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贈り物は☆流星  作者: 恵梨奈孝彦
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最初から無理な話

四場

タカシ (ミカに)わかった。おまえの要求を呑もう。

サヤカ えっ…。

タカシ (ミカに)サヤカさんとの婚約を解消する。サヤカさんとご家族にはものすごい迷惑をかけるが、やむを得ない。

サヤカ (タカシに)ちょっと待って。わたしは…。

ミカ  (タカシに)お父さんにボコボコにされるどころか、殺されるかもしれないよ。

タカシ 人質の安全にはかえられない。だからアカネさんを解放するんだ。

ミカ  嘘だっ!

タカシ ミカ!

ミカ  こんなことをしでかしたからには、わたしは家には帰れない! とりあえず式だけ中止して、わたしがいない間に籍を入れるつもりだろう!

タカシ おれを信じろ!

ミカ  無理!

タカシ ならどうしたら信じてくれるんだ!

ミカ  わかんない!

アカネ いい加減にしてよ。ウチを巻き込まないでよう…。もういやだぁ、おうち帰るうっ!


    松川、手で胸を押さえている。


サヤカ (松川に)どうしたの?

松川  今の人質の様子に、ときめいてしまいました。

アカネ ノンキなことを言ってないでさっさと助けろ!

松川  今のは萌えないなぁ。

タカシ (ミカに)どうしておまえは、おれが結婚するのをそんなにいやがるんだ。

ミカ  親父が死んだ日のことを覚えてる?

タカシ 忘れるはずがない。


    照明が消え、ミカとタカシだけにスポットがあたる。


ミカ  あたしはまだ小学校一年生だった。その日あたしは、さんざんわがままを言って、

お父さんに怒られた。怒られて拗ねたあたしは家を飛び出した。その時、暴走してきたトラックがこっちに走ってきた! 追いかけてきたお父さんはわたしを思い切り突き飛ばした後、トラックにはねられた! あたしは…、どうしたらいいかわからなくて! だれかが呼んだ救急車に一緒に乗せられた。あたしはただ泣いているだけだった。だけどお父さんは苦しそうな息のなかでこう言った。

タカシ おまえのせいじゃない。

ミカ  お父さんは、何度も何度もこう言った。

タカシ おまえのせいじゃない!

ミカ  救急隊の人にもうしゃべるなって言われても、息の続く限り、命の続く限り、繰り返し繰り返し言い続けた。

タカシ だから、あれはおまえのせいじゃないんだよ! 暴走してきたトラックが悪いんだ!

ミカ  アニキがいなくなったら、あたしにそう言ってくれる人がだれもいなくなってしまう! 


    照明が点く。工藤がいない。


ミカ  お母さんは、あたしを産むと同時に死んだ。あたしの命と引き替えに死んだ!

タカシ それもおまえのせいじゃない。

ミカ  そう言ってくれる人がいなくなる!

タカシ 別におれは、いなくなるわけじゃない。

サヤカ そうだよ。結婚してもあなたがタカシさんの妹であることに変わりはないし。

ミカ  なんにもわかってないくせに入ってこないでよ! 両親ともにいないあたしが高校にいけたのも、いちはやく就職したアニキのおかげ。それだけじゃない。アニキはずっとあたしの味方だった。ここまで大きくなれたのはみんなアニキのおかげ! だけど結婚したら変わってしまう。無条件の味方じゃなくなってしまう。もしサヤカさんとあたしがケンカしたらサヤカさんの味方になるでしょ!

タカシ そんなことはない。

ミカ  もしあたしと奥さんが海で溺れていたら?

タカシ 女房を見殺しにしてもおまえを助ける!

ミカ  信じられない!

タカシ じゃあ、どうしろって言うんだ!

ミカ  わかんない!


五場

    タカシ、首をかしげて耳にささっているイヤホンを指で押さえる。いきなり舞台の中央に出て拳銃を抜き、上手に向ける。トリガーガードに指は入れていない。

サヤカ タカシさん…、いや、渋谷巡査。どういうつもり?

タカシ いま、本部から連絡が入った。犯人狙撃の命令が出るかもしれないと!

