表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

弟が優秀なせいで!!!

実兄は怖いし王国は静かにお祭りしてます

作者: 今井米 

なっっっっっがいです。

『弟が優秀なせいで王国が荒れそうです』の続編。フォー第四王子視点の話。

読み終わるのに1時間半ほどかかるそうです

「はぁー、困ったわ。また暗殺者よ。これで何人目かしら?」


「12人目ですね。最近は『丼鼠(ドブネズミ)』と、『毒手』。『不可視』に『百目』、『石槍』と名前持ちが続いていますけど、フォー様何かしたんですか?名前持ち(ネームド)に狙われるなんて一生に一度ですよ。」


そりゃあ狙われたら死んでいるからね。死んでんのにもう一回依頼だす奴といないでしょ。いないわよね?死んでも狙われる奴なんていたらごめん。


「それに何かしたとしてもこの人数に恨まれることはしていないわよ。」


一週間でまさかの12人。信じられる?12人って二桁超えているんですけど。私は一応王族で、しかも中立派を謳っているのに何故か命を狙ってくるのよ。しかも一晩で二人づつ換算。


何故私が狙われなければいけないのか。甚だ疑問よ。


ていうか前も思ったけど警吏仕事しなさいよ。ホイホイ暗殺者の侵入許してんじゃないわよ。



「はぁー。」


「世界一不幸な女みたいなうっぜぇ溜息ついてますけど、そんな顔しても無駄ですよ?明日の予定は変えませんよ?」


「ああ、一日に四人もの人間と一対一で話し合わなければいけないなんて。。。。。私はなんて可哀そうなのかしら。。。」


「うわぁ。。。自分のことそんな風に言う奴本当にいるんですね。。」


うっさい。


王とは、どれだけ面倒なことがあっても次の日には何事もないかのように強く、雄々しく振る舞わなければならない。どんなときにも絶望に挫けず、心は折れず、信念を曲げず、態度は強く、意思を貫く。


王族である私にもそれは要求されている。ほんっとうにイヤーな職業よねー。


その代わりに莫大な財産と権利が貰える。だから下民堕ちするよりかはよっぽど王族の方が良い。


王族なら栄養不足で死ぬことは無いし、丸腰のまま理不尽に襲われたり、対応できないような脅威によって全てが奪われることはまずない。


だからいくら憂鬱でも私は王子であることを辞めることはない。

でも王子という王族らしい振る舞いには適切な休息が必要なのである。


「てなわけでお休みなさいシェード。私はぐっすり寝るから後片付けお願いしますね。」


「フォー様!?私に死骸の処理をしろと!このか弱いレディーに!?」


「影がそんなこと言わないでよ。給料弾むし、お茶会の菓子を貴方にあげるから、ほら頑張って頑張って。私は貴方を信じてるわ」


美しい桜が咲き乱れるこの季節。だが王国は悲惨な状態にあった。


貴族は毎晩刺客を放ち放たれ、食客を雇って身を守っては血濡れた栄光に追い縋る。あるのは只の空っぽな王座のみ。座っている王は何も知らない。末息子が現れればこの争いは瞬く間に終わると信じているから。


水面下の長い長い戦には何も気付けない。彼が思うよりずっと前から争いは続いていて、それ故に誰もが引っ込みつかない状態になっている。


もう失った血が大きすぎて笑顔で流せない。同胞の無念を晴らさなければ顔向けできない。仇討ちを暴力の理由にしてしまって止まらない。水底に沈んだ夥しい骨は、否応なしに争いへと駆り立てる。


水面は静かで、波一つ立っていないのに。グルグルと荒々しい渦が水中で唸り、骨を削り、血を呑み込み、意地と復讐を産む。うねりはもう収まらない。私にできるのはただただ災害が過ぎるのを静かに待つのみだ。。。


私の名前はフォー王子。他国では第二王女と呼ばれる身分。しかしここ王国では第四王子という名称でよばれている。兄上(ワーン)姉上(ツー)のように鳥肌が立つような恥ずかしい通り名は無いが、無名という程ではない。。。筈。多分。



「聴いているのかフォー?」


そう、目の前のツー姉上のような『姫騎士』なんていう寒い名前は私には無い。


・・・あったら全力で握り潰してやろう。うん、兄上のような我儘が許されるのなら私のも許されるはず。寧ろ許されない理由がないね。王も快諾してくれる。


「聴いているのかと言っているんだフォー。」


「勿論聞いておりますよ姉上。ワーン兄上ではなく、ファイーブを王に推すのでしょう?」


今まで何百回も聞いてきましたから。耳に胼胝(たこ)ができちゃうよ。それにしても今ファイーブは11歳だけど分かってます?


「そうだ。兄上(ワーン)のことは父上から聞いているだろう?兄上の仕事が遅いせいで業務に差し障りが出ている。兄上のミスで王国が弱っていくなど言語道断。兄上しか子がいないのならまだしも、ファイーブのような聡い子が王国にはいる。父上だって賛同しているんだ。ならあの子を王にするべきだと思わんか。」


「そういう捉え方もできますねえ。如何せん私は学が無いもので断言はできませんが、姉上のいう言葉に今のところ瑕疵は見当たらないかと。」


『学が無い』という言葉に反応して姉上の顔がぴしりと罅が入ったかのように歪んでいく。そして青く、赤く。怒りと屈辱、悔恨、劣等感という様々な感情が姉上の顔を彩り、同時に陰りを作る。そういう顔するなら王治論をきちんと履修すれば良かったのに。私ですら頑張って取ったのに。


「あらどうしました姉上?なにか具合が悪いように見えますが。」


「い、いや何でもない。」


なんでもない、ね。ワーン兄上の時に見せるあの勇ましい顔はどこにいったのやら。ワーン兄上以外にはこのような苦悶の表情を浮かべるとは彼も思わないでしょうね。ははは、無様な顔ですことよ。めっちゃスカッとする。


「それで?ワーン第一王子の即位に反対な理由は分かりましたが、ファイーブを推す理由はなんでしょう?今のところ聡いという理由しか言っていませんが。」


「今まで言ってきただろう!?」


こういう自分の主張を軽視するような言葉を掛けられた後の姉上は腹芸に全く向かないポンコツちゃんになる。姉上マジちょろい。簡単に話を逸らせるから私は姉上のこと大好きです。


「申し訳ありません。何せ忘れやすい性格なもので。もう一度無知な私に教えて頂けませんか?」


「・・・聡いだけではなく、魔法の実力、総魔力量、剣の実力、気稟、全てが兄上を上回る。指導者としての器が兄上とは違うのだ!」


前回と一言一句同じ言葉だ。すごい、オウムさんかな?


「ファイーブは王の為に生まれたようなものだ!本人は乗り気じゃないようだが、アイツを置いて他はいないと私は思っている!」


え、ファイーブは未だ了承していないの?王位継承戦舐めてるのかな。そんな奴を神輿に掲げて、そんなものに私は巻き込まれようとしてるの?絶対いやだわ。断固拒否する!


ファイーブは確かに抜きんでた才能がある。同じ父親を持つのに性格、身体能力、知力、魔力の全てが王家随一を誇る。本当に憎い奴だわ。


けれども彼は未だ11歳。あまりにも。。。精神が幼い。


幼いというのは、何も短絡的とか幼稚とかいうわけじゃない。あのコはただ、人の悪意への理解が無さすぎる。


努力してない奴が努力している人を妬み、憎み、蹴落とそうと躍起になる。実力を上げることには興味がないけれど、足を引っ張ることだけは抜け目ない。他者から賄賂を貰うことを当然のことと信じ込み、自らと違う意見を許せない。厳しい現実を認めず、甘言しか受け入れない。


こんな人間は決して少数じゃない。寧ろ世界はこんな感情を持つ人間で溢れている。



非論理的な拒絶と差別、損害しか生まないと癇癪に嫉妬。実力に伴わないプライドに、脆く傷つきやすい自尊心。非生産的で狂気に駆り立てる同調圧力。これらの理屈で語れない人間の性を、感情を、彼は理解できないし、受け入れることが出来ない。


だってそんな感情は()()()()()()()のだから。


間違っているからそれを悪としてしか捉えられない。そこから先には進まない。彼にはこの歪んだ感情を受け入れる心が未だないから。こういう気持ちは抱いたことがある人間しか理解できないから。


まぁ11歳でそんなことできたら逆に凄いわよね。精神が70とか老獪ならば出来るだろうけど、11歳にそんな心がある訳ない。あったらもう人間じゃないよね。妖怪か悪魔かなんかだよ。


実兄(スリー)みたいに心が捻り曲がった男じゃあるまいし、普通は無理。でもその無理で問違った感情を知ることは、貴族相手には必要不可欠なのだ。何たる矛盾。


「一応聞きますけど、ファイーブの王位継承権は5位ですよ?」


「そうだが、私、お前、あの外道(スリー)は王座に興味がないだろ。ならば実質ファイーブの継承権は2位だ。」


それは暴論、、、なのかな?正しいように聞こえるし、間違っているようにも聞こえる。うーん、分からない。だから議論という名の論破合戦は嫌なのだ。


言いようで真偽の尺度が曖昧になる。詭弁が事実になり、真実が幻になる。頭こんがらがっちゃう。


「姉上のその主張を受け入れたとして。それでも2位ですよ?1位じゃありません。それは理解しておいでで?生まれもワーン第一王子の方に利がありますし。。。。」


兄上の母上は帝国のハイスペック完璧姫。対してファイーブは父上が私情で手を出した庶民との子供だからね、出生で兄上の方に利がある。まあ要は父上屑で死ねばいいのに、て話。


私の発言に大いに傷つきましたと言わんばかりに椅子から勢いよく立ち上がる姉上。その弾みで椅子に罅が入るが大丈夫。今日は壊されない様に高級品はしまってあるのだ。流石私、準備バッチシ。


「お前までそういうことを言うのか!」


「妹にお前て言わないでください。あと指をささないで下さい。」


「そういう慣習にも私はウンザリなのだ。」


慣習じゃねえです。礼儀です。他人に敬意を払えって意味ですよ。リスペクトですよ。騎士団でマナーは習わないの?


「何故生まれで将来が区分されなければならない?何故早く生まれただけで、無能な王を許容しなければならない?なぜ身分で人の価値が決まる?なぜ学力で人の優劣を定めなければならない?」


オイコラ、最後は私情でしょ。自分が勉強してないから言ってるだけでしょう。でも姉上は勉強してないだけで馬鹿じゃないの。


姉上は兄上に散々馬鹿馬鹿言われているけれど、決して勉強が出来ない子じゃない。確かに授業中に棒切れ振り回す様なワンパク女だった。あれは本当に迷惑だった。こっちはか弱き幼女の身であるのに、あんなものぶん回されては危なくて仕方がない。


齢12の頃に騎士団に入団した時は心の底から喝采を上げた記憶があるし。消えてくれてせいせいした。あ、今のナシで。親愛なる姉上が失踪してしまって私は心の底から悲しみました。うん、これでいこう。


そのまま二度と顔を合わせることもないだろうなヨヨヨと実兄(スリー)と泣いていたら、あっさり帰ってきた脳筋ことツー姉上。勉強嫌いで逃げ出した第二王子(あねうえ)


勉強が嫌いだからで騎士団隊長にまでなった阿呆でやべー奴だけど、彼女には勉学の素質があった。


やる気が壊滅的なだけで、勉強が出来ない訳じゃなかった。クソじゃん。私は姉上のこと仲間だと思っていたのに。


このことを知ったのは他の騎士隊長と姉上の会話を聞いた時だ。


知ってた?騎士団だって覚えることが多いのよ?ニ百を超える兵法・陣形に過去の戦争史、敵軍の兵士と味方の兵士の顔を覚えて、兵糧や武器の把握、運搬の指示に30を超える階級に加えて、戦略魔法や流派まで頭に入れなければならない。階級が上がれば書類仕事も増えるし、書式も変わる。


それらを「なんとなく」で覚えきった姉が勉強出来ないとかふざけている。人生舐めてる。人生イージーってか。私なんか徹夜で勉強したのに。やっぱり姉上嫌いだわ。脳味噌奪ってやろうかしら。


「・・・どうして私の頭を見てるんだフォー。」


「姉上禿げればいいのに。」


「唐突すぎるし怖いな!?淑女(レディー)に対して言っていいセリフじゃないぞ!!」


戦々恐々とした顔で私を見る姉上。心なしか頭を庇おうとしている。いや、ガッツリ頭に手を当ててるわ。ごめんね姉上。でもその脳味噌欲しいわ。百エーンゴルで売ってくれない?


「・・・私に何か恨みでもあるのか?」


「ふふふふふ、申し訳ない姉上。ただの冗句のつもりだったのですよ。」


「いやそんな顔じゃなかったしそんな台詞でもなかったろ。」


「ほほほ、御冗談を姉上。」


「・・・・いや冗談じゃないんだが。」


姉上は興味なかったから勉強を辞めた。騎士道に走った。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから兄上(ワーン)に馬鹿にされている。そんな奴が政治を語るのか、と。


姉上はそれに憤慨している。私もだ。勉強できなくったって政治にあれこれ言う権利はある。文句だって要望だって言っていい筈だ。その愚かな民のための政治なのだから、勉強できない民を無視するなんてありえない。


勉強できるからって馬鹿にすんなよ。確かに私はギリギリだったけど!?教師に呆れ顔で合格貰ったけどもそんな私だって政に文句言っていい筈よ!兄上も禿げろ!もげろ!アイツも勉強できる側だから大っ嫌い!できない側の気持ちを考えやがれよこんちくしょう!!


王族なんて大っ嫌いだ!あいつら基本的にスペック高いから凡人以下の人間を理解しないんだ!私みたいに恵まれた環境が無かったら詰んでる人間を分かろうとしないんだ!!


