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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第二部 新興
105/240

48.結果報告


「そういえば、治癒術が使えるのはイレーニカさんだけって言ってましたけど、エメリクが使ったのは違うんですか? テア様が死なないように何か術を使っていたみたいなんですけど」


「霊力を使って傷の修復をする、その手順や方法は一緒だと言えます。ただエメリク様が使った方法は一般的には治癒術と呼ばれないのです」


「へぇ?」


「そうですね。例えば、ここからとある目的地へ向かうとします。真っ直ぐ平坦な道で目的地まで最短で辿り着くのが治癒術。急な曲がり角や坂、障害物に阻まれ多くの回り道をしながらどうにか辿り着くのがエメリク様が使用した術です。もちろん前者はそれほど体力も使用しませんし、逆に後者は体力どころか自分の身も危ない場合があります」


「なるほど、分かりやすい」


「自分の霊力を他者へ注ぐ時に問題となるのが相性で、相性が悪いと目的地までの障害物や坂などが多くなります。ずっと一緒に育った環境だったり肉親だった場合は相性が良くなることが多いです。その相性を関係なく……いえ、どの霊力とも相性の良い、と言ったほうがいいでしょうか。それが治癒術と呼ばれているのです」


「テア様とエメリクの相性が良かったから成功したってことか」


「はい、恐らくは」


 小さい頃から一緒に育ったって言ってたしね。


「精霊石っていうのは普通に使うとまずいんですか?」


「かつては霊力の源として普通に使用していたそうですが、今の人間にとってはその力が大きすぎて身体への影響が大きいのです。反動として肉体への負荷が掛かってしまいます。そのため小さく砕いたり粒子化し、専用の容器を通して霊力の供給を行うのです」


「直接使っちゃったからその反動も大きかったってことか」


「はい」


 ん? じゃあ高濃度の精霊石とか言っていたあの白い石を取り込んだ幼女は?


 ふと気になって幼女を見たけど、何ともなさそうだった。

 まああれだけの力を出せるんだから、ちょっとやそっとのエネルギーの塊くらいじゃどうにもならないか。むしろいい餌になったくらいかな。相変わらずとんでもないな。


「でも大変ですね。そんな貴重な治癒術の使い手だったら色んなところから声がかかるんじゃないですか?」


「そうですね……報酬はいいと思います。ほとんどの国で国の特殊能力者として認定・保護され、手厚い待遇を受けながら各地へ配属されますが、もちろん過酷な場所もありますし、待遇を返還する人やあえて国へ報告しない人もいると聞きます」


「色んな意味で大変ですね。イレーニカさんはここに派遣されたんですか?」


「はい。私は孤児でしたが治癒術の才を認められ国で保護されました。赴任したばかりの頃は慣れなくて大変なこともありましたが、領主様がメイエン家でよかったです」


 確かにあんなおっさんたちが領地を運営するなんて考えたら頭痛くなるよね。自分たちが楽をするために現領主を暗殺しようとしたり横領したり、とてもじゃないけど支持できない。テア様が領主でよかったよね。


「前領主様もいい人だったんだ」


「はい……不運な事故でした」


 あ、やべっ。聞かないようにしてたのに地雷踏んでしまった。領主交代については悲しい出来事しか想像できなかったから避けてたけど、やっぱり悲しい出来事だった。


「ですが現領主様も前領主様を引き継いで十二分に頑張っていらっしゃいますから」


「尊敬してるんですね」


「はい。孤児だった私の能力を見出してくださったのが前領主様ですから。そのお方の娘様のことですから、信頼しております」


 へぇ、なるほど。前領主であるテア様の父親に救われたから信用してるのね。シベラとも仲がいいのもその辺りかな。



 イレーニカさんと話している内に目的地に着いた。

 少し街外れにある簡素な建物。入り口には衛兵さんが二人立っている。暗殺未遂があった領主を匿うには厳重とは言えない守りだけど、あんまりしっかりしすぎると目立つから仕方ないのかな。


