元ペア
講義が終わり帰ろうかなって考えているとカフェテリアから黄色い悲鳴が聞こえてくる。
大地と2人で首を傾げた。
カフェテリアの入口から中を覗き込むと、景先輩と河野先輩がしらない男の人と話をしている。
あの人はいったい誰だろう?3人並ぶと迫力が違う。
知らない男の人は景先輩の肩に腕を回し親しげに話している。
その親し気な様子に疎外感を感じてしまいその中に入ってはいけないんじゃないかと感じてしまった。
2人してその場にぼーっと立ち尽くしていると、
「お前たちこっち来いよ。」
河野先輩の呼ぶ声が聞こえる。
「こんな時に呼ぶかよ。どうする稔?この中を入っていく勇気あるか?」
大地に話かけられてはっとする。
この光景を目の当たりにして中に入っていく勇気はない。
「勇気ない・・・。」
2人でどうしようかとまごまごしていると、河野先輩が出てきて大地の手をとり中にひっぱっていく。
僕は一瞬どうしようかと考えたが、2人の後ろをついて中に入った。
*****
中に入ると景先輩がこっちを向き笑いかけてくる。
「もう講義は終わったのか?」
「はい。」
こちらに身体の向きを変え、話しかけてくるが気分がのらない。
そっけないような感じの返事をしてしまった。
「へ~。お前そんな顔するんだな。」
突然、見知らぬ先輩が景先輩に話しかける。
「どういう意味ですか?光輝先輩。」
景先輩が光輝先輩と呼んだこの親し気な先輩はだれなのだろう?
景先輩が今までには見たことがないような顔をして光輝先輩と呼ばれた男の人と話している。
僕は2人を見上げながら何故だかもやもやするこの気持ちに戸惑う。
「そういえば、光輝先輩!これが今年からの俺のペアの大地。」
「は、はじめまして。大澤大地です。」
「よろしく!で、こっちの子は?」
光輝先輩が僕に目線を合わせて覗き込んでくる。
「今年の俺のペアの稔です。」
「はじめまして。成美稔といいます。」
「景のペアってことは、この子が例の子か?」
「先輩!!」
例の子?景先輩と光輝先輩は秘密を共有しているかのようにじゃれあっている。
「はじめまして。俺は去年までの景のペアだった池田光輝だ。よろしく。
今年の景のペアは可愛いって噂を聞いていたけど、本当に可愛い子だな。」
ジロジロと上から下まで見られている。
「先輩。そんなに稔をジロジロ見ないでください。」
居心地が悪くうつむいていると、景先輩が僕の前に立ち光輝先輩の目から守ってくれる。
「いいだろ減るもんじゃないし。」「
「減ります。」
「何だよそれw」
「そういえば今日はなんで来たんですか?」
「ちょっと今資格を取ろうとしててな。その資格を取るのに卒業証明書が必要なんだよ。
取りに来たついでに可愛い後輩の顔を見て帰ろうと思ってこっちにきたんだよ。」
「一昨日あったばっかりじゃないですか。」
「そうなんだけどな。あわよくば景のペアの子に会えないかなって思ってさ。
先輩としては一度会っておきたいだろ?」
大地が2人の距離が気になったのか河野先輩に話しかけていた。
「なあなあ章先輩。あの先輩って広瀬先輩のペアの先輩だろ?なんか距離近くないか?」
「そうなんだよな。光輝先輩ってうちにいれた相手に対してめちゃくちゃ構い倒すんだよ。」
「へー。」
「景ってあんまり表情変わらないだろ?一人で抱え込んでいることも多くで光輝先輩はいつも気にして様子見てくれていたんだよ。長い付き合いの俺でも気づけない些細な変化に気づいてフォローしてくれているんだよなー。」
「2年も一緒に過ごしたペアってすごい絆なんだな。」
「あの2人は特別に波長があったんだろうけどな。
今での仲良くてしょっちゅう会っているみたいだし。それに最近は特によく会っているんじゃないか?」
河野先輩の話を僕も一緒に聞く。
なんだかあの2人の世界があり僕たちは蚊帳の外のいるような気がする。
何か見てはいけないものを見ているような気がしてうつむく。
*****
その後、ことあるごとに景先輩の携帯に光輝先輩から電話が来ている。
景先輩はいつも「面倒くさい」といいながらその電話を無視することはない。
今まで頻繁に2人で食事に行っていたが、景先輩に予定があり出かけることが少なくなった。
景先輩の予定の相手は光輝先輩みたいだ。
この間偶然、一緒にいるときに電話が来てそれらしいことを電話口で言っていた。
たまに僕と2人で食事をしているときであっても光輝先輩から電話がかかってきたらすぐに対応している。
2人の食事中なんだから携帯に出なくてもいいのにと焼きもちを焼いてしまう。
「僕は先輩の恋人でもなんでもないんだからこんな気持ちになっちゃいけないのに・・・。」
先輩が席を外した瞬間に独り言ちる。
「稔ごめんな。どうした?」
「いえ。なんでもありません。それよりも電話大丈夫でしたか?」
「大した事ないよ。単なる愚痴の電話だ。」
景先輩はそういうがけいして無碍にはせずに電話にでている。
「すねてる?」
「すねてません。」
「久しぶりの食事だったのに?」
「それは先輩が忙しいせいですよね?」
「怒るなよ。」
「怒ってません。」
僕には怒る資格なんてない。
「お詫びと言っちゃあなんだけど、映画のチケットをもらったんだが一緒に行かないか?」
「男2人で映画ですか?」
「そんなこと言うなよ。今話題の映画だよ?」
チケットを受け取りタイトルを見る。
以前先輩に勧められて一緒に見たシリーズの最新作だ。
先輩と一緒に見に行きたいなと、密かに思っていた映画だった。
「これってこの間一緒にみた映画の続きの。」
「前に映画館の前を通った時に行きたいって言っていただろ?」
「覚えててくれたんですね。」
「一緒に行くだろ?」
一瞬戸惑ったが先輩が僕を誘ってくれたことが嬉しくて笑顔で答える。
「はい。」