・・・待て、落ち着け私。これでキレて暴れたら実兄(スリー)と同じだ。アイツと一緒になるのだけは嫌だ。よし、落ち着いたな、私。クールだ。クールにいけ。


「それで?ファイーブは未だ王治論や帝王学、経済学などを履修していませんよ?王位の正当性を主張するならあと四年ほど待ちませんと受け入れられないと思いますが。。。」


国王というのは王族だったら誰でもなれるというわけではない。王霊議会で議席を所有する貴族の5分の3以上の支持、かつ王国学園で必要科目を履修して、単位を取る必要がある。


だからファイーブが卒業するまでのあと四年はずっとドロドロの政争が待っていると。地獄か何かですか?実兄(スリー)曰く、組織政争は優秀な人材を生み出すため蟲毒の儀式だって言うけれど、巻き込まれる側はやってられないよ。


でも優秀な人材が生まれないと経済戦争で負けるしね。世界はカスかな?責任者を呼んで作り直させてよ。だから女神とか好きじゃないのよ。


「勉学などいらない!お前は日常業務で経済学を使うか?帝王学や王治論を使うか!いや、使わない!!王に必要なのは学歴でなく素質だ!」


「素質ですかー。」


それもそれでカスですね。素質(才能)ですべて決まるとかある意味残酷。才能無い子は野垂れ死ねということだ。うん、サイッコーに嫌な世界だ。私なんか簡単に死んでしまうわ。


「そうだ!私はそれを騎士団で実感した!必要なのは机上の空論などではない!心だ!」


「さようですかー。」


姉上は兄上に蔑まれながらも騎士隊長にまで上り詰めたからか、勉強不要論を唱えている。勉強しなくても、大切な芯があれば、国民を守ることはできるってね。私も勉強は嫌いだからつい賛同したいんだけどねぇ。でも代わりに中身を見るなんて言われたら一発で退場なのよ。


まぁ、万人に公平な社会なんて実現不可能なのだ。でもそこで考えるのやめてしまったらそれこそ社会は腐敗する。


私達は理想社会という幻想をゴールに、不可能と知りつつもに絶えず歩み続ける必要があるのだ。足を止めれば、満足してしまえば自分が切り捨てた者達の恨みに引きずり込まれるから。それが政治屋というもの。やはり世界はカス。


「それなのにあの俗物は王位に執着してなんとも見苦しいことか!」


「ああ、ワーン兄上の事ですね。」


一見兄上(ワーン)なんか怖くない!ていう態度の姉上だけど兄上の言葉は想像以上に深いコンプレックスを残した。自分は勉強していない、学無しだと嘲笑されてコンニャロウと烈火の如く立腹する気持ちもあるけれど、同時に恥じ入る羞恥心の源にもなっている。どうせどこかの貴族に散々馬鹿にされたんだろう。


姉上に実力で及ばないから陰口や皮肉を言ったていう所だろうだけど、それは姉上にとっては「恥」だと自覚させるには十分だったのだ。


そんなこと気にするなら勉強し直せばいいのに、と思うが兄上に従うようで癪なんだろう。プライドが邪魔して絶対に勉強しない。愚かすぎる。でも気持ちは分かる。




姉上は悪党撲滅を何よりも優先する。貴族とか関係無い、ただ悪を挫く。


悪を挫くほど、自分が正義だと実感できるから。民から感謝される程、自分は間違っていないと実感できるから。正しいから()()()()()()()()と正当化される。


「恥」は恥じゃなくなり、「運命の選択」というおおそれたものになる。


「それにしても前回と一言一句同じ言葉でしかファイーブを推すことができないのは辞めた方がよろしいかと。単調一律な口説き文句は性別問わず飽きられてしまうものです。」


「お前やっぱり覚えているのだな。」


話の腰を折るな愚姉(ぐし)


「しかもその言葉は全て通り一遍。ファイーブを推す者は王霊議会の議席を持っていない者も多く、数で言うならワーン第一王子派が多い。」


ファイーブを推すものは実力が高い潔癖主義者や大物が多い。でも実力が高い潔癖主義者が政に、いや貴族に関わることはないのだ。なんでも汚い世界に嫌気がさして隠居生活よろしく平民として忍んで生きているだとか。


・・・バカなのかな?領地に籠るならまだしも何故平民?平民に憧れているのかな。ならば飢え死にしろよ。平民みたく毎日の食事や収入で悩めや。お前らはただ平民ゴッコ楽しんでるだけでしょ。


「スリー第三王子の派閥もいるにはいますが、スリーは兄上(ワーン)派閥ですし、私はそういう闘争には不干渉です。」


「クソ、私の派閥は政治から離れている者ばかりだ。」


ファイーブ派閥もね。


そんな奴が王を決める議会に出れるわけが無い。貴族はその議席を手に入れる為に権謀術数を巡らせてきたのだ。濁水を受け付けない人間は決してそこには座れない。


賢者も例外ではなく、権力闘争に巻き込まれることを嫌った彼は王国の爵位を蹴ってずっと『迷いの森』で過ごしていた。


そんな彼が議会に参加できるわけもなく。。。。ていうのが普通だんだけど。


あろうことか父王が裏技使いやがった。今は王の護衛として議会に参加して意見している。


なんで護衛が口出ししているんだよボケと思うけど、王が許可しているし、賢者怖いしだれも言えない。ビビりかよと思うけど、私が議員の立場なら同じことするわ。だって目付けられたくないもん。


賢者は影長と一緒で人外だから。勝てるわけないの。災害に巻き込まれるぐらいならある程度の理不尽は呑み込む。


でもやっぱりそれだけなのだ。どんだけ裏技使おうと、多数決の前では無力。ファイーブの支持者が増える訳じゃない。


そう、ファイーブの信者の発言は確かに重い。重さだけで言えば国王に並ぶものだっている。その最たる例は先ほどの賢者だろう。でもそれは正しくて、強くて、輝いているから重い。


弱くて、濁水の中で生き延びて、くすんだ生き方をしている凡人にはそれは響かない。


それを認めてしまえば、自分の生き方までもが否定されるようで怖いから。自分がちっぽけで、無力で、矮小な存在だと知ってしまうから。今まで目を背けてきたものを直視することになるから。


「出席者の質で押し通すことも可能かもしれませんが、それだと姉上やファイーブが掲げる()()()()()にはならないかと。」


「ググ!しかし。。」


「今ファイーブを推す人で議会に参加しているのは父王、姉上、賢者様、あとドレイク公爵でしたね。姉上が顔を出せるのは王族としての地位があるからで、賢者は父王のお陰。姉上は騎士として云々言いながら、結局は王族の身分を使っているし、賢者は政争に巻き込まれたくないとか言っておきながら今絶賛介入中ですね。」


「そ、それはそうだが。。。」


「そんな裏技使って、やっとファイーブ派閥とワーン兄上派閥は互角。」


「これからファイーブの器に皆気付くはずだ!少しづつ賛同者は増えていくはずだぞ!」


「確かにファイーブが年を取る程彼の派閥は強くなるでしょう。」


だってアイツ優秀ですしね。これから年取ってもっと優秀になるのでしょう?


「だったら!!」


「でもファイーブは王位に乗り気でない。今の派閥は裏技をつかって時間を稼いでいる。それを指摘されないのは父上とドレイク公爵の反感を買いたくないから。姉上と賢者に目を付けられたくないから。それだけの権力と武力で押さえつけている。でもいつ暴発するか分からない。そんな危うい祭りに私に混ざれと?冗談ですわよね?」


たった四人で議会を黙らせているって可笑しいでしょ。しかもそのうち二人は部外者だよ。だからファイーブ派閥は嫌なのよ。常識が崩れる。


「どうぞお帰り下さい姉上。お話はまた今度。」


そんな厄災に私を巻き込むな。私は実兄(スリー)じゃないのよ。




姉上が私の部屋を去ってひと段落と思ったら、外で凄い殺気の応酬が繰り広げられている。やめてくれない?そこ私の部屋の前ですよ?そういうバトル展開は私には要らないのよ。


王城の使用人がビビって逃げてるじゃない。


「シェード、お願いできるかしら?」


「仰せのままに、フォー様。」


シェードに頼んで私は外で睨み合っているだろう二人を宥めさせる。姉上とあそこまで喧嘩腰でいられるのはワーン第一王子だけ。


王族である彼等に意見するのは並の使用人には許されない。私直属のシェードじゃなければ。


シェードは影という王国暗部組織に属する私専用の側近。年は知らない。前まで私と同年代だと思っていたけど、実兄曰くもっと年取っているらしい。その時シェードがすんごい顔で睨んでいたから、触れちゃいけないやつだと思う。


それがデリカシーてやつね。


「ワーン第一王子をお連れしましたフォー様。」


「ありがとうシェード。姉上は?」


「ワーン第一王子とフォー様の面会を告げると去っていきました。後日また話がしたいようです。」


「分かったわ。あとでまた手紙を送るわ。」


この状況で私が第一王子派閥に加わったら、て気が気でないのでしょうね。でも兄上も同じこと思っているから姉上と面会したら兄上も面会しないとだめなのよ。そしたらまた姉上が、、の繰り返し。まさに負の連鎖ね。


シェードに連れられ、室内に入ってきたワーン兄上。あたかも「怒ってます!」と言わんばかりに憤慨した顔。でも怒っていい(それをしていい)のはお前じゃなくて私だからな?


「ふん、あのような王家の恥晒しがまだいるとはな。」


「相変わらず仲が悪いことで。もう少し仲良く出来ないのですか?」


「あんな奴と仲良くだと?冗談にしても笑えんな。」


「さすが『白銀』。仰る言葉がちがいますわぁ~。」


「・・・・お前それは馬鹿にしてないか。」


自分の兄弟にそんな面白い名前があったら嗤うしかないよね。白銀(笑)。



「いえいえ、白銀なんていう大仰な名前を冠していらっしゃる兄上を私は心の底から誇りに思っていますわ。例えそれが自称だとしても。誰かさんが武力を誇る誰かに危機感を抱いて自作した名前を流したのだとしても。」


「お、お前知っていたのか!?」


その顔はウケる。鳩が豆鉄砲を食ったような顔してる。


「一体何のことです?『姫騎士』なんていうものに張り合って自身の名を流布したなんてお腹が痛くなるほど愉快話を私は知るわけがありませんよ。」


「ええい、違う違う!俺はあんな奴に張り合ってなぞいないわ!」


五月蝿いよ。なんで姉上といい兄上といいやたらめったら叫ぶの?私の部屋は演説用じゃないのよ?


「いいじゃないですか『白銀』。かっこいいじゃないですか『白銀』。聖銀を使い蛮族を退ける英雄、名はワーン!!人呼んで『白銀』!!いやあ、婦女子の憧れの的なんてすごいですわ!!」


「本当になぜそこまで知っている!?」


いやー、姉上に張り合うためだけにここまでするなんて尊敬しますよ。

ワーン兄上は姉上を嫌ってる。けどそれは軽蔑と怒りだけじゃない。これもまたコンプレックスの裏返しなんだ。


「天才に張り合うなんて疲れるだけですのに。」


「煩い!」


姉上はおかしい。今の騎士隊長は大体が騎士となって40年のベテラン。戦の経験も、知識も、技能も、武力も、信頼も、40年間の集大成で騎士隊長だ。


その中で姉上だけはほんの6年足らずで就任した。たった6年だ。王族の箱入り娘のたった6年が、歴戦の戦士が座る地位にまで押し上げた。


ありえないし、考えられない。姉上は努力したなんて言っているけれど、その努力の量が、質が、他の何十分の一だということに彼女は一生気付かない。それに気づくことは決して叶わない。彼女の才能がそれをさせない。身分が周りにそれを許さない。


だからスタート地点も何もかもが人とはそもそも違うということに、弟も姉も決して気付かない。


兄上(ワーン)はそのことを、姉上が賢い事を知っている。それだけの知力に加えて、騎士隊長を務めるほど身体能力にも優れていることを当然知っている。


だから悔しくて悔しくて、そして姉上を憎んでいる。自分は誰よりも王になりたくて、誰よりも国民を守りたくて、誰よりも王国を愛しているのに、それだけの才能は無い。血反吐を吐いて、生まれが早くて、身分があって、やっと一つの王座だ。


なのに弟や姉上にはある。軽い努力で、薄っぺらい信念で、王になんかなりたくない癖に、自分より王になる資質が。知性も武力もカリスマも、生まれた時から持っている。


そんな奴が「なりたくないけど仕方がないから王になる」なんて兄上は許せない、彼の20年は決してそれを許容しない。許容できない。彼の20年はそんな軽くない。


姉上は兄上に執着し、兄上もまた姉上に固執する。姉は兄に打ち勝つことで己の逃げを正当化し、兄は姉を打ち負かすことで己が努力を証明したい。互いが互いのコンプレックスなのだ。


だから互いに蛇蝎の如く相手を嫌う。めんどくせー関係なのだ。

私とは関係無いとこでやってくれたらニコニコ笑って観戦するけどね。見る分には面白そうだし。


「それでフォー。そろそろ本題に入ろうか。」


「本題、ですか?」


何も知らねえって顔ですっとぼける私。仕方ない。だって本当に面倒だし。


「そろそろ返事はくれるのだろうな!」


「はて、なんの返事でしょうか?」


すっとぼけ継続。まだいける筈。


「それ50回目だからな!?それをずーと使い続けるなんてお前隠す気ないな!?お前このままはぐらかし続けるつもりだろ!」


「メンタリストかよ。」


「本当に隠す気ないな!!少しは否定しろ!」


「てへぺろ。」


「・・・お前このまま蝙蝠でいる気か?」


ちょっと真面目な顔で話しかけてきたからちょっとだけ真面目に返す。


「いいえ、物見遊山感覚で観戦してます。参戦は決してしませんからご安心を。」


「そうか、ならいい。」


私の返事を聞いて真面目な顔をする兄上。どうやってファイーブ派を崩すか思考しているのだろう。兄上は姉上には劣るけど、やっぱり秀才だ、だからすぐに優れた案を思いつくだろう。


