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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
10/240

10.賭け事は嫌いなんですが


 洗身と衣類の洗濯を終えたところで、最低限の衣類を身につけて、あとは木の枝に干した。日差しがいい感じに当たるお陰で、しばらくすれば乾きそうだ。

 ミレスが魔法を使える可能性にかけて衣類を乾かせるか聞いてみたものの、あえなく撃沈。色々と探ってみたけどどうやらあの呪術のような攻撃しかできないらしい。

 まあ、仕方ない。そう簡単には行かないでしょうよ。それに攻撃極振り幼女もいいじゃない。


 そんな一幕がありつつ、食料確保に向けて再び森に足を踏み入れた。今回は目印もある程度あるし、ミレスもいるし迷うことはないと思う。

 それにあの森の中に比べたら食料もありそうな気がしてくる。あそこは花とか虫とか生を感じられなかったからね。


「お」


 変わらず道とは呼べない草木の間を進んでいると、いくつか実をつけた植物を見つけた。近くにはさくらんぼ大ほどのピンクと黄緑の実、少し離れたところにトマト大ほどの黄色の実が生っている。感覚的に黄緑は熟す前でピンクの方を選びそうになるけど、ここは異世界。元の常識が通じない場合も大いにある。

 というのも、このピンクがまあ、どぎつい。黄緑はその辺の草と同じような自然な色なのに、横にあるピンクは塗料でも塗ってるのかってくらいに蛍光色で、食欲が減退しそうなのも容易に手を伸ばせない一因だった。


 でも、食べないと生きていけないしな。餓死は嫌だ。


 とりあえず毒とかありませんように。祈りながらピンクと黄緑の両方の実を摘んでいく。

 どうせなら洗ってから食したい。

 






「これで鑑定スキルとかあればなあ」


 カラフルな果実を目の前に独り言つ。

 そんな便利スキルが備わっていないことは実験済みだ。


 それにしてもよくある小説や漫画の世界は狡くないですか。鑑定なんて護身に最適だし、出てくる食料、米とかパンとか肉とか果物とかその他諸々、地球上にあるものじゃん。全く同じではなくても名前が似ているとか想像できそうな範囲じゃん。


 それに比べて、これ。蛍光ピンクと黄緑の三つ子さくらんぼに黄色の四角いトマト、白い小ぶりのキュウリ、果ては紫ベースに水色の斑模様の不気味なアボカドに、赤黒い……これは、何だろうね? 私にはもはやイソギンチャクにしか見えないんだけど。全然食べ物には見えないんだけど。ミレスが裾クイして指差すものだから、無視はできなかった。葛藤と譲歩して一つだけ持ち帰ることにしたんだけど。


「全部外れかもしれないロシアンルーレットか?」


 簡単に衣食住の問題が解決する異世界話が羨ましい。食だけでもいいから難易度イージーにしてくれ。

 ミレスに毒見させるわけにもいかないし。そもそも人間の味覚と同じなのかも分からないし、毒も平気かもしれない。どの道自分で試すしかない。


 毒に当たるか、餓死するか。後者は確実だとして前者は可能性。だったらその可能性に賭けるしかない。


 いつまで悩んでいても状況は変わらないし空腹は酷くなっていく。


「ほら、流水に浸かって日差しを浴びて、いかにも夏野菜な感じに見えておいしそ……おいしそう、だよね、うん」


 誰と話しているわけではないものの、こうでもしないとやってられない。


 覚悟を決め、比較的マシそうな白い小ぶりのキュウリのような何かを手に取った。

 半分に割ってみる。多少弾力がありつつもキュウリのようにぱきっと折れはしなかった。中身は外側と同じく白で、少し瑞々しい。臭いは特にしない。

 今のところ害はなさそうだと見て、恐る恐る口に入れた。


「ん、これは、割と」


 食感はキュウリより柔らかく、トマトよりは固いくらい。少し煮た大根のような。ほんのり青臭い程度でこれといった味はしない。不味いだろうと予防線を張っていたためか、意外と衝撃的な味ではなくてほっとした。

 でもまあ、好き好んで食べたい味でもない。


 最初の壁を越えてしまえば後の敷居は低くなる。調子に乗って黄色い実に齧りついた。


「まっっっっず!」


 思わず口の中の物を吐き出した。嗚咽しそうになる。

 やばい、口の中が痺れる。


「うぇっ。喉がイガイガする」


 実自体は飲み込まなかったものの、成分は唾液とともに食道を流れたらしい。水で口を漱いでもなかなか改善しなかった。


 正直、他の実を試食する気力がない。でも、可能性があるなら賭けたい。


「カレー食べたいハンバーグ食べたいラーメン食べたい」


 呪詛のように呟いたところで望みが叶うわけでもないんだけど。言うだけならタダ。むしろそのくらい言わせて。

 これからずっと無味無臭の白いキュウリを食べ続けるなんて嫌。

 

「これは果物これは果物これは果物、これは、果物……!!」


 蛍光色ピンクが黄緑に挟まれ癒合した、一見さくらんぼのようなものを口に放り込む。


「んっ」


 咀嚼する。


「んん……!」


 嚥下、した。


「んっ、ピンクはめっちゃ辛いけど黄緑が激甘でちょうどいい!」


 見た目は二色団子みたいだけど普通に果物系の味。ピンクの部分はスパイス系のピリッとした辛さで、鼻に抜ける感じはクミンとか完全にカレーっぽい感じなのに、黄緑の甘い部分と合う。

 これは小さい頃に食べた駄菓子に似ている。三つの内一つが酸っぱいガム。一緒に食べると酸っぱさが中和されてちょうどいいというか。今の若い子には伝わらないだろうけど。


 ここは異世界。持っている常識は通用しない。残りの到底食べ物とは思えない色をしているやつだって、おいしいかもしれない。


 結果から言うと、残り二種類は食べ物だった。


 紫と水色のアボカドらしきものは、食感はバナナのようにねっとりとしつつも柑橘系の爽やかな味で、最後はしゅわっと口の中で溶けるように消えるため脳がバグりそうだった。さっきまでのねっとり感は何だったんだっていう。


 そして、見た目はイソギンチャクにしか見えないそれは──。


「めっ……っちゃくちゃうまい!」


 ──それはもう、美味だった。



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