0-1『はじまり』
「おぁよぅ、ドラゴ、、、」
僕が朝食を用意していると、どうやらニーナが目覚めてきたようだ。
「おはよう、ニーナ。すごく眠たそうな顔、まずは顔を洗ってきたらどうだい?」
彼女も起きてきた事だし、朝食も仕上げと、卵を器に開け、溶いた後にフライパンに流し込む。
「あぃ」
とぼとぼと井戸に向かうニーナの後ろ姿を笑顔で見送りながらも、手は熱によって固まりつつある卵を一定の形にまとめあげる。
「っと、火を入れすぎたらいけないね」
出来上がったオムレツを皿にあげ、作り置きしてある小豆をトマトで煮込んだソースを添え、先程から煮込んでいた野菜スープを器によそう。
「我ながら味気はないけれど、無職となってしまった今は少しだけでも節約しなければ」
とは思いながらも、パンをニーナの嫌う耳の部分は切り落とし切り分けてしまう。
パンの耳も捨てているわけではないが、ニーナの嫌うパンの耳をニーナが好む物に変えるという段階でそれにかかる手間賃は節約とかけ離れている、、、
「なに、朝から難しい顔してるの?」
ニーナは不思議そうに僕の顔を覗き込む。
「別に難しいなんてことはないよ、さぁニーナ、朝ごはんにしようか」
ニーナが食卓についたのを確認して、その対面に僕は腰を下ろした。
「もぅ、毎日毎日、そうマジマジと見つめられるとほんと食べにくいんだけど、、、」
いつものようにニーナはそう口にする。
「美味しそうかな、って?」
本音は違うがいつもそう誤魔化している。
「美味しいわよ、少なくとも小料理屋をクビになるような腕ではない事は確かよ」
っと、今日のニーナは僕にとって少し攻撃的だ。
「宿屋をクビになった時も、普段から私の部屋の掃除からベッドメイクまで完璧にこなして様を知っているから私には信じられなかったわ」
「薬屋をクビになった時も、普段から庭で薬草を栽培して、私が森に入る時には時候に合わせた塗り薬、飲み薬を調合してくれている様を知っているから私には信じられなかったわ」
「農家の手伝いとか隣町までの荷物運びとかどこにクビになる要素があるか本当にわからないし」
「今度の今度は、せっかく働かせてもらえる店が見つかって、少し遠いけど隣町まで毎日通って、それで10日暦保たないって、、、」
ぶつぶつぶつぶつ、ニーナは完全に自分の世界に入っている。
「全ての僕の力不足だ、、、」
「それはないわ、私が全力で保証する」
その後に彼女は深く考え込むが、その顔には僕のそれには介在している『難しさ』というものは微塵も感じられない。
「そうだ、」
ニーナは食卓を勢いよく叩き、立ち上がった。
「ドラゴ、あなたは私が雇うわ」
「私ならあなたの力を正しく評価できる、他人になんか好き勝手言わせない、だからあなたも他人から何を言われたかではなく、私がなんと言ったかを大切に日々を過ごしていけばいいわ」
めちゃくちゃだ。
まあ、満足気な彼女の表情を見るにそれを口にする事は僕にはできないのだが。
「わかった、というよりはわかってるか、、、」
僕はニーナとの付き合いも長い、今までにこういう彼女に何度も救われてきた、僕にとっては太陽のような存在だ。
「それで、今度は何をしようと言うのかい?」
僕の言葉にニーナは即座に呼応する。
「冒険よ‼︎」
「この世界は広いわ、この街の人がドラゴを認めないなら次の街へ、次の街でもダメなら次の国へ、次の国でもダメなら次の世界へ」
次の世界って流石にそこは諦めようよ。まあ、
「ニーナらしい考えだね」
そんな昔から曇ることのないニーナの笑顔が僕にとっては1番大切なものだから。
「いつもありがとう、ニーナ」