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贈り物は☆流星  作者: 恵梨奈孝彦
3/3

手錠

タカシ もういいよ。はっきり言ってくれ。


    間。


サヤカ 無理…。

タカシ 覚悟はできてるって言ってるだろ! 言え!

サヤカ 絶対無理!

タカシ おまえのお腹の子は!

サヤカ このあたしが! おまえの子供以外産むか、ボケえっ!

ミカ  やっぱり…、ウソだったんだ! あたしをだまして丸め込もうとしてたんだ!


六場

   ミカ、包丁を床に落とす。ふところから大型の自動拳銃を出す。


アカネ いやあああっ!


    アカネ、机のバリケードを倒して舞台中央に逃げる。

タカシ、立ち上がってサヤカからライフルを奪う。

   サヤカ、下手を向いてタカシを守るように両手を広げて立つ。

工藤、舞台中央のアカネを伏せさせて、その上に覆いかぶさる。


工藤  射線確保!


    タカシ、慣れた動作で、スナイパーライフルであればボルトを引き、垂直に直して銃口側に上げて、右側に倒す。アサルトライフルであれば安全装置を外し、コッキングハンドルを引く。

    ミカ、ぎこちなく拳銃の安全装置を外し、遊底を引き、ハンマーを起こす。


ミカ  さよなら…。

サヤカ (フタ)…。


    タカシ、サヤカの肩をそっと抑える。サヤカ、タカシの足元にうずくまる。手錠でつながれているため、右手だけは上げている。


サヤカ (ヒト)…。


    タカシ、手錠でつながれた左手でバレルジャケットをつかみ、ライフルをかまえる。

    ミカ、拳銃をこめかみに当てる。


ミカ  パパ…。

サヤカ (イマ)ッ!


    銃声。ミカ、手にしていた拳銃をはじきとばされる。

    はじきとばされた銃にひっぱられて体のバランスを崩し、尻餅をつく。

    信じられないような目で空になった自分の右手を見る。


サヤカ 壁に当たる…。暴発する!


工藤、アカネを離してミカのところまで走り、ミカを仰向けに倒して押さえつける。

サヤカ、下手を向いたまま上手にいるタカシの襟首をつかみ、姿勢を低くさせる。うずくまったままタカシを守るかのように左手を拡げる。

タカシ、右手のライフルを離し、手錠をかけられた左手一本でサヤカの背中をつきとばす。右手でサヤカの肩をつかんで、サヤカの腹が床にぶつからないように空中で止める。

サヤカ、必死に顔を上げて下手を見る。

銃声。

タカシ、立ちあがる。サヤカも立つ。

    松川、上手から登場。

    アカネ、立ち上がって松川に抱きつく。


松川  あんたたち、何してるの!


七場

    サヤカ、ポケットから鍵を出して必死に手錠を外そうとする。


タカシ おいっ! ミカ! ケガはないか!


    サヤカ、焦っているせいでなかなか手錠の鍵をはずせない。


工藤  警部補…。大丈夫ですか? それは本物の手錠じゃなくて、オモチャですよね…。

サヤカ 作戦上必要とはいえ、この人に本物の手錠なんかはめられるわけがないでしょ!

工藤  世界一どうでもいいこだわりですね。策略には嵌められても手錠ははめられないんですか?

サヤカ やかましい!

タカシ ミカ! ケガはないか! 指はちゃんとそろってるか!

工藤  赤ちゃんが生まれた時みたいですよ。大丈夫です。指がちぎれてたりしたら、痛くて転げ回ってます。こんなに大人しくしていられません。

サヤカ ああっ、カギが折れた! これだからオモチャはだめなんだ!


