第七話 オラとあたしと私①
ここはビルヒル区の一角。
大通りから1本、横道を入った小さな通り。
人通りは少なめだが、静かで、情緒ある佇まいの家屋が軒を連ねる。
住宅地の中、ところどころにカフェや雑貨屋などが散見されるが、感度の高い者達は敢えて大通りを避け、こういった落ち着きのある場所を好んで店舗を構える。
そんなお洒落な通りの中に、その店はあった。
資本を手に入れた後、事はいとも容易く進んだ。
ディアナは書き貯めたデザインを更に増やし、
ヴィッキーがパターンを起こしてサンプルを作成し、工房で量産を行う。
商品の準備は順調に進み、あとは出店を待つばかり。
そして、出店に際して最も活躍したのがルチルだった。
並外れた知識と経験に裏打ちされたルチルの財政感覚抜きに、このプロジェクトは成し得ない。
条件の良い物件を見付け、家賃の交渉では極限まで抑え込み、出店予定地を確保する。
店舗の改装の際も、ディアナやヴィッキーの高い要求を満たせる施工業者を探し出して、そちらも極限まで費用を値切った。
更にはヴィッキーが推薦する腕の良い生産工房に、ルチル自らが材料を調達し納品することで大幅なコストを削減を実現した。
全てにおいてルチルの功績だ。
そうしてこの場所に、ディアナの夢である、全ての人のためのプレタポルタブランドは誕生したのだ。
それが今から1ヶ月前のお話し。
「暇だねぇー。」
ルチルが能天気な声を上げた。
白亜の石造りであることは他の建物と変わりない。
しかし、通りに面した壁はくり貫かれ、ギヤマンが嵌め込まれた大きな窓になっている。
その窓の中央に銀色の文字が光る。
【サロン・ド・メロ】
窓と窓に挟まれた小さな白い木戸を引く。
するとどうだろう?まるでおとぎ話に出てくる小さな家の様だ。
オフホワイトに塗り直された古びた床板は不揃いで、ところどころに隙間が空いている。
壁も天井も同じ様な古木で埋められ、その隙間から覗くのは近代美術の技法で描かれた植物と女性の絵画。
その床板の上には、流木を組み合わせて作られたハンガーラックが適度な間隔を開けて並べられていた。
そしてそのラックに掛かっているのは、サロン・ド・メロの子供達。
その全てがディアナとヴィッキーが全てを注ぎ込んで作り上げた最高傑作。
のはずだった。
「今日も昨日もおとといもぉー、まぁいにち、まぁいにちぃー。売れませんねぇー。」
店の最果て。
フィッティングルームの隣に位置するカウンター。
椅子に腰掛け、カウンターの上に身を乗りだして肘を付き、だらけきった表情でルチルがアクビをした。
いつもの中分けの髪型は変わらずだが、少し髪を切った。肩まであった毛先は今は顎ほどまでに短くなっている。
襟と袖にフリルが付いた白ブラウスの上に黒革のハードジャケット。
腿が裂かれたタイトなデニムの隙間からは豹柄のレギンスが覗いていおり、それに合わせて靴もヒールの高い尖ったブーツをチョイスしていた。
「そぉだべなぁー。」
カーテンの開いたフィッティングルーム。
一段高くなったその土台に腰を下ろし、スケッチブックに色鉛筆を走らせながら、ディアナが相槌を打った。
ディアナも髪を切った。
前髪は額の高い位置で切り揃えたままで相変わらずだったが、肩辺りまで短くし、毛先を明るく染めた。
大きな赤い花が編まれた、黒いタイトなニットに、白いロングのプリーツスカート。足元は茶色いオックスフォードを合わせていた。
「めっちゃ他人事ぉー。」
「そぉだべか?」
スケッチブックから目も上げずに返事をするディアナの対応に、ルチルはカウンターから体を持ち上げて顔を向けた。
「だって今日の売上ゼロだよぉー?」
時刻はちょうど15時を指していた。
「昨日も同じだったけど、売れたべ?」
「売れたって、あれはさぁ、ヴィッキーのお客さんが使用人のためにまとめて買ってってくれただけじゃんよぉ。クローゼさんだっけ?一般のお客さんゼロじゃん。あれなければゼロじゃん。」
「そのうち売れるようになるべぇー。」
「呑気なことですねぇー。」
ルチルが帳簿を開いた。
昨日のまとめ買いで今週の目標はクリアできたし、開店からの一月、それこそご祝儀購入やツテでの売上で黒字ではあった。
が、やはり厳しい。
顧客頼みではいつかは頭打ちだ。
