52.事情聴取
明けましておめでとうございます!
年内更新したかったのですが忙しくて無理でした!今日も仕事!
また不定期更新になるかもしれませんが今年もよろしくお願いします…!
「ふぁぁぁ」
布団の中で小さく背伸びをする。一緒にベッドに入っている幼女が腹の上に乗っかってきたので頭を撫でた。
「おはよ、ミレスちゃん」
「ん」
昨日の甘えたモードが続いているのか、ぎゅっと抱きついてくる幼女。可愛い。
今まで誰かと一緒に寝るとか考えられなかったけど、寝相が悪くても寝顔が酷くても幼女は何とも思ってないだろうから楽だ。相手が何を思って自分のことをどう思うかなんて考えるのだけでも面倒だからね。
別に自分に自信なんてないけど幼女から嫌われないだろうと思えるのが不思議だ。これも契約の影響なのかな。
影響といえば、昨日は疲れてお風呂に入ってすぐに寝たんだけど、なんと幼女がお湯を出せるようになっていた。
今まではこの世界の住人であるオルポード家の誰かと一緒でないとお湯を出せなかったんだけど、それもパワーアップの効果なのかな。精霊石を吸収していたみたいだし、そっちの影響もあるかもしれない。
ともかく幼女の霊力的なものやコントロール力が発達したみたいでよかった。これで旅先でも安心してお風呂に入れる。さすがに毎度水だと辛いし、かと言って誰かと一緒に入るなんて難易度高すぎるからね。
「ひぃ」
「ん~、起きるよー……」
幼女に促されて気怠い身体を起こす。幼女と契約してから驚くほどの体力が身についたみたいだけど、それでやっと普通に運動をやっている成人くらいのレベル。やっぱり年には勝てない。
「ぐえっぶっ」
もたもたしていたら首が締まり、顔に何かが飛んできた。黒い枝がふよふよと視界の端で泳いでいる。
どうやら後ろ襟を掴んで強制的に立たせられた上に服を投げつけられたらしい。
「最近愛が過激になっていくね……」
幼女に構われるのは嫌いじゃないけれども。むしろ嬉しいけど。
のんびりはさせてくれないのね、と思いつつ身支度をする。
昼前に起きただけでも褒めて欲しいくらいだよ。
「……ひぃ」
「分かった、分かったから贅肉を摘まないで」
意外とこの子アクティブなんだよね。外に出たがるというか。まあ他のことに興味があるのはいいことなんだけど。
◇
「さて嬢ちゃん、きちんと話してもらおうか」
「顔が怖いよ」
人相の悪い顔で睨みつけてくるロベスさん。
そういえばあのおっさんたちのことを説明するって言ってたな。
銀行機能を堪能するためにいつもとは違う方のエコイフに来たんだけど、すぐにロベスさんに捕まってしまった。どうしてこっちのエコイフにいるのか謎だし向こうの仕事はいいんだろうか。
それに何だか向こうより人が多い気がするし、こっちを見ている気がする。
若干の気まずさを覚えていると、奥からノエリーさんがやってきて軽く一礼と挨拶をするとロベスさんの隣に座った。何かもうセットみたいな扱いになってきたな。
リア充爆発しろって思ってたけど、どうやら実はノエリーさんの方がロベスさんを追いかけているっぽいし、その辺は本当に謎だ。
「ヒオリ様、私もお話を伺ってもいいでしょうか」
「あ、はい。それはいいんですけど……」
依頼は達成して報酬も貰ったし、テア様も今回の件でミレスが味方だということを示せばいいって言ってくれたくらいだから、話しても大丈夫だよね。さすがに暗殺未遂とかの件はまずいかもしれないけど。ベルジュローのおっさんたちも大勢の目の前で連れていかれたし、多少ぼかせば問題ないかな。
少し考えるために黙ったこちらを真剣な目で見つめてくるロベスさんとノエリーさん。
そんな二人して意気込んで聞く話でもないんだけどな、と思いつつこれまでのことをかいつまんで話した。