サヤカ そんな過剰反応を…。

タカシ 最近この土地の近くで、拳銃の密売が行われたらしい。改造モデルガンなんかじゃない。密輸品のトカレフ。本物だ。しかもこれは、ロシアで大量生産された粗悪品で、簡単に暴発する。素人が持てば、意識せずに人質を傷つける恐れがある!

サヤカ そんなものをミカちゃんが持っているわけがない。

タカシ 家のパソコンに、拳銃、密売で検索した形跡があった。うちの銀行預金から、密売で使われた金額ぴったりの出金があった。

サヤカ だからって…。

アカネ (ミカに)あんた、まさかそんな恐ろしいことを…。

ミカ  してないよ。

タカシ おれだってそんなことを信じちゃいない。だけど本部は、ミカが拳銃を持っているという前提で動くつもりだ。…させない。ミカを撃つなんて、させるか!


    下手から工藤が登場。タカシの背中に拳銃をつきつける。トリガーガードに指は入れていない。


タカシ 工藤…。どうやって後ろに回りこんだ?

工藤  教室の後ろの戸から出て、前から入っただけだ。

タカシ おまえが撃つ前におれがサヤカを撃つぜ。

工藤  無理だ。

タカシ ナメてもらっちゃ困るな。おれは妹を守るためならあいつでも撃つ!

ミカ  なんなのこの茶番は?

工藤  拳銃っていうのはあくまで護身用の武器だ。相手が向こうから襲ってきた時だけ役に立つ。両手だけで火薬が爆発する反動を抑えなければならないからだ。撃ってもまずまっすぐにタマはとばない。そこから警部補を撃ってもまず当たらないだろう。この距離を狙撃するためには拳銃ではなく、肩で銃身をしっかりと抑えることができ、銃身が長くてライフルを切ってある小銃でなければ無理だ。ロッカチュウのエリートがそんなことも知らないのか? だけどわたしと巡査の距離なら、たとえ女子の握力でも反動を押さえ込んで的に当てることができる。要するに…、こちらの間合いだ。


    タカシ、銃を下ろす。工藤、タカシの拳銃を奪う。

    サヤカ、タカシの胸倉をつかんで、上手に投げ飛ばす。タカシ、尻餅をつく。

サヤカ、手錠を取り出して、タカシの左手と自分の右手にかける。タカシにライフルを突きつける。

工藤、そのまま下手側に立っている。


サヤカ どう、今の気持ちは。

タカシ いい位置だ。実にいい位置だ。恋してしまいそうだ。

サヤカ ミカちゃん…。わたしは今ので完全に愛想がつきたわ。自分に銃を向けるような男とは絶対に結婚できない!

ミカ  いつまでこんな茶番を続ける気?

アカネ お願い。助けて…。

サヤカ (ミカに)こいつは茶番のつもりだったかもしれないけどわたしは本気だ。妹のためにわたしを撃つ? 冗談じゃない! そんなシスコンと結婚できるか!

タカシ サヤカ…。

サヤカ 呼び捨てにするな馴れ馴れしい! もう婚約は解消されたんだ!

タカシ 警部補…。

サヤカ そうだ。わたしは警部補でおまえは巡査だ。なぜかわかるか? わたしはキャリア組でおまえがノンキャリアだからだ。最初から身分が違うんだ。

ミカ  だったらなぜ結婚しようとしたわけ?

サヤカ (タカシ)それでもいいと思っていた。だけど今のおまえは巡査ですらない! ただの犯罪者だ! なんでそんな奴と結婚しなきゃならないんだ!

ミカ  それで、お腹の子はどうすんの?

サヤカ ひとりで育てる。

ミカ  ご立派だこと。もしかしたらその子は、アニキの子じゃないんじゃないの?

タカシ まさか…。

工藤  そうか。だから渋谷巡査を嵌めたとも考えられる。

タカシ そう、なのか?


    間。


サヤカ …ふん。よくそこまでわかったわね。この子の父親が必要だった。だれでも良かった!

タカシ そんな…。

サヤカ あんた、自分があたしの初めての男だと思ったの? 自意識過剰ねえ。あたしがそんなこと言ったことあったっけ?

ミカ  つまりお腹の子の父親はアニキなの? そうじゃないの?

タカシ もういいよ。はっきり言ってくれ。


    間。


サヤカ 無理…。


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