12.再・限界化
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勢いよく箱を開けると、中から現れたのは柔らかなミントグリーンのツートンカラーのワンピース。胸の部分には花柄のボタン、腰の部分にはリボンがついていて白いラインが入っている。腕の部分もゆったりとしていて袖に絞りとリボン。スカートの淡いミントグリーンには縦のフリルがついている。
ヘッドドレスと靴、髪につけるのであろうリボンも同系色で纏められて爽やかに感じる。
「か、可愛い……」
テア様の嫌味も吹っ飛ぶくらいの可愛い服に釘付けになった。幼女の、新しい衣装だ。
「う……っ」
ミリエンの新作を持ったまま、言葉では表せない感動で動けなくなる。
仕事も忙しいだろうに、合間にこうして服を作ってくれて、文字も頑張って勉強して書いてくれたんだよね。
「ありがとう……ありがとう、ミリエン……」
「様子がおかしいが、まさか毒でも」
「ん。まえも、そうだったから、だいじょうぶ」
せっかく作ってくれた上にわざわざ届けてくれてめちゃくちゃ嬉しいけど、前の服どうしよう!? 今のは今ので可愛いし、もちろん捨てるなんてことはしないけど、リュックにいれて皺になるのも嫌だし……ああ、こういう時、本当に異空間収納が羨ましい……!!
「まあそれよりもまず試着だね! これだけ爽やかな感じだと、ヘアアレンジも色々映えそうだよね~! せっかく髪用のリボンもあるし、それは絶対として、どうしよー! ポニテも捨てがたいしツインテもいいな!?」
「凄いな。何を言っているのか分からない」
「こうふんすると、いつもこう」
「あの! ここって美容室ってあります? 髪の毛を切ってもらえるところ」
「あ、はい。よろしければ懇意にしてさせていただいているところをご紹介しますが」
「よろしくお願いします! それまでこの服こちらで預かってもらえたりします? 後で買いたいものもあるので……」
「もちろん」
「ありがとうございます!」
今すぐに新作を着てもらいたいのは山々だけど、せっかくだから伸びすぎた髪を多少切ってもらって、右眼を隠したヘアアレンジをしてみよう。この町の人なら幼女への当たりも強くないだろうからね。
ついでにガヴラの身なりも整えるか。髪の毛も服もボロボロだしね。
服屋のお姉さんに案内されて着いた先は、これまた町の中ではそれなりの広さの美容室だった。
中もとても綺麗で、何というか高級感がある。首都から離れているらしいけど、結構人が来るんだろうか。
そういえばヒスタルフではこういった店に行かなかったけど、領主様がいる町だし、高級店はあるんだろうな。
それにしても前の世界にいたときもそうだったけど、こういった雰囲気には圧倒されるというか、落ち着かない。全く興味がないし縁もなかったからな。
「き、綺麗ですね」
「ありがとうございます。この周囲には他に町がなかったり進みにくい道などが多いからか、多くの方に立ち寄っていただいております」
私の考えを察したのか店員さんが説明してくれる。
なるほど、そういえば地図を見た感じヒスタルフとか大きな町に行くためにはここを通過するしかないみたいだったから、それなりに来る人も多いし身分の高い人も少なくないのか。
「あの、この子の髪を整えてほしいんです。傷んだ部分は多少切ってもらって……あとは、右眼が隠れるようにセットしてもらいたくて」
「畏まりました。ヒオリ様はいかがいたしましょうか」
「え? いや私は」
「ひぃ」
「え」
「いっしょ」
「う゛ッ」
首をこてんと横に倒すのはやめなさい、可愛いでしょうが! お揃いがいい(はぁと)みたいに言われたら、やらない訳にはいかないでしょうが……!
