映画
映画に行く約束をした日から景先輩と会えない日々が続いていた。
景先輩が3年生のため卒業後の準備にも色々と忙しいらしい。
卒業したら実家の会社を継ぐべき本格的に事業参加をするため、以下のうちから勉強や簡単な仕事を覚える必要があるようだ。
今の1つの事業を任されているらしくプライベートな時間がなかなか取れないらしい。
結城にきいたら部活にも顔をだしていないみたいだ。
僕にはわからない世界の話であり実家が事業をしていると大変なんだなーくらいにしか思ってなかった。
*****
今日は映画に行く約束をしていた当日。
景先輩とは映画館で待ち合わせをしていた。
食事を一緒にすることはよくあったが外に一緒に出掛けることは初めてだ。
前日の夜から何を着ていこうかと一生懸命洋服を選んだ。
先輩の横にいても恥ずかしくないように。
今日も楽しみすぎて待ち合わせの時間よりも1時間も早く映画館の入っているショッピングセンターについてしまった。
「待ち合わせの時間まで1時間もあるしどこかカフェでも入ってお茶してようかな?」
待ち合わせの時間がくるのにソワソワしてしまう。
普段は飲まないようなコーヒーを頼みカフェの席に座った。
待ち合わせは映画の時間より早めに設定していた。
わくわくした気持ちのまま景先輩をまっていた。
その時携帯が震えた。
携帯を覗くと景先輩からだった。
「はい。先輩どうしました?」
『稔か?悪い・・・。今日いけなくなった。』
「えっ」
『どうしても外せない事情ができてしまった。』
僕は言葉がでなかった。
『この埋め合わせが必ずする!本当にごめん!』
足元がガラガラと崩れていくような感じがした。
昨日まではラインで明日は楽しみだ。何が何でも行く。といったラインが来ていたのに。
『映画は見られるように映画館のスタッフに連絡済みだ。名前を言ったら入れてくれる。
こんな時間で難しいかもしれないが2人分予約しているから誰か友達でも呼んで一緒に見てくれ。悪いな。また連絡する。』
僕の言葉をまたず慌てた様子で電話が切れた。
電話が切れるまじかに後ろで光輝先輩の「何してるんだ?」といった声が聞こえた気がする。
「先輩来られないんだ。」
僕はなんだか泣きたくなった。
追い打ちをかけるように電話の後ろで聞こえた声にショックを受けた。
「光輝先輩と一緒にいるんだ。」
僕とは一緒にでかけられないけど光輝先輩とは一緒いる。
事情がなんだかわからないが2人が一緒にいるといったことにショックを受けている。
映画を見る気分じゃなくなったが、映画は予約してくれているらしい。
このまま一人で帰ったら泣いてしまう気がする。
僕は大地に電話をかける。
『もしもし?どうした?』
「大地って今日何か予定ある?」
声が震える。
『ないよ?何かあった?』
電話先から大地が心配したような声を出す。
「今からショッピングセンターに来れる?1時間後の映画のチケットがあるんだけど、一緒に見ない?」
『今どこにいる?すぐ行くからそこにいて!』
「ショッピングセンターのカフェにいる。」
『そこ寮から近いから30分くらいで着くから。』
「ありがとう。待ってるね。」
急な誘いであったが大地はすぐに来てくれると言う。
今はひとりになりたくないからありがたい。
注文したドリンクに手も付けないままカフェの席で大地を待った。
*****
30分後、本当に大地は来てくれた。
「稔。お待たせ。」
「大地来てくれてありがとう。映画館行こ?」
「わかった。」
「本当に来てくれてありがとね。」
僕は大地の手をとり、僕はうつむきながら映画館に引っ張っていく。
大地は何も言わずに付いてきてくれる。
*****
映画館につき受付のスタッフに声をかける
「すいません。
広瀬景という人から連絡があったかも思うんですが、成美稔といいます。
「ご連絡はいただいています。こちらが2人名分のチケットになります。
ドリンク付きのチケットとなるためこちらドリンクの引換券になります。売店に提示していただけたらお好きなドリンクをお渡しさせていただきます。
入場開始しておりますので、入口でこちらのチケットをお見せいただきお入りください。」
「ありがとうございます。」
僕はチケットを受け取り、大地の方を振り返る。
「はい。チケット。」
「ありがとう。このチケットって・・・。」
「本当は景先輩と見る約束してたんだ。」
「なんで先輩は来てないの?」
「わからないけど。来られない事情ができたんだった。光輝先輩といるみたいだけど・・・。
「何だよそれ。」
大地の怒ったような声がする。
「来れなくなったんだもん。しかたがないよ。1人で見なきゃいけないのかなって思ってたんだ。突然だったけど大地が来てくれてすごくうれしい。いきなり声かけてごめんね。」
「俺はいいんだよ。どうせ暇だし。稔と出かけられるのは嬉しいし。」
「そっか。ありがとう。なんか、ドリンクもついているチケットみたいで、売店で好きな飲み物注文できるみたいだから行こ?」
「うん。」
大地とドリンクを受け取り所定のスクリーンの部屋に行く。
先は中程の中央部分のカップル席のような場所であった。
大地と横に座りと同時に映画の予告が開始する。
*****
映画が上映されている間ずっと景先輩のことを考えてしまう。
いきなり来られなくなるなんでよっぽどの事情だろう。
でも、光輝先輩と一緒の理由が見つからない。
僕は僕の感情に追いついていかない。
絶望・悲嘆・嫉妬
色々な感情がせめぎ合っている。
景先輩は僕ことをどう思っているんだろう?