    タカシ、下手を見たままサヤカの髪からヘアピンを一本抜き、歯で噛んで形を変え、手錠の鍵を外す。下手を見たままヘアピンを歯で元の形にもどすと、無造作にサヤカの髪につっこむ。

    サヤカ、ビクッとする。

    工藤、ミカの上からどく。ミカを床の上に座らせる。ミカの右手を取って確認する。

    サヤカ、首を傾げて上目遣いになり、手でヘアピンをぺたぺたさわる。まんざらでもなさそう。


工藤  ほら、どこもケガをしていません。

タカシ ミカ…。


    タカシ、下手に向かって歩き出す。


ミカ  来ないで!


    タカシ、ビクッとして舞台の中央で止まる。


ミカ  やっぱり…、ウソだったんだ。婚約を解消するつもりなんかなかったんだ! 考えてみれば、日本の警察が、まだ誰も死んでいないのに、狙撃の決断なんかするわけがない。警部補のサヤカさんじゃなくて、巡査のアニキにまず伝えるっていうのもおかしい。アニキがこっちに来てサヤカさんに銃を向けていた時にも、引き金に指をかけていなかったような気がする。そのときこの婦警さんの姿が無いことに、アニキが気づかないわけがない! その後サヤカさんがアニキに愛想をつかしたフリをした。それをあたしが本気にして説得されればそれでよし。万が一のために、アニキを射撃しやすい位置に置くための演技でもあった。あの「いい位置だ」っていうのは、この位置でよいっていう確認だよね。「恋してしまいそうだ」っていうのは、あたしにそれを知らせないためにわけのわからない言葉を付け加えたんだ。そして婦警さんが何気なくこっちに立っていたのも、アカネとあたしを伏せさせるための準備だったんだ。サヤカさんは自分の右手とアニキの左手を手錠でつないだ。警官は万一のことを警戒して、利き手をあけておくって聞いたことがある。ただの不注意かと思ったらそうじゃなかった! サヤカさんは万一のために、アニキの利き手を空けておいたんだ! あの号令はわけがわからないけど。

サヤカ あれは…、わたしの方が上司だから、責任の所在を明らかにするために…。

ミカ  わけがわからない。だったら、自分で撃てばいいじゃん。

サヤカ こんな難しい狙撃を成功させるなんて、わたしには絶対に無理だった。通称「ロッカチュウ」。「通称ゼロ、大阪府警第二機動隊零中隊」と並ぶ特殊部隊、警視庁第六機動隊特殊中隊の精鋭である、渋谷孝巡査以外にこんなことができる警官はいない。

ミカ  ロッカチュウ?

サヤカ SAT、スペシャルアサルトチーム。ダッカ事件をきっかけに作られた、人質救出作戦専門のチームなの。ダッカ事件で人質の命とひきかえに凶悪犯を釈放して世界中の非難を浴びた日本政府が、ハイジャックに対応するために作った特殊部隊。佐賀のバスジャック事件でも活躍している。

ミカ  そんなことはどうでもいいんだけど。それよりあたしは、アニキからそんなことを一言も聞かされてない!

サヤカ SATは機密保持のために、家族にさえその所属を明らかにすることはできない。タカシさんがなぜこの現場にいるか。もちろんあなたを説得するためだけれど、それだけじゃない。距離はともかく、確実に拳銃の銃身のみを撃ち抜いて、しかもはじきとばされた拳銃のトリガーガードにあなたの指がからまない角度から撃つなんてことができる警官は、警視庁だけでなく日本中探してもこの人以外いない。この作戦を発動させるか否か、どのタイミングで発動するかは全てタカシさんが決めた。わたしが持っていたライフルをタカシさんが奪う。それが決行の合図だった。それからわたしは、完全にタカシさんにリードしてもらった。

工藤  警部補。しつこいですよ。説明じゃなくて、だんだんノロケになってます。

ミカ  ぜんぶ、ウソだったんだ! 三人がかりであたしを嵌めたんだ! あたしの言うことを聞くつもりなんか、最初からなかったんだ!

松川  だから言ったでしょ! 警官なんて信用しちゃいけないって! 瀬戸内シージャック事件のときもそうだった! 警察は犯人が銃を持っていない時に射殺した! (警官たちに)あんたたち、よくもわたしの生徒を撃ってくれましたね! ケガをさせなきゃいいってものじゃないでしょ! ミカさんがどれだけ傷ついているか、この様子を見たらだれでもわかるはずです! 