まあ、それを超えるのが姉上達なのだが。


「ああ、でも私だって味方する人はいますよ。その人達を傷つけたら。。」


「文官のことだろう。分かっている。スリーにも口煩く言われている。」


私にだって子飼いがいる。それは文官や使用人、門番など、争いで吹き飛ぶ人間たち。


今の王子の子飼いはそれぞれ特性がある。兄上(ワーン)は貴族、姉上は正義、実兄(スリー)が悪、(ファイーブ)のは高能力。


私の場合はモブ。大きな才能の前には無力で、権力には勝てなくて、どこまでも平凡な子達。争いで一番とばっちりを受ける子達だ。


「有難うございます。」


「ああ、別に俺に害をなす奴らじゃないからな。」


彼等が私に仕える理由は簡単。私が権力から守ってあげるから。あの子達は拭けば飛ぶような身分で、争いの余波で一番人生が狂わされる子達。


「それと苦情も来てますよ。執務を口喧嘩で中断しないで欲しいそうですよ。」


「・・・あ、ああ。善処する。」


そんな子達を守って中立を保っていたらドンドン増えて今では王城での最大勢力になっていた。


それと執務の最終段階を担うのは兄上や父王だけど、そこまでの過程は殆ど私の子飼いが担っているからね。結構力ある。その代わり目を付けられて飛ばされるから最終手段だけど。まあ抑止力としては十分あるよ。


「それと怒って扉を叩かないこと、剣を地面に引き摺って床を傷つけること、足音が大きいこと、魔力を漏らして周囲に威圧していること、食事中に喧嘩する時間が長いから料理を運ぶタイミング側が分からない、だそうです。それから次に執務室における態度ですが。。。。」


「結構あるな!?」


皆言えないだけで不満が募っているのよ。


兄上との話を終えた私は、昼飯を取る。実兄(スリー)のような高級品を好むわけじゃないけど、私だって王族に相応しい手の込んだ高級な料理が好きだ。


やっぱり金がかかると素材の味が違う。平民街の屋台料理みたいなパンチの聞いた料理が食べたくなる時もあるけど、毎日食べるならやっぱりこっちが良い。


「シェード、午後の来客が誰かしら?」


「ファイーブ王子とスリー王子ですね。ファイーブ王子とは午後のお茶会で、スリー王子とは夜の会食で一緒になります。」


「そう。」


二人とも何故食事時にくるのだろう。そういう所はそっくりよね。


ファイーブは友人3人を連れてきた。いや、別にいいんだけどさ。前もって言って貰わないと用意する紅茶やお菓子が足りなくなるんだけど。


「姉上、お茶会に誘って頂きありがとうございます。」


「畏まらなくていいのよファイーブ。私が貴方とお話したくて招待したのだし。」


ファイーブは私の金髪蒼目とは真逆の蒼髪金眼。見ててチカチカするけど、私も同じようなものだから文句は言わない。


ファイーブは父王は南方地方の視察に行ったときに見初めた踊り子に孕ませた赤ん坊だ。父王のこういうとこ大嫌い。


ファイーブは所謂天才ってやつ。少ない努力で訓練、勉強、魔法全てにおいてトップクラスを誇る。


クローバー農法とか、石灰を蒔くことで土壌が中和なんちゃらなんやら見たことも無いこと言って国内の食糧問題を解決したし、借金の制度を改革し、市場独占に対して異議を唱えて商売の平等を図り、人身売買組織を潰し、災害を喚き散らしていた第弐級風精霊を手懐けて、国内を跋扈していた毒蛇盗賊団を討伐したとかなんだとか。


今は学園に通っていて、聖剣を抜いたんだって。


相変わらず頭おかしいね。なによ聖剣て。しかも学園300年の歴史を傷つけるような実は聖剣偽物でした事件。何してくれてるの?文官が悲鳴上げてたよ?


「それで聖剣の作り手を探しに裏山に進んでいたら、(やしろ)があったんです!!」


「あらそうなの。」


そんなのねーよ。学園の裏山にそんなんあったらとっくに調べてるわよ。


「そこには守人の殻ゴーレムがいて、試合で勝てば案内してくれる場所なんです!」


「殻ゴーレムと言えば古代の汎用性戦闘兵ね。良く勝てたわね。」


選ばれし者にしか使えないとかクソ場所じゃん。しかも相手は古代の殺戮マシーン。誰もが安心・安全に使えない施設は欠陥品だって知らないの?


「え?獄炎と凍土の合成刀を見せたら通してもらえましたよ?」


「うんそれを使えるのは貴方だけだからね。」


「そんな、コツさえ掴めば簡単ですよ。」


「いや、普通の人はまずコツを掴む段階にすら立てないからね?」


両方とも炎と氷の極式魔術ね。使えるのは国でもほんの一握りの人間のみ。そして反属性のそれらを合成。そういう神業をいとも何でもないかのように言うから周りからのやっかみを買うっていうのに。


「それで?社には私達も行けるのかしら?」



「難しいかと。どうやら雪巫女であるスノーと反応して開く亜空間に繋がっておりまして。」


「成程、血族証門ね。」


「そこでこの偽聖剣を作った人と会ったのです!」


そうか。そんなことより雪巫女を連れて行けば入れるのかな?


「雪巫女、確かドレイク家のご息女よね。貴女のことかしら?」


「はい。お初にお目にかかりますフォー王子。ドレイク家が長女、スノーで御座います。」


スノー=ドレイク。ファイーブを支える貴族の中で唯一王霊議会の議席を持つドレイク公爵の愛娘。なんかファイーブがドレイク公爵の奥さんの病気を治したんだっけ?それで仲が良いらしい。


雪巫女とは北方地方の雪龍と共存していた一族の中でも波長に優れた者のこと。雪龍と想いを交わすことができて、巫女の始祖と雪龍はマブダチだったとか。


丁度200年程前に王国の一部となり、今に至るって感じだったはず。


そして実兄(スリー)はこの子の家に莫大な額の借金を負わせたんだった。なんでそういうことするの?そしてファイーブはS級モンスターを狩って借金を返した。アンタも何してんのかな?


二人とも大概おかしいと思う私は変なのかな。頼むから二人とも常識の範囲内で戦ってほしい。生態系とか他人の人生とかを巻き込まないで欲しい。


「そして実は学園に刺さっていた偽聖剣は勇者を探すためでは無く、雪巫女の為の法具らしく、スノーが触ると第二形態、第三形態へとモデルチェンジするのです!」


「へ、へー。」


話が始祖時代にまで遡るなんて私の手に負えるものじゃないわね。


それもちゃんと報告したんだよね?シェードが何それ聞いてないみたいな顔してるけどシェードがハブられているだけよね?いやそれも嫌だけども。でもまさか報告してないとかないよね?


因みに第五形態まであるらしい。いらねえわそんな機能。報連相機能とかないの?それか問題児絶対監視するモードとか。


「初代勇者と共に旅立った雪巫女様の祭具で、今の所有者はスノーになっています!」


それ国宝なんだけどなぁ。雪巫女しか扱えないなら許されると思うけど、報告はしてよね。


その後教会の聖女と聖闘祭に出るとか、エルフの王女と一緒に精霊の儀を行ったとか色々話してくれた。内容についてはツッコまない。シェードがきっと何とかしてくれるだろう。


「それと姉上、見て頂きたいものがあります」


「あら、何でしょう?」


ファイーブが鞄から連れ出したのは狐系魔獣のような見た目の生物。普通の狐系と違うのは尻尾の数。ファイーブが今抱えている狐は尾が4つ程ある。それ害ないよね?後そういうのも前もって言ってね。


「あらカワイイ。どうしたのそれ?」


「見てください、この子は学園で拾ったコンです!『惑わしの森』で拾いました!」


『惑わしの森』?たしか幻獣九尾を盟主とした学園附属の大森林。

・・・いやそいつ幻獣の子供では?かわいいけども。でも幻獣だよね?


「その子は何の魔物かしら?」


「コンはコンです!姉上も撫でてみて下さい!」


ファイーブて馬鹿なのかな、て時々思うわ。何で聞いたのか一切理解してない。

触るけどね。モフモフだし。


「ぎゃううう!!ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん!!ぎゃいいいい!!ぎゃんぎゃん!!グルルルル!!」


「・・・・」


そっと頭を撫でようとしたら、狐に滅茶苦茶睨まれた。親の仇のように私を見て、唸り、騒ぐ狐。まるで私を警戒しているみたい。なぜ?しかも鳴き方犬みたいだ。


「あの、その普段は大人しいのですけど。」


「失礼。」


そう言ってシェードは私の肩を掴んで私を狐から遠ざける。何よそれまるで私が原因みたいに。。。。


「くーん。ワンワン!」


ファイーブに甘える獣。とても可愛らしい。

一歩近づく私。


「ぎゃううう!!ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん!!ぎゃいいいい!!ぎゃんぎゃん!!グルルルル!!」


「・・・・」


スッ。(一方後ろに下がる)


「くーん。ワンワン!」


甘える獣。


サッ(一歩近づく私。)


「ぎゃううう!!ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん!!ぎゃいいいい!!ぎゃんぎゃん!!グルルルル!!」


「・・・・」


周囲に居たたまれない空気が流れる。ファイーブはどうしようこの空気って顔してるわ。分かる。本来ならキャッキャして狐を撫でる筈だったもんね。今は和やかな空気とは程遠い。


何でよ。私のどこが怖いのよ。


「・・・・姉上。その、あの。。。」


「なんだい愚弟。」


「愚弟!?いや、その、なんていうか。。。」


「不敬罪」


「「「「!!!」」」」


「冗談よ。」


「「「「「ホッ」」」」」


ねえそれどういう意味?本当に私がすると思ったの?ねえシェード?なんで貴女もそちらにいるの?


「別に、動物に嫌われてもいいですし。ただの動物ですもの。ええ、別にこれっぽちも、全く、全然悲しんでいませんわ。獣にも相性があるのでしょうしね。私とは少し合わない部分が合ったのでしょう。ええ、きっとそうでしょう。だからちっとも辛くないわ。」


思えば幼い頃から動物に嫌われてきた気がする。私が何かしたのだろうか。逆にあの実兄はあんな汚い心なのに動物に好かれている。あれ、なんか目から汗がでてきた。


「・・・・姉上。」


「フォー様。。。」


「なによ?いいわよ貴方達で私の向こうで遊んできても。ええ、いいわ。主人をほっぽるシェードも、姉を置いて、ペットと遊ぼうとする愚弟にも、これっぽちも思う所は無いわ。」


「あ、姉上。。。。」


なによその可哀そうな者を見る憐憫の眼差しは?寂しくないって言っているでしょう!?


「ぎゃううう!!ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん!!ぎゃいいいい!!ぎゃんぎゃん!!グルルルル!!」


・・・・コイツマジで空気読まねえな。私近づいていないのに何故吼える?

というかお前はちゃんと家出の許可取ってるのでしょうね!?迷子とかだったらお前のママが王国滅ぼしに来るからから帰ってくれないかな!?


「あの、私フォー様とお話したいことがあるのですわ。」


「私?」



そんなことを思っていたらエルフの王女が声を掛けてきた。珍しいね、君達ファイーブしか目に映っていないと思っていた。


「まあ、ファイーブは少し私と離れて、私の代わりにシェードとお話しといて。。。。」


流石に私を無視することはできないけれど、キャンキャン吼える獣を傍に置くわけにはいかない。

だから傍観してた側近のシェードを私の代わりにファイーブと話しをさせる。他にも理由はあるけど。


「ほら、貴方達も。ファイーブの友人でしょう?あの子の傍について行ってあげなさい。」


「「は、はい!!」」


残りのファイーブ大好きガール3人衆、雪巫女ちゃんと聖女ちゃんはファイーブの傍にいることを選んだようだ。でも私に返事する時怯えていたのなんで?ねえ、何で?




ファイーブは生れが複雑だから王城内では親しい奴少ないし、今は立場的に敬遠されがち。友人が少ないアイツに友達が出来るなんて素晴らしいことだ。。


と思っていた時期が私にもありましたよ。



・・・アイツの友人て、この王女と、王国公爵家の雪巫女ちゃんと、教会から攫ってきた聖女ちゃんだけなんだよね。しかも全員ファイーブへの好感度が激高。


男の友人ゼロなのなんでだろうね。まさかこの年で父王みたくハーレム築くのかな。そうしたら私絶対許さんよ?


父王は子育てと女関係だけはカスなのよね。他は平凡。まあ王家基準だから十分なんだけど。祖父王が可愛がりすぎたのよ。もうちょっと厳しく鍛えて欲しかった。


そんな風に思いながら雑談を交わす私。誰と?エルフの国の王女とよ。なぜかって?ファイーブに向こう行けって言ったら彼女が私に話しかけてきたのよ。あれ、これさっき言ったわよね?