ルチルの財テクにより、向こう1年間は例え売上がなく、完全なる赤字でも店を続けられるだけの体力は持っているが、これが続くようならば最終的にはオートクチュールに頼らざるを得ない。
結局は求める人に提供するしかないのだから。
そんなルチルの心配もどこ吹く風。
ディアナは顔をほころばせながらスケッチブックに向かっていた。
ルチルは小さくため息をついた。
ちょうどそんな時だった。
窓の外から店内を覗く人影が見えた。
「を?お客さんかなぁー?」
ルチルが背筋を伸ばした。
後ろ手に手を組み、中の様子、と言うよりも中に並べられた洋服達を眺めているようだ。
「ね、ディアナ。見て、あの子。」
ルチルが声を潜めた。
ディアナも顔を上げた。
年の頃は20歳そこそこだろうか。
背の高い、とても足の長い女だった。
「すごいねぇー。」
ルチルは口を隠して笑った。
無理もない。
まず、髪色。
背中まで伸ばした長い髪が、明るいラベンダー色なのだ。
そして、オーバーサイズ、しかも特大のデニムジャンパーを羽織っている。
その中身は非常に発色の良いピンクとオレンジのパーカー。胸元には大きな黒いドクロマークがあしらわれている。
細い腰を覆うのは黒いタイトスカートで、その下から伸びるのは黒いストッキングに包まれたとてつもなく長く形の良い足。
それもそのはずだ。
足元には15cm以上はあろう厚底のオックスフォードを履いているのだから。
奇抜。
それ以外に形容しようのない服装をしていた。
「どぅへへ。変な格好。」
ルチルが笑い声をあげた瞬間だった。
「うわぁー。殺意かわいいべぇー。」
ディアナが歓声をあげた。
「は!?」
ルチルが驚きの声で返した。
「なんで!?どこがかわいいの!?」
「ルチルには難しすぎるべかなぁ。あんな上級コーデは。」
「わけワカメ!わけワカメ!」
「あの絶妙なボリュームバランスと原色使いはなかなか真似できねぇべ。しかもスタイルの良さを最大限に活かしてるし、あの人はすげぇべ。」
「えぇー!?私とそんな変わらないように見えるけどなぁー。」
「ルチルはおじさんみたいだったっぺ。」
初めて出会った頃のルチルの姿を思い出したのかディアナが爆笑した。
と、そんな時だった。
その奇抜な女が店の扉を開けた。
「笑うな!」
「あのー、やってますかー?」
ボスボスと重そうな足音を立て、女は店内に歩みを進めた。
「あっ!いらっしゃいましぃー。」
勢いよくディアナから向き直ると、ルチルが余所行きの声で女を出迎えた。
「いらっしゃいませ!」
ディアナも大きな声で迎え入れた。
「ここ、最近オープンしたんですか?初めて見た。」
ハンガーラックの隙間を縫うように歩き、洋服達を眺めながら話し掛けてくる。
その目はとても良い輝きを放っていた。
「はい。1ヶ月前にオープンしたばっかりですべ。」
「そうなんだ。なんか、すごいね。かわいいお洋服ばっかり。」
「ありがとうございますべ!」
「ぐふふ。面白い方言。この街の人じゃないの?」
「はいだべ。密林の国から来ましたべ。」
「そうなんだー。ね、ちょっとゆっくり見ていってもいい?」
「はいだべ!ごゆっくり!」
近くで見ると分かった。
女は絶世の美女だった。
長い睫毛に縁取られたまん丸い大きな青い瞳は宝石のように煌めいて、同じ女性であるディアナですら見惚れるほどだ。
尖った高い鼻に、程よいボリュームの唇。
やや面長ではあるが、少しふっくらとした頬がそのイメージを柔らかく纏めあげている。
しかしながら、限りなく均整のとれた顔立ちは、ともすれば没個性的とも捉えられる場合がある。
ルチルも同じく稀に見る美しい顔立ちをしているが、比較的個性的で、1度見れば忘れないだろう。
この女の場合は、前者にあたった。
あまりにも美しすぎる故に、もし街で見掛けたら気が付かない恐れがある。
そんな人だった。
「あのー、これ、試着してみていい?」
女が手に取ったのは、ベージュ色のテイラージャケットだ。
「どーぞどーぞ。ここを使って下さいだべ。」
ディアナに促され、フィッティングルーム奥の姿見の前でジャケットを羽織る。
細長い体に丈も袖もぴったりとフィットした。
「んー。少し小さいかな。ひとつ上のサイズありますか?」
「はーい。少々お待ちくださいだべー。」
タグに書き込んだ品番をルチルに伝えると、ルチルが帳簿をめくる。
在庫があるのを確認すると、ディアナはカウンターの奥にある倉庫へと消えていった。
