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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第三部 追従
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11.予期せぬ贈り物


「泉から離れたので回復は遅くなりますが、放っておけば治ります」


「いやそういう問題じゃないでしょ!」


 とにかく見た目がやばい。町の人たちも引くというか怯えてるし。変な奴と知り合いだなんて思われたくない、早くどうにかしないと。

 とは言っても治癒術なんて使えないし、この町に使える人がいるとも限らない。


「──あ!」


 そうだ、泉の水があるじゃん。何かに使えるかなと思って二瓶ほど貰ってきたんだった。

 リュックの中を探り、一本をガヴラにぶっかける。水も滴るいい男なのが多少ムカつくけど、もう一本を差し出した。


「これ飲んで」


「今いただいたもので十分です。泉の水は貴重なものなのでこんなところで使」


「いいから飲んで」


「……はい」


 この状況の元凶が反抗するんじゃないよ。水をぶっかけたのに“いただいた”なんて言うんじゃないよ。


 命令だと受け取ったのか、素直に泉の水を飲んだガヴラ。するとみるみるうちに出血は止まり、傷が塞がっていく。

 泉の水の効果なのか、ガヴラ本人のものなのか、さすがの治癒力だ。


「はあ、よかった。すみません、見苦しいものを見せてしまって……」


「い、いえ……」


 周囲の人に頭を下げると、若干怯えた様子を見せつつも笑顔を見せてくれた。

 ここまで来て彼を知らない人だとは言えず、ひとまず知り合いだと伝えて食事のテーブルについてもらう。

 幼女はいつの間にか食事を再開していて、随分と料理は減ったもののまだまだなくなりそうにないので、騒がせた罰として残りをガヴラに食べてもらうことにした。


「ていうか何で来たの? 向こうを手伝う約束だったでしょ? 結界は? 私たちがここにいるのがどうして分かったの?」


「許可が出ました。ここはもう大丈夫だからヒオリ様を追っていいと」


 ──兄ちゃん、ゾダの一族なら誓いを立てた相手と離れるのは辛いだろ。

 ──ここはいいから、行きなさい。


 笑顔の男たちと柔和なボスラフさんの顔が浮かぶ。


「あ、そう……」


 頭を抱える私に話を続けるガヴラ。


「結界は無理矢理突破しました。首の枷があった頃のオレだったら死んでいたでしょう」


「うん……」


「ヒオリ様の居場所はすぐに分かりました。ここは遺棄場から一番近い町ですし、この距離なら感知できます。ヒオリ様の霊力は特殊なので分かりやすい」


 天然GPS搭載のストーカーか。

 私の矢継ぎ早の質問に一つずつ答えてくるガヴラに色々言いたいことはあったけど、こいつにそれを言っても無駄だと悟った。


「オレとも契約してくだされば、もっと離れていてもすぐに駆け付けられるのですが」


「絶対嫌」


 大体、人間同士で契約ってできるのか。あれか、奴隷的な枷とか術か。ゾダの一族だから特別にできるのか。

 いずれにしても嫌だ。私は幼女と平穏な旅を続けたいのであって、そこに余計に目立つ高身長ワイルドイケメンはいらない。


「ヒオリ様、少しいいですか?」


「え? あ、はい」


 一人の女性が話しかけてきた。身なりが整ったお姉さんだ。

 ガヴラのことがあってから、最初の青年ですらこちらに近づこうとしないのに。この人、さっきはいなかったのかな。


「ヒオリ様にお荷物が届いてまして」


「私に?」


「はい」


 町の人が私のことを知っているのはもういいとして、この町に来たのは偶然だった。当初通りならもう少し先の危獣出没スポットに行って、次の町に寄るのはもう少し後の予定だったから。

 ガヴラは遺棄場から一番近い町だからって言ってたけど、遺棄場に立ち入ったのも偶然だったし、それを知る人なんていないはず。


 ちょっと不審に思いながらも、この状況で品の良さそうなこのお姉さんが何か企んでいるとも思えないし、最強のボディガードもいるのでとりあえずついていくことにした。



 お姉さんに案内されて向かった先は、服屋だった。この町の規模からしたら結構大きいんじゃなかろうか。

 目移りしてしまいそうなほど色とりどり様々な衣装が並ぶ中、店内を進み、一つのテーブルに案内される。


「こちらです」


「この箱?」


「はい。お手紙も預かっております」


 そう言って差し出された手紙。何だか高級そうな印がついているしいい匂いもするけど、誰からだろう。

 中を開けて確認してみる。綺麗な文字が綴られた下に、ミミズのような字がある。


「ま、読めないんですけど」


 以前エメリクに、しばらくこの国にいるなら文字くらい学んだらどうかと言われたんだけど、今のところ大した問題もないし避けてたんだよね。文字が分からなくても会話できるから買い物はできるし、エコイフでの契約書は大体内容が同じでサインも日本語で大丈夫だったし。

 まさか手紙を貰う日が来るとは思ってなかった。しかも旅先で。

 怠けてたツケが回ってきたね。


「ヒオリ様、拝見しても?」


「いいけど、読めるの?」


 ガヴラに手紙を渡す。

 ゾダの一族って戦闘民族だからあんまり文化的じゃないと勝手に思っていた。この世界は識字率が高くなくて、平民でも職種によって読み書きができる・できないがあるらしいし。


「ヒオリ様。いかがお過ごしでしょうか。きっとお優しいヒオリ様のことですから、素晴らしい慈善作業に勤しんでいることでしょう。わたくしたちもそのお心に救われたことに感謝しておりますが、子どもたちが心配しております──ジェレマイテア・メイエン」


「あ、はは」


 テア様、怖いよ。何でここに来ること予想できたんだ。

 でもまあ、よかった。変な人からの贈り物じゃなくて。


「が……がん……」


 恐らくミミズ文字を解読してくれているのであろう、ワイルドイケメンの眉間の皺が寄っている。頑張れ。


「がんばり、ました。よろ、こんで、くれると、いいな……ミリエン」


「え!?」


 って、ことは、この箱の中ってもしかして──!


「!!」


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