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ハニーでいず

ワールドシリーズ、Happyエンド後の外伝1 独白シリーズのキャラも出たりしますが読んでなくても何も困らないです


「くははっ、まだ我に逆らうか、愚かな人間が」

黒いマントをはおった征吾が両手を広げながら低い声で言う。

「まぁ、最後まで足掻いて我を楽しませてくれよ…?」

余裕たっぷりの征吾。劣勢だ。だが、俺はにやりと笑う。

「その侮りがあだとなることを知れ!術式展開!」

魔法を展開する。

「だめっ、その技は…」

後ろから奈子が制止しようとする声が聞こえる。

そう、これは相手を道連れに自爆する魔法なのだ。

「奈子、すまねぇ。幸せになれよっ…」

振り向かず、奈子に聞こえるかもわからない声で呟く。

術式は完成した。俺はいまだ不敵に笑っている征吾のもとに突進する。

「なっ」

今更俺のやることが分かったようで少しの動揺を見せる。

だがもう遅い。

征吾に俺のこぶしが当たるその瞬間、あたりが光に包まれ――


「ん、もう少し設定にひねりがいるかしら」

亜美のつぶやきに、俺ら3人の演技の手が止まる。

「…なぁ、今まさにクライマックスだったぜ?聞いてた?見てた?」

「見てたから言ってるんでしょ。どうも深みが足りないというか…このくらいしか考えられない自分が恥ずかしいわ」

そう言ってうなだれる亜美を奈子がなだめる。

「そんなことないよ!大丈夫だから。ほら、最後光輝君が敵に死を恐れず突っ込んでいくとか王道でいいと思うよ」

「王道・・・それは昔から使われている手で、一つの逃げなのよ・・・・」

慰めは不発どころか更に悪化させる結果になってしまったらしい。

更に落ち込む亜美に奈子がわたわたとあせりだす。

「ほら!最近忙しくて新しい本をあんまり読めてないのが原因じゃないかな!明日休みだし久々に買い物しに行こう、そうしよう!二人もいいですよね?」

「え、俺たちもなの」

こうして、明日のお出かけが決まったのだった。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

日曜日の九時。普段の俺ならまだ夢の中だろう。

夢を見ているということはレム睡眠なのでもうすぐおきるのかと思いきや、ここからまたノンレム睡眠に入ってしまうため、俺は結局十時までは確実におきることができないのだ。

なぜ十時までといったかというと、レム睡眠とノンレム睡眠の周期は

「うるさいぞ」

隣に立っている征吾からのクレーム。

待ち合わせ場所に着いたものの女子二人がまだ来ておらず、暇をもてあました結果である。

「二人とも遅いなぁ」

「俺らが早いんだろ。まぁ、五分前行動は常識だとしてもな」

時刻は八時五十七分。待ち合わせは九時。

「すいませーん、ちょっと遅れちゃって」

向こうから奈子が手を振りながら走ってくるのが見える。

「おー、あれ亜美は一緒じゃ・・・あ」

その奈子に手を引かれていた人物を見て俺の言葉が止まった。

亜美なことは確かなのだが。

「えへへ、これ来てもらうのにちょっと時間かかっちゃって」

俺らのもとについた奈子が満足した表情で告げる。

奈子はパステルカラーを基調とした今時の女子らしい感じに少しレースを足したような、いわゆるロリータ系の服。これはいつものことなのだが。

「ふ、ふははは!悪いか、似合わなくて悪かったな!開き直ってやる!」

そういう亜美は、赤と黒とチェックを基調とした、ゴシックパンク?とかなんとかいう感じの服装である。

「久しぶりに出かけるんだから、前一緒に買った服を着ようって。それに」

奈子はそこで言葉を切り、征吾に意味ありげな視線を送る。送った視線は叩き落されたようだ。

征吾と亜美が付き合い始めて、初めてのお出かけらしい。

いわゆる、初デートというやつか。末永く爆発すればいいのに。

「いいから、行くぞ!まずは本屋だな」

完全に開き直ったらしい亜美の仕切りで、俺たちは動き始めた。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