「へぇー。すごい。その帳簿ですぐ分かるんだ。」
その言葉に、ルチルは愛想笑いを浮かべた。
雑に見えてその実、相当にマメなルチルが編み出した在庫管理方法だ。
全ての商品に品番を振り、帳簿に記載。日々の売上を確認して在庫を減らしていき、月に1度は棚卸しを行う。
ゆっくりと帳簿を閉じると、カウンターの中に滑り込ませた。
ディアナは狭い倉庫にしゃがみ込むと、下の方の棚からジャケットを取り出した。
奥行きのある細い部屋の両脇に、正方形に仕切られた本棚みたいな棚が天井近い高さまで伸び、壁を埋め尽くしている。
棚毎に収納する品番が定められており、その服の品番を見るだけでどの棚に置いてあるのかが分かるという寸法だ。
(全然イメージ違うの選ぶだなぁ。)
埃や汚れなどが付いていないかジャケットを広げて確認しながら、ディアナは思った。
特に問題は無い。
(ま、お客さんの事情だからいいだべ。)
シワにならないよう丁寧に腕に引っかけると、倉庫を後にした。
「お待たせしましたべ!」
フロアでは客の女が、違う形の別のジャケットを試着している真っ最中だった。
「これもいいね。」
体をひねり、鏡に映った脇や裾を確認しながら言った。
「わぁ、それもお似合いですだべぇ。」
「これも少し小さくない?」
「うーん。形的にはこのくらいでちょうどいいと思いますだべ。あまりゆったり着るよりもフィットさせた方が綺麗に見えますべ。」
「そうかなー?」
「さっきのベージュの方、ひとつ上を試してみて下さいべ。そしたら少しはイメージ湧きますべ?」
「そうだね。」
ベージュのジャケットをディアナが用意し、女が袖を通す。
「あれ?確かに。なんか男の人の着てるみたいだね。」
袖は指の付け根まで掛かっているし、裾だってお尻の頭まで掛かってしまっている。
なによりも胴周りにゆとりがありすぎる。
「ですべな。やっぱりひとつ下のサイズがお客様には合ってますだよ。」
「そっか。可愛い?」
「ええ、とっても!殺意かわいいべ。」
「え?さつ・・・かわいい?なに?」
「あ、すみません。つい身内ネタが。」
「面白い言葉。どういう意味?」
「えっと、使ってる人曰く、【殺したくなるほどかわいい】って意味らしいんですだ。」
「ぐふふ!ウケる!でも、いいかも!私も使っちゃおうっと。」
「ええ、どうぞどうぞ。」
「これ、いいなぁ。買っちゃおうかな。」
女は呟きながらタグを手に取ると目を落とした。
「190G?ちょっと高いね。」
「たはは。」
ディアナは苦笑いを浮かべた。
「少しお安くならない?」
「そぉですべなぁ。」
困ったような表情で、ディアナがルチルに顔を向けた。
一応は今日初めてのお客さんだ。
できればここで売上を立てておきたい。
そんな想いが見て取れた。
ルチルがカウンターから立ち上がった。
「負けられないけど、お代は今じゃなくていいですよぉー。」
「ふぁ!?」
「え!?」
ルチルの発言に、ディアナが、そして客の女すら声を上げた。
「ちょっと、ルチル。どういうことだべ?」
ディアナは小走りでルチルに駆け寄ると、その耳元に顔を近付けた。
「え?だからぁ、ツケでいいよ?ってことぉー。」
「なんでだべ!?」
「いいのいいの。もし他にも欲しいのあれば全部お代は後でいいですよぉー。それに、おまとめ買いなら少しお値下げできますしぃー。」
「ふぁ!?」
「本当にいいの?」
ディアナに一瞥すらくれることなく、ルチルは女に頷いて見せるだけだった。
「お疲れ様。」
時刻は午後16時。
ヴィッキーが店に現れた。
基本は3人のうちふたりが持ち回りで店に立つ。
その日のヴィッキーは、自宅で次のコレクションのサンプル作成をし、その後で工房に顔を出して製品の監督を行っていた。
その足で店に立ち寄ったのだった。
「なんか随分とラックがスカってるわね。結構売れたの?」
言葉通り、隙間の目立つラックを見回しながらヴィッキーがふたりに話し掛けた。
「ん?どうかした?」
ふたりの前でヴィッキーが立ち止まった。
そしてすぐに、ディアナの様子が少し違うことに気が付いた。
「・・・・それがだべね。」
物憂げな表情を浮かべたディアナが口を開いた。
「は?」
当然の反応だった。
ディアナは、先程来た女性客について、そして、ルチルのとった対応をありのまま、ヴィッキーに話したのだ。
