告白
ガチャ。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
玄関を開け、景先輩を迎え入れる。
久しぶりに会う景先輩。久しぶりの先輩の香水の匂い。
なかなか顔を見ることができない。
僕は引きずる足でそのまま中に案内し、ソファーに座るように促す。
「先輩。そこに座ってください。」
「ああ。」
先輩がソファーに座るのを見届けて、僕はちょっと離れた食卓の席に座る。
その距離に先輩がこちらにこようと一瞬前のめりになろうとするがそのまま諦めて腰を下ろした。
「お久しぶりです。今日はどうしたんですか?」
「大澤から稔がケガをして休んでいると聞いたんだ。」
「そうだったんですね。軽い捻挫なんで2週間もすればよくなります。」
「それでも心配だったんだ。ゆっくり話もしたかったし。
最終手段だったんだ。家に押し掛けるのはダメだとはわかってたんだが。」
「そうですね。」
「足は痛くないのか?」
「動きすぎなければ大丈夫です。家にいる分には問題ないです。」
「買い出しとかどうしてるんだ?」
「兄や大地がやってくれる予定になってます。」
「大澤はよく来るのか?」
「昨日も来てくれました。すごく助かってます。大学に入って大地に出会えたことが幸せだなって感じてます。」
大地とは一生の友達で入れる気がしている。
これからも大切にしたい存在だ。大地の顔を思い浮かべると自然と笑顔になる。
すると先輩が不機嫌そうな様子でソファーから立ち上がり僕の前に立つ。
先輩が前かがみになったかと思ったら僕の肩と膝裏に手を入れ抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「先輩!なにするんですか?」
「おとなしくしてろ。」
そういうと景先輩は僕を抱き上げたままソファーに座る。
必然と僕は先輩の膝の上に座るような形になる。
慌てて膝の上から降りようとするが、先輩に抱きしめられる。
「心配したんだ。全然会えないし、連絡をしても会話にならない。その上、ケガしたと人づてに聞かされたんだ。」
「単なる捻挫です。そんなに心配しなくても。」
先輩のぬくもり、匂いを近くに感じて動機がとまらない。
「大澤はよくてなんで俺はだめなんだ?」
「なんでそこで大地が出てくるんですか?」
僕は意味が分からない。わかるのは先輩が落ち込んでいるということだけ。
「大澤にはケガしたことを伝えて色々用事も頼んでいるんだろ?」
「それは講義を休むし心配すると思って。」
「俺も心配した。それに、大澤は簡単に部屋にいれるんだろ?俺は違うみたいだし。」
「それは先輩がいきなり来るからでしょ?」
久しぶりの景先輩との会話にドキドキしているはずなのに何だか安心する。
僕は逃げることを諦めて景先輩にもたれかかる。
先輩は僕がもたれかかろうがびくともしない。
僕が体重を預けると先輩も僕が逃げないとわかったのか抱きしめていた手が緩む。
「こうして話の久しぶりだな。」
「そうですね。」
「映画の日以来、稔が俺のことを避けているのはわかっていたんだ。」
「ごめんなさい。」
「こないだは悪かった。仕事でトラブルがあってどうしても会社行かないといけなかったんだ。」
「お仕事ですし仕方がないですよ。」
「じゃあなんで俺を避けてるんだ?理由を教えてほしい。」
この間のドタキャンについて怒っているんじゃないとわかったら先輩は他に思いつかないと聞いてくる。
僕は先輩の身体を押し、膝の上から降り先輩のに腰かける。
「先輩のせいじゃないです。僕のせいで・・・。僕が気持ちの切り替えができなかったから。」
「気持ちを切り替えなきゃいけないことがあったのか?」
「僕、失恋したんです。」
「好きな人がいたのか?」
「好きだなって気づいたときには失恋してたんです。」
僕はボソボソと話始める。
「俺の知ってる人か?」
「そうですね。」
先輩は僕の顔を覗き込みながら話しかけてくる。
「俺ならそんな悲しい顔させないよ?」
「えっ?」
先輩の手が僕の顔に伸び頬をなでている。
「何言ってるんですか、先輩には光輝先輩がいるじゃないですか?