景先輩が来なくて怒りではなくて悲しみが大きいのは何故だろう?
景先輩が光輝先輩と一緒にいるのが何故ショックなのだろう?
僕は先輩のことをどう思ってるんだろう?
仲の良いペアの先輩。
お兄ちゃんみたいな先輩。
僕のことを甘やかしてくれる先輩。
頭をなでてくれる先輩。
いつもそばにいて微笑みかけてくれる先輩。
僕の先輩。
あっ。
多分、僕は景先輩のことが好きなんだ。
だからこんなにいろんな感情があふれるんだ。
正解がみつかりすとんと肩の力が抜けた。
それと同時にふと思いついたことがある。
前に、先輩には好きな人がいるといっていた。
自分が好きになった人が自分を好きになるとは限らないと。
光輝先輩のことが好きなのかもしれない。
確信はない。
でも、正解な気がしてくる。
あの2人は本当にお似合いだ。
あの人なら先輩を幸せにしてくれると思う。
恋に気づいたと思ったらもう失恋か。
途端に悲しくなり自然と涙が落ちる。
一度落ちた涙は止まらない。
映画の内容なんて頭に入ってこない。
こんなに泣く映画じゃないのに。
ボロボロと涙があふれてくる。
幸いにてカップル席なので泣いているのは大地以外にはわからない。
僕が泣いているのに気づき大地が顔を向ける。
手を握ってくれる。あたたかな大地の手にさらに涙があふれてくる。
失恋はしてしまったけど、僕は大学で大切な親友を見つけることができた。
声を抑えることができない。
大地は抱きしめ背中をさすってくれる。
僕は一生懸命に泣き止もうと努力する。
僕は映画の半分ほど泣き続けた。
終盤に差し掛かりようやく落ち着いた。
目は真っ赤に腫れているだろう。
他の観客が出てからゆっくりと退室する。
「大地、ゆっくり映画見られなかったよね。」
「気にするなよ。別にまた動画配信されたら見ればいいよ。」
「そっか。ありがとう。」
「まだ日も暮れてないし夕飯でも食べて帰るか?」
「そうだね。いきなり呼びたしちゃったから僕に奢らせて。ついこの間バイト代も入ったはっかりなんだ。」
「じゃあ遠慮なく。どこいく?」
大学周辺のおいしいお店のほとんどは景先輩と以前一緒に来ていた。
どのお店も景先輩との思い出があり今は行くのが辛い。
「久しぶりのちょっと遠くにいってみない?」
「そうだな。まだ早いしちょっと遠出してみょうか。」
「前から行ってみたいところがあったんだ!付き合ってくれる?」
「いいよ。」
そういって大地と僕は電車に乗って普段は行かない町に行くことにした。
*****
「ご馳走さまでした。本当に奢ってもらってよかったのか?」
「うん。今日は大地が来てくれて本当に助かったんだ。」
「家まで送っていこうか?」
「大丈夫だよ。」
「今日泣いてたのは広瀬先輩が原因だよな?」
「えっ!?」
「俺はお前が大切だよ。今日のドタキャン以外にも理由があるんだろ?簡単には言えないかもしれないけど何かあったら助けになりたい。」
「ありがとう。僕の気持ちが整理出来たら相談させて。」
「いつでも待ってるから。」
「自分の気持ちに整理をつけるからしばらくは先輩達とは距離を取ろうと思ってる。いつものカフェに行ったり先輩達とご飯したりはちょっと無理だと思う。不自然な態度を取っちゃうかもしれない。その時はごめんね。」
「なんで謝るんだよ。俺は稔の味方だよ。」
「ありがとう。」
大地とは路線が違うため駅で別れ帰宅する。
途中景先輩から着信があったが気づかないふりをする。