「ちょっと、どういうことよ?お客さんに商品あげたって。」
「どぅへへ。」
ルチルは笑うだけだった。
「一体いくら分なの?」
「20点で3000Gだべ。」
「っは!?そんなに!?」
カウンターに座るルチルの隣に椅子を着けると、ヴィッキーは腰を下ろした。
「あんたね、なに考えてんの?」
「どぅへへぇー。」
「笑ってもダメ。いい?あたし達は言ってみたら運命共同体よ?見なさい、ディアナの顔を。こんな顔させていいの?あたし達の信頼が崩れたらおしまいよ。」
言う通りだ。
ディアナの顔は今にも雨が降りそうな程に曇っている。
「別にあげてないしぃー。ツケだしぃー。」
「ツケって、どこの誰かも分からないってディアナは言ってるわよ!?どうやって回収すんのよ!?」
「大丈夫ぅー。そのうち分かるからぁー。」
「あんたね!って・・・・なんかあんの?」
「んー、あるかもしんないしぃ、ないかもんしんない。」
「・・・・・。」
ルチルの悪癖のひとつだ。
飛び抜けた知性の持ち主故に人より数十も先が見えている。
しかし言葉足らず。
だからこそ、他人の信用を失う危険性を孕んでもいる。
例えその先がどんなに正しいとしても。
「ったく。なによ、その顔。まぁいいわ。あんたならなんか考えがあってのことなんでしょ?しゃーないわね。」
今、ヴィッキーの存在は、ルチルにとっても大きな救いになった。
「ディアナ。ここで怒ってもどうにもならないわ。信じるわよ?いい?」
ディアナも頷いた。
本当ならヴィッキーに叱ってもらいたかった。
しかし、ルチルならば。
その想いはディアナだって強い。それは間違いない。
訳の分からないと思える行動も、ルチルなら。
重い足取りで、その日は店を後にした。
翌朝、
その日の店番はディアナとヴィッキーだった。
特に変わりのない朝。
いつものように店に出勤し、釣り銭を用意し、清掃をし、商品の補充を行う。
そして時間になり、店を開ける。
その日も暇だった。
元々人通りの多くはない裏通りだ。
店の存在が認知されるまでは仕方がない。
いつも通り、ディアナはデザインを考えながら、そしてヴィッキーはサンプルを縫いながら、時間だけが過ぎていく。
昼を少し回った頃だった。
店の扉が開いた。
ふたり組の若い女の子だった。
服装はそこそこにお洒落。
この小さな通りに初めてやって来た、お洒落に興味のある女の子。
そんな雰囲気が漂うお客さんだった。
「ね、これじゃない?」
「あ!本当だ!」
店に入るや否やラックに駆け寄ると、ヒソヒソと話しながら1着の服を手に取った。
「いらっしゃいませ!」
ディアナが声を掛けた。
「あの!これ、試着していいですか!?」
なにやら興奮しているようだ。
顔を赤らめ、ディアナに手に取った服を見せた。
「どうぞどうぞ。ここのお鏡をお使い下さいだべ。」
ディアナに促され、姿見の前で服に袖を通す。
鏡に映し出された自身の姿を見た瞬間だった。
「可愛い!凄い可愛い!」
「きゃー!これに間違いないよー!」
ふたりは黄色い歓声をあげると、手を繋ぎながら跳びはねだした。
「とってもお似合いですだべよ。」
「これ、えっと、えっと、なんだっけ?」
「殺意かわいい、だよ!」
ヴィッキーの耳がピクリと動いたのは言うまでもない。
この物騒な造語を生み出したのは他でもないこの天才パタンナー。
しかも、他人の前でほとんど使ったことのない、完全なるマイブーム言葉である。
「そうですべな。とっても殺意かわいいですべ。」
「きゃあー!これ!下さい!」
真夏のヒマワリのよりも黄色い悲鳴をあげ、女の子はベージュのジャケットを指差した。
「あの、私もこれで、サイズ合わせてもらえますか!?」
「あ、はいだべ。」
「それと、これに合う黒いスカートがあるはずなんですけど、どれだか分かりますか?」
「え?黒いスカート、ですだべか。それなら・・・。」
ディアナは隣のラックから1着の黒いレースのフレアスカートを手に取った。
「あ!これだよ、きっと!これも履いてみていいですか!?」
「ええ、もちろんですだべ。」
言いながらフィッティングルームのカーテンを開け、女の子を促した。
「ね、ディアナ。」
女の子が入ってから、カーテンを閉めたディアナをヴィッキーが手招きした。
「なんであのスカートだって分かったの?」
