1-1『旅立ち迫りし、前途は多難』
「あなた、ドラゴンさん?」
目を覚ました僕の瞳は最初に彼女を映す。
「わかんない、キミは?」
ほぼほぼ無意識の対応、自分の存在に関して自身に問うても、不定形なモヤしか浮かばない。
「えっ、私。ニーナって言うんだよ」
これが僕の最初の記憶、彼女との出会いだった。
ーーーーーー
「作戦会議‼︎」
とは名ばかりの夕飯時。
僕は蒸し芋のクリームパイと小豆とトマトのスープを配膳し、パンを人数分切り分ける。
「すまねぇな、夕飯までご馳走になっちまって」
彼はこの街で万屋をやっているジーク、僕やニーナと同い年で、昔からなにかと一緒に行動する機会があったため、現在も疎遠にならず交友を続けている。
「てか、ドラゴまた仕事場から追い出されたって聞いたぞ。今回は隣町まで毎日通ってたみたいだが本当に無駄な苦労だったよな」
いつものようにジークはそう軽口を叩く。
まあ、この場でその話はしない方がいいとは思うぞ、ジーク君。僕は別に大丈夫だけど、、、
「なんだい、ジーク。ドラゴの美味しそうな料理を目の前にして不平不満か、帰るか?」
ニーナは怒ると思うぞ。
「教会でお世話になっていた君達だ、食事への感謝が大切だとあれだけ問われた事だろう。それをキミと言う奴は、作り手への感謝が欠如しているように見えるのだが、、、」
僕は暴走気味なニーナを止めに入る。
「まあまあ、ジークの言っている事は自体は事実ですし、僕はニーナの言葉以外は気にしないってこの前約束したからね、ね?」
なんとかニーナを宥めると、少しでも機嫌を直してもらおうと、大切な日にしか食卓に出さない干し肉を一切れ切り分ける。
「あっ、ニーナだけずるい、ドラゴ俺にも一切れくれよ」
そもそもが誰の軽口が原因でこうなったかをしっかりと考えて欲しいが、同じ食卓において1人だけを特別視することもできない。
「これやるからあんまりニーナを怒らせるような事言うんじゃないぞ」
ジークは「あいよ」と気の抜けた返事をして僕から干し肉を受け取った。
「そういえばニーナ、作戦会議をするんじゃなかったっけ?」
ハムスターのように干し肉を少しずつ味わっているニーナ、どうやらこのまま本題に入っても問題はないとみて僕は話を進める。
「そうだな、せっかくジークにも夕食に来てもらったんだ、難しい話は先に済ませておこうか」
ニーナはスープを喉に通し、少しだけ間をとる。
「単刀直入に言う、私とドラゴは近いうちにこの街を出て旅に出ようと考えている。しかし、母上が帰ってくる事も考えるとこの家を無人にしておくのは非常に申し訳が立たない」
本題だ、と言わんばかりにニーナは声に力を込めて口にする。
「そこで、ジーク、君には私たちが留守の間の家の警備を住み込みでお願いしたいと考えている」
本題も伝え終えたと、ニーナは再びスープを喉に通し、落ち着いた気持ちで続きを口にする。
「ジーク、万屋の収入源があるとは言っても、元々身寄りのない君にとって住み暮らす場所は1番の問題だろ。私達が旅に出ている間、ここを使ってくれて構わないから、その間に少しでもお金を貯めてしっかりとした家を用意したまえよ」
ジークは何かを考えているのか、終始無言で食事を取り、食べ終わる頃に再び口を開いた。
「よし、話はわかった。だが俺からも一つ条件がある」