「大型書店なんて久しぶりに来たなぁ」

本屋に着き、それぞれ好きなように回ることになった。

特にほしい本がない俺は、何か気になるものはないか探して回ることにした。

「ジャンル分けとか場所とかよくわかんねぇ…」

すぐ行き詰まる結果となった。

とりあえずなんとなくウロウロしていると

「ん、樹?」

「へ?あぁ、光輝先輩じゃないですか。こんなところで会うなんてめずらしいですね」

小説のコーナーらしき場所で後輩に出合った。

めずらしいといわれたのは、俺があまり本を読まないことが知られているからだろう。

「征吾とかいつものメンバーで買い物来ててさ。そうだ、ゲームの設定資料とかどの辺にあるか知ってるか?」

「それなら…二階の南側、ですね」

さすが、昔から本好きと名高いだけある。

「先輩達も色々と有名ですけどね」

「え、声に出てた?」

後輩にお礼を告げて二階へ向かう。

着いたその先で、亜美と征吾が本を探しているのが見えた。なんだか近づきにくい雰囲気である。

行く先がなくなってしまった。

仕方がないので、ここまで来る途中に見たスポーツ関連のコーナーに行くことにしよう。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

「お待たせ…って、光輝何食べてんの」

「ん、クレープ」

「そういうことじゃなくて」

本屋から出てくる亜美と征吾に怪訝な目を向けられる。

あの後、いい本が見つからずに暇すぎたので本屋から出ることにした。

そんな時ちょうどレジが済んだ樹と出会い、近くに何か店がないか聞いたのだ。

本好きだけでなく、スイーツ男子としても有名な樹が勧めてくれたクレープはやはり美味しい。

「すいません、長くなりましたー、ってクレープずるいです!」

奈子が出てくるときには、二人も買ってしまっていた。

「ここのやつ、めっちゃ美味しいぞ。なぜ知らなかったのかっていうレベル」

「奈子も食べたほうがいい、絶対」

「マジですか」

「俺はもう食べ終わった」

「うむむ…やっぱりずるいです」

案内ついでに俺も二個目のクレープを買ってしまった。

「おかずクレープとか邪道って思ってたけどうまいな」

「ナチュラルに二個目かってきてんじゃねーよ」

「うますぎて」

ちなみに、奈子は無言でクレープを食べていた。その目は、さながら餌にありついた獰猛な肉食獣のようで…、まぁ気に入ったらしい。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

「次―、どこ行くの?」

「「……」」

「え、無言?」

基本的にインドアな光輝と亜美。遊びに行くときはほかの人に任せっぱなしの奈子と俺。

一発目から本屋に行けば、どこに行くか悩むことは目に見えていた。

「…こういう時って普通どこ行くの」

「私は人任せなので…」

「休日は大体稽古してるから」

「部活とか大会とか」

沈黙。奈子がスマホを取り出した。

「こういう時は、知恵袋先生に頼りましょう」

ツタタタと慣れた手つきで入力、検索と続ける。

「ランチ…カラオケ…ボーリング、とかですかね」

「そういや、昼だな」

「さっきクレープ食べたばっかりだけどな」

「あ、じゃあカフェ行きましょうよ!軽食もありますし」

「じゃあ、あの辺にあるカフェが…」

「ん、光輝そんなの知ってるんだ」

「…季節のフルーツケーキが絶品だ、と後輩が言っていた」

この後輩はお察しの通りの人物だ。

「じゃあ、そこに行きましょうか」

食べた後はどこに行くのか話しているうちにそのカフェへ着いた。

なかなかに混んでいたが、運よくボックス席が空いていた。

「さぁ、何を頼む」

メニューを開き、いつもより低い声で言う。

「光輝、うるさい」

女子二人は既に真剣にメニューを見ていた。女子って・・・・。

「そういや、俺ホットサンドって食べたことないんだよな。食べてみようかな」

「俺はー、えー、あ、梅おにぎりでいいや」

「飲み物は?俺カルピス」

「じゃあオレンジジュースで」

どうせ食後にケーキ食べるし。

「二人は決まった?」

「ちょっと待ってください…はい、決まりました」

「私も大丈夫。すいませーん」

「はーい」

女性店員が寄ってくる。雰囲気からして、すごく性格が明るそうだ。

「ご注文お伺いしますねー」

「あ、はい。えー、ホットサンドのたまごとカルピス」

「梅おにぎりとオレンジジュースで。あと、フルーツケーキを」

「あ、ケーキ俺も」

「スモークサーモンエッグベネティクトとキャラメルマキアート」

「アボカド&チェダーバーガーとダークモカチップクリームフラペチーノ。私たちもフルーツケーキお願いします」

前者は亜美、後者は奈子だ。

「ご注文繰り返しますね。エッグホットサンド、梅おにぎり、スモークサンドエッグベネティクトとアボカド&チェーダーバーガー、お飲み物はカルピス、オレンジジュース、キャラメルマキアート、ダークモカチップクリームフラペチーノ。皆様食後に季節のフルーツケーキでよろしいでしょうか」