「うんと、実は、あのコーデ・・・。」
「マジ?」
「間違いないべ。」
「どーゆーことよ。」
「分からないべ。」
ふたりが小声で囁き合うその背後でカーテンが開いた。
中から出てきた女の子は、満面の笑顔。
「これ、下さい!」
「私も!」
ふたりとも同時に声を張り上げた。
「ありがとうございましただ。」
店頭まで見送りをしたディアナが深々と頭を下げた。
ベージュのジャケットとフレアスカートで、しめて300G強。
それが2セットで600Gの売上。
オープン以来ほぼ初めての、一般のお客様の高額な売上だった。
頭を下げたまま、ディアナは感極まっていた。
ここまで喜んで自分の服を買ってもらえたことはない。
必死で涙を堪えながら顔を上げた。
「あのー、ベージュのジャケットと黒いスカートが欲しいんですけど。」
ふたり組の女の子とすれ違って歩いてきた女の子がディアナに向かって言った。
「え!?」
ディアナは思わず声を漏らした。
それから客足は途絶えなかった。
ひっきりなしに出ては入っての繰り返し。
店内が人でごった返すということこそなかったが、ふたりが交互に休憩を取るのがやっという程に、絶え間なく人の出入りがあった。
そのほぼ全てのお客さんが求めたのが、
「ベージュのジャケットありませんか?あとスカートもセットで。」
同じ商品だった。
「まずいわね。」
夕方を回った頃、カウンターに座るヴィッキーが帳簿に目を落として言った。
「在庫、無いわよ。」
「売り切れだべか!?」
「ええ。元々そんな数作った商品じゃないもの。」
「ふあぁー、どーしようだべか。」
「しゃーないわ。似たやつを薦めるしかないわね。あんたのセンスならやれるわ。てか、やんなさい。」
「よし!オラ、やってみるだ!」
が、しかし、
「え!?ベージュのジャケット無いんですか!?」
「じゃあ・・・・いいです。」
「探してるのそれじゃないんで!」
「え?おねえさん、ひょっとして売り付けようとしてます?」
お目当ての商品が売り切れになった途端に、全く、全然、微塵も、完全に、売れなくなった。
色々な手を尽くしたディアナだったが、その接客の全てが空振りに終わった。
「っふあぁー!!??」
閉店時間。
ディアナは床にガックリと手を付くと、声を上げて泣いた。
ふあぁー、と。
この日もディアナの惨敗だった。
まったくもってよく負ける少女だ。
「おっかえりぃー。売れたぁー?」
家に帰りつくと、ルチルが笑顔を浮かべて待っていた。
テーブルの上に豪勢な食事を用意して。
「ちょ、なによ、このご馳走。」
「すげぇべ!お肉いっぱいだべ!」
店番組はその匂いに引かれるように、テーブルへと駆け寄った。
「お祝いぃー。」
「お祝いって、あんた。」
「んで、売れたの?売れないのぉー?」
「売れたべ!すんげぇ売れたべ!」
「ををー。やったねぇ。だからお祝いぃ。」
ソファに腰掛けると、ヴィッキーがルチルを見据えた。
「あんた、なんで分かってたの?」
「んー?昼間、お店を覗いたからぁー。」
「ああ、そういうこと。」
ルチルの言葉が非常に府に落ちた。
ヴィッキーはお勝手に移動すると手洗いを済ませ、棚から瓶を2本とグラスを3つ取り出した。
「とにかく、初めてあんなに売れたんだし、確かにお祝いはしたいわね。じゃ、乾杯しましょか。」
ルチルにワインの注がれたグラスを渡し、ディアナには甘いソーダ水のグラスを渡す。
3人は静かにグラスを合わせた。
「ただね、明日はダメだと思うわ。同じ商品ばっか指名されてさ、しかも売り切れたら全く売れなくなっちゃって。」
「オラのオススメは全部無視されてしまっただぁー。」
ディアナが厚切りのローストビーフを頬張る。
「そうなのよ。圧倒的に殺意かわいいコーデ薦めても拒否られてたわ。」
「ふーん。そっかぁー。んじゃ、明日は違うものが売れるかなぁー。」
「いや、聞いてた?他のは売れてないのよ?」
ヴィッキーもナイフで綺麗に切り分けたステーキを口に入れる。
「ん?でも、なんで今日のお洋服が売れたのか、なんとなく分かってるでしょ?」
「そうだべ!よく分かったべな!」
「らしいのよ。あんたが昨日ツケでいいって商品あげたお客さん?その子にしてあげたコーデだって話しじゃない。」
「明日はねぇー、そぉだなぁー、グレーのカーディガンとぉ、薄ピンクのブラウスとぉ、オフホワイトのプリーツスカートかなぁー。」
