景に思い③
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その日から稔とのたわいのないラインが続いた。
連絡を切らさないようにいろんな話題を稔に振った。
こんなに誰かに自分から連絡をしたことは初めてだ。
柄にもなく章にラインを途切れることの内容に続けるコツを聞いたりもした。
章はあきれていたが今の俺には稔とのつながりはペアという制度とこれしかないのだ。
ある日突然稔から学内HPを見たとラインが入った。
『先輩。大学のHPの記事みました。』
稔からの連絡は珍しく急いで返信をする。
『そういえば今日アップするって連絡がきていたな。見たのか?』
『友達が教えてくれたんです。』
どうだったろうか?普段は他人の評価なんてどうでもいいが稔の感想は気になる。
『どうだった?』
『先輩はカッコいいですね。腹筋うらやましいです』
俺の質問に対して斜め上の返信が帰ってきた。
苦笑しながら返事を送信する。
『どこみているんだよ』
『僕いくら筋トレしても筋肉つかないんです。どうしたらそんなになるんですか?』
『普通に部活しているだけだけどな』
『ずるいです』
確かに稔はどちらかというとまだ少年らしさを残しておりプニプニしている。
稔のすねたような返信にニヤニヤしてしまう。
ふと今は講義の時間なんじゃと思い問いかけてみる。
『今何してるんだ?』
『授業中です』
悪びれた様子もなく授業中であることを告げてくる。
ここは先輩らしく一応注意をしておくか。
『授業に集中しろ。今夜予定あるか?』
一応注意はするものの俺も連絡をやめる気はない。こんな機会を逃してたまるものか。
『特に何もないです』
俺の臨んだ答えが返ってくる。
『なら飯にいかないか?』
意を決して食事に誘う。初めての2人での食事への誘いだ。どんな反応が返ってくるだろうか?
『わかりました』
以外にも返信はあっさりしたものであった。
後で改めて連絡する旨を伝えて一旦連絡を終える。
さて、どこのお店がいいだろうか?
稔に内を食べたいか聞いておけばよかった。
講義をしっかり受けろといった手前すぐに連絡するのは憚られる。
章にいい店がないか聞いてみる。
「今日、稔と食事に行くことになったんだがいい店知ってるか?」
「店?なんでもいいのか?」
「ああ。できれば稔の家の近くのほうがいいな。」
「だったらここはどうだ?」
章は携帯でお店のHPを開きながら告げてくる。
「最近できたところなんだけど、テートに使うにはちょうど雰囲気よかったぞ。」
「お前まだひとりに決めずにとっかえひっかえしてるのか?」
「そんなこというなよ。来るもの拒まずなだけだよ。」
「そのうち一人に決めたときに後悔するようなことにならないといいいな。」
「俺にはそんな人現れない気がするけどな。」
俺は親友に勧められたお店に連絡を入れ予約を取る。
幸いにして直前の予約であったがキャンセルが出たとのことで席を取ることができた。
後は待ち合わせの時間と場所の連絡を入れればいい。
連絡を入れようとしたときにふと思いついた。
迎えに行けばいい。
稔を驚かしてやろう。
稔はどうか顔するだろうか?
いたずらを思いつきクスっと一人わらいながら携帯をしまった。
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商学部1年生の5限は必修授業だったはず。
入口の教室一覧を確認し、稔がいるであろう教室に向かった。
まだ講義は続いており入口の扉そばの壁にもたれかかり携帯を取り出した。
しばらく待つと
「景先輩!!」
と大きな声で稔が呼びかけてくる。
「稔」
と声をかけ稔にゆっくりと近づく。
「先輩どうしたんですか?」
と戸惑った様子で質問してくる。俺はいたずらが成功したかのように
「連絡しようと思ったんだが、迎えに来たほうが早い気がして迎えに来た。もう帰れるか?」
と声をかけた。
稔から帰れる旨の了承を得たため声をかけて先に歩き出す。
稔は章のペアの大澤や友人に大きな声で声をかかえて駆け寄ってくる。
俺は稔が後ろからついてくるのを確認し歩を進めた。
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章の紹介してくれたお店は本当に雰囲気の良いお店だった。
デートにはピッタリ。少し薄暗く確かにそんな感じだ。
「先輩お酒飲んでくださいね。僕はジュース飲むんで。」
稔から申し出があった。気を使っているのだろうか?
「ありがとう。でも、今日は遠慮しておく。」
「何でですか?」
「稔を送っていくのに酔っていたらだめだろう?」
少しは稔に意識してもらいたくアプローチをかける。
稔は顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
稔の提案により1杯だけ飲むことにした。ドリンクの注文とともに食事も頼んでしまう。
食事中に稔は思い出したようにクスっと笑っていたがなんだったのだろうか?
何にしても楽しんでくれていたらいい。
明日も授業があるため早めのお開きと、稔をマンションまで送っていく。
道中で稔が突如話し出した内容にぎょっとした。
「友達に殺されないように気をつけろって言われました。
今日、大学のHPで先輩の紹介があったじゃないですか?」
「ああ。」
「その時にペアの生徒が羨ましいって書かれていたんです。」
「そうなのか?」
俺は取材を受けることの了承はしたが内容の確認はしていなかった。実際にHPも見ていない。
「先輩すごく人気だし、ペアが男だってわかっても嫉妬で殺されるんじゃないかって。」
稔は冗談めかしに話を続ける。
「それはないだろう?」
「そこまではないと思いますけど、質問攻めにあったりはしそうじゃないですか。だから、バレないように頑張ろうと決意したところだったのに。」
「俺が迎えに来てバレたと。」
いたずらは成功したが稔の身を危険にさらしてしまったらしい。
「そうです。なので、友達に気をつけろって。」
「悪かったな。」
「謝らないでください。迎えにきてくれたことは嬉しかったですし。」
嬉しいといわれ心が跳ねる。
「何か言われたら俺に言え。」
「え?」
「何かあったら俺に言え。お前は俺のペアだし何とかしてやるよ。一人になるときは連絡くれれば一緒にいるぞ。」
ペアを理由に一緒にいる口実を作る。実際に稔は可愛いため襲われたりしないか心配だ。
「友達もいるし大丈夫ですよ。」
「それでもだ。」
約束を取り付けてゆっくり帰路をすすんでいく。