浅き夢
「ねぇ、ケイくん。究極の愛のカタチって何だと思う?」
後ろから聞こえる声。ひどく優しそうな女の声だった。
「私はね、心中することだとおもうんだ」
物騒な言葉に振り返る。そこには、包丁を持った女が立っていて、
「だからね、ケイくん。一緒に、死のう?」
なんて、ほほ笑みながら言っている。
「ね、楽に殺してあげるから」
狂っている、怖くなった俺はその場から駆け出した。
それでも、その女は追いかけてきて、
逃げ出すためにあけたドアの向こうにみた風景は
――火の海だった。
「ねぇ、私ケイくんのためなら何でもできるんだよ?」
追いついてきた女が俺の首に腕を回しながらささやいてくる。
「だから、一緒に…」
その女の顔は……
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「――っ……」
目をあけると、見慣れた天井。先ほどまでのことは夢だったらしい。
時刻は5時、二度寝はできそうにない。
あぁ、これは授業中の居眠り決定だな…。そう思いながら
俺は変な汗を流すためにシャワーを浴びることにした・
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
俺の名前は三宅啓介。
なんとか授業を寝ずに乗り切りむかえた昼休み。
「ねぇ、なんかあったの?」
「…なんだよ」
終了時刻まで寝ようかと思っていた俺に話しかけてきたのは西園風花。
一応俺の幼馴染だ。
「なんか今日、やたら寝むそうだし。なんかあったのかと」
無駄に勘のいいヤツだ。
「……心中についてどう思う」
少しだけ、聞いてみることにした。
「…………は?どうしたの急に」
「いや、別に。なんとなくだよ」
「心中、ね。昔は愛がなんとかーっていって、やる人が多かったみたいね」
…多分、俺はそういうことを聞きたかったんじゃないと思う
「心中くらい知ってるんだが」
「え、あぁ。どう思うかってこと?そうね、馬鹿げてると思うわ」
「どうして?」
「だって、あれって結局どっちかが死ねなかったりしてたみたいだし。相手が死んで自分だけ生き残ってみなさい?相手に申し訳ないわ、支えは無くなるわでどう生きていけばいいかわからなくなりそうだし。何より、私には愛より命が大事よ」
…少々唖然としてしまった。コイツみたいなタイプの女は、愛のほうが大事と思うと思っていた部分もあるが、コイツは難しいことを考えずに楽観的に生きていると思ってたところが大きかったからだと思う。
「何よ、すっごい失礼なこと考えてない?」
「え、いや、別に。うん、考えてない考えてない」
「……。まぁいいや。で、どうしたの。なんか怖い夢でも見たの?」
やはり無駄に勘のいいやつだ。
ここまで考えを話してもらってこちらが何も話さないのは不公平だろう。
俺は今日見た夢の話をこいつに話すことにした。
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「へぇー」
「へぇーとはなんだ、へぇーとは」
「ふーん」
「おい」
なんだか真剣に話した俺は馬鹿みたいに思えてきた。
「正夢にならないといいね」
「こんなぶっ飛んだ夢、現実になってたまるか」
「その女の顔、わからなかったの?」
その言葉に顔を思い出そうとしてみるが、何か靄がかかっているように思いだせない。
「そっか。でも、夢に出てきた人は自分が好きな人とかいうし、なんか攻められる願望でもあるのかと思った」
「そんな話があるのか。だが、俺に攻められる願望などない」
「あっそ、深層心理って怖いわね」
信じる気はないようだ。
「さっ、長々と話してのど渇いたわ。何かおごってよ」
「は?」
「今、私はフルーツオレの気分です」
そう言って立ち上がる。
時計を確認すると昼休みはあと15分くらいだ。もう寝るのは不可能だろう。
「あーはいはい、わかったよ。フルーツオレな」
「そ、早くしてよね啓くん」
笑いながら言う彼女を見て、俺は――
「…何、変な顔して」
「いや、新たな問題が増えたなと思ってな」
「なにそれ、私におごることがそんなに問題?」
「そういうわけじゃねーよ」
俺は小さく息を吐いて、ジュースを2本買うお金があったか思い出しながら立ち上がった。
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よく考えれば、俺のことをそう呼ぶ奴なんて一人しかいなかったのだ。
その時、靄が晴れた気がした。
そう、夢で俺を殺そうとしていたのは、まぎれもなく西園風花だった。
夢に出てきた人物は~って話を調べたときに書いた記憶があります