「なにそれ?予言?」
「そぉでぇーっす。」
「マジ?」
「うん。ちなみにぃ、ベージュのジャケットと黒のフレアスカートは今日、追加発注してきたよぉー。来週には納品されるかなぁ?」
ルチルがいちょう切りのニンジンを口に放り込んだ。
「って!?追加発注!?今日たまたま売れただけかもしんないのに!?」
「だぁいじょぉぶー。あのお客さんに渡した商品は、ぜぇんぶ売れるんでぇーす。だから、それ以外のやつも全部追加掛けてあるから、1ヶ月以内には弾数揃うはずだよぉー。」
「ぜ、ぜんぶ!?20点全部!?待って待って待って!もうだめ!説明しなさい!なんなの!?その子になにがあるって言うの!?」
「んー、じゃあネタバレねぇー。あのお客さんねぇー・・・・。」
ディアナもヴィッキーも、ルチルの方に顔を近付けた。
「教えなぁーい。」
ヴィッキーが無言でルチルの口に野菜炒めを詰め込んだ。
しかし、翌日、
「マジ?」
ヴィッキーとルチルが出勤した時には、店の前には長蛇の列ができていた。
「ちょっと!なによこれ!」
始めは見間違いかとも思ったが、通りのかなり遠くからでも、それがサロン・ド・メロの店頭だということが分かった。
ゆうに数10人の女の子達が、店が開くのを今か今かと待ち受けていたのだ。
ヴィッキーは思わずカフェと住宅の隙間に駆け込んだ。
「なんで隠れてんのぉー?」
通りからヴィッキーを見ながらルチルが笑った。
「いや、だってさ、なんか怖いじゃないの。」
「どぅへへ。ヴィッキーなのに?」
「どーいう意味よ!あたしだってそんくらいの感情はあるわよ!」
「いいことじゃーん。あんなお客さんが来てくれてるんだよぉー?」
「いや、だけどさ。急すぎて。」
ヴィッキーは建物の陰から顔だけで覗きながら、店を凝視したまま返事を返した。
「とりあえずさ、まだ開店まで時間あるし、一旦戻ってディアナ連れてこよっかぁー。あんな数のお客さん、ふたりじゃ対処しきれないもんねぇー。」
「そ、そうね。それがいいわ。」
「んじゃ、私行ってくるから、ヴィッキーはお店開けといてぇー。」
「え!?私が!?」
ヴィッキーが振り返ったその時には、ルチルは疾風のごとき速さでその場から立ち去った後だった。
「あいつ、なんであんな足速いのよ。」
その日、開店から売れたのは、
グレーのカーディガン、薄ピンクのブラウス、オフホワイトのプリーツスカート。
前日、ルチルが予言した通りの組み合わせだった。
昼前には開店までに並んでいた女の子達だけでその全ての在庫は完売したが、その後も同じ商品を求めるお客さんがひっきりなしに出入りを続けた。
あまりにも多い問い合わせにディアナもヴィッキーも辟易としていた頃に、ルチルがふたりに言った。
「さてぇー、明日はなにが売れるのか、見に行きますかぁー。」
背伸びをし、体をほぐしながら間延びした声でそう言ったのだ。
「見に行く?なにをだべ?」
「明日なにが売れるかぁー。」
「いや、だからね!」
「来れば分かるよぉー。今日はもう閉店!3人で行くよぉー。」
訝しげな表情を浮かべるふたりを無視するように、ルチルはふたりのバッグを手渡すと、店から押し出して扉に鍵をした。
ルチルはなにも言わずに歩いた。
本当に灰汁が強い女だ。誰かを驚かすことが楽しくて仕方ない。
裏通りを進み、いくつかの交差点を曲がってから、ルチルが不意に足を止めた。
「ほら、あそこだよぉー。」
大きな建物。
その裏手だった。
「きゃあー!」
「きゃあー!」
「サインくださぁーい!」
「こっち向いてー!」
「きゃあー!殺意かわいいぃー!」
まるで津波が迫り来るように、女の子の黄色い歓声が響いてきた。
「うわ!?なんだべ!?」
凄まじい数の女の子が、建物に群がっていた。
それが押し寄せないように、体の大きな男達が食い止めているのが見える。
そしてその中心。
「あっ!」
ディアナが声をあげた。
「あの人!」
人混みの中、頭ひとつ抜け出して見えたのは、ラベンダー色の髪をした、あの美女の顔だった。
「え?あれ?お客さんって、あの人?」
ヴィッキーが声をあげた。
「知ってるべか?」
「知ってるもなにも、あんたも見たんでしょ?」
「え?」
「あれ、メリッサ・エトオじゃない。女優の。」
「ふぁ!?」