「そんな時にファイーブが私を助けてくれたのですわ!『困っている淑女を助けるのは常識なんですよ』って言ってくれて!そん時に胸がキュッとして!」


「あらあら、ファイーブも粋な事するじゃない。」


「それでそれで、その時ファイーブは『エリンは僕がずっと守る!』て言ってくれたのですわ!その時の私はもう嬉しさで胸が一杯でしたわ!」


「まあまあ!王女様にそんなこと言うなんてあの子もかっこつけちゃって!」


で今恋バナしてる。なんてことは無い。この娘ファイーブより先に私を味方につけてファイーブとの婚縁を取りもって貰おうって腹だ。あったまいいー。


いや良くないわ。逆に私に嫌われたりしたらお先真っ暗だし、それに技量もまだまだ未熟。私に目的が気付かれるよう程お粗末な腹芸を作戦に組み込むなんて阿呆なの?それとも自分が策士だとか思っているのかしら。


「私の目が変らしくて、それで学園でいじめられていた時も私の為に決闘を申し込んでくれたり」


「それでそれで?」


「決闘で勝利した後、『星の瞳を恥じる必要は無い』と言ってくれたり。」


「まあロマンチックね!」


いやこれロマンチックか?まあいいか。


「他にも学園祭でこのネックレス、自作で『ユグドラシル』ていうらしく、これを首にかけてもらったり。。」


「それは嬉しいわねー。」


「技名を一緒に考えたりして、『獄炎凍土』も私の名づけですのよ!」


「凄いわ!他には他には?」


ただ話のネタが最高に面白かった。人がテンションマックスの時に言う恥ずかしいセリフ聞くのっていいわよね。ニマニマしてしまう。それに何より煽りのネタになるっていうのが良い。


ファイーブに聞こえないために音遮結界を張りながら話してくれたネタは有効に使わせてもらおう。


「確かファイーブのお気に入りは『世界樹の懺悔』ですわね!」


「だから貴方に『ユグドラシル』なんて言う名前のネックレスを贈ったのね!」


こうして楽しい女子会トークは30分ほど続いた。滅茶苦茶いいネタ仕入れたわ。

それにしても。。。。。


「ねえ、確か貴方の国は今戦争中よね?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「はい!あの憎き穢れと土埃の卑劣な猛攻に耐え、同胞は「そういうのはいらないわ。」。。。え?」


「そういうのは要らないのよ。」



エルフの国はダークエルフとドワーフと戦争中だ。いわゆる三つ巴。互いに殺気MAXで殺し合っている。奴隷商でさえも彼の三種族を同じ檻には入れない。延々と殺し合い始めるからね。質が下がっちゃう。


戦争の理由は知らない。いつだって戦争の理由はそんなものだ。重いようで軽くて、複雑なようで単純な理由から戦は始まる。一度始まると失ったものを取り返そうと必死に藻搔いて、奪って、奪われて。どんどん泥沼に嵌っていく。


皆がそれを不毛だとしりつつも、もう抜け出せない。知識として知っていても、感情が抜け出すことを許さない。


「私が言いたいのはその争いを絶対に持ち込むなって話よ。」


「へ?それは一体どういう、」


「そのまんまの意味。お前らの諍いに、どんな事情があろうと王国が巻き込まれることは許さない。」


「でも正義は私達に。。。」


「何かあったら報復としてお前らを消すために私は殲滅軍を放ち、エルフ占領に全身全霊で励む。」


「な!?」


「ファイーブ個人までなら許す。愚弟を個人的に、王国に一切関係ない形で貴女に連れていくことまでは許すわ。」


「ファイーブは王族ですわよ!?そんなこと不可能ですわ!!」


だからそういう意味で(巻き込むな)いってんだよ。分かれよ。


「そして、もしも、もしもの話よ。貴女が王国民にその穢れた戦火を持ち込んだ時、王国を巻き込んだ時貴女は絶対に殺すわ。」


「な!?」


脅迫の材料はちゃーんと調べてある。私の影は優秀なのよ。


「貴方の幼馴染モーノも、その恋人ジーも、母トーリも、父テトーラも、叔母ペーンタも、妹ヘーキサも、弟ヘプータも、兄オクータも、姉ノーナも、乳母デーカも、全員奴隷商に愛玩動物として売り飛ばすわ。」


「そ、それは私への宣戦布告と捉えますわよ!正式に貴国に訴えますわ!」


「ご自由にどうぞ。でも王国で私に裁判で勝てるとは思わないようにね。」


貴方が勝訴できるわけないでしょ。王国裁判は私に味方するに決まってるし、その前にエルフが王国を紛争に巻き込もうと暗躍してるて訴えるわ。


と勝ち誇ったことを考えていたのが悪かったのだろうか、この娘何か魔術編んでいるぞ!?室内でぶっ飛ばす気?頭の中蛆虫湧いてない?


「この、凡人が調子に乗って後悔しますわよ!」


いいからはやく撃てよ。今の間でお前7発は殴れたぞ。


「『上式火術:エンブレム・フ『沈黙(サイレンス)』。。。。!!!!』」


そして残念。魔術は発動しない。『中式無術:沈黙(サイレンス)』。兄上が、裏稼業が好む超狭域魔法。強制的に口を閉めさせるというシンプルな効果。当然声も音も出せない。


それにしても凡人、かあ。


「全くもって私は凡人だわ。中式までしか短縮できないし、貴女に比べれば路端の石ころね。」


「・・・・!!」


でも私が勝っている。相手は私を舐めすぎたんだ。


王女の上式火術を詠唱省略を可能にする実力には目を(みは)るものがあるけれど、それでも私には詠唱破棄がある。愚弟の無詠唱みたいな馬鹿げた才能は無いけれど、これぐらいは出来る。


「今は私が優勢ね。ふふふ、手加減してくれたの?確かに弱かったものね貴女。」


「・・・・!!!」


おお、キレてるキレてる。馬鹿にされて怒っているのねー?確かに貴方の得意魔術と性格の情報、そして私の無術との相性が無かったら危なかったかもね。まぁ、情報があれば対処できる程度だったというわけだけど。


ましてやここは王城。王族血統者の能力値は僅かに上昇する。


「驕るなよ森の民。ここは王城だぞ?ここで一番強いのは王族だ。(マナ)に愛されたお前ら(エルフ)じゃないんだよ。」


「・・・・・!!!」


睨めども喋れない。怒れども喋れない。怯えども喋れない。それが沈黙(サイレンス)。相手に強いるは沈黙のみ。


「もう一度言うわよ?お前が戦火をこちに持ち込めば、幼馴染モーノと母トーリはダークエルフに売り飛ばし、恋人ジーと叔母ペーンタはドワーフに送り、父テトーラと乳母デーカは魔領で競りにかけ、妹ヘーキサと姉ノーナは王国の屑共の夜伽として売り払い、弟ヘプータと兄オクータは獣国にて飼われることになる。」


ギリリッと唇を硬く噛みしめる王女。睨みつけても無駄。そんなんじゃ私は怯まない。


(おの)が行動に、覚悟を持ってくれるわよね?」


「・・・・。」


「私はさ、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


これは本当。宣言通りにしないと舐められるから絶対に実現させる。同じ理由でおいそれと宣言なんてしないけど。


王女サマは助けを求めようと愚弟を見るも、叶わない。援軍を出させるなんてそんなヘマやらかすと思うか?今シェードが死角に誘導し、雪巫女と談笑しているんだ。アイツの位置から貴方は決して見えないよ。


「なーんってね。冗談よ。ファイーブと仲良くしてあげてね?」


「・・・・・・・・・」


「いいわよね?」


「・・・・・はい。」


すねちゃってカッワイイー。




あの後何事も無くファイーブ達を帰した私は、夕食の手配のチェックをしている。次に会う実兄(スリー)は愚弟のように参加者を増やす様な真似はしないと思うけど、一応確認の手紙を送る。


アイツは結構面倒臭い性格してるから、料理も気を使っている。なるべく贅沢な食事が好きだから、今日の夕食は宝石豚のローストビーフに、雷鶏の丸焼きなどだ。総額でざっと100万エーンゴルはする。笑えねえ値段だわ。だからファイーブや姉上に嫌われるのよ。


「ねえ、シェード。他に今のうちに済むような報告はある?」


「そうですね。使用人や料理人から汚くするのは辞めて欲しいと言われています。」


「?」


何を言っているのかな?


「つまり、毒殺や伏兵を心配するあまり、せっかく調理して盛りつけた料理をぐちゃぐちゃにして毒の有無をチェックしたり、暗殺者を警戒して掃除してセットした家具をその場で散らかすような真似はあまりいい気はしないのだということですね。」


「成程ね。確かにそれはいい思いしないわね。」


でもそれは仕方がないような気がするわね。私だって何回も命狙われているし、命には代えられない。でもプライド持って遂行している仕事を台無しにされるのも嫌よね。


「・・・どうしようもないわね。」


「ええ。どちらが間違っているというわけでもありませんし。彼等もそれを知っているので、ある程度は許容するようですよ。」


そういう事ね。知っていて損はしない情報で、私にとっては手の出しようのない問題ね。いい暇つぶしにはなったわ。


「そろそろ時間です。」


「そうね。兄上は時間を守る人だから、もう外で待機しているんじゃないかしら。」


「そーですか。」


シェードはあまり兄上のことを好ましく思っていない。私に若作りがバラされて、実年齢を知っていて、シャドーウをあんな風にした人間だからだ。


シャドーウは兄上の元側近で、影の人間なのだけれど兄上に色々秘密がばらされて、ショックのあまり茫然自失。今はもう影長に連れて行かれたとか。今頃研究として解剖でもされているんじゃないかな。


「兄上が約束を守るなんて意外かしら?」


「いえ、単に興味が無かっただけです。」


嘘つけ。


別にシェードとシャドーウが懇意にしていたというわけでも無い。彼女は純粋にシャドーウを騙して、かつ彼にバレずに情報を入手した兄上が怖くて仕方がないのだ。


分かりみが深い。影って厳しい訓練を積んで、耐え抜いたエリートなのよね。そんな奴を出し抜くってそんな奴友達に欲しくない。でもアイツは私の兄なの。切ろうと思っても切れない縁がある。


「兄上のことがまだ苦手なの?」


「そうですけど何か?あの方は危険です。きっと今日も心中でどうやってフォー様を陥れるか画策しているに違いありません。」


「違うわ!兄上は優しい人よ。。。。て否定できたらしたいけど、思っている可能性は高いわね。」


「君達は俺のことどう思っているの?悪魔か何かかな?」


あれま。実兄来てるじゃない。


「勝手に入ってくるなんて無礼ですよ兄上。礼儀はどこへやったのですか?」


「いや何回もノックしたのに開けてくれなかったじゃん。何かあったのかなって思うでしょ。」


「嘘つかないでください。」


「いや嘘じゃないよ!?フォー達さっきから俺への当たりキツイよ!?」


兄上は才能と言えるものが無い。長兄程の鍛えた器もなければ、姉上のように無謀なことに身を投げ込む考えなしの度胸もない。弟のように圧倒的な才能もない。


でも兄上が一番の異常者だ。王族内で兄上だけは敵に回したくない。だから警戒は決して怠らない。


「それと兄上はシェードに近づかないで頂けます?貴方レディーの年齢を勝手にバラしやがったじゃないですか。」


「年齢じゃなくて、秘術の影響で見た目とは違うよってことを伝えただけでしょ。」


「そこが駄目なんですよ腐れ外道が。」


「おい!?兄ちゃんに対してそういうの言わないでくれるかな!?」


彼は一言で言うなら歪な愛だ。もっと簡単に言うなら愛を愛してるんだ。


愛を愛しているならキューピットだけど、アレが愛してるのは恋愛だけじゃない。性愛、欲愛、渇愛、親愛、慈愛、仁愛、鍾愛、共愛、敬愛、博愛、恵愛、信愛、遺愛、恩愛、情愛、神愛、偏愛、溺愛、隣人愛、自己愛、友愛(フィリア)、アガペー、エーロス、ストルゲー。憎しみに隠された愛だって愛してる。


だから愛を発する存在を愛してる。人を、世界を、全てをひっくるめて愛している。だってそれには美しい愛があるから。


・・・・それはこじつけじゃね?て思った人。私もそう思う。でも実兄の中ではその理論が正義なんだ。破綻した理論が正しいんだ。兎に角愛が、そして愛を発する存在を愛しているって訳。


何が自分の好きな愛を発しているかなんて分かる訳ない。だからアイツが愛する存在はポンポン変わる。さっきまで味方だったのに次の日には敵なんてザラにある。確かに嫌いだわそんな奴。


そんな歪な形であるからこそ、ありようも(ゆが)んでいる。


マフィアの狡猾で残忍な悪意、暗殺ギルドの洗練された怜悧な殺意、商人の清濁併せ呑む果てなき欲望に、娼館の自身をも巻き込んだ破滅的な抗い、影の無機質で純粋な忠誠心。それら全てを彼は愛し、その全てを備えているのが兄上だ。


彼らのクソッタレな生き様を肯定するための腐った自愛。反吐が出そうな世界を色付ける慈愛。依存することでしか自我を保てない狂愛。実兄は世界を色付ける愛を何より好むのだ。


というらしいけど何言ってんのか分からないから取り合えず距離を取っている。誰か翻訳頼むわ。


けど流石に今日みたいな重要な話し合いではそんなこと言えない。妹は辛いね。


「それで何か新しい事はありますか?」


「特には無いね。でもマフィアと騎士団のいざこざは起きている。幸いなことに死者数は1桁だよ。」


死者数が出てる時点で大惨事では?やはり認識の違いを実感するよ。キチがいと常識人じゃ感性が相いれないのよ。


「何か失礼な事考えてない?」


「いいえ、全く。他にはありませんか?」


「確か暗殺ギルドからは王族の首の値段が下がったとかで、狙われる頻度は減ると思う。その代わり貴族を狙った依頼が増えている。娼館からは喧嘩とか死者数は増えているけど、治安は未だ変わっていないって。マフィアには引き続き言い含めているし、暗殺ギルドと影に治安維持を頼んでいるから、数週間は大丈夫じゃないかな。」


「そうですか。騎士団の方はどうですか?」


「子飼いの子たちによると、マフィア掃討てとこまで行っていない。それよりも俺とか兄上(ワーン)の悪事を血眼になって探しているって。」


「その方達の情報は信用できますの?」


「嘘ついたら収賄と予算横流し、あと功績の水増しをバラしてから将来お前の子供を自殺に追い込むからなって言っているから多分大丈夫。ある程度の地位を持っている奴が一番恐れている脅迫文句だからね。」