「はい、お願いします」

「かしこまりましたー♪」

そういって去っていく店員。あのメニューをかまずにいうことができるなんて尊敬する。

というか、これが女子なのか。

「すげぇな…俺なんて言ってるか全然わかんなかったわ」

「女子って…」

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

結果からいうと、全体的においしかった。

梅おにぎりを食べたお前が何を言う、といわれるかもしれないが美味しかった。

フルーツケーキは言わずもがな。

さて、次はというと。

「カラオケなんて何年振りかしら」

「俺初めてかもしんねぇわ」

カラオケに来ているわけである。

「まずは…」

ピピピッ

「天城越えって、お前」

征吾が腹を抱えて笑い出した。

度重なる友人とのカラオケで磨いてきたこのネタテクニックを甘く見られては困る。

歌い終わり。

亜美がすごく微妙な表情を向けてきている。

「つぎ私いいですか?」

ピピピッ

「ウルトラソウル…だと」

「これは、負けるわけにはいかないな…!」

それから先は、睡蓮花、リンダリンダ、紅蓮の弓矢…とにかく騒がしくて盛り上がる曲のオンパレードだった。

おかげで、開始一時間で全員疲れ切っていた。

「スタートからぶっ放しすぎだろ…」

「もういいよ…疲れた」

「うふふふ、まだ行けますよ…」

「なんか、すごいバカを見た気分だわ」

「そういや、亜美歌ってなくね?」

疲れてるとはいえ、余裕を見せる亜美に指摘するとギクリという擬音がしそうなほど顔をそむけた。

「気のせいじゃないかしら」

「いや、歌ってないね。よし、歌うがいい」

適当に曲を入れて亜美にマイクを渡す。

すごい嫌そうな顔ながらもしぶしぶ歌いだす。

感想は…まぁなんというか

「人間、欠点はあるもんだよな」

「うるさい!」

「この曲だからですよ、亜美、こっちの曲ならすごいんですよ」

そういって奈子が入れた曲は、セツナレンサ。

歌いだしてから俺たちは、声を出すことができなかった。

息をするのもためらわれるほど、うまかった。

曲を入れるついでに奈子が採点機能を入れていたらしく、最後に表示された点数は…百点。

「俺、カラオケで百点とか始めてみたんだけど」

「亜美は特化型なんですよ!難しい曲ほどうまいです」

なぜか胸を張る奈子。

「あー、もういいわ。三か月分くらい歌った」

「お前の三か月は二曲で終わるのか」

「俺ももう三日分は歌った気がする。疲れた」

「お前はあの五曲で三日分なのか」

亜美の歌で多少休憩になったものの、次の歌を歌う気力が戻らない。

「ご注文の品でーす」

突然のノック。あらわれた店員が持ってきたのは…

「誰ですか…ハニトー二つも頼んだの」

食パン一斤分を使ったハニートーストだった。

「…すいません、俺です」

征吾が両手で顔を覆いながらいう。

「待って、この疲れ切ってさらに一時間前くらいに飯食べたばっかりなのに、これを食えと」

「知恵袋先生が言ってたんだ…カラオケ行ったらハニトーって」

「誰だそんな回答したの!誰が信じるんだ!ここにいました!」

「…食べるしかないわね」

「……頑張りましょう」


食べ終わった俺らはさらに死屍累々となった。

「甘い…はちみつが甘すぎるです…」

奈子がうわごとのようにつぶやく。

「もうハニトーは向こう二年は見たくない」

備え付けのソファで倒れている征吾。

この三時間、俺らはカラオケで燃え尽きたのだった…。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

「いろいろありましたけど、楽しかったですね!」

帰り道、背伸びをしながら奈子が言う。

そのいろいろはきっとカラオケの一言で片付くのではないか、という言葉は飲み込んで。

「そうだなー。また出かけような!」

俺がそういうと

「はい!」「あぁ」「そうね」

三者三様ではあるが、いずれも肯定の返事が返ってきた。

その返事に、いつまでもこんな関係が続けばいいな、とか柄にもなく思うのだった。

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