54.ようじょかわいいよようじょ
「じゃあ嬢ちゃん、またな」
「お二人ともお気をつけて」
「ありがとうございます。町を出る時はまた挨拶に来ますね」
「ん。ばい、ばい」
最後に挨拶をしてエコイフを後にする。
ノエリーさんは幼女の黒い枝と握手をしていて周囲に驚かれていたけど、気にしていないし結構な大物だと思った。この調子でロベスさんとお幸せに。
それにしても幼女可愛すぎない? 前にオルポード家と別れるときに教えたことを自らやってのけるんだよ?
「かーわいーなー、もう」
「ひぃ、くるしい」
ぐりぐりと頭を押しつけて抱き締めると文句を言われた。私の力なんて幼女に比べたら非力でしかないのに、そんなこと言えるなんて気軽な仲になったみたいで嬉しい。
もっとぎゅうぎゅうに抱き締めたら黒い枝でぺしぺしと叩かれた。照れ隠し可愛いかよ。
「ねぇちゃん!」
「ん? アダル?」
幼女と戯れていると突然アダルが目の前に現れた。走ってきたのか息は乱れているし、焦っているようにも見える。
「汗までかいちゃって。どうしたの」
「どうしたじゃないよ! 危獣がうじゃうじゃいる危険なとこに行ったって聞いて……昨日は帰ってきたと思ったらすぐに部屋にこもるし、今日は全然起きてこないし、かと思ってエコイフから屋敷に戻ってみたら出掛けたっていうし……!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて」
若干涙目になりながら訴えてくる十歳男子。だからショタ属性はないんだって。
息と気持ちが落ち着くまで待っていると、しばらくしてアダルは深く息を吐いた。
「……ねぇちゃんが、怪我したのかと思って」
「あー、心配してくれたんだ?」
頭を軽く撫でると頬を膨らませてむくれるアダル少年。
事情を聞けば、何を誤解したのか私たちが怪我をして治療院に行ったのだと思ったらしい。
シベラから私たちが鉱山に向かったと聞いたものの、職場であるエコイフでは今鉱山が危獣で大変なことになっているという話ばかり。もちろん私たちと連絡を取れる術はなくやきもきしていたところ、今度は町の外れで貴族と対立しているらしいという話が耳に入る。しかも治癒術士までもがこの町で奔走している。これは私たちに何かあったに違いないと考えた。
一応その日の内に屋敷に戻ってきたものの姿を確認できず、今日は今日で朝から出勤だから寝ている私を起こすこともできず。それでも心配になって休憩時間に屋敷に戻ってみれば今度はいないと。
会えないことでネガティブな妄想を膨らませ、町中を探していたらしい。
何ともまあ、健気な。
「ごめんね。まさかそんなことになってるとは思わず」
「いや、おれも早とちりしてたから……ねぇちゃんが無事ならよかった」
「ミレスちゃんは心配してくれないんだ」
「いや、めちゃくちゃ強い危獣を何体も倒したやつを心配しても」
私の時とは違い真顔で答えるアダル。何言ってんだこいつ? みたいな顔をしている。
そういえばエコイフで危獣の死骸処理をしているから幼女の力も知ってるんだよね。私じゃなく幼女の力だってエコイフでは言いふらしてたから。実際に黒い枝で討伐証明が入った激重の袋を持ってるところも見てたし。
本当に幼女がやってるのか疑わしい目で見てたら、黒い枝がシュッシュッとファイティングポーズというか首を切る真似をしたり、死骸を埋めるのに邪魔だった巨大な岩をワンパン大破したのも見てるしね。さすがにその時は驚いていたというか若干怯えていたけど、今じゃこの対応。可憐な幼女に向ける目じゃないぞ、少年。
「いくらそいつが強くてもねぇちゃんが強いわけじゃないだろ」
「そっすね」
それはもう痛感していますとも。
でも私が無力でもミレスが最強すぎるからあんまり心配することないんだよね。
「ありがと、アダル。その内情報が流れるだろうけど、私たちはご覧の通り元気だし、色々面倒なことは解決したと思うよ」
「……今度こそ、本当に出ていくんだ」
「うん。数日はゆっくりするつもりだけどね」
「……そっか」
「寂しい?」
「……うん」
「ありゃ素直。でもアダルがいい子でもミレスちゃんは渡せないんだな~」
「何でそうなるんだよ」
真顔怖いよ。
「はぁ。もういいよ。ねぇちゃんが無事ならそれで。おれ、仕事抜け出してきてるから戻るね」
一回り以上年下に凄い大人なことを言われた。
「偉いね、お仕事頑張って。色々終わった祝いに今日はプチパーティやろ。アダルも家のためにめちゃくちゃ頑張ってるし労おう」
「う」
「どうかした?」
「そういうところだよ……もういい、おれ行くから!」
「気を付けて戻るんだよ~」
手を振りながらアダル少年が走り去るのを見送る。幼女も無言ながらも同じように黒い枝を横に振っていた。
「さて、ミレスちゃん。買い物に行きたいんだけど荷物持ちお願いしてもいい?」
「ん」
高額な報酬も手に入ったことだし、オルポード家やシベラに何か手土産でも買おう。あとはプチパーティ用のご飯類とデザート。料理はシベラが作るだろうし材料も屋敷にあるからね。
「ミレスちゃんは何か欲しいものある?」
最近感情も結構出すようになってきたし、欲も少しは出てきたかも。もしかしたら今なら幼女の好物とか聞き出せるかもしれない。
買い物のためお店への道すがらそんなことを期待して問えば、幼女は胸元の服をぎゅっと握ってきた。
「……ひぃ」
「ん?」
「ひぃが、いい」
「ん、え?」
今、何て?
「あの……」
「……」
幼女はさらにしがみついてくる。
何だこれ。少女漫画、いやギャルゲーか。ちょっと好きそうな食べ物とか興味のあるものを聞こうと思っただけなのに、自分が欲しいと言われるなんて一体誰が思うだろうか。もちろん今までそんなシチュエーションに遭遇することはなかったし、これからも多分いや絶対にない。
これが漫画やゲームの中で、可憐な少女だったりイケメンだったりすれば多少ときめく要素もあるかもしれないけど、相手は幼女。クソ可愛いだけなんだが。その内ミレスに尊死か萌え死にさせられそうな気がする。
いや、待てよ。この場合、もしかすると普通にフィジカル的な意味の可能性もあるぞ。おっさんたちの生気を吸ってたくらいだし。契約の代償にお前の命を差し出せみたいな。
「せめて枷を全部外して可愛い服を着たミレスちゃんを拝んでからでもいい?」
「……」
「ヤる時は痛くしないでね」
「……」
無言で頭を擦りつけてくる幼女。
「いだっ」
そして黒い枝で頭や身体をべしべしと叩かれた。




