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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第三部 追従
121/240

4.浄化


「これ、つかって……ひぃが、いたい、けど」


「えーっと」


 たどたどしく喋る幼女が可愛い……とか言っている場合じゃないな。

 つまり、この高濃度の精霊石を使って、私が痛みに耐えたら泉が復活するってこと?

 そんな馬鹿な。あなた攻撃極振り型じゃなかったの。そんな聖なる魔法みたいな浄化の呪文唱えられるんだ。


 もちろんできるならそれに越したことはないし嬉しい。水源の汚染はやばいからね。

 それでも少しだけ攻撃極振り幼女に夢を壊しながら、幼女にお願いした。


「元に戻るならそうしたい。ミレスちゃん、お願いします」


「──ん」


 両腕を広げ、少しだけ首を傾げる幼女に内心悶えながら、その小さな身体をさらに抱き上げた。

 柔らかく小さな掌が私の両頬をそっと掴み、額同士がくっつく。

 幼女に触れる全てから、温かな“何か”が伝わる。これが魔気なのか霊気なのかは分からないけど、とにかく心地良い。

 そして私からも幼女へとそれが伝わり、また幼女から伝わる──その循環を繰り返し、全身が熱くなる。


「……」


 ゆっくりと幼女が離れていく。それを名残惜しく思っていると、幼女はどこにあれからどこに隠し持っていたのか、さっきの精霊石を泉に向かって掲げた。

 さらさらと粒子になっていく精霊石。陽の光を受けてきらきらと輝きながら、私たちを包んだあと、眩しいほどの光に視界を奪われた。


「う──ッ」


 痛い。全身が、痛い、熱い、痛い。

 少しでも動けば身体がバラバラになってしまうんじゃないかというほど、身体中が軋む。手足が痺れる。


「あ、あ──」


 特に左腕が捥げるほど熱い。赤黒いグロテスクな血管のような痣が暴れ回っているのが分かる。

 眩暈もするし、何よりあまりの痛さに目を開けているのも苦痛だったけど、しばらくすると大分マシになってくる。

 ふ、久々に左腕が疼くぜ──などと冗談を思うほどの余裕は出てきた。全身が痛いことには変わりないけど。


「う、うう」


「よし、よし」


 どこで覚えてきたのか、頭を撫でてくれる幼女。くそ可愛い。

 でも今は逆に辛い。悶えるだけで痛みが全身に走るし痺れが増す。正座の後に足が痺れる感覚がずっと続いているのもきつい。


「もう、おわった、から」


「う゛ん」


「……」


 それからしばらく無言で幼女に撫でられていると、次第に痛みも痺れも改善してきた。


「っ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 ようやく解放された苦痛から大きな息を吐く。とりあえず治まってよかった。以前はブラックアウトしたことを思うと、耐えた方だよね。頑張ったよね、私。

 いや、むしろ意識飛ばしてた方が楽だったけど。


 痛みと痺れはよくなったものの、何かをごっそり持っていかれたような感覚がある。体力を根こそぎ奪われたというか、何日も食べてない空腹感というか。


「ひぃ」


「……わ」


 幼女に服を引っ張られ、泉の方を見ると、そこには心を奪われるような光景が広がっていた。

 吸い込む空気は綺麗だし、多少何か浮いているものの水は澄み切ってきらきらと反射している。

 近づいて、水を掬ってみると、冷たいのにどこか温かさも感じた。ほっとするというか。これが霊気なのかな。


 それにしても凄いな。さっきまでの異様な雰囲気はすっかりなくなって、吹く風に砂埃があるどころか爽やかすら感じる。

 ミレスちゃん凄い。さすが、一発で枷を外しただけのことはある。泉から溢れるあれがかなりの魔気量で、幼女も能力開放&パワーアップしたに違いない。

 この規模を一気に浄化できるくらいだから、学校のプールなんて一瞬で終わりそう。いや、もう学生時代になんて戻りたくないけど。


「こ、これは……!」


 驚いたような声に振り向くと、さっきここの事情を話してくれたおじさんがいた。

 何でも、魔気がなくなり空気も変わったことに気づいてここまでやって来たらしい。


 それまで黙っていた少年もおじさんと一緒に泉に近づくと、水を手に掬って口づけた。


 え、大丈夫?


