取材
体調も良くなったために日常生活に戻っていた。
僕が体調を崩してから景先輩は僕がちゃんとご飯を食べていないんじゃないかと気にして昼も夜も一緒に食事をしようと連絡していることが多くなった。
昼はなんだかんだ景先輩、河野先輩、大地と一緒に食べている。夜は僕もバイトがあったら、景先輩も部活があったりして予定が合えば一緒に食べるといった感じだ。
いつも外食だとお金もかかるし僕の部屋で僕が夕食を作ることもある。
今日は珍しくお昼を1人でカフェテリアで食べていた。
携帯でネットをポチポチと見ていたら学内メールに連絡が来ているのに気付いた。
なんだろうと思いメールを開く。
メールの内容は新聞部から取材をさせてほしいとの依頼だった。
なんで僕なんだろうと思い文章を読み進めていく。
結果としては景先輩のペアである僕に興味があるとのことだった。
景先輩が講義の後に迎えにきてから景先輩について質問されることが多かった。
昼を一緒に食べていたり、講義後に2人で出かけていたりといった場面も目撃されているようで、質問攻めにあうことも多い。
受けても受けなくても好奇の目にはさらされる気がする。
だったら、いろんな人に質問攻めにされるよりは新聞部の取材に答えた方が早いきがしてきた。
一瞬、景先輩に相談しようかと思ったが、
「わかりました。」
と了承のメールを送った。
後日取材の日付と時間が送られてきた。
僕は何を聞かれるんだろうかと内心びくびくしながら取材に臨んだ。
*****
新聞部の取材は特に問題なく終了し、1週間たってHPに僕の記事が載った。
『記者:今日は、噂の成美 稔くんに来ていただきました!
稔:よろしくお願いします。
記者:今回は今までとは違い、インタビュー形式での取材とさせていただいています。
まずは自己紹介をお願いします。
稔:成美 稔です。19歳。4月生まれ。身長は168㎝です。商学部です。
記者:自己紹介ありがとうございます。初々しくて可愛らしいですね。
稔:ありがとうございます(笑)
記者:今日は、成美さんに聞きたいことのアンケートを事前にとってみました。
稔:そうなんですね。
記者:稔くんもわかっているかとは思いますが、やはりペアに対する質問が多いですね。
稔:先輩に迷惑をかけるようなことは答えられないです。
記者:大丈夫ですよ。
プライベートなことではなく2人の関係性についての質問が多いですね。
広瀬さんが成美さんの講義後に迎えに来て2人で消えていったと噂になっていましたが、成美さんは知っていたんですか?
稔:あの時は僕もびっくりしたんです。ご飯に行く約束はしていましたが迎えに来ているとは思わなくて・・・。
記者:広瀬さんとは仲が良いんですか?
稔:すごくよくしていただいています。頼りになる先輩です。
記者:昨年までの広瀬さんは河野さんと去年までペアの先輩としか一緒にいる姿を見かけませんでした。新たに広瀬さんの隣にいる成美さんにみんな興味深々なんですよ。
しかもこんなに可愛らしい後輩ですし、みんな話を聞きたくてわくわくしています。
稔:ありがとうございます。
記者:講義後に一緒に出掛けているのをよく見ますが、一緒出かけることは多いんですか?
稔:はい。僕、一人暮らしをしているんですけど、景先輩はよく気にかけてくれて声をかけてくれます。ちゃんとご飯は食べてるのかってよく聞かれます。
記者:いい先輩ですね。
稔:はい。いつも外食だと申し訳ないので僕の部屋で一緒に食事をすることもあります。
記者:そうなんですか!!
稔:はい。??。
記者:2人で仲良く成美さんの部屋で食事ですか・・・。
稔:??
記者:広瀬さんは優しいですか?
稔:すごく優しいです。この間は僕が熱出して休んだ時も家まで様子を見に来てくれたました。
記者:それで!?
稔:??。お昼ご飯を用意してくれて、僕を寝かしつけて帰っていきました(笑)
記者:そうなんですね!!私はちょっとドキドキしてきました(笑)
稔:えっ?
記者:まだまだ質問は来ていますので次々聞いていきましょう。
・・・・・。
取材:昨年までの成瀬さんのペアの先輩はかっこいいって感じの人でしたが、
後輩となる相手のペアはこんなに可愛らしい男の子でした。世話を焼きたくなる気持ちがわかりました。
悶えたくなるほど可愛すぎてファンが増えそうな予感がします!!
追記となりますが、大学内の腐女子・腐男子の皆様!!
2人の今後の動向のチェックが欠かせなくなりましたね!
私と一緒に頑張っていきましょう!!
成美 稔君 今日はありがとうございました。』
*****
講義が終わりいつものカフェテリアに向かう。
いつもの席には大地・河野先輩・景先輩の3人が座っていた。
「こんにちは。」
僕は3人に声をかけて空いている席に腰かける。
「成美。今日のHP見たぞ!」
「河野先輩みたんですか?」
「稔が取材をうけていたなんで俺は知らなかったぞ。」
「確かに皆さんに言ってなかったですね。前に景先輩が迎えにきてから色々と質問されることが多かったのでこの際だからまとめて答えたほうが楽かなって思って引き受けたんです。」
「そうだったのか。」
河野先輩と大地は納得したようにうなずいた。
「でも、なんだか恋人ののろけを聞かされているような記事だったな。」
河野先輩が突然おかしなことを言ってくる。
「なんですかそれ?」
僕はわからないとばかりに先輩に聞く。
「いや、だってな。講義が終わったら連れだってお前の部屋にいって食事して、風邪をひいたときにはお見舞いに行って寝るまで見守ってから帰るってことだろ?後輩には普通そんなことしないだろ。なあ?景」
今まで黙っていた景先輩に河野先輩が声をかける。
「別にいいだろ。」
「ペアというよりはこれからは公認カップルって感じの扱いになりそうな気がするな。」
河野先輩の爆弾発言に僕は真っ赤になり、急に心細くなる。
「僕、何かやらかしました?」
「大丈夫だよ」
景先輩が苦笑して答えてくれる。
「取材を受けているときに、記者さんの他にもたくさんの先輩たちがいたんですけど、僕が何かをしゃべるたびにきゃーきゃー言ってたのってもしかして・・・。」
「多分な」
「わーーーーーー!」
僕は頭を抱えて机に倒れこんでしまう。
「俺は誤解されても全然大丈夫だぞ」
景先輩が追い打ちをかけてくる
「僕なんかとそんなの迷惑かけられないですよ・・・。」
これからどうしようと考えていると、
「ほとぼりが冷めればみんな忘れるから大丈夫だよ。気にしないほうがいいんじゃない?」
大地が助け舟をだしてくれた。
「そうだよね。誰も僕と先輩が恋人同士だなんて思わないよね。」
「そうそう。いざとなったら俺が何でもないって説明してやるよ。」
こうして僕は考えることは放棄し、何か注文してこようと席をたった。