こういう嫌がらせをしれっと思いつくのが兄上なのよね。


兄上は悪意の中でこそ輝く。悪意の中で心地よく眠り、憎悪の中でこそ力を発揮する。人の醜さを愛している。悪意と醜さと憎しみの中でこそ、愛は強く、一等星のように輝くから。


性根が腐れ曲がっているってことね。子飼いの口説き文句が嫌だというけど、あれは大分的を得ている。兄上は破滅主義者で混沌信者で、刹那的な享楽狂だ。


破滅の中で瞬間的に燃え上がる愛が見たくて見たくて仕方がないのだ。


酸いも甘いも噛み分けるなんてどころじゃない。全てを噛みしめ楽しんでいる。そこからまだ見ぬ愛の発掘を求めて。それも愛だと(うそぶ)いて。その為の対価が自分の命だとしても決して厭わない。


だって普通裏切り者を傍らに置かないもの。しかも影よ?プロフェッショナル・オブ・暗部よ?殺しも工作もスパイも兼ねるやべー奴よ。そんな奴に悟られぬまま傍に置くなんて技術的にも精神的にも不可能だわ。


「フォーは何かないの?」


「使用人から王族の態度に対しての苦言が少々。」


「へえ、どんなの?」


「食事中に怒鳴らない、床を傷つけない、せめて修復できる程度の傷に収めること。部屋を散らかさない、執務を口喧嘩で中断しない。」


「ははは、申し訳ないね。」


「まあ、次から改善すればいいのではないですか。そこまで気に病む必要はないかと。」


「そう? じゃあちゃんと謝れてえらいね、ってほめて」


「・・・・・ちょっと黙ってくれません?まだ苦情はあるのですよ。」


「ごめんなさい。」


ていうかコイツいつ謝ったっけ?謝ってないのにあんなこと言うとか図太すぎる。



「八つ当たりで備品を壊さない、毒見とは言え行儀よく食べて欲しい。それと各王子の評判を態々聞いてくるのは辞めて欲しい、それと城壁を伝って登るのは辞めて欲しい、まあそんなところです。」


「最後のは誰!?城壁登っている王族いるの!?」


王族はそもそも無断で城を出ない。いや、出れないと言うべきか。本人は無断で出ているように思っているようだが、それが許されないほどの価格(コスト)をかけて育てたのに、監視が目を離す訳がなのだ。


だから外に出たければ、そこら辺の暗闇に行ってきますって言えばいい。だいたいそこに監視はいる。見えなくてもいる。それが監視ガチ勢のなせる業。ストーカーにならないことを祈ろう。


そしてそれをしないってことは。。。。


「ファイーブだと思われます。バレない様にしている、というコッソリ城から出たり入ったりしていますよ。」


「コッソリの手段がそれって。買収とか脅迫とかで目を瞑ってもらうとかあるだろ。。。」


おい。なんでそうなる。普通に頼めばいいでしょうが。


こんな性格の兄上を縛っているのが王族という血鎖と、良心。七大罪の感情しかない様な兄上には、七美徳もきちんとある。それを霞ませるほどの混沌とした悪意への愛があるから見えにくいが、良心は確かにある。



その善意が、僅かな良心が、人を傷つけることを拒んでいる。だから彼は王位を望まない。自力で届くとこまでしか愛を伸ばさない。手を伸ばすことで失われる命が多すぎるから。王位を手にしたら悲惨な未来しか王国には待っていないから。


よくやった実兄の良心。


そして王国の守護者としての立場と血が、彼を地獄から退けている。影長とポーカーで命を賭けるような男だ。命の価値は軽い。自分だけじゃなく、他人すらも軽い。愛の比率が圧倒的に重い。


そんな性格でも、血が国民を巻き込むことを許さない。王族の責務が国民の悲哀を許さない。


だから国の安寧を願って王族内で一番仕事をしているのは兄上(スリー)だったりする。


この良心と王族という責務が無ければ実兄は『悲食』のような世代級の悪魔になっていただろう。アイツ知っている?まず初めに殺し合いさせるんだ。悲しみの先に到達した人間は何よりも美しいからだって。


宇宙人かな?言語がきっと違うのよ。


実兄のような存在がいるから私は平和を愛する。母が、恋人が、稚児が戦を求めようと私は何が何でも平和を優先する。



それを害する者は例え神でも切り刻んでやる。



「フォー何か顔怖いよ?にっこり笑いなよ。」


「それはセクハラですよ。」


「はい!?それそういう意味だっけ!?」


「冗談です。」


セクハラは何かファイーブが作った言葉だ。意味は良く知らないけど、性別に関してデリカシーのない発言に対して良く言っている。アイツの頭の中どうなっているんだろ?


「それで文官からの報告は?」


「取り合えず王霊議会の回数を減らしたいファイーブ派閥と増やしたいワーン派閥が争っているだとか。」


「それでそれで?」


「それぞれの派閥の貴族が文官に干渉してきています。ある程度は突っぱねているのですが、中には笑えない提案もありますね。」


「人質で脅迫とか?」


なぜ分かる。やはり同類じゃないか。


「そうですね。あと家族が病床に臥していて、その治療費を肩代わりしてあげるとかそういうモノもありますね。」


「あるあるだねー。」


あるあるじゃないよ。普通に暮らしていればそんな状況にはならない。同じ城に住んでいて何でここまで常識が違うのかな?


「これがそれをした兄上(ワーン)派閥の貴族のリストですね。」


「ファイーブ派閥の分は?」


「ちゃんと姉上に渡してますよ。分かっていると思いますけど改善しなかったら、」


「分かっているからその顔やめて!?怖いから!!フォーは普通の言葉なのに威圧感が出るのは何とかした方が良いよ!?」


それは失敬。でも日常会話で威圧感が出るとかどうしろって言うのよ。


「それと経費、というか貴族間でのお金の流れが早いですね。何千万という金が毎日動いています。」


貴族は兎に角金がかかる。パーティーも、ドレスも、食事も使用人も、平民とは比べ物にならない量の金がかかる。まあその分収入が大きいのだけど。


だから他の貴族と親交を深めるだけで金が飛ぶし、それを毎日行っている貴族なんかは今年は赤字なんじゃないかな?流石に貯蓄があると思うけど。それに今ここで親睦を深めて色々コネを作っとかないと後で不利益を被るからね、仕方がない。


「そういう家にお金を貸して、傘下に入れているのが兄上(ワーン)の派閥だね。」


「その常套手段で雪巫女のドレイク家に行ったらファイーブが借金返したんでしたっけ?」


「あれは仕方ないよ。S級モンスターを狩るなんて発想俺には無かったし。」


まず狩ることが不可能だからね。S級て国全体で取り掛かるレベルなのね。頼むから常識を知って欲しいよ。


「それでまあ、執務も治安もまだ耐えられるっていう状況ですかね。」


「そうだね。治安に関して言うなら、貴族間での暗殺襲撃が相次いでいるから騎士団もそっちで忙しくて、今はマフィアと争う余裕がないってさ。」


「だから兄上達の不正を見張っていると?」


成程。暗殺案件に人手を割くために、より少ない人間で対処できる方を選んだのか。


「まあ、王都全部のマフィアを監視するよりは僕らを監視する方がまだましだからね。執務の方は大丈夫なの?」


「文官への交渉条件があの程度でしたらまだ私で対処できますから。文官と宰相が消えない限り執務は滞りなく進みますわ。」


「父王と兄上(ワーン)は?ずっと喧嘩してるけど執務に影響は出ないの?」


「いてもいなくても大して変わりませんので。判子押す係は第一王妃がいますし。」


判子押す人っていうのは最高責任者だ。書類を確認するだけではなく、予算のバランスや、各部署の軋轢を考える必要があるから包括的な政務知識が必要で、選ばれし者しかなれない。けど王国には父王、第一王子、第一王妃、第二王妃、あと宰相がいるから二人ぐらい喧嘩で消えても差し障りは無いの。


まあ居た方がいいのだけど。それに必死に仕事している間に上司はただ喧嘩しているだけとかだったら不満は貯まる。私だったら殴っている。勿論グーでだ。


「それより教会と帝国の動きはどうなっていますの?」


「帝国はまだ大丈夫。第一王妃様がいるから王国に直接的な被害は出ていない。でも新兵器かなんかの開発中だってさ。『人工英雄計画』とかなんか名前だよ。」


「もう名前で内容もヤバさも伝わるわりますね。」


「そうだね。本当に英雄が何百もいたら泣くよ。騎士団じゃ絶対に勝てない。」


英雄、ていうのは、要は野良勇者ね。影長とか賢者とか人外に両足突っ込んだ人の事。教会が女神の加護が与えられている、て認めると正式に勇者になるの。これだけで英雄は絶望モノっていう事に気付いて欲しい。しかもそれを人為的に作り出す計画をしていると。何百じゃなくても私は嫌だ。


「どうするので?」


「今は放置、ていうか何がしたいのか分からないから工作員を沢山放り込んでいるだけ。」


「それでいいのですか?甘くありませんか?」


実兄にしては随分生温い。もっと妨害とかすると思ってた。


「そうだね、王国に宣戦布告した瞬間にそこらで暴れて、最後に要人を巻き込んだ自爆。それを隠れ蓑に影が帝国上層部を仕留めるって感じのシナリオしか無いかな。あとクーデター勢力に武器を流しているからそれもいい感じに火つけてくれるといいなーて。そういう楽観的な作戦しか今は無いよ。」


全く甘くなかった。初手陽動&暗殺で上層部一斉処分とか性質悪すぎる。しかも内紛の準備もしてるし。帝国は戦争を決心した瞬間に自国の洗浄を始めないといけないのか。


こういう悪意の塊みたいな作戦が良く思いつくなあ。シェードも絶句してるよ。


「流石兄上です。」


「お、見直してくれた?」


「ええ、兄じゃなければ二度と会いたくないレベルです。」


「ちょっと?それ誉めてないってことぐらい分かるよ?」


逆にそれしか分からないのヤバくない?シェードの顔見なよ。影に嫌悪感丸出しの表情させるとかよっぽどの屑野郎だよ。


「それで教会は?」


「教会はファイーブの殺害と、聖女奪還を狙っているね。十二使徒の何人かが来るよ。」


い、いやすぎる。教会は女神の為に云々で命を簡単に消費するから面倒臭いんだ。大体自爆か禁術で死後も発動する巻き添え食らわしてくるから、被害が甚大になるの。そんな教会の中で狂信者と名高い奴らが王国に来るなんて。


「それは、極秘裏にですか?それとも正式に王国に来ますの?」


「両方だよ。極秘裏に2人、正式な外交として1人くる。」


「え。それはどう対処するので?」


「外交は兄上達に任せるとして、俺等は極秘裏の二人を監視かな。まず見つけ出さなきゃだけどね!ハハハハハ!!問題が山積みだよ。」


「うーん。忙しくなりますね。」


いつ来るか分からない信者を探せと。踏み絵とか作ればいいかな。


「ちなみにその情報はどうやって手に入れたので?」


「ん?十二使徒の一人を寝返らせたからだよ?そうじゃないとここまで正確な情報は手に入れれないよ。」


はい!?狂信者を裏切らせた!?


アイツ等って神の為にとかほざいて老若男女問わず大虐殺して、殉教とか言って盛大に周囲を巻き込んで自爆するような奴らでしょ!?そんな奴をどうやって!?


「頑張った。」


何それ怖い。


「第何席なのですか?」


「五席。かなり苦労したよ。」


苦労したで普通は済まない。こういう非常識なことするのマジで辞めて欲しいわ。


「それにしても、五席ですか。。。十二席の中で五席ってかなり優秀な駒では?」


第五席の十二使徒は『権謀紡ぎ』とか言う名前で、たしか頭を使う武闘派の筈。温厚派とか言われているけど狂信者だからその説は無視するとして、武力以外の用途があるならかなり便利。


「かなり優秀。でも全て言いなりって訳じゃないね。納得した指示にしか従わないよ。」


「それはそれは。でも十二使徒襲来の情報を教えてくれるってことはその基準はかなり低いですわね。」


信徒虐殺とかじゃない限り殆どの要望は聞いてくれるのでは?ああ、でも今回の使徒の件だって相手の正確な素性や日時は教えてくれなかったことを見るに情報筒抜け丸儲けってわけではなさそうね。


「そうだね。ていうかフォーは何回か会っているよ?」


え!?狂信者と会っていたなんてショック。塩蒔かないと。お守りとかもつけよう。


「取り合えず用件は伝えたから。フォーも教会と帝国関係には気を付けなよ。」


いやアンタじゃあるまいし問題は起こしませんよ。


それにしても。。。。


実兄と会って得た事:これからもっと忙しくなるね!!

最悪。他の3人の中で一番憂鬱な情報持ってきやがって。



「だから兄上は嫌いなのよ。」


「いやどれも俺のせいじゃないよね!?」



これがわたしの一日。国外の懸念は山積み。それに追われる私。国内では未だ止む気配一向に見えない王位継承戦。毎日が繊細な人間関係で構築され、いつ破滅に向かうか分からない。






世の中には、平和を嫌う人が一定数いる。



平和よりもスリルある戦争が好きなな人もいるだろう。



私はべつに、そういう人がいても構わない。



好みなんて人の自由だし、それを取り締まる権利も義務も私には無い。



「やっぱり許さない!!私の平和愛が嫌だなんて死んでも償えない罪だわ!」



「・・・なんの話ですかフォー様?」



まあ聞いてくださいよ。さっきまで私は寝ていたの。面倒な4人と面会して、疲れたからいつもよりちょっと早めに寝床に入ったの。


で、次に目を覚ましたら黒ずくめの暗殺者がいた。その後ろにもう一人。合わせて2人だ。私、絶体絶命のピンチ。と思ったらシェードが一人を縛り上げた。やるじゃん。でも私に近い方を対処して欲しかったかな!