「え、あんた気が付かなかったの?」
「だって、だって、あんな、髪!髪!」
「あぁ、芝居中はカツラ被ってるものね。あたしも実物見るのは初めてだから、まさかあんな奇抜な人だとは思わなかったけど。だからって、顔見りゃ分かるでしょーに。」
その時だ。
人の群れが一斉に沸き立ち、大歓声があたりを包み込んだ。
あまりの盛り上がりに驚いた3人はそちらに目を移した。
「っはぁーい!それじゃ皆ー、1列に並んでねー。順番にサインしてあげるからー。」
頭ひとつ分以上大きな、紫頭の女優が手を上げるのが見えた。
「ひとりひとりサイン?すごいわね。」
「だよねぇー。公演は夕方からでしょー?毎日お昼には劇場に来て、集まったファンにサインしてあげてから、中に入るんだけどぉ、あの子ね、毎日やってるんだよぉ。」
「毎日だべか!?」
「そ。」
「なるほどね。それで、その日着てた服を、次の日ファンの子達がうちに買いにくるってこと。」
「その通りぃー。なので、明日はあの服で決まりだねぇ。」
「あんた、よく気が付いたわね。」
「んー?まぁねぇ。初めて来た日に気が付いて、少し話したんだよねぇ。」
「ふぁ?いつだべ?」
「ディアナが在庫取りに行ってる時ぃー。」
「あの子ねぇ、自分の好きな服を着てたいんだけど、毎日あれやるでしょ?だからね、座長さんにぃ、『人前に出るならもう少しまともな格好しろ!じゃないともうさせないぞ!』って怒られたんだってさぁー。」
「うーん。確かに、普通の感覚の人から見たらちょっとおかしい風にも見えなくないし、仕方ないべかね?殺意かわいかったけど。」
「ま、一座の看板女優なわけだし、イメージは大切よね。そのお陰でうちが儲かるんならあたしは文句ないけど。」
「だしょだしょぉー?儲け、重要ねぇー。んじゃこっちだよぉー。」
「ん?こっち?」
ルチルがふたりを手招きした。
嫌な予感しかしない。
ディアナとヴィッキーは顔を見合わせた。
ルチルに連れられふたりが足を踏み入れたのは、劇場の中だった。
この街で最も大きな劇場と同時に、世界で最も大きな劇場。
収容人数は約3000人。
世界広しと言えど、ここまで大きな劇場は存在しない。
広いのは客席だけではなかった。
鏡張りの広い練習場がふたつ。
無数の楽屋。大きな前室。
その間の通路を進むと、ひとつの部屋に行き着いた。
ルチルが扉を叩くと、中から人の声が聞こえてきた。
「開いてますわ。」
扉を開けると、非常に豪奢な応接間のような空間だった。
濃紺の絨毯、高級そうなマホガニー材の調度品。
部屋の中央にはテーブルセットが置かれている。
そしてその奥、同じくマホガニーで作られた机で書き物をしている女が顔を上げた。
「あら、ルチルさん。お早いご到着でしたわね。」
見える限りの上半身はスーツ姿。眼鏡をかけ、ブロンドの髪を頭頂部で結い上げた、キツネのようなイメージの中年の女だった。
女はデスクから立ち上がると、3人をテーブルを囲むソファへと促した。
「はじめまして。私はこの一座の座長及び、劇場の支配人を務めます、ジャクリーヌ・バルネッタと申します。」
ディアナよりも少し背の高い、痩せこけた女だった。
「オ、オラ、ディアナ・メロといいますだ。」
「ええ、お話しはルチルさんから伺っております。そして、あなたが、ヴィクトリア・ハイセヘムスさんですね。お会いできて光栄ですわ。」
ジャクリーヌと名乗ったその女がヴィッキーに手を差し出した。
「はじめまして。」
ヴィッキーは少し躊躇いながらも、ジャクリーヌの手を握り返した。
「さぁ、お掛け下さい。今お茶を用意させますから。」
そう言って、ジャクリーヌはデスクに置いてある呼び鈴を鳴らした。
そしてそのままソファに腰を下ろした。
ジャクリーヌの隣にルチルが座り、それを見てディアナがルチルの正面に腰を下ろす。
が、ヴィッキーだけは座ろうとはしなかった。
「どうしたのぉ?座りなよぉ。」
ルチルが声をかけた。
「ちょっと待って。あたし達、待たれてたの?」
「そうだよぉ。」
「どうして?」
「そりゃあ、ねぇ。私がアポを取っておいたからに決まってるでしょぉー。」
「あたし達は何も聞いてないわよ。」
「言ってないもーん。」
「あんたね、大概に・・・。」
ヴィッキーが口を開きかけた時だった。
部屋の扉が開くと、秘書らしき女がトレーにティーセットを乗せて入室してきた。
