アナザーエンド・ワールド
異世界転移ワールドシリーズ、蛇足のHappyエンドです
きっとこれは罰なのだろう。
「征吾―?今回のテスト、意味わかんなかったんだけど」
「ん、どの問題?」
亜美が消えても、世界は何事もなく回る。
「征吾さーん、この前借りた小説面白かったです。続きありますか?」
「あぁ、明日持ってくるよ」
「ありがとうございます」
誰がいなくなった、消えてしまった、では、世界は変わらない。
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屋上は好きだ。一番、彼女を思い出せる場所だから。
今日も俺は放課後を一人屋上で過ごしていた。
手の中にあるのは、深紅の石。
彼女が残した、唯一の形あるものかもしれない。
何気なく傾きかけた太陽に石を透かしてみると、中に何か、文字盤のようなものが見えた。
「なんだこれ…」
「時を戻す力が込められているのよ」
突然後ろからかけられた声。声の主は奈子の姿だったが、その瞳の色は澄んだ青だった。
「…魔導士か」
「そうよ、流石聡明な征吾さんですこと」
「相変わらずだな」
「どうも」
そう言って魔導士は俺の横まで歩いてきて、深紅の石を覗きこんだ。
「こういう形だったのね」
「どういう意味だ」
魔導士の言ってる意味が全く分からない。
「彼女、いや魔王といった方が正しいかしら、それが私に封印される前に残した力よ」
腕を組んでため息をつきながら魔導士は続ける。
「魔王も聡明だったから、自分が封印された時のために時間を戻す魔力を込めたものを用意していたらしいの。魔族の誰かに、それを使ってもらうために」
「亜美が残した、力?」
「詳しく言えば違うけど。大体そんな感じね」
「これを使えば、あの時に、」
「戻れるわ」
それは、甘美な誘いだった。でも、俺がそうする方法をすぐ聞くことができなかったのは、
「戻したからって、どうやったら救えるのか解らないんでしょう」
図星だった。俺にはなんの力もないのだから。
「救うためにはどうしたらいいのか、解るのか」
「解るわけないじゃない」
魔導士は即答した。
「私は、魔導士よ?封印した本人が、その相手を救う方法なんて知るわけないわ」
「それはそうだな」
「聞いたことがないわけではないけれど」
そう言って得意そうな顔をする魔導士。少々腹立たしく思った。
「どうやったら」
「お姫様にかかった呪いを解くのは、何処だって、王子様のキスでしょ?」
いたずらっ子のようにほほ笑みながら魔導士が言う。その表情は、とても魅力的なものだった。
「いや、それは、2次元だからこそ成り立つんじゃ」
「さぁ、救う方法が分かったのならさっさと覚悟を決めなさい。私にも時間がないんだから。チャンスは一回。ちゃんと、助けてきなさいよ。大切な人なら」
俺は、石を強く握った。
さぁ、現在を、変えよう――――
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「私だって、助かりたいと思うけど!仕方がないじゃない。だって、あんたには、3人には、生きてもらいたいんだから」
俺の意識が戻った時、目の前には悲しげに叫んでいる亜美の姿。そして、髪飾りが淡く光りだした。
「本当に時間がないみたい」
「お前はさ」
亜美の言葉をさえぎって、俺は続ける。
「世界と自分の命は同じ天秤にかけられないって言ったよな」
亜美は何も言わない。
「でも、天秤にかけるのは、お前じゃなく、俺だ。俺の天秤は、お前の命のほうが重い」
「だからって、もう道は」
ヒステリックに叫ぶ亜美。
「ある、から俺は戻ってきたんだ」
「はぁ、どういう」
それ以上、亜美は言葉を紡ぐことができなかった。
亜美の体は、征吾に包みこまれ、口は、征吾の口でふさがれていた。
亜美が、その行動を理解して目を見開いたと同時に
エンド・ワールドは光に包まれた。
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光が消えた時、そこは学校の屋上だった。
制服に戻った亜美はまだ征吾の腕の中だ。
その頭から、髪飾りが落ち、軽い音を立てて弾んだ後、石が砕け散った。
「……あんた馬鹿なの」
「お前が救えたのなら、馬鹿でもいいや」
俺の目を見据えて最初の言葉を放った亜美だったが、俺の返事にうつむいてしまった。
「え、なに、照れてんの?」
「うっさい馬鹿、しゃべるな馬鹿」
「馬鹿馬鹿いうな!」
「うるさい!いい加減放せ馬鹿!」
そう言って俺を突き飛ばして顔を腕で覆う。
そうした時、屋上のドアが荒々しく開け放たれる音がした。
「亜美っ!」
真っ先に走りこんできたのは、奈子だった。その後ろから光輝も走ってくる。
奈子はそのまま亜美に抱きつく。その勢いに倒れそうになった亜美の体を後ろから軽く支える。
「亜美ぃ…よかったぁ。心配したんだよ!?なんであの時私に相談してくれなかったの!?」
「お前ら、記憶」
「さっきな。そしたら奈子がいきなり屋上に向かって走り出すから…」
光輝はそう言ってから、一度亜美達のほうを見て
「何があったかはよく分からないけど、亜美も、救えたってことか」
俺はその言葉に「あぁ」と短く返した。
「何お前、すっげぇうれしそうな顔してんよ?何々?」
さっきまでもしんみりした雰囲気は何処へやら。光輝は俺をからかい始めた。
どんな表情をしていたか解らない俺は、とりあえず光輝をにらんでおいた。
「征吾」
奈子を慰めていた亜美が俺に声をかける。
「なんだ」
「ありがとね」
そういってふっと笑った顔は、魔王という言葉が似合わないほど輝いていて、
「俺こそ、衝撃的な告白ありがとう」
恥ずかしくなり、そんな言葉を返してしまった。
「え、告白って何ですか、なんですか!亜美、何言ったの、教えて、今すぐ!」
「っ。バーカ!!!」
そう言って亜美が殴りかかってきそうだったので、俺は急いで屋上から逃げ出した。
「はっ、征吾待てよ!俺も気になる!」
そのあとに光輝が続き、亜美、奈子の順で屋上から退場した。
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後ろから走ってくる亜美たちに追いつかれそうになりながらも、俺は幸せを感じるのだった。
Fin.