暗殺者と目が合った。と思ったらもう斧を振りかぶっている!?

殺意しか無いなコイツ!?


「ハイ!!」


「ウギャア!!」


速攻で体を縦にずらし、目を潰して金的蹴り上げて、その間に練り上げた無術で喉突き刺した。あ、喉を突き刺したのはシェードね。始めの二発は私だけど。コイツ私に戦わせるとか側近失格じゃない?


「でもフォー様を起こしたのは私ですよ。」


そうだけども。そうだけどもね。私を完璧にスマートに守ってくれないかな?貴方影でしょ?人外の部下なのだから頑張ってよ。


「いやぁ、結構硬そうな相手でして。完全な隙を見せるまで放っておいたのですよ。」


「そう?隙だらけだったけど。」


「いや、平和を愛するお姫様が初手目潰しとか普通思いませんよ。しかも鼓膜破れてますし。・・・何したんですか?」


「自動音波結界『オルカルカ』よ。侵入者を自動で迎撃。必要魔力も少ないし、何より探知しにくいの。殺傷力は皆無だけど、耳の神経系がズタズタに切り裂かれるから痛いわよ。」


「却ってえげつないですね。」


こういう悪意が滲み出ている魔法は実兄が教えてくれた。笑えないわ。何が笑えないってこれ殺す威力無いから製造許可があっさり降りるの。アイツの部屋こういう武器ばっかりで、簡単に死なないけど大体心が壊れる。だから嫌われるんだよね。私も嫌い。


『ポヨポヨ』なんかは、足首だけを熱波と水圧で破裂させる極悪魔道具よ。なんでそういう発想に至るんだか。。。。


「それで、これは誰?」


「名前は『夜斧』ですね。どこかのお抱え殺し屋なのでギルドでの顔認証判別は難しいかと。しかし殺しの手口から確定ですね。夜寝ている相手に斧でバッサリ行く奴です。」


なぜ斧?


暗殺者って変なとこで拘りあるよね。糸しいか使わないとか、毒しか使わないとか。寝ているならナイフでも毒でもいけるでしょ。そのお陰で助かったから良いけど。でもやっぱり寝室にまで忍び込めたのなら重たい斧なんかじゃなくて絞殺とかでいいと思うわ。


それにしてもシェードってばやけにハキハキ答えるわね。始めから分かっていたみたいに。。。あ。


「まさか殺しの手口見る為にギリギリまで助けに来なかったの?」


つまり後ろで傍観していた暗殺者を最初に縛り上げたのは観察の邪魔にならないための排除?じっくり殺しの手口を観察して『夜斧』と判別するため?


「ええ、そうですが何か?」


「そうですかじゃないわよ!助けれたなら早く助けなさいよ!」


「途中で撃退してもそれが『夜斧』か判断できないじゃないですか!馬鹿なんですか!」


まさかの逆切れ!?コイツ側近ていう自覚絶対ないよね。


影は暗部だけど、実際は影長の実験台なの。影長が強くなるために、必要な魔法とか効率の良い訓練をヒラ影員に試しているの。ここで影長達は性能しか見ないからメンタルヘルスとかカウンセリングという概念が無いの。だからこういうぶっ壊れた奴が出来る。


頑張ればシェード千人分の仕事ができる影長にとっては王国守るのにシェードとか要らないのよ。同様の理由で気に掛ける理由も無い。だから人の心を慮るとかしないし、ちょっと性格破綻していてもスルーする。


それでもシェードはましな方だって言うから驚きだわ。


「それで貴方は誰なの?」


私はもう片方の暗殺者に声を掛ける。始めにシェードが縛り上げた方だ。私に斧振りかざした方はシェードが首貫いたから死んじゃっている。南無。私を殺そうとした剛毅な者よ。どうか()()()()()()死んでくれ。


「ひぃ!ロ、ローズでしゅ!」


何と女の子だった。こっちが私を襲い掛かってきていたら、金的蹴っても意味無かったわ。ありがとう『夜斧』君。始めに襲ってきてくれて。お陰でちゃんと君を殺せたよ。


「ローズね。それで貴方達を雇ったのは誰かしら?」


「ええと。。。」


「何よ?」


「実はその人と私の雇い主はいないです。」


へぇ?偶然同じ日の夜に同じ時間帯で同じ部屋で暗殺者が足を引っ張らずに殺しを働きに来たと?私情で?それが真実なら私は臍でお茶を沸かせるわ。


「シェード?」


「はい!5分もあれば素直に喋らせることが出来ます!ぜひお任せください!」


流石影。生き生きしてる。出来れば今すぐ性格直してほしい。これが私の側近てどうなのよ。私平和主義者で評判なのに。


「本当なんです!雇い主()いないんです!信じてください!」


なおも懇願するローズちゃん。白々しいわねぇ。


「暗殺者のいう事を信じろと?どう思いますよシェードさん。」


「そうですねフォー王子。臍で茶を沸かす方が遥かに容易かと。」


それ私もさっき思った事だわ。

・・・・私の感性ってもしかしてシェードと同レベル?それは嫌かな。


「本当なんです!貴方は賭けの対象だったんです!」


「賭け?」


「はい!侯爵達が、どの暗殺者がフォー王子を殺せるかっていう賭けを行っていたんです!」


え、ショック。何でそんなことしているの?私って皆に愛されるプリンセスのつもりだったんだけど。というか私殺して何になるのよ。賭けなら素直にサイコロでも振ってなさいよ。


「それで本当は誰に雇われたの?」


「まさか信じてない!?こんなに必死になって喋っているのに!?」


当たり前でしょ。さっきも言ったけど私殺す賭けなんてあり得ないでしょ。私を殺して得るメリットなんて無いし、今みたいにバレてしまったら自分の地位が吹っ飛ぶわよ。


「シス子爵、トランス子爵、メソ子爵、キラル伯爵、アキラル伯爵、エナンチオマー侯爵の主催する宴なんですよ!そこで誰が貴方を殺せるか賭けが合ったんです!」


「そ、そっか。ヘー。いい宴ね。それはどこであったの?貴方の夢の中?」


「全然信じてないじゃないですか!!本当にあったんです!!」


「「はいはい。」」


そんな宴ある訳ないじゃない。今の王国の内情でそんな阿呆なことしてる奴いたらとっくに淘汰されているわ。というかエナンチオマー侯爵しか聞き覚えがないし。


あ、エナンチオマー侯爵って父王のマブダチじゃん。・・・面倒くせー人間引っ張り出しやがって。


「本当ですよ!!」


ここまで来て嘘を貫こうとするのか。逆に凄いわねコイツ。

・・・何かワクワクしてきたわ。このまま尋問を続けましょう。


「じゃあ暗殺者は全部で何人いるの?教えてくれる?」


「は、はい!確か『丼鼠(ドブネズミ)』と、『毒手』。『不可視』に『百目』、『石槍』です!」


人数を聞いたのにまさかの人名だけの返答!?コイツ話聞かねえな!?


・・・聞き覚えのある名前があると思ったら、先週から連チャンで来てる暗殺者たちがいるじゃない。これはもしかして本当にあったりするのか?ていうかここんとこそんな馬鹿な宴に振り回されていたなんてそっちの方が憂鬱ね。



「・・・5人だけ?」


「はい!後『夜斧』先輩と私がいますけど、本命は皆あの5人で選んでます!」


5人て本命というのかしら。というか『夜斧』なんていう名前つけられているのに本命じゃないのかよ。いかつい名前のくせして雑魚め。


「で、貴女はどうしてきたの?」


「はい!本命の皆が帰ってこないから勝ち確だって『夜斧』先輩が出発しちゃったんです!私一人だけ何もしない訳にはいかないので『夜斧』先輩についていったんですよ!」


「本命じゃない奴が勝ち確だって思ったの?返り討ちに遭う可能性の方が高いでしょ。」


「えと、その、、先輩は、、、、、チョビーットだけ自分が世界の中心だと思い込んでいる節があるというか、、、そういう性格の人なんです。」


暗殺者が世界の中心なんてとんだ世紀末よ。そんなこと本気で信じるなんてコイツの脳細胞仕事しているのかしら?


「それで貴方は『夜斧』(アレ)の後輩だから付いていったの?なんで?好きなの?」


「違います!」


即答。うん、ごめんね。軽い冗談のつもりだったのよ。恋バナがしたい年なのよ。


「闇カジノに無理矢理出場させられたんです!熟練の暗殺者が全滅して、残り先輩一人だけだったら賭けが盛り上がらないって!!だから『夜斧』さんと競い合っている的な雰囲気を出すために駆り出されたんです!そうしないとお給料0だって言われたんです!!」


何そのカジノ。王族()殺せなんて大層な命令出しておきながらみみっちい八百長をしてんのか。それも本命じゃない人間を使うなんて。人手足りてないじゃない。


しかもそれを半人前の給料没収を餌に補ったとか阿呆なの?


というか今の話を聞く限り貴方を雇った人は闇カジノの人間よね?なんでいないなんて言ったのかしら。どーにもこの娘の話はちぐはぐというか、支離滅裂な印象を受けるわね。


取り合えず一通り聞き終えた私はローズちゃんにお礼を告げる。真偽はともかく面白い話だったわ。


「ペラペラ話してくれて良い子ね。じゃあ今からちゃんと拷問するね。」


「そ、そんな!信じてください!嘘じゃないです!何でも言います!カジノの場所も、顧客も、手口も!馬車馬のように働きますし、奴隷でもいいです!だから痛いことはしないで!」


「そうね、思いっきり痛いのにしましょうね。」


「そうですねフォー様。」


「話聞いてました!?」


「でも拷問は相手の嫌がることをするものだし。」


「なんで王子がそんな血生臭いことを言うのですか!?もっと私を信じてください!」


「うーん、でもねぇ。ハッキリ言って怪しいのよ貴方。シェードもそう思わない?」


「まあ、王子暗殺までも賭け事にするようなイカレ賭博場なんて聞いたことありませんしね。でまかせだと思う方が妥当ですね。」


だよね。影の情報網から逃れられる程の存在がいるわけないだろうし。ましてやこんなお粗末な計画しか立てれないなんて組織ができるとは思わないよね。。。


「そんな!?せめて公平な裁判を!」


「王族狙った人間はマッハで拷問していいって王国裁憲12条5項に載っているのよ。だから裁判通しても結果は一緒ね。やったね!裁判通しても結果は一緒よ!」


「そんな!?じゃあどうすれば。。。」


こいつ暗殺者というよりそこら辺のゴロツキよね。今までの暗殺者は私に殺されるか自決するかどっちかだったんだけど。こいつは速攻で命乞い始めたわね。


でも雇い主は隠した。意味分かんない話を喋って。しかし雇い主はその意味分かんない話から推測できるっと。なーんか変な子よね。まあ後で聞けばわかるか。


早速拷問に取り掛かろうとしたらシェードが後ろから私の袖を引っ張った。服が伸びるから辞めて欲しいわ。


「フォー様、フォー様。」


「なーにシェード?」


「そいつの顔見てみて下さい。」


そいつ?ああ『夜斧』のことのね。


シェードに言われるがままに素手で黒布を剝ぎとり、その中にある顔面を覗くとなんとビックリ。



そこにあったのはギラギラした熱意を放つ紅眼。細かく手入れされた髪。色は吸い込まれそうな黒。姫のような高貴な雰囲気と荒ぶる意思を感じさせる顔だち。



姉上だった。



そんな馬鹿な。まさか姉上が『夜斧』だなんて。。。


・・・いやないわ。可笑しいでしょ。姉上が命じて部下が来たなら兎も角、姉上が自分の得物以外で態々来るなんて。しかも寝込みを襲うなんて姉上らしくない。


いや、私が姉上の何を知ってんだ、て言われたら何の反論も出来ないけど。けど少なくても股間蹴り上げて悶絶する人では無いわ。


「その顔はマスクですよ。剥いで見てください。」


成程ね。かぶりものだって当然分かっていましたよ?本当よ?


シェードに言われた通りに顔に手を当てて、皮を剥ぐ。すると、中から男の顔が現れた。


・・・ごめん。理解が追い付かないや。


状況を整理しよう。『夜斧』という暗殺者は男。だけど姉上の顔をした覆面を付けて、その上に黒布で顔を覆ていた。なにがしたいの?私への嫌がらせかなにか?


ローズちゃんもびっくりしてる。


「そういえば聞いたことがあります。」


シェードが唐突に何か語り始めたんだけど!?

ローズちゃんもびっくりしてる(本日二度目)。


「・・・いやどうでもいいのだけど。」


「ある不幸な少年の話です。」


「あの私の話聞いている?」


「彼は幼き頃から貧民街で暮らし、母と妹とともに毎日貧困に苦しみながら暮らしていました。」


「私主君よ?聞けよ。」


「ある日彼の母は殺され、妹は人攫いのグループに連れて行かれました。」


コイツ。。。。全く話聞きやしない。マイペースすぎるでしょ。


「途方に暮れ、大切なものを奪われて絶望した彼は、そのまま毎晩毎晩夜の街を彷徨い続けました。」


「そんなある日のこと、彼はとある少女と出会いました。」


「それは若き頃の『姫騎士』です。」


「そこからなんやかんやあって『姫騎士』は人攫いを成敗し、妹を助けました。」


ちょっと!?いい所で端折らないでよ!!