あんなに仲が良くって。大学でも先輩達がよりを戻したって有名ですよ。」
「稔はその話を信じるの?俺から直接聞いたわけじゃないよな?」
「でも。有名な話だし。去年までのカップルだって噂を否定しなかったていうし。」
先輩は黙り込んでしまった。
「もしかして稔が失恋したのってその話関係ある?」
「・・・。」
「稔こっち見て?」
僕は真っ赤になりながら先輩の方をみる。
先輩は今まで見たことがないような甘い顔をしていた。
先輩のその顔にさらに僕の顔は赤くなる。
「稔教えて?」
「先輩は意地悪ですね。」
「稔の気持ち教えて?」
いつの間にかまた先輩の膝の上に座らされている。今度は腰に手をまわされ絶対に逃げられないように。
「僕は先輩が好きです。」
「もう一回。」
「先輩が好きです。」
言葉にすると恥ずかしくなりとこかに消えてしまいたくて先輩の肩に顔を伏せた。
「稔顔を見せて?」
「嫌です。僕今みっともない顔してるから。」
「大丈夫。顔を見せて。」
先輩の声に顔上げる。至近距離で先輩と目が合う。
その顔にまた赤面してしまう。
「やっと見てくれた。」
「やっぱり先輩は意地悪です。」
この甘い雰囲気に一気に逃げたくなる。逃げようと腰を引くが先輩の手がそれを阻む。
ゆっくりと先輩の顔が近づき唇が触れ合う。
僕は何が起こったかわからずに目を見開く。
「これが俺の気持ち。」
僕は言われている意味がわからない。
「わかりません。」
「俺は何年も前から稔に片思いをしていた。」
「えっ?僕と先輩は大学で初めて会いましたよね?」
「違うんだよ。もっと前に出会っているんだよ。」
「えっ?」
「稔は覚えてなくても大丈夫だよ。俺が覚えてるから。その時から俺は稔一筋だよ。」
「光輝先輩は?」
「あの人とはなんでもないよ。それにあの人には恋人が別にいるから。
在学中にカップルだってのを否定しなかった理由はあの人の恋人が周囲からの注目をあびるのを極端に嫌っていたからだ。隠れ蓑にするには俺は都合のいい後輩だったんだよ。」
景先輩は会えてなのか光輝先輩をあの人と突き放す呼び方をする。
「でも、景先輩を迎えにきたり・・・。一緒に映画に行く予定だった日も一緒にいましたよね?」
「どうして知ってるの?」
「電話の後ろで光輝先輩が話している話声が聞こえたんです。」
「あの時は光輝先輩の会社に事業の協力を依頼してたからたまたま一緒にいたんだよ。トラブルがあったから一緒にいた方が都合がよかったし。」
「でも、その前も光輝先輩からたくさん連絡きてたし。」
「あれは、先輩の恋人の仕事が忙しくて相手にしてもらえないっていう愚痴をさんざんきかされてたんだよ。」
「でも・・・。」
「でもが多いなw。そんなに両想いだって認めたくないのか?」
「違います!!でも、信じられなくて・・・。」
「またでもって言ったw」
先輩はクスっと笑いながらもう一度軽いキスをする。
「先輩!!」
「もう両想いなんだ遠慮はいらないだろ?」
「僕は初心者なんです!ちゃんと段階踏んでください!」
「わかったよ。でも、最高だな。まさかこんな日が来るとは思わなかった。」
「僕は悩んでいた時間がバカみたいです。」
僕はため息をつく。
「大澤に感謝しなきゃな。」
「大地にですか?」
「稔がケガをしているのを教えてくれた。一生懸命に稔を守ろうとしてくれた。
ケガだけじゃなくて稔がどんどん疲れて痩せていくのを見ていられないっていって俺をここに送りだしてくれた。」
「そうだったんですね。大地は大切な親友です。」
「そうだったな。」
裏で大地が先輩と戦ってくれていたなんて。
僕を心配して先輩を送り込んでくれていたなんて知らなかった。
今度大地にあったらたくさんありがとうの思いを伝えよう。
そして落ち着いたら相談させてほしいと伝えていた方今回のことを伝えよう。
「先輩。いつまで僕はここに座ってたらいいんですか?」
どさくさに紛れて忘れていた。僕は先輩の膝の上にいた。
「もうちょっとこのままで。」
腰に抱き着かれてもたれかけられたら僕は何も言えなくなってしまった。
でも僕ももうちょっとくっ付いていた。
もっと幸せをかみしめていたいと思った。