人たちが口々に目の前の光景に絶望したような声を出す。

 それはそうだ。逃げ出すまで無事だった建物も人も、半壊状態なのだから。


 ドニスさんは万が一を考えてか、下半身の不自由もあってか、出てくる様子はなかった。クレーラさんもそのまま傍についているんだろう。

 二人以外の全員が出てきて、唖然としている。


「ヒオリ様」


「あ、うん。いや、何があったの」


 改めてガヴラを見ると、服はズタボロだしところどころ出血したような跡がある。さすがに遺棄場の結界を抜けたときまでのスプラッタ感はないけど、あんなに丈夫だったガヴラがこんな傷を負うなんて。

 それに、ガヴラの表情。傷が痛むのか、この惨状を招いたことを悔いているのか、眉間に皺を寄せて今まで見たことのない表情をしていた。


「まず謝罪を」


「な、何の」


「服を、汚してしまいました」


「はぁ?」


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