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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第三部 追従
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5.ゾダの一族


 そんなこんなで、ここで生活をしていくための話し合いが進んだ。

 ひとまず家を建てること、食料を確保すること。これが達成できれば生活していくのも無理難題ではなくなる。


 話し合いの中心に立って纏めていたのはあのおじさんで、参加すらしていない少年は、いつしかその場から姿を消していた。

 ここでみんなで生きていくなら、私は口を挟まないほうがいいかな、と少年の姿を探す。


「これさえ、なければ」


 建物の外、見つけた先で、少年ことガヴラがその首に鎮座する頑丈そうな首輪を忌々しげに睨んでいた。


「それ、どうしたの? 事情聞いてもいい? 嫌なら話さなくていいんだけど」


「……」


 ガヴラはこちらを一瞥した後、地面に視線を落とした。


「ツゴウのいいようにツカわれて、スてられた。キケンだからと、これをつけて」


 その首輪、やっぱりミレスと同じ枷みたいなものなのかな。変な文字みたいな模様が刻まれているし。

 話し方がカタコトなのも、力が封じられているせいかもしれない。ミレスがあんまり話せなかったのはまた違う理由かもしれないけど。


「それが外れたら凄い力でも解放されるの?」


「……スクなくとも、イッシュンでヤられはしない」


 何だか幼女を見ている気がする。

 もしかして、幼女の強さを見抜いていて、その上で勝負したらという話をしているのだろうか。


 これは逸材だ。幼女に瞬殺されない、そんな力があれば、きっとここでも役に立ってくれるはず。本人もその首輪さえなければ、って言ってたしね。


「ミレスちゃん、あれ壊せる?」


「ん」


 幼女は小さく頷くと、黒い枝で少年の首輪をべしっと叩いた。その瞬間、火花のような閃光のようなものが飛び散り、ビシッという音と風を伴いながら、首輪は真っ二つに割れた。

 ガシャンと重々しい音を立て地面へ落ちるそれを驚いた顔で見つめる少年。


 さすがミレスちゃん。自分の枷は外せなくても、このくらいなら朝飯前って感じか。今回の泉の浄化イベント後のパワーアップ効果かもしれないけど。


「じゃ、頑張って貢献しなよ~少年」


 幼いながらもあれだけ思い詰めたような表情をしていたくらいだ。首輪が外れたことで思うこともあるに違いない。そっとしておこう。


「さて、ミレスちゃん。もうひと仕事しますか」


「ん」


 みんながいる建物に戻ると、家を建てるために色々と話をしていたので、とりあえず幼女の黒い枝に手伝ってもらって木を切ったり近くまで運んだりした。もちろん材木店の娘さんに木を選んでもらいながら。

 最初はみんな黒い枝に驚いていたけど、幼女が泉を浄化した張本人と知って、態度が軟化した。その場に居合わせたおじさんみたいな謙る態度にまではならなかったけど、普通に接してくれるのでいい感じ。

 まあ攻撃どころか便利な場面しか見てないから、余計に危機感が薄れたんだとは思う。


 何はともあれ、ひとまずみんなが雨風を防げるように大きな家を作ろうということになり、着実にその作業は進んだ。

 力仕事担当の人たちには申し訳ないけど、その辺は全て幼女が担い、他の人たちは家の組み立てに際して細かな作業を行ってもらった。

 途中、休憩を挟みつつも、みんなで頑張ったお陰で外側はある程度形になった。

 明るい時間から辺りが暗くなるのはあっという間で、夜までに間に合ってよかった。


 そうしてできた家(仮)の中で三十人近い人たちと雑魚寝をすることになった。その中に少年はいない。

 まあ、この家の完成がゴールじゃないんだし、これからも仕事はたくさんあるしね。スロースターターってことで。







「ふあぁぁぁ」


 大きく背伸びをする。久々のベッドじゃない夜だったから、身体の節々が痛い。本来なら次の町で宿に泊まっている予定だったからな。

 それに、家の端っこで他の人たちとも距離を取っていたけど、やっぱり誰かと一緒に寝るのは気が休まらない。


「んー……」


 辺りはすっかり明るくなっていて、周囲で寝ていた人たちもほとんどいなくなっていた。みんな早起きだね。


 何やら物音がするので外に出てみると、離れたところで何か作業をしている。

 気になるところではあるけど、ひとまず邪魔をしないように泉に向かうと、昨日よりも緑が増えていた。何と、少年が言ったように本当に新しい草木が生えている。まさかこんなに早く生えるとは思っていなかった。

 それに、泉に浮いていた木片やガラクタもほとんどなくなっている。そういえば、泉から離れたところも異臭が治まっていたし、これも全部霊気が豊富なためか。凄いな。これは何かしらの実が成るのも早いかも。