工藤  先生、この作戦に協力していただきまして、ありがとうございました。

松川  えっ…。

工藤  ここと全く同じ作りの教室に渋谷巡査を案内してくれたじゃないですか。その教室にこの教室と全く同じバリケードを作って、渋谷に狙撃の予行演習をさせていただきました。

松川  あれは…、校長が協力しろっていうから仕方なく…。


    松川、アカネを連れて上手に逃げるように歩いていく。


松川  だけど銃器は持ち込ませませんでした。糸を使って射戦を取るとかいうから、それをさせただけで…。


    松川、言い訳がましくしゃべりながら、アカネとともに上手に退場。


八場

ミカ  みんな、あたしを騙してたんだ。もう、あたしの無条件の味方なんか、この世のどこにもいない…。

タカシ おまえだけじゃないさ。

ミカ  みんなそうだって言いたいの? おまえだけじゃないから甘えるなとか、説教したいの!?

タカシ 他の人のことなんか知らない。おれ自身のことだ。「苦労は買ってでもしろ」なんて言う人はいるが、小学生の時に両親二人ともいなくなったおれたちには、買った苦労なんか本物の苦労じゃないことがわかっている。苦労っていうのはある日突然、向こうからやってくるものだ。おれたち二人は誰も知っている人のいない施設で、肩を寄せあって生きてきた。おまえはここまで大きくなれたのはおれがいたおかげだとか言うが、おれがいままで生きてこれたのも、おまえがいたおかげだ。もしおまえがいなかったら、おれはこんなに真面目に生きてこれなかっただろう。施設から定時制の高校に通って、アルバイトをしながら警察官の採用試験に合格できたのは、おまえがいてくれたおかげだ。そのころのおれにとって、おまえだけがこの世でたった一人の「無条件の味方」だった。だけど今日のおまえは、おれがどんなに「アカネさんを放してくれ」って言っても、聞く耳を持たなかった。おまえも変わったんだよ。おれもまた今日、「無条件の味方」を失った。

ミカ  だけどアニキには、サヤカさんがいる!

タカシ 普通の子どもにとって、「無条件の味方」っていうのは両親のことだ。だけど親はいつまでもいるわけじゃない。だれだっていつかは「無条件の味方」を失う。大人になるっていうのはそういうことなんだろう。これも、ある日突然やってくる。おれたちにとって味方っていうのはもう、最初からいるんじゃなくて、努力して作らなきゃならないものなんだよ。


    サヤカ、上手から舞台の中央まで行く。


サヤカ ミカちゃん…。わたしがあなたに、どんなに残酷なことをしているかわかっている。だけど出会ってしまった。もはやわたしは、この人なしではいられない…。だから…。


サヤカ、ミカに深々と頭を下げる。


サヤカ どうか、お兄さんをわたしに下さい!


    サヤカ、頭を下げたまま。ミカ、サヤカを見ようとしない。


ミカ  アニキ…、それほどあたしが変わったんだったら、あのピストルでアカネを撃つとは思わなかったの? ピストルを真っ直ぐ構えていたら、あんなにきれいに弾きとばせなかったよね。

タカシ そんなことは一度も考えなかった。

ミカ  なぜ!

タカシ あの優しい男に育てられた子どもが、そんなことをするはずがない。

ミカ  だったら、なんで撃ったの! 命令だから? これ以上罪を重ねさせないため? アカネを逃がすため? それとも、もう「無条件の味方」じゃないから?

タカシ そんなこともわからないのか。

ミカ  わかんない!

