43.おーまいがー
「……ん」
とりあえず一時的にでも危獣をほぼ全部倒せたんだし、全滅させることもできるかもしれない。
でも元凶をどうにかしないと危獣が増え続けるかもしれないし、何なら片付けたはずの魔気も復活するかもしれない。
「でき、そう」
「え、何が?」
黒い枝をぶんぶん振り回していたのは飽きたからじゃなくて何か考えていたからなのか。こちらを見上げて無表情ながらに訴えてくる幼女。
「やま、いく」
「んっと、鉱山ってこと?」
「ん」
何だかよく分からないけど、鉱山の問題をどうにかできるらしい。何でよ。
「まあ、ミレスちゃんがそう言うなら信じるけど……」
白い石を取り込んだら中和の術的なものも使えるようになったとか? 凄すぎんか?
このおっさんたちに任せるよりは遥かに信頼できるけれども。
「お、おい! どこに行くつもりだ!」
あ、そうだ。ここを離れるならおっさんたちも野放しになるんだよね。黒い枝の足で即座にここを離れるならどうにかなるかな。
「う、あ、あ……」
幼女にお願いしようと思っていたところ、急におっさんたちや兵たちが苦しみ出した。
そして痙攣したかと思えば、ぐったりと意識を失ってしまった。
黒い枝が捕らえていた全員の身体を解放するものの、地面にドサッと落ちてから誰一人としてぴくりとも動く様子はない。
少しだけ焦って脈を確認したら、ちょっと弱い気がするものの普通に触れた。死んではないみたいでほっとした。
「……ミレスちゃん? 何したの?」
「すっ、た」
「吸った? 何を?」
「ちから……?」
何で疑問形なのよ。
それにしても力って、霊力的な? 生命ドレインってこと? エグいな。さすが闇属性最強。
でもまあ死なない程度に調節できるならこういう時かなり役立つね。
「では鉱山に行ってきますので!」
じゃ! と片手を上げ、さらにざわつく周囲から逃れるように逆方向へ走る。さすがに遠目で見たらこっちが悪役だよね。
◇
人目につかないところからは幼女の黒い枝にお願いして私が耐えられる程度の爆速で走ってもらった。数回で慣れるとは思えないけど、幼女がパワーアップした恩恵を受けているのか、今まで以上の速さで移動しても耐えられた。ありがたや。
下山したときよりもかなり早く結界まで到達した。それまでの道のりでは危獣どころか害獣にすら出会わなかったけど、いったい鉱山付近はどうなっているのやら。
結界の外にも生きている危獣はいないようで少し安心した。見える範囲、結界の中も動く影は見えない。
「あれ?」
『あら~? ヒオリじゃない~。戻ってきたのね~』
何だか光の玉がふよふよしていると思ったら、やっぱり精霊だった。教えてもいないのに名前を知っていることにはもう突っ込まない。
まだまだ聞きたいことはあるんだけど、それよりも先にやることがある。ここで精霊に出会ったのは幸運だった。
「魔気や危獣を増やす術みたいなのが発動してるみたいなんだけど、何か知らない?」
『あ~、歪みのことね~』
「歪み?」
『空間の歪みよ~。簡単に言うと穴が開いててェ、そこから魔気も魔獣も出てくるのよ~』
何と。それならどんどん危獣が増殖したように思えたのも納得がいく。
ベルジュローのおっさんたちが何でそんなことをしたのか謎だけど。
というか、各地で起こっているとかいう危獣騒ぎの原因はそれ?
「その歪みってどうにかできるの? おっさんたちが中和の術とか言ってたんだけど」
精霊にさっきのおっさんたちとのやり取りを説明した。おっさんたちがその歪みを発生させたかもしれないこと、その解決策に必要らしい白い石をミレスが取り込んでしまったこと。
話を聞き終えた精霊は、なぜか小さく笑った。
「どこに笑う要素が」
『だぁってェ、その“中和の術”ってェ、町も含めてここ一帯を綺麗さっぱり消滅させるものだもの~』
「わっつ?」
中和じゃなくて破壊じゃん。浄化ってこと?
『その白い石っていうのは高濃度の精霊石でェ、術っていうのは歪みに霊力をぶつけて相殺するものなんだけど~』
「え、つまり」
『相反する強力な力のぶつかり合いで爆発するってワケ!』
「ええ……」
『成功すれば歪みは消えるからァ、中和と呼べなくもないわね~』
ちなみに霊力が足りなかったり術が不完全だったりすれば歪みを大きくする可能性があるらしい。
いや、よかった。そんなことにならなくて本当によかった。そう考えるとミレスちゃんグッジョブ。
それにしてもあのブロンドオールバックのおっさんはその辺の情報をどうやってゲットしたんだろうか。まさかメイエン家の鉱山だからってヒスタルフ諸共消し去ろうとか考えてた訳じゃないだろうし。
「この子がどうにかできるらしいんだけど、穏便な方向でどうにかできるものなの?」
『まぁ魔力が使えるならァ、歪みを閉じられなくもないけど~。そのコが持ってる霊力じゃ歪みを完全に消すことは無理かも~』
「魔力と霊力それぞれが必要なの? 高濃度の精霊石を取り込んでも足りないのか……」
『だからあのコに協力してもらうといいわ~。してくれるかは分かんないけど~』
あの子とは。思いつくのはもふもふくらいなんだけど。
『そうよォ、聖獣のあのコよ~』
記憶だけじゃなくて考えてることも分かるの? やばくない? というか霊獣じゃなくて聖獣で合ってたんだ。
『あのコずっとここに住んでたからァ、ここを守りたいのか今必死に魔獣と戦ってるのよ~。歪みを消さないと意味ないのにね~』
「それを先に言ってくれるとありがたいかなー!」
とりあえず結界の中まで歩いていたけど、精霊の言葉を聞いて思わず走った。
「ていうかあなたは手伝ってあげないの?」
結局幼女の黒い枝にお世話になりながら聖獣の元へ急ぐ。
精霊が言うには歪みの近くで出現した危獣を片っ端から倒しているらしい。私たちが鉱山の入り口に強制テレポートされたときもずっとそうしてたと。
やっぱり聖獣がいたから危獣たちが逆方向に逃げていたんだ。いただけでなく猛威を振るっていたみたいだけど。
『アタシは別にここには思い入れないしィ、意味のないことしてもね~』
意外とドライな性格だな。
情報提供はありがたいけど、自由人というか気まぐれっぽさもあるし、何というか危機感のようなものがない。いや、そりゃあこの精霊には別に危機はないんだろうけど。聖獣とは仲がいい訳じゃないのかな。
『まぁアタシも暇だったから一緒にいただけだしね~』
「そんなに情はないってこと?」
『う~ん、そりゃあ歪みをどうにかできるなら手伝ってあげるけどォ、ひたすら魔獣を相手するだけなんてェ、ただ疲れるだけだし~』
その線引きは何なんだ。無駄な労力を嫌うのも分からないでもないけど。
まあお節介というか優しい部分もあるし私がどうこう言えることでもないか。情報提供だけで随分助かってるしね。それに何だかんだ言ってついて来てくれてるし。




