日常
独白シリーズ2話目。直接的ではないけどBL敵距離感があるので苦手な方はブラウザバックお願いします
入学して早二ヶ月。1年生が新しい高校生活に慣れ始める時期。僕もその例に漏もれず、模範的な生活を送っていた。部活にも入らなかったので、早く帰ることが出来るし、勉強にもキチンとついていけている。だが、いつも同じバスで帰っているせいか、毎日のようにイケメン学生君と会う。彼は部活に入らなかったのだろうか。
そんな彼と何故か仲良くなってしまった。これは僕のある休日の話。
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日曜日。僕の高校ではさすがに日曜補習なるものはないので、確実に休みの日である。友人が「うちの高校付近って結構店多いよな!買い物しようぜ!」などと言い出したので、高校の一個前のバス停で待ち合わせすることになっていたのだが、『合コン誘われた!今日無理だわw』とかいうふざけたメールを今送ってきやがったため、僕は非常に苛立っている。もう10分は待っていたのだが。こいつのドタキャン癖はどうにかならないものか。
このまま帰るのももったいない。友人の言うとおりこの辺には店が多い。夕方くらいまで時間を潰して帰ろう。家に帰っても弟に勉強教えてと頼まれたり、妹にパソコンのトラブル解決してなどと頼まれるだけだ。ちなみに今日は二人から本を買ってくるように頼まれている。まずは大型書店に向かうことにしよう。
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大型書店に行き、頼まれていた漫画と小説、それに自分が欲しかった新刊を買った。今僕は古本屋にいる。普通の本屋で全巻買っていてはお金がもたないのでよく利用させてもらっている。頼まれていた本たちは見つけたので、面白そうな本がないか探しているところだ。どうしてこうも古本屋というのはワクワクするのだろうか。面白い本を見つけられたときの嬉しさは他に変えられない物があると思う。本好きの中には、新品しか受け付けない人もいるらしいが、あいにくぼくや妹弟たちは読めるならそんなことは気にしない。
小説を探っていると、横の人が本を落とした。どうやら立ち読みのほうに集中していたらしい。
「…落としましたよ」
落とした本を手渡す。
「すいません、ありがとうございま…」
僕をみて驚いた顔をしている。そんなに奇抜な格好はしていないはずだ。というか、拾ってくれた人に対して驚きとは何なのだ。
「えーっと、いつも同じバスだよね?」
「え?……あぁ、確かにそうですね」
いわれて気がついた。この人はいつもバスで会うイケメン学生君だ。
「こんなところで会うなんて…運命とか感じちゃうね?」
「…ソウデスネ」
彼は何を言っているのだろうか…。
「永倉奏志です。名前、覚えてくれると嬉しいな」
「あ、えと、斎藤樹です」
「樹くん、ね。俺の事はソウでも奏志でも好きな様に呼んでね」
なんかすごく相手のペースに飲まれている気がする。いや、確実に飲まれている。
「この後時間ある?」
「あ、全然暇です」
「良かった。じゃあちょっと話さない?」
……貴方はナンパ師か。
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古本屋から少し歩いたところにある喫茶店。女子がよくココアとガトーショコラが美味しいとうわさしているが、本当にその通りの味だった。甘いセットなのに、胃にもたれない。そしてココアが本当に美味しい。
そんな店で男二人がケーキを食べながら話している光景は周りからどう見えるのだろうか。
僕が見ていた小説コーナーは結構マニアックな出版社が取り扱われていた。その出版社の小説はどれも面白くて好きだったりする。
だがしかし、本屋のすみっこに1、2冊置いてあるくらいの有名度なのだ。そこの小説を読んでいた奏志君と話が合わないわけが無い。好きな小説が一緒と知ってさらに盛り上がったりした。
「いやー、ここまで趣味の合う人に会ったの樹が初めてだよ」
「僕もです!というか、この出版社を知ってる人に会ったのも初めてです」
「あぁ、丁寧に話さなくていいから、ね?」
「あ、そうで…そうだね、うん」
「あー、樹と同じ高校だったらもっと一杯話せたのに…」
奏志君は僕の通っている高校より少し偏差値が高い隣の高校に通っているらしい。
「でも、帰りのバスいつも一緒だよね」
「…!そうだった!やばい、これから帰りが楽しみになってきた!」
そこまで楽しみにされてもこまるのだが…。
「そういや、樹ってバスの中でいつも考え事してる感じの顔してるよね?」
「え、あぁ。どうでもいいことを考えたりするのが好きなんだ」
「たとえば?」
「本当にどうでもいいようなことなんだけど・…。たとえば、あそこに自販機があるでしょ」
僕は向かいの道にある自販機を指さす。
「あのボタンって買う時に光ってくれるのは便利だけど、いつも点滅してる意味って何だろう、とかかな」
「確かに…。客寄せとか?でもそんな目立ってるわけでもないしなぁ」
「いや、考えてもよくわからないことなんですけどね」
本気で考えるときりがなくなる。考え始めた奏志君を止める。
「言われてみれば気になるね。気にしてなかったもんなぁ」
「そうだよね。あ、ココアもう一杯頼んでいい?」
甘さがちょうどいいココアはもう一杯飲みたくなる味だ。
「じゃあ俺ももう一杯飲もうかな…。樹って甘いもの好きなの?」
「あ、それなりっていうか…いや、かなり好き」
甘いものは人生を明るくしてくれると思う。妹と一緒にお菓子を作るもの好きだったりする。
「そうなんだ…可愛いなぁ。俺も甘いもの好きなんだよね!食べたら幸せになれる感じがする」
「だよね!よく男で甘いもの好きなんて…とか言われるんだけど、美味しいものに性別なんて関係ないと思う。すごく思う」
「そうなんだよねぇ。あ、ありがとうございます」
ココアを持ってきたお姉さんにお礼を言う奏 志君。イケメンというのはこういう気配りができるからイケメンというのだろうか。
ココアを飲み終わり、店をあとにする。
「この後、俺はもう一軒古本屋行ってから帰るんだけど、どうする?」
「行きたいけど、妹たちが早く帰って来いって言ってたから…ごめんね」
早く帰って頼まれたものを渡さないと今日の睡眠時間が削られかねない。ただでさえ今日は妹に勉強を教える約束を後回しにしていたのだ。
「そう、残念だなぁ。妹ちゃんによろしくね!じゃあ、また…明日かな?」
「うん、じゃあね」
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奏志君と別れた後、バスに乗って今日のことを振り返っていた。まさか彼と友達になるなんて思ってもみなかった。人生は何があるかわからないものだ。ともあれ、趣味が合う人に出会えたのはうれしい。学校に行く楽しみが増えた。ドタキャンした友人に少しは感謝すべきかもしれない。
今日のことを友人に話してあげよう…次の休みに3人で会うことになったりするのだが、それはまた別の話。