「じゃ、じゃあ……お願いします……」
「畏まりました」
店員さんにとびっきりの笑顔で返事をされて、その眩しさに思わず目を細めるしかない。
まあ、元々髪の毛切りたいなとは思ってたからこの際いいか。
「行ってらっしゃいませ」
「いや、何自分だけ逃れようとしてんの。ガヴラもやるんだよ」
「いえ、オレは」
「お姉さん、お願いします!」
「畏まりました」
そんなこんなで三人ともお世話になることに。
◇
「ヒオリ様、終わりましたよ」
「ん、んん……」
少し低音のいい声が心地いい。
ぼんやりとした気持ちのまま薄らと目を開ければ、見覚えのある顔が徐々にはっきりとしてくる。
どうやら眠ってしまっていたらしい。
少し首が痛い。
「ふあ……」
目を擦って背伸びをすれば、少し意識がはっきりしてくる。
美容室って眠くなるよね。
「おお、いいじゃん」
目の前にいたワイルド系イケメンは、伸びてボサボサだった髪の毛がすっきりしている。野暮ったさが消えて、男前度が上がった。
やっぱり清潔感って大事だよね。あとはそのボロボロの服をどうにかすれば道行く人が振り向くくらいにはなりそう。
「ありがとうございます。ヒオリ様もとてもお美しいです」
「そういうのいいから」
お世辞はいらんのよ。私が地味で綺麗だとか可愛いだとかいう言葉とは無縁だと十分に知ってるから。
店員さんから鏡で見せてもらったけど、髪の毛を切っただけだし思った通りの仕上がりだった。いや、下手に切りすぎなくてよかったと思うくらいだ。
短いほうが色々楽なんだよね。洗うのも乾くのも早いし。いつぞやの髪の毛を掴まれた時みたいに後悔したくないし。
「ところでミレスちゃんは!?」
正直、ガヴラも自分のこともそんなに興味ない。
「こちらでございます」
笑みを湛えたお姉さんにカーテンの前まで案内される。
「ひぃ」
「!!!」
足首辺りまで伸び放題だった髪の毛は腰くらいまで短く整い、肩の高さで二つ結び。前髪をうまく使って右目を隠したヘアスタイルは自然でネガティブな印象を与えない。
そして、衣装。お店に預けていたはずのミリエンの新作を身に纏った幼女は、まさに妖精のようだった。
「う……ッ、ぅ……!」
可愛い。可愛さの権化。
「ひぃ、へんなかお」
「か゛わ゛い゛い゛よ゛ぉぉぉぉ…!」
もう変質者だって構わない。こんな可愛い幼女が目の前にいて、触れられて、正気でいられる訳がない……!!
「本当に愛らしいですね」
「そうでしょう!? 分かってくださいます!?」
「もちろん」
「いやホント白髪だし暗めの色が映えると思ってたしゴスロリゴシロリ最高! って思っててミントグリーンって色としては好きだけど服となると自分ではもちろん他人に着てもらうって考えてもかなりの冒険で正直こういう系統は範囲外だったんだけど予想以上にグッとくるし何というか爽やか! 初夏を感じる! この世界に四季があるのか知らないけど! とりあえず最高! ミレスちゃん最っ強に可愛いですマジでミリエンありがとう!!」
「ふふ」
思わず熱弁してしまってお姉さんから生暖かいような笑みをもらったけど、いいんだ。幼女の新たな可能性を見出だしてくれたことに感謝。
「とにかく汚れないように気をつけよう……」
これだけ明るい色だと汚れが目立つだろうしね。
「前の服はいかがしましょうか」
「そうだった……どうしよう……」
興奮状態から急降下、ぶち当たる難問。
しばらくは今の服を着るとして、一旦どこかで預かってもらえないだろうか。これから毎回この問題とは向き合わなければならないし。
「あの、貸倉庫とかってないですかね」
「こちらかヒスタルフの店でお預かり致しましょうか? 思い入れがあるようですし、倉庫に置くよりも人の手を入れて管理したほうがよろしいのではないかと」
「えっ、そんなことできるんですか?」
「はい。お得意様の服をお預かりすることは少なくありません。誠心誠意お手入れさせていただきます。もちろん費用はかかるのですが……」
「お願いしたいです!」
維持費払って服を管理してくれるって願ってもないサービスだ。
しかも更に話を聞くと、事前に言えば別料金で預けた服を別のお店まで届けてくれるらしい。
何てこった。好きに衣装替えができるってことじゃないか。そりゃ異空間収納に比べたら便利じゃないかもしれないけど、何のスキルも持たない人間には十分にありがたいシステムだ。
そんな訳で、前のゴシック系の服は預りサービスにお願いし、晴れた気持ちで美容室を後にするのだった。




