王の話
いつものように執務室で作業していたところ、勇者の召喚に成功したと知らせが来た。
成功するとは思っていなかった。
勇者を案内したという客室に急いで向かう。
入室すると、子供を膝に乗せた青年がいた。
来る途中に聞いてはいたが、本当に子供連れだとは・・・
とりあえず、勇者を召喚する事になった経緯を話さなくては。
話している間一切こちらを見ていない勇者に私の隣にいた騎士団長がキレた。
勇者に剣を向ける。子供が居る事を忘れているのではないかと止めようとする間もなく、一瞬凄い魔力を感じたがその次の瞬間には勇者も子供も居なくなっていた。
「とりあえず、勇者を召喚したことに箝口令を出せ。そして一応、秘密裏に捜索隊を組ませろ」
呆然としていた騎士団長に声をかける。
我に返った騎士団長は慌ただしく退室していく。
椅子の背もたれに体を預けため息を吐く。
部下もまともに纏められないなんて、本当に自分は王に向いていない。
昔を思い出す。まだ学生だった頃、自分の婚約者を死刑台に送ったあの時の事を。
何故今更思い出すのか、一瞬感じた魔力が似ていたからか、自嘲気味に笑う。
言い訳するなら、自分は魔法をかけられて操られていた。
自分で初恋の人で婚約者だった彼女に婚約破棄を告げて殺した。
普段なら魔法には掛からなかった。あの頃は愛している彼女が自分に全くの無関心で心を病んでいた。
そこに付け込まれたのだ。彼女は誰にでも無関心だった。彼女の心を欲したりしなければ彼女は生きていたかもしれない。今更後悔していてももう遅いが。
気持ちを切り替えるように席を立った。