「そこで彼は思いました。『そうだ、暗殺者になろう』。」


「「ええ!?」」


ローズちゃんと声がハモってしまった。ていうか貴方も聞いていたのね。分かるわ。ちょっと気になるよね。なんで暗殺者?てなるわよね。そこをシェードは端折ったけど。


「彼女の道を妨げる人間を片っ端から排除することで、『姫騎士』が孤高で清らかな存在であり続けて欲しい。みたいな理由です。」


「ごめん何言っているか分からない。」


「『姫騎士』を裏から守るダークヒーロー気取っているよ、なぜなら彼女が好きすぎるから、でどうですか?」


「ああ、それなら分かります!」


元気いっぱいに叫ぶローズちゃん。


うん、私は分からないよ。

えと、何?こいつは姉上に憧れたから姉上と同じ顔にしようとしているの?得物とか言動とかは何も変えていないのに?


で暗殺者なのは姉上の行いを陰から支える為、と。


・・・無茶苦茶じゃないコイツ。


国内にもやばい狂信者がいるのね。これじゃ教会のことを笑えないわ。


あの後ローズちゃんに闇カジノの場所を案内してもらった。



そこにはカジノは存在しなかった。けどエナンチオマー侯爵が暗殺者たちに色々仕掛けさせたのは本当らしい。動機は簡単。姉上に中々協力しない私に腹を立てていたからだって。『夜斧』はエナンチオマー侯爵の専属暗殺者で一緒に姉上の狂信者していたらしい。怖っ。


では何故ローズは私にカジノだなんて言ったのか?


なんてことは無い。見栄張って言っただけだ。まあ、見栄を張りたい気持ちは分かるよ、うん。自分が大きな会社に属しているて自慢したいもんね。誰だってそういう気持ちを持つものよ。



・・・という理由ではなく。単純にそういう設定(闇カジノ)で洗脳教育していたらしい。


ローズは自分で言っていた通り半人前のペーペー。そういう奴には本当のことを教えずそういう設定(闇カジノ)で暗殺術を教え込ませる。そこから徐々に教えを刷り込ませて『姫騎士教』の信者にさせるのが彼らの常套手段。ローズの言っていた他の貴族は当然存在しない。他の暗殺者が変装しただけだってさ。


でそんな悪魔的に迷惑な彼等だが、姉上との蜜月を袖にしている私に逆切れして暗殺者を派遣。なお嫉妬が9割ぐらいの理由。マジ迷惑な奴らよ。


しかし優秀な私 (のシェード)が悉く返り討ちにして作戦は失敗。


焦った彼らに実は一番強い『夜斧』自らが出陣。お供として連れられたのがローズ。


なぜ悉く失敗しているのに、足手まといを連れて行くの!?馬鹿なの!?と思ったそこのアナタ!

そうなの。イカレているだけじゃなくて頭も悪いカルト集団なのよね。


ということを姉上に話した。王宮謁見の場で、だ。姉上だけに話そうとしたら姉上にここに連れられた。私はただ騎士団と懇意にしている侯爵貴族の不正を伝えに来ただけなのに。解せぬ。


あ、そういえば父王の親友だっけ?どうでも良すぎて忘れてしまったわ。


始めは信じようとしなかった皆だけれど『夜斧』君のホラーマスクを見せたら話を聞いてくれた。私だったらあんなマスク見せられたら速攻で逃げるけどね。なぜ彼らは見ても逃げないんだろう。


で今もその説明を続けている。報告書を読めぇ。。。。。

全部口頭説明とか地獄かよ。


「そ、そんな。エナンチオマー侯爵が。。。」


「ええ、姉上。お気持ちは分かります。彼は表向きは善人で通っておりましたから。」


「ああ。彼は騎士団の防具や武具も無償で貸し出し、それだけではなく多額の寄付までしてくれた。一切の見返りも求めずにだ。」


いやお前予算割り振られているでしょ。第二王子の職務支持費用が王室から、あと財務から予算があるでしょ?なのに何で金を無断でもらっているの。


それアウトだよ?何も便宜を図っていなくても収賄認定だからね?まあいいや。


「しかし!彼は非道な実験を繰り返し、逆らうものを裏で残虐に処刑し。弱きものから甘い汁を吸い取る悪辣非道な下衆です!」


「証拠はあるのかー!!」


「何ですってぇ?」


「証拠はぁー、あるのかぁー!!」


私の発言に異議を唱えるのは騎士団の財務係。騎士団がどれだけエナンチオマー侯爵から金を受理しているか報告するため連れてきた人間だ。当然彼は私の傘下よ。


騎士団ってさ。人情とか仁義とか言葉が大好きなんだけど、お役所仕事なクールでドライな対応は大っ嫌いなの。で経理は言うまでも無くドライ。だから騎士団にハブられているのよね。


そこで私の庇護を求めてやってきたのよ。断る理由も無かったし入れてあげたよ。


で、今は私の指示通りに叫んでいる。グッジョブだ。


「ええ、当然です!!そうでなければこのような悲しい行為に私が出る訳がありません!ここに証拠がしかとあります!」


取り出したのは侯爵の日記。


「なぁ、そ、それはなんだぁー!!」


このサクラ下手糞だね。まぁいいや。


「これは、侯爵の悪事が事細かく記された手帳です!彼の惡の手先が為した報告書が挟まっております!」


「な、なんだってー!!」


「本当です!なんなら写しを取って原本を提出しましょうか!」


なんとコイツ等は自分たちのしてきたこと全て記帳して置いてあったのね。暗号とか隠し部屋とかに置いたりもせず堂々と机の上にポンと。


そのまま侯爵の屋敷に押し入った私達はビビり倒したもんよ。だって罠だと思ったし。普通悪事の証拠は隠すでしょ?でも結局罠でも何でもなかった。無駄に怯えさせられて滅茶苦茶腹が立った。



だから改竄したった。やったのは暗殺者を派遣しただけなのに、貧民から金を吸い上げ、孤児に非人道的な実験を繰り返し、暴利を貪る悪徳領主にしてあげた。筆跡?何十ページもその人の文字があれば簡単に真似できるよ。


シェードはね。私は無理。


それにしても良かったねカルト集団達。これで裏切り者の極悪人として姉上の記憶に永遠に残るよ。嬉しいだろうな。きっと地獄でむせび泣いているだろう。


うん、いいことした後は気分がいいね。


この嫌がらせを思いついたのは私じゃない。実兄だ。やっぱりこういう嫌がらせは神がかり的に天才だよねアイツ。本気で縁切りたい。


「それで今エナンチオマー侯爵はどこにいるんだフォー?」


ナイス質問姉上。


「今は私の管轄する仮牢に連れて行き、シェードに尋問させていますね。」


「そうか。ではどうしますか父上?」


「うむ、そうだな。爵位を剥奪したのちに侯爵は牢に縛り付けておこう。いくら親友とは看過できない罪を奴は犯した。」





ちょっとちょっと。



私の平和を脅かして。




それで終わりはないでしょう?






「こいつの肌をやすりで剥げ!脚をナイフで切れ!腕を焼き尽くし、腹を串で刺し込めろ!顔には毒をたんまりとかけ、腹を空かせた魔獣の餌にしろ!飯には自身の脚を咥えさせろ!二度と私を巻き込もうとする奴がでないよう、撤退的にこいつを嬲れ!こいつの妻も、娘も、息子も全て家宝で切り刻め!一族郎党こいつの血が混じった者全てを、こいつと懇意にしていたもの全てを魔法で焼き、こん棒で叩き、フォークで刺し、蜘蛛の糸で天から吊るせ!それが終わるまでこいつを死なせず、甚振り続けろ!!強く、苛烈に、誰もが夢に見るほど残虐に!こいつが死を希うほどに!誰もが(うな)されるような悪夢を見せつけてやりましょう!」


「・・・以上で、王国継承第4位、フォー第四王子の主張を終えさせていただきます。」


そうシェードの締めくくりと共にエナンチオマー侯爵の裁判は終了した。


その後一時間ほどの裁判官の判決を待つのみだ。まあ結果は分かり切っているけどね。


当然全部容認された。つまりは私の要求が全て合法化されたわけだ。

ははは、エルフの王女サマ顔真っ青。私の言ったことに現実味を感じてくれたのかな?


一応言わせてもらいますけども。。。王族狙った奴は慈悲アリで即打首だから。慈悲ナシの拷問しても許されるからね。でも私は、拷問の許可まで裁判を通して得ようとしているの。私偉くない!?ここまでしているの私だけだよ。


理由は当然見せしめだよね。


今回私は何もしてないんだよ。けれど何もしていないだけだと、中立保っていただけだと難癖つけて襲ってくる奴が出てくる。だから今後同じような事するマジキチが来ないようにじっくりゆっくり処刑する様を見せてあげるの。


ふふふふふふふふふふふふふふふふ。


何かワクワクしてきたね。


というわけで、、




フォーの愉快な拷問演舞が、、、




はっじまるよー。




とうぜん、だれも目を反らしちゃだめだよ?






「なんなのだあれは!!」



拷問とその家族を丸ごと()()()()に処刑してやったら父王に怒鳴られた。父王以外にも兄上、姉上、実兄、愚弟、第一王妃と第二王妃もいる。王家勢揃いだ。


父王激おこぷんぷん丸だわ。はははウケる。


「は、父上。平和の礎を築いておりました。」


正直に答えたらもっと怒鳴られた。意味が分からない。


「平和の礎だと?」


「はい。あの処刑により人々はより罪に対して嫌悪感を抱くでしょう。それゆえ彼等は罪を犯さなくなることが期待できます。これはいわば抑止力を生成するための神聖な儀式ですね。」


「ふざけるな!!あれで平和が為されるものか!!あんなものは只の私怨に満ちた悪趣味な私刑ではないか!!」


「はい。その通りですよ。」


「いいや違うあれは私刑だ!・・・・は?」


「父上が御自身の台詞に酔って私の話を聞いていらっしゃらなかったようなので。もう一度言いましょうか?」


皮肉たっぷりに言ってやると顔を真っ赤にした父王はそのまま話をつづけた。


「我が友人を無慈悲にも処刑し、その家族までをも凶悪な手口で殺害した理由は何だ!私刑というなら何の恨みがあってあのようなあ暴挙に出た!」



「いえ、ですから。それが目的なのですよ?」


「は?」



ふむ。どうやら父上と私には認識の齟齬が見られるね。これはいけない。今すぐ修正せねば。


「私の平和を脅かす奴は例え父の友人だろうと、地を這う虫よりも惨めに殺し、その家族を目の前で塵の如く無様に晒し、身に覚えに無い罪を着せられる可能性がある。そしてどれだけ残虐で『私怨に満ちた悪趣味な私刑』であっても裁判で許可されるということを、全貴族に知って頂きたくあのような処刑を行った次第です。」


「・・・・・・」


「そう考えると今回のエナンチオマー侯爵が私を襲ってくれたのは好都合でしたね。父王の親友ですらああなるのだから、そうでない貴族は増々震え上がりますね。」


「・・・・どういう意味だ。」


「彼でなければ、父上の親友でなければ、私が本気だという事が伝わらなかったでしょう。」


「・・・何が言いたい。」


「有難うございます父上。彼と親友でいてくれて私の目的は理想的な形で達成されました。さっすが父上!使()()()友人をお持ちで!」


「ふざけるな!!」


説明責任は十分果たしたはずなのだけれど。これ以上は自分で考えて欲しいよね。



「父上、彼は犯罪者。咎人ですよ?貴族令第3条、『貴族は気高く、そして王家に絶対の中世を誓うべし。』これを彼は破りました。他にも第6条、第11条、第22条を。加えて王国裁憲2条、5条4項。17条8項に照らし合わせるなら私の行ったことは何ら違憲性が無い筈では?それに私は王国裁憲12条5項で保障された権限を、法に忠実な裁判に委ねた。十分父上に配慮していますが?」


勿論そんなことは無い。ていうかあの処刑方法で父上に配慮しているのだったら、エナンチオマーはどれだけの罪深い人間なんだ、て話よ。

けど裁判を通した、ていうのは対外的には誠意を尽くした、と捉えることが出来るのよ。どれだけそう見えなくともね。


「もういい!お前の身分を剥奪する!二度と王家としての名を出すな!」



「無理ですよ。王族の身分剥奪には王霊議会で過半数の同意が必要です。けどその前にまだ決めていない議題があるでしょう?それが終わらない限り次の議題には移れませんよ。」


終わっていない議題とは勿論、王位継承についてだ。

恐らくあと4年はこれが解決することはない。だから私への議題も4年ぐらい先だね、イェイ!


・・・ていうかこんなことで身分剥奪できんよ。どれにも違反していないし、裁判で合法になったんだから。


「それにホラ、一概に死んだとは言えませんよ?」


「なに?」


父上の目に希望の光が灯る。おお、良かった。話を聞いてくれる気になったようね。


「『我々の心の中で生き続けています』ていうでしょう?きっと父上の胸の中で生きてますよ!!つまりエナンチオマー侯爵は生きています!あなたの心の中で!」


「・・・・・・・それを死んだと言うんだよ。」


兄上シッ!そういうのは思っても言わないの!父上が傷ついちゃうでしょうが!



「この平和狂いが!!」


すっごい三下みたいな台詞を吐いた立ち去ったけどそれでいいの?アンタ国王だよね。


それにしても平和狂いか。結構なことだ。寧ろ私への頌辞(しょうじ)である。


平和を愛する。それこそが私への賛辞。正義に狂う姉よりも、王位に狂う兄よりも、愛に狂う実兄よりも、力に狂わされた愚弟よりも、平和に狂う方がずっといい。








冒頭で言ったと思うけど、今週の刺客は12人だった。エナンチオマー侯爵が派遣した分を除くと後7人いるということになる。


・・・なんとか処理しないと



次の日。七人の貴族が死んだ。



風の噂によると自害したらしい。



きっと生きるのに疲れたんだろうね。可哀そうに。あの世でゆっくりお休み。




次の週から私に送られる刺客はいなくなり、文官へ無茶な要求を通す者や、悪質な勧誘をするものはパタリと消えた。



ハッピィーエンドォ!!!