 泉で顔を洗ったりして目を覚ましたあと、作業をしていたところに向かった。

 近づいて様子を窺うと、別の家を建てているようだった。聞けば、寝ている人もいるので配慮したらしい。

 働き者ですねと言うと、こんなのまだまだだと返された。さすがに人数分とはいかないものの、ある程度グループ分けした分の家を建てるつもりとのこと。みんな他人だからその辺の分け方は難しそうだけど、とりあえず男女別なのと出身別とか色々考え方はあるね。


 さて、水はあるけど食べ物をこれからどうしていこうか。

 昨日から少しずつみんなで分けて食事をしていたけど、持っていた食料は全部なくなった。さすがに木の実が成るまでには数日くらいはかかるだろうし。

 手持ちのお金もテア様からもらった身分証も、ここでは役に立たない。自給自足って大変だ。


「おーい、戻って来たぞー」


 遠くから声がして、その方を見ると数人の男たちが何かを抱えていた。その中にはガヴラもいて、後ろに何かを引き摺っている。

 ようやく働くことにしたらしい。偉いぞ、少年。


 みんなが一体何を持っているのかと思っていると、徐々に近づくにつれその正体が見えてきた。

 あれは、動物だ。鹿だか猪だかよく分からないやつとか、鳥とか。多分普通に触っているから害獣や危獣ではなさそう。

 というか、そうだよね。勝手にこの世界の獣はみんな害獣だか危獣だかだと思っていたけど、普通の動物もいるんだよね。調理された肉しか見てなかったからあんまり結びつかなかった。

 この遺棄場で生き残っていたのか、迷い込んだのかは分からないけど、狩りができるなら食料にも困らないのか。


「それにしても……」


 デカい。ガヴラが引き摺っているそれが、デカすぎる。

 人間の何倍もの大きさのそれは、一角獣のような角を持ち、豚のようにふっくらとした身体つきで小さな尻尾がついていた。

 さすが、幼女相手に啖呵を切っただけのことはある。首輪が外れて凄い力が解放されたのか。もしかしたら危獣相手でも戦えるのかもしれない。


「てか、え──?」


 近づいてくる少年に段々違和感を覚えた。

 そしてあと数メートルという距離まで迫ったとき、さすがに分かった。

 顔一つ分下だったのに、なぜか今は少し見上げる身長──少年が、成長している。


「いや、何でよ」


「おー、ヒオリ様、おはようございます」


「色々狩れたので、これでしばらく食べるものに困らないですよ!」


「様づけと敬語はいらないです、じゃなくて」


 ガヴラと一緒に戻ってきた男たちが昨日と打って変わって元気なのも気になるけど、それどころじゃない。


「何でデカくなってんの?」


 よく見れば、ぼさぼさだった髪も若干艶があるし、こけていた頬も膨らんでいる。というか普通にイケメンだ。

 昨日は痩身の子どもだったのに、身体つきもしっかりしていて別人のようだった。小学生高学年くらいかなと思ったのに、いきなり高校生くらいにまで成長している。


「……ヒオリ」


「え」


「いや、ヒオリ様」


「な、なに」


 持っていた獣をどこかに放り投げ、片膝をつくガヴラ(仮)。暗めの赤い瞳がこちらを射抜く。


「このガヴラ、ゾダの一族としてその仕来りに従い、ヒオリ様を主と認めます」


「は?」


「その御身、この命に代えてもお守り致します。何なりとご命令を」


「いや、何言ってんの?」


 突然何を言い出すんだ少年よ。

 一日で急に成長したことも、流暢に喋って私を主とか言い出したのも、ついていけない。


「そっか、兄ちゃんゾダの一族だったのか」


「そりゃ強いワケだ」


「納得してないで教えて欲しいんですが」


「ゾダの一族ってのは、ポゥンネルに侵攻されて取り込まれて、王族に忠誠を誓わされた戦闘民族っす」


「もうその数も少ないって聞いたなぁ」


「ゾダはもうオレしかいない。他は皆、ポゥンネルに殺された」


「え、ええ……」


 何かもう、色々と急すぎる。

 それなりの事情があるんだろうなって思っていた少年が実は戦闘民族の生き残りで、どこかの国に捨てられて、ここでアラサー女に忠誠を誓うって一体どういう状況。


 ちなみに急激に成長したのもゾダの一族の特性らしい。

 元々、侵攻してくる他の人間たちや襲ってくる動物、危獣を倒すために戦闘能力が著しく上昇して、戦闘に特化した身体になっていったと。特殊な霊気を取り入れる身体構造をしていて、五歳で中学生くらいまでに成長し、十歳には成人の身体つきとなり、老化はかなり緩やか。

 ガヴラも漏れなく五歳で昨日までの身体に成長したものの、他とは違うその特性が気味悪がられ、その目つきの悪さと生意気さが拍車をかけて呪いをかけられた上、ここに捨てられたらしい。その呪いがあのゴツい首輪だったと。

 首輪が外れたら、聖なる泉の霊気もあり止まっていた成長が一気に進んだ、ということらしい。


 凄いな、異世界。何でもアリだ。


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