「ああ、ああ、何ということだ……!」


 身体を震わせて泣いているおじさん。その横でごくごくと水を飲む少年。さっきまでぐったりしていたのにすっかり調子がよくなったみたいだった。飲みっぷりが凄い。

 泉の見た目が綺麗になったからと言って水が汚染されていないとは限らないんだけど……まあ、ミレスちゃんのお陰で水質もよくなったのかもしれない。元々は聖なる泉って言われてたくらいだし、浄化されたなら凄い効能ありそう。


「お嬢さん方が、“気”を晴らし、泉を復活させてくれたんだな……!」


 おじさんに拝むようにして頭を下げられ、若干困惑する。


「浄化の術を使えるなんて、精霊様に愛された方々に違いない……!」


 いつも思うけど、みんなリアクションオーバーだよね。

 まあ、危獣を倒した時も今回も、命が救われたんだから多少大袈裟にもなるのかな。



 その後、あの建物に残っていた人たちにも泉の水を飲んでもらうと、多少元気になったみたいだった。無表情だったり苦しそうだったりした顔つきも減り、少し顔色もよく見える。さすが聖なる泉の効果。

 まあ魔気もなくなったし、身体を蝕む直接的な原因は解決したからね。少しは安心かな。


 後は、ここから出る方法についてだけど。

 多分、何となくだけど、私と幼女は結界をスルーできると思う。どういう仕組みなのかは分からないけど、この子に破れない術だとは思えない。


 でも、この人たちは違う。

 聞いたところ、こちら側から結界に触れると、凄いダメージを受ける上に通り抜けできないらしい。幼女の黒い枝に掴まっていれば大丈夫かもしれないけど、安全の保障は全くない。この人たちに幼女を信頼しろと言われても無理だろうし。


「お嬢さん、本当にありがとう」


「あ、いえ。これ以上亡くなる方がいなくてよかったです」


 ちなみにあれからおじさんには精霊様のご加護を持った偉人と思われ謙った態度を取られたんだけど、どうにか普通に対応して欲しいとお願いした。


「今、ここから出る方法を考えてくれていただろう」


「よく分かりましたね」


「これでも多くの人を見てきたからな。……でも、大丈夫。おじさんたちはここに残るよ」


「え?」


 まさかそんなことを言われるとは思わず、拍子抜けする。気づけば残った人たちも同じように頷いていた。


「ここは遺棄場。理由があって捨てられた者たちばかりだ。ここを出ても、怯えて暮らすしかないだろう」


 ああ、そっか。居場所がないのか。

 あの時の私たちと同じだ。タルマレアに怯え、逃げていたあの時と。

 幸い、私には最強の幼女がついているし、周囲にも恵まれたけど、この人たちはそうではない。

 何かに怯えて逃げ続ける生活は、心身ともに疲れてしまう。それを強いることはできないし、私たちがずっと一緒にいることもできない。


「ずっと、ここにいるつもりですか?」


「……ありがたいことに、お嬢さん方のお陰でここは霊気が満ちている。泉の傍にいればすぐに死ぬことはないだろう」


 まあ、この世界の人たちの命の源らしい霊気が豊富なら、多少は大丈夫なのかな。

 今までの事情からここが遺棄場だと知って近づく人もいないだろうし、もし誰かがまたここに置き去りにされても魔気に侵されることはない。


「これだけのレイキがあれば、アラたなクサキもメブく。そのうちミもつけるだろう」


「少年」


「ガヴラだ」


「ガブラ」


「ガヴラ」


 言いにくいよ。


「私はヒオリ。この子はミレス」


「ん」


 少年──ガヴラの言うことが本当なら、少しくらいは食べ物にも困らないってことかな。それならまだここで生活していける可能性はありそう。


「ここを修復するのは難しそうなので、木で家でも作りますよ」


「そうですね。みんなで力を合わせれば、きっと」


 年齢層も性別もバラバラな他の人たちも、前向きな姿勢を見せている。これ以上は私のエゴだね。


「家を建てるなら任せてくれ。大抵のことなら倒れない設計図を書いてやる」

「わたしも、いい木の見分けならつきます……材木店の娘でしたので……」

「力仕事ならやれると思う。今は大して体力ないけど、前は荷卸してたから」

「じゃあアタシが細かい作業やるよ。これでも工芸やってたんだ」

「高いところでの作業は任せて」

「何もできない、ので、皆さんの、お水、汲みます」


 凄い、事情も出身も違うであろう人たちが団結し始めている。

 でもあれだな、ネットのどこかでこういう流れ見たことあるな。まさか本当に行動に移すとまでは思ってなかったけど。


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