・・・だと良かったよね。



一ヶ月後。母が増えましたマル



今謁見の場にいる私は、唖然としている。実兄も同様の表情を浮かべている。王家は全揃いの中、見慣れぬ、いやいる筈がない少女が一人いるからだ。それも父王の隣に。


父王の隣に立つのは幼い少女。若々しい青葉の様な緑色を仄かに混ぜた茶色の髪に、同じく怯えた翠色の目。


ただ少女と異なるのは緊張の為か頭にピンと張った耳と、服から見えるふさふさの綿毛のような尻尾があること。


「紹介しよう。我が国と正式に同盟を結んだ信仰の証として獣人の国から嫁ぎに来たサーシャだ。我が国は第五王妃として彼女を迎え入れる。」


・・・・は?


いや待てよコイツ。今までの王族で5人も王妃を娶ったのコイツだけだぞ。下半身だけで生きているのか?


「獣国の第六王女、サーシャです。未だ成人していない若輩者ではありますが王妃としての・・・」


しかもこの娘まだ13歳じゃない。私の年下なんだけど。

え、本気?コイツ自分の娘より若い年の人間と結婚しようとしているの?


つい隣の実兄を見ると彼は分かったと言わんばかりに頷き口を開く。


・・・・いや、何が分かったんだろう。私なんの要求もしていないのに



そんな私の困惑を気にもせず、真面目腐った顔で兄上は一言だけ述べる。


「畜生にも発情するとか父上は末期で御座いますな」


兄上!?陛下の前でそれ言っちゃ駄目でしょ!!


「ふふふ。」


おっと笑い声が。誰からでしょう?このような面前ではしたく笑うなんて恥を知りなさい。


おっとなぜ皆さまは私を見るんで?


・・・・はい、笑ったのは私です。ええそうです。笑ったのは私ですが何か?幸せの象徴たる笑いを皆さま槍玉にあげて楽しいですか!?ええ?どうなんです!?


「兄上!姉上!どうしてそのようなことを言うのですか!」


正義漢溢れる弟が私と実兄に食って掛かる。後ろで姉上が満足そうにうんうん頷いている。きっと弟の積極性に感動しているの。何も役に立たない情報ね。因みに兄上(ワーン)は無視している。関わり合いになりたくないんだろう。兄妹の絆って言葉知っているかな?


「人に対してそのような侮辱を吐くなんて。王族以前に人として必要なものが不足していらっしゃるのですか!」


コ、コイツゥ。実兄はともかく私にまでそんなこと言う?実兄と同列に言われているようでショックなんだけど。


最近弟が私への態度が変だ。前はあんなにも友好的だったのに今や刺々しい言動が目立つ。


でさ、分かるよ?この弟が何を言いたいのかも。そりゃあ差別は良くないよ。でも、獣人だよ?『人』じゃなくて『人の形をした獣』なんだよ?貴方は犬猫がイケメンだったらそれと子を成したいと思うの?思わないでしょ。それと一緒よ。


と思ったけど何も言わない。そしたら弟は調子に乗ってまだまだ喋りだす。

絶好調だなコイツ。


「ましてやサーシャ様は獣国と我が国の親交の証!政治的重要な立場にいるお方!その方を畜生などと罵倒するなど王族としての自覚が足りないのではないですか!」


父王がうんうん頷いている。コイツはただ親友が殺された恨みを晴らしたいだけだ。


「うむ、ファイーブの言う通りだ。そのような因習にとらわれた見方は王族に相応しくない。二人とも大いに反省せよ。彼女には王国と獣国双方の架け橋として嫁ぎに来ているのだという事実を今一度噛みしめろ。」


何か口出ししてきたぞ!?しかも偉そうだなコイツ!?

あ、こいつ国王だったわ。忘れてた。


「嘘つけ。そもそも婚姻以外にも架け橋としての方法はあるでしょ。じゃあ何か?王国はこの大陸全ての親交ある国家と婚姻関係があるってことか?」


相変わらずの悪意に満ちた発言の実兄だが、まさにその通り。信仰の証としては国宝を預けるとか、年に一度交流祭を行うとか、様々な方法がある。婚姻だけじゃないのよ。それしか無かったら怖いわ。逆に婚姻だけで親交が結べる人間関係ってなによ。



・・・まあ、サーシャ様は獣人国内で命狙われてから避難しに来た的なオチなんだろうけど。それでも留学とか、色々な方法があるわよね。婚姻は無いわ。


どうしてここまで婚姻を否定しているのかと言うと、父王は女関係だけは屑だからなの。いや、子育てもか。契って、産んで、ハイ次の女性。こればっかりだ。今も王妃以外に数人の愛人がいるし、それだけならいいけどその女が子供産んだらどうするかとか全く考えていないの。


だからそういう『婚姻』には絶対父王の私情が含まれていると確信している。絶対口には出さないけど。


そんな風に思案していたら私の方にギュユリと首を曲げる実兄。キモいなソレ!?


「どう思うフォー?婚姻しか信仰の証にならないのかな?」


「いえいえスリー兄上、もしかした父王には私達には思いつかないような海よりも浅く、山より低い考えがあるやもしれませんよ?」


「なんとそれはそれは!あまりにも浅はかすぎる考えで私のような若輩者には理解できんということか!それなら納得だ。」


「当然ですよ兄上。自分の娘より幼い者を娶るなんてまともな考えを持つ人間じゃあり得ませんよ。」


「「・・・・・」」


ふふふ。


「「はっははははは!!」」


・・・つい父王の前で大爆笑してしまった。

不敬罪に全力でタックルぶちかましている態度だけど、ここまで言われたら父上は安易にサーシャ様と婚姻を結ぶことは出来ない。


それは私達にとっては喜ばしいことだ。


この婚姻はサーシャ様の幸せにはならない。


成人しているなら自己責任じゃ知るかボケェ!て言えるけどさ、そうじゃないような13歳の少女ならある程度は守りたいと思うじゃない?だから婚姻を取り消そうという意図で今実兄と私が発言しているのだ。


サーシャ様。姉上、愚弟は何も分からずポカンとしている。まあ年齢と職種を考えると仕方ないよね。


逆に意味をはっきりと理解している兄上や王妃達はシカトこいている。関わりたくないんだろうね。

まあ今の発言殆ど父王への罵詈雑言だからね。流石に賛同とかできないでしょ。



それでも兄上も第一王妃や第二王妃も今回は私に賛同しているのか窘めるようなことは言わない。



口に出して援護しろよとは思うけど、王妃たちが口出ししたら女の嫉妬とか言われるし、兄上なら今後産まれるかもしれない兄弟に脅かされないかビビっているとか言われるから口出ししないのがこの場ではベストなんだ。


「二人とも、誓ってそのような下心は無い。これは王国と獣国の将来を真剣に考慮した結果なのだ。」


何か父王の口調が柔らかくなったぞ!?さっきまでまるで『唯一無二の親友を無惨に拷問された相手に恨みをぶつける』かのような口調だったのに!


図星だからだね。誤魔化しへたくそかよ。


がここで終わらせる気はない。


「うそでしょ。ふざけているの?」


「まじで考えた結果がそれ。。。?」


「頭大丈夫ですかね?」


本気で考えた結果が結婚とかどこの恋愛小説やねん。現実見ろや。



とまぁ、国王に中々失礼な口きいている私達だけど、婚姻に反対している理由は父上の女癖の悪さだけじゃない。


ここで話はちょっと脇道に逸れる。


今まで冗談みたいな風に言っているけど、獣人は本当に人ではないんだ。いや、人ではあるんだけどね。でも人とは分類できないの。未だ研究が進んでいないから、今は人とは別次元の生き物と考えるのが妥当なの。人間としかない共通点が案外見つからないのね。



だから異種族=別次元の生き物で、それとの婚姻はタブーていう考えがあるの。だってどれだけ好きでも人はペットと結婚しないでしょ?それと同じ。どれだけ種族を越えた愛があってもペットと人間は結婚しないの。


で、ここからが本題なんだけど。


異種族との結婚はだるいの。まず同種族ですら、同文化を持つ隣人と仲違いするのだから、別種族で別文化だとその倍面倒なことが起きるということを分かって欲しい。


文化や宗教とか思想の違いは省略するね。この後が大切だから。


まず食事。獣人の種族はそれぞれ食べれるものが違う、野菜だけ、肉だけならまだいい方だ。でも人参だけとか、蜂だけしか食べれないだとか、樹液以外は受け付けないとか、生魚しか食さない種族とかもある。


これは只の好き嫌いでは無くて、文字通りそれでしか栄養がとれないの。人参しか、蜂しか、樹液しか、生魚からしか栄養を摂取できない。そういう面倒な体をしている。喰種かよ。


次に体。獣人の最たる特徴は何といっても身体能力の超強化。これは獣人特有にしなやかな肉体にバネのある筋肉、柔らかい体に体幹など。獣人特有の優れた肉体がすべて揃ってあり得ることだ。どれか一部が欠けたら肉体の強化に耐えきれず体が軋む。


一部が欠けたってどういう状況かって?腕を戦で失くした状態?足を喰い千切られた人?


それはまだ何とかなる。マクロ的には欠損しているけどミクロ的には完璧に揃っているからね。


じゃあ誰か?これが一番の問題なのよ。


異種族とのハーフなのよ。


これは肉体の調和が完璧に崩れている。獣人特有の芸術的な筋肉も人間としての筋肉も不完全で、半端にに混ざっているせいで双方の長所を打ち消し合っている。十分な強化が出来ないのだ。


無暗な強化をすれば体が壊れるし、獣人とも人とも姿形が違うから、動き方の指導が出来ない。


そして食事も何を喰えば栄養を取れるのか一から手探り。


何が性質悪いって、人間種が混じることによって何が食えるのか、肉体のバランスがどう崩壊しているのか全く分からないのよ。つまり親の情報は全く当てにならない。


肉食の獣人と人間のハーフが、セロリからしか栄養がとれない種族になっていたりする。


遺伝子がどう仕事しているのかさっぱりよね。


しかも死産になる可能性が圧倒的に高い。


こういう理由で異種族とのハーフは忌み子と呼ばれ、婉曲的に言うなら歓迎されない。


よしんば育てたとしても上記の問題があるせいで早死にする。だから結局『忌まわしい子供』になるだ。どうせ死ぬ、直ぐに死ぬ。じゃあなぜ生まれたのか?それは周りに不幸を齎すため、ていう偏見と噂が出回って不吉の象徴と呼ばれるの。



・・・・ということをサーシャ様にコッソリ教えている。全然知らなかったみたいで目をパチクリさせてびっくりしているよ。ヤバい、カワイイ。妹が出来たみたいだ。


獣人の五感は人とは比べ物にならない。ここでぼそぼそ呟いている声が離れていても聞こえているんだ。ましてやサーシャ様は王族。身体能力はその獣人の中でも秀でている。


実兄は不審者を見るような目で私を見ているけど。確かに客観的に見れば一人でブツブツ言っている不審者だからね。でもそういう顔は辞めて欲しい。結構傷つくから。


私の目線に釈明するかのように慌てて小声で喋る実兄。


「誰も何も言ってないよ。」


「目は口ほどにものを言うて知っていますか?」


「・・・・ごめん。」


「せめて否定しなよ!?」



獣国の王女が笑ったように見えたがきっと気のせいだろう。






王国は荒れている。



中立派の私にまで刺客が放たれるほど貴族はなりふり構わず結果を求め、父王が新たな爆弾を連れてきて、王位継承戦がよりややこしくなった。


今では週2でサーシャ様への暗殺計画が練られているほどだ。誰だよ王族の暗殺計画は無くなるって言った奴。全然なくなっていないじゃん。


当然情報を掬い取り次第、全て消しているけど、時々掬い切れずに暗殺者の侵入を許してしまう。


何回も言っているけど警備は仕事しろ。


にしても金が足りん!


人を動かすのに金が、生きるのに金が、救うのに金が、殺すのに金がかかる。


だから支出が笑えない額になっている。貯金も尽きそう。

・・・・いや本当に笑えない。どうしよコレ?



教会も、帝国も、王都の治安も、王宮内の情勢も不安定で予断を許さない状況だ。


サーシャ様と獣国の関係も何やらきな臭いし、それに加えて近年魔王が復活するとか言われている。

帰れよな魔王。私の管轄地域ぐらいならあげるから大人しくしといてくれ。


サーシャ様の立場も不安定だし、今は体調がすぐれない云々でずっと部屋に籠っている。


本人の希望で後宮ではなく私の住む王室のすぐそばで暮らしている。どうやら懐かれたらしい。私はというとサーシャ様滅茶苦茶良い子でびっくりしている。周りにあんな心真っ白な人間いなかったからね。


そして王国貴族の動きは活発化し、また王族を狙おうという動きが現れている。

もう数件は表面化しているし、抑えることはできなさそうだ。



「ねぇシェード?」


「何でしょうかフォー様」


「平和って高いのね。」


目をパチパチさせているシェードを他所に、私は思う。



さて、どこを潰せば、アイツらは黙るのかしらね。平和を願い愛する私を、見てくれるのかしらね。





「平和の為に、いざ行かんってね。」





「どこへ?」



・・・そういうのにツッコむのは本当によくないわよ。

何かこれ可笑しくね?てやつがあったらご指摘お願いします。でもメンタル豆腐なんで優しい言葉でお願いします。

感想、意見、お待ちしております。


『「権力なんていらない」と強がるけど実は欲しい王国前章』が続きです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしい狂気だ [一言] 何万もの人の上に立つ人なんて、狂ってなければやっていけないよねって話だね。 次の話期待してます。
[一言] うわあ、全員狂ってた... この王族、皆やばい笑笑 次の更新、楽しみに待ってます!
[良い点]  面白かったです。  感情の描写が引き込まれるところが最高です。 [気になる点]  結局この国がどの様になるのか気になります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