タカシ おまえに、生きていてほしいからだよ。


    上手から、アカネ登場。上手の端に立つ。


アカネ ミカ…。ウチは毎日何の目的もなく生きていて、ゲームとアニメとマンガだけが友達で、だけどそんな生活も楽しくなくて、生きていても死んでいるのと同じだと思っていた。そんなウチも、今日の放課後あんたに誘われた時はうれしかったよ。まさか人質になるとは思わなかったけど、それでも誘われた時にうれしかったことだけは間違いない。生きていても死んでいるような気分だったウチだけど、今日は本当に生きていたいと思った。これから彼氏どころか友達さえできそうにない、幸せになんか絶対になれないウチだけど、それでも生きていたいと思った。将来へのぼんやりした不安を紛らわすために趣味に逃避している毎日にさえもどりたいと思った。きっとあんたも、これから辛いことがあるだろうけれど、生きていれば…。

ミカ  行って。

アカネ ミカ…。

ミカ  行って!


    アカネ、ためらいながらも上手に退場。松川が登場し、アカネの肩を抱いて共に退場。


ミカ  ごめんね…。

タカシ 警部補、お願いがあります。今の「ごめんね」という言葉、アカネさんにつたえてもらえますか。


    頭を下げ続けていたサヤカ、頭を上げてタカシに返事をする。


サヤカ はい。


    サヤカ、上手に退場。


間。


ミカ  あたしは、本気で死ぬつもりじゃなかったかもしれない。アニキを困らせるために拗ねてみせただけだったんだ!

タカシ そんなことはおれには関係ない。それにあの銃は恐ろしく暴発しやすい。あの銃口がおまえを向いているだけで、いやおまえのそばにあるだけで放っておけなかった。

ミカ  撃つときどんな気持ちだった?

タカシ 怖くて、ゲロが出そうだったぜ。

ミカ  アニキ、サヤカさんがいない間に聞いておきたいことがあるんだけど、いいかな。

工藤  もちろん。

タカシ (工藤に)いや、もちろんいいんだけど、なんでおまえが答えるんだよ。

ミカ  (タカシに)なんでサヤカさんなの? どうしてあたしじゃだめなの?

タカシ そんなことを聞いてどうするんだ。

ミカ  質問に質問で答えるな! あたしが犯罪者だから? いつまでも大人になれないから? かわいくないから? もう、「無条件の味方」じゃないから? アニキの子供を産めないから? それとも…、妹だから?

タカシ 全部違う。

ミカ  だったら、なぜ!

タカシ おまえが、サヤカじゃないからだよ…。


    サヤカ、上手から登場。


ミカ  まったくみんな、あたしが死ねも殺せもしないと思って好き勝手なことを言って…。じゃあアニキ、しばらく会えないよね。

タカシ そうだな。

ミカ  だから今日最悪の、呪いの言葉を吐いてやる!

工藤  (やさしく)どうぞ。

タカシ (工藤に)だからなんで、おまえが言うんだ。

ミカ  (タカシに)あきらめたわけじゃないからねっ!


    間。


ミカ  …何か言いたいことがある?

タカシ なんだか、安心したよ。

ミカ  ふん。

工藤  (ミカに)じゃあ…、いいですか?

ミカ  手錠は…。

工藤  かけませんよ、そんなもの。

ミカ  ありがとう。

工藤  …行きましょう。

ミカ  うん…。


ミカ、工藤に伴われて下手に退場。


九場


タカシ 警部補、お願いがあります。

サヤカ いつまでその呼び方をするつもり?

タカシ 婚約を解消したわけですし。

サヤカ そういう意地悪は嫌いなんだけど。

タカシ ある質問に答えてほしいのです。

サヤカ …なに?

タカシ 好きです。つきあってもらえませんか。


   間。


サヤカ 質問に質問で答えるのってルール違反だよね。

タカシ 聞いてたんですか。人が悪いなあ。

サヤカ だけど質問そのものが答えということもある。

タカシ どういうことですか?

サヤカ 好きです。結婚していただけませんか。


   間。


タカシ くっ…。

サヤカ ぷっ…。


    二人同時に吹き出す。二人同時に笑う。

    フッとライトが消える。



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