テア様から依頼を受けたこと、その中でベルジュロー家が悪事を企んでいたことが分かったものの逆におっさんたちから大勢の目の前で糾弾されたこと。それで騒ぎが大きくなったところ、先に鉱山の件を解決しなければいけないためその場を離れたこと。などなど。
テア様の不利にならないように、あとはとにかく幼女のお陰だということを強調して説明した。
話を聞き終えたロベスさんは深く溜め息を吐いた。
「……とんでもねぇと思ってたがホントにとんでもねぇ奴だったな、嬢ちゃんたち」
「そんな人を化け物みたいに」
「領主様から直々の依頼、しかもメイエン家所有の鉱山の件を解決したとなると王城に招かれても不思議ではない功績ですね」
「えぇ」
いらない。そんな特権全然欲しくない。王家なんて面倒事の塊みたいなところと知り合いたくないです。
それに私としては本当に私利私欲でしかなかったのに、そんなに評価されるのは烏滸がましいというか不相応だ。まあ幼女の名誉回復になるならありがたいことだけど。
「そういや治癒術士の嬢ちゃんが聖獣がどうのって言ってたのも嬢ちゃんたちが絡んでんのか」
「あー、まあ、はは」
その辺りはどこまで話していいのか分からないので適当に笑って誤魔化した。多分その内テア様から話があるでしょ。
「ベルジュロー家とお付きの方々が街で倒れていたのはなぜでしょう?」
「この子が足止めしてくれた? みたいな」
さすがに生気を奪ったなんて言える訳もなく、言葉を濁す。
うん、嘘ではないし。
幼女は応えるように黒い枝で挙手をする。
立ち聞きしているらしいギャラリーがぎょっとして驚いたのが分かったけど、ノエリーさんが黒い枝と握手してくれたお陰で若干警戒が和らいだみたいだった。この黒い枝もその内浸透していくのかなと想像したらさすが異世界だなと思った。
「んで、嬢ちゃんたちはこれからどうするつもりだ? この辺りの危獣も狩りつくしちまっただろ」
「何か危ない人みたいになってるけど否定できない。まあ旅を続けようかと」
「そうなんですね……寂しくなりますね」
「私もちょっとこのまま滞在したい気持ちはあるけど、一応旅の目的があるので……というか、説明終わったからもういいです? そもそも用事があってここに来たんですよ」
「おう。時間取らせちまって悪かったな」
さっきの説明で納得はしてくれたらしく、ロベスさんからの追及は特にないみたいだった。
同じエコイフの職員なら知っているだろうとノエリーさんに銀行機能のことを聞くと、対応してくれるとのこと。ありがたい。
「ではこちらへ」
ノエリーさんに案内されて奥へ進む。
そこには台座のようなものがいくつか並んでいた。その近くに立っていた人たちはこちらに気づくと視線を寄こしながらもそそくさと離れていった。皆カードのようなものを手にしていて、多分テア様から貰った身分証と同じようなものなんだろうなと思った。
それにしても向こうのエコイフではいかにも冒険者というような武装した厳つい男たちがほとんどだったからか、ここにいる人たちの一般市民感に新鮮味を覚える。老若男女、市役所ってこういうところだよね。
「ヒオリ様、こちらへ札を置いてみてください」
「はい」
言われるがまま台座へ身分証カードを置くと、薄らと発光し出した。台座の上の方に何か文字が現れる。
何度も査定書で見たから覚えがある。多分、数字だ。
「ブッ」
後ろから覗き込んできたロベスさんが台座を見て吹き出した。何してんの。
「おま、いや、領主様の依頼を受けたって聞いてはいたが……」
「ロベスさん」
「いや、見てみろよ」
窘めるようにロベスさんを呼ぶノエリーさんだったけど、台座を指差すと私の顔と交互に見ながらも恐る恐るといった感じでそっちを見た。
「わぁ……」




