46.一件落着?
「ミレスちゃんは力の使い過ぎでどうにかなったりしない?」
帰りも黒い枝にお願いしつつ、幼女に気になったことを聞いてみた。
以前アルマジロみたいな皮の胴長の危獣の時、力を使って倒れたのは私だったけど、これからも力を使い過ぎれば同じようなことになるんだよね。私が倒れるだけで、ミレス自身に害はないのか。
「ひぃと、いっしょ、じゃ、ないと……うま、く、ちから、つかえ、ない」
「うん」
力のコントロールがうまくいかないから、私を通して制御してるって話だったよね。
「つか、う、ちから、が、おおきい、と……ひぃ、が、たいへん」
「うん。……え、それだけ? ミレスちゃんは疲れたりとかしないの?」
「ん。てき、たおして、ちから、を、もらう、から」
ああなるほど。危獣を倒した時に魔気も吸収してるのか。
強い力を使えば使うほど私への負荷がかかるけど、魔気の消費量としては危獣を倒した分で十分足りると。確かに結構な数の敵は倒したけど、その分攻撃もしているし、胴長とか異形の危獣みたいに一撃では倒せないやつもいた。タルマレア軍との戦いも含めて結構力を使っているはずなんだけど。
あれだけ強大な力を見せておいて大したエネルギーも使ってないとかどれだけよ。低燃費にも程があるわ。しかもまだ枷が四つも残っている状態でこの能力なんでしょ。
ここに来た時も十分に過酷だとは思ったけど、霊術が全盛期の時代に飛ばされなくてよかった。幼女と旅をするどころか私なんて危獣やら怪しんだ人間なんかに瞬殺されていたに違いない。
改めて幼女の凄さを感じつつ、黒い枝に身を任せること数分。往路よりも早く町に辿り着いた。
今度は特に急ぐこともないので、人目につかない適当なところで下ろしてもらい歩くことにした。
テア様たちはイレーニカさんに任せておけば大丈夫だろうし、あとは道端に置いてきたおっさんたちのことだけど。
「は~……」
テア様が目を覚ましてくれたら話は早いんだろうけど、今どうなっているか想像もつかない。
まだ伸びているか、意識を取り戻してしまっているか。
前者ならテア様お抱えの兵に捕まえてもらうしかないかな。後者なら、我が身大事な感じがしたし、中和の術が使えなくなったことで危獣の襲来に怯えて逃げ出してくれていたらありがたいんだけど。
また黒い枝に足止めしてもらってその間に騒音を聞く羽目になるのは避けたい。
「……ん?」
若干憂鬱な気持ちで来た道を戻っていると、おっさんたちに出くわした辺りに人だかりができていた。
もしかしてまだ伸びているのか。意識消失したままだとさすがに私たちも悪者だよね。ただでさえおっさんたちを伸してそそくさと立ち去った怪しい人物になっているんだし。
え、まさか死んでないよね?
「あ、ヒオリ様!」
近づきたくないなと思っていたところ、知り合いに見つかった。何だか声に聞き覚えがあると思ったらノエリーさんだった。
そういえばノエリーさんたちにもここを出る挨拶をする予定だったんだよね。その前にテア様と契約したからエコイフにもしばらく行ってなかった。
「ノエリーさん、これ何の騒ぎです?」
「それはこちらが聞きたいです……!」
「嬢ちゃん、説明してもらおうか?」
人だかりの間から鋭い眼差しが飛んでくる。こちらもお久しぶりのロベスさんだ。
集団の後ろの方でこっそりしていたのに、ロベスさんの声が大きかったせいで注目されてしまった。
一斉に視線が飛んでくる。そして海を割るモーセのように人々が左右に避け、一本の道ができた。これで出ていかない訳にも行かず、とにかく面倒なことにならないように願いながら歩く。
人だかりの中心には、おっさんたちと兵士たちがいた。正確には、明らかに一般市民であろう男女に縛り上げられていた。その中にはベルジュローのおっさんに啖呵を切った肝っ玉母さんもいた。
何とも凄い光景だ。
「ええい、離せ! 離さんか!」
「私たちを誰だと思っている!?」
「黙りな! あんたたちが危獣騒ぎの犯人なんだろ!」
「そうだ! もうあんたらなんか貴族でも何でもない!」
「領主様がお目覚めになったらお前たちなんかすぐに処罰してやる!」
縄で縛られたおっさんたちに臆することなく反論する人たち。下剋上だね。
「嬢ちゃん、他人事みたいに見てんじゃねぇよ」
ロベスさんも兵士たちが何かしないように見張っているようだった。
ノエリーさんが困ったような顔で口を開く。
「私たちも騒ぎを聞いて駆けつけたのですが、皆さんがすでにベルジュロー家や他の貴族の方を捕らえると興奮されていて……」
「あー、うーん、どこから話せばいいのやら」
正直テア様が目覚めるまでこのままでもいいのではと思う自分がいる。
テア様との契約についてもどこまで話して大丈夫なのか分からないし。正直面倒くさ、げふんげふん。
「そこのお前! さっき私たちに何をした! ただじゃ済まさんぞ!!」
やっべ、飛び火した。こっち見んな。
「我々を一体誰だと……!?」
おっさんたちが叫ぼうとして止まる。その表情は驚きと焦りが感じられた。
「全員そこを動くな!」
観衆を押し退けてやってきたのは、大勢の武装した兵士たちだった。テア様お抱えの衛兵さんたちとはちょっと違う服装。もちろんおっさんたちの兵士たちとも違う。動きもかなり統率が取れているように思えるし、本当の軍隊みたいだった。
「な、なぜ中央の奴らが……!」
「主犯ベルジュロー家とそれに加担した一族当主をメッズリカ領主暗殺未遂と反逆罪で逮捕する!」
「なっ!?」
「何かの間違いだ!」
「魔晶石の違法所持及び横領についても調べがついてる。申し開きは我が主の元で聞こう」
「っ!!」
一番前にいた男性の言葉に顔色が悪くなっていくおっさんたち。縄で物理的に動けないのもあるものの、勢いを失って大人しく軍隊のような人たちに連れていかれてしまった。
呆気なく事態が収束してしまって、ありがたいけど肩透かしを食ったというか。そんなに意気込んではないけど。
「ヒオリ様」
「あ、イレーニカさん」
おっさんたちと兵士たちが連れていかれたあと、人だかりは徐々に解散しつつあった。そんな中現れたのはこの辺で唯一だという治癒術の使い手のイレーニカさん。ここにいるってことは二人は大丈夫ってことかな。
「領主様はご無事です。しばらく休まれたのち、目を覚ますでしょう」
「それはよかったです。さっきの人たちもイレーニカさんが……?」
「いえ、先ほどの件に関しましては領主様の手引きです」
何でも、テア様が事前にベルジュロー家の悪事の証拠を掴んで国へ報告していたため、今回のおっさんたちの逮捕は予定通りだそうな。おっさんが中央の奴らと言っていたのは国の中枢で警備を担っている人たちで、シィスリー国直属の軍らしい。
何だか大事になっているな、とも思ったけど、領主の暗殺未遂やら横領やらその他色々含めて重罪だろうから仕方ないのかね。
何にしろ、テア様グッジョブ。
これで鉱山の問題は解決したし、元凶らしいおっさんたちも捕まったし、あとはテア様たちが目を覚ませば全部終わるね。
「……本当に、鉱山の問題を解決してしまわれたのですね」