 軽く衛兵さんに会釈をして中に入ると、廊下を挟んですぐに大きな空間が広がっていた。ベッドがたくさんあり、怪我人が寝ているようだった。診療所みたいなものだろうか。

 その広間みたいな部屋には入らず、廊下の奥に進む。また衛兵さんが立っている突き当たりの部屋をイレーニカさんがノックした。


 小さく返事があって、中に入る。


「お二人とも、お目覚めになられていたのですね!」


 小さく喜びの声を上げてイレーニカさんが駆け寄る。

 ベッドの上で身体を起こしているテア様とエメリクは包帯をしているものの重症な感じはしない。とにかく二人とも無事でよかった。


「イレーニカ、心配をかけましたね。手筈通り進めてくれて感謝します」


「いえ、当然のことです。それよりも領主様がご無事で安心致しました」


 テア様は若干疲れているように見えるものの病的なほどではなかった。その手に持っている紙の束が気になるけど。


「ヒオリ様。エメリクと共に町まで運んでくださったと聞いております。あと少し遅ければ無事では済まなかったことでしょう。本当にありがとうございます」


「いえ、運んでくれたのはこの子ですし……とにかく二人とも元気そうで何よりです」


 領主モードのテア様に畏まって礼を言われると何だかむず痒い。素の僕っ子モードと接した時間はそんなに変わらないはずなのに、やっぱり演技だからか違和感というか、若干脳がバグりそうになる。同一人物なんだよね?


「早速ですが鉱山の件、片付いたと思って良いでしょうか」


「あ、はい。報告しますね」


 これまでのことをかいつまんで話した。

 魔気や危獣がとめどなく現れていたこと、その原因は歪みというものでベルジュロー家が仕組んだこと。そしてその歪みを中和するために高濃度の精霊石を用意していたものの、ミレスが取り込んでしまったこと。それでおっさんたちが自白したこと。実は中和の術がこの辺一帯を消し去るものだったということ。

 歪みを消すために協力してくれたのが聖獣で、その聖獣はここで生まれ育ち最後までこの町を守ってくれたこと。


 話を聞いていた全員が難しい顔をしていた。


「聖獣様が存在していらしたなんて……しかもこの地のために……」


 視線を彷徨わせて声も震えているイレーニカさん。


「そうだ。その聖獣なんですが、依り代があればいつか戻ってくるかもしれないらしいです」


 リュックの中から毛玉を取り出す。


「本当の話のようですね」


「有り得ねぇことだらけだな」


 はぁ、と溜息を吐いて頭を手で覆う赤髪の騎士。どうやらこっちは外面を取り繕うことは止めたらしい。


「これ、テア様のところで手厚く保管できませんか?」


「正気か?」


 全員が驚いたようだったけど、素早く反応したのはエメリクだった。


「これだけでも相当な霊力だ。それに聖獣が宿るかもしれねぇとなったら欲する人間がどれだけいると思ってるんだ。教会のお偉い方も喉から手が出るほど欲しがるだろうぜ」


「お言葉ですが、ヒオリ様。お持ちになるだけでかなりの力になるどころか、研究対象としてもかなり価値のあるものでしょう」


 なぜかエメリクとイレーニカさんに責められている。

 さっきイレーニカさんは聖獣の献身に心打たれてなかった?


「聖獣がこの町のために力を使い果たしたんですよ? この町にあった方が──いた方が? いいでしょ」


 さすがに私利私欲のために毛玉を持っていたら可哀想だ。別に莫大なお金にも権力にも興味ないし。戦力で言えばミレスちゃんがいれば十分だしね。


「お前さん……」

「ヒオリ様……」


 エメリクとイレーニカさんがハモる。


「いい人すぎて心配になるわ」

「騙されないか心配です」


 そんなことないでしょ。


「だい、じょうぶ。ひぃ、まもる」


 ミレスちゃんありがとう、好き。けど違うのよ。


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