「ヴィクトリアさん。まずはお掛けになって、お茶でも頂きましょう。」
ジャクリーヌがにっこりと微笑んだ。
言いたいことは山ほどある。
が、この状況では流石に失礼か。
ヴィッキーは思い直すと、とりあえずディアナの隣に腰を落ち着けた。
「突然だったってことかしらね?ごめんなさいね。」
ジャクリーヌは繊細な造りのカップを指先で摘まみながら口へと運ぶと、紅茶に口をつけた。
「実はですね、昨日ルチルさんにあなた方のお話しを伺いまして、どうしてもお願いしたいことがございますの。」
ディアナも小慣れた手つきでカップを手に取った。
この辺りは貴族の出だけはある。
非常にエレガントな作法だった。
「実はですね、今公演している【ファーストキス】の次の舞台になるんですが、そちらの舞台衣裳の製作をお願いできないかと思っておりますの。」
「舞台衣裳?」
「ええ。始めは他のメゾンに依頼したのですが、折り合いが付かず断られてしまいまして。そんな時、うちのメリッサが、あなた方のブランドのお洋服を着ているのを拝見しましたの。あのようにクオリティの高い服をお手頃の価格で提供して下さるメゾンならば、是非ともお願いしたいのです。」
「そう。話しは理解したわ。ただね、あたし達、特注は受けてないの。残念だけど他を当たって下さらない?」
にべもなく断るヴィッキー。
しかし、ルチルが口を開いた。
「えー?話くらい聞かないのぉー?舞台衣裳ってどのくらい必要なんですかぁ?」
「演者は20名。ひとりが何役か演じるので、そうですわね、大体60着は必要になります。それに毎日公演があるから替えも必要なので、120着ってところでしょうか?」
「いつまでに必要なんですかぁー?」
「再来月の末に初演があるので、来月末までには。」
「約二月で120着ですねぇ?」
「はい。そうなります。」
ルチルがヴィッキーに視線を移した。
その意図は分かった。
分かったが、
「お断りします。」
「お受けしまぁーっす。」
ヴィッキーの答えにルチルが被せた。
「・・・・・。」
無言でヴィッキーが睨み付けた。
「あの、ルチルさん?少しお時間をお取りしましょうか?」
「いえぇ?大丈夫ですよぉー?」
「そうして下さるとありがたいです。」
今度はルチルの言葉にヴィッキーが被せた。
その声色に怒りは隠されていなかった。
「分かりました。では、隣のミーティングルームをお使い下さい。私はここで仕事をしてますので。」
3人は立ち上がると、ジャクリーヌの指差した扉の中に入って行った。
「勝手になんでも進めようとしないで。」
改めてヴィッキーがルチルを睨み付けた。
「なんでぇー?儲かるならいいって言ったのはヴィッキーじゃん。」
「意味が違うわ。それは、店の服が売れるなら、よ。特注は話が別でしょ。」
「なんでぇ?」
「なんでって、あんたね、二月で120着ってどんだけやばいか分かってんの?」
「60着はコピーでしょ?工房に発注したらいいじゃんさぁ。」
「だとしても、あたしが60着作るのよ?その前にデザインはどうすんのよ?デザインもこっち持ちなら、ディアナが60着分デザインすんのよ?二月でやれなくはないけど、その間は店に立てないわ。それに、次のコレクションの準備はどうすんの。このために止めるってわけ?それじゃあ店やってる意味ないわよ。」
どうやらかなり頭に来ているようだ。
早口で捲し立てた。
「別にいいよぉ。お店は私が見るし、それに、何のためにオープン前に次のコレクションまで準備したのぉ?少なくとも半年はそれで賄えるでしょぉ。」
「私が見るって、あんたひとりで?不可能でしょ。だってあんた、メリッサのお陰で店は忙しくなり始めたばかりじゃない。ひとりじゃ休憩すら取れないでしょ。それに、その先のコレクションはどうすんのよ?二月も準備を遅らせるわけにはいかないわ。」
「へーきへーき。休憩なんていらないしぃ。売れ筋の弾数が揃うまでは忙しいのは昼までだろうしぃ。だし、メリッサの着た服で繋いどけば少しくらいコレクションが遅れても問題ないでしょ?」
「言ったわよね?特注のために店のプランを変えるのは嫌なのよ。それに!来週には弾数揃うって言ってたわよね?そっからは地獄よ?あんたひとりでどうにかできるわけないでしょ。」
「このお仕事が成功すれば、サロン・ド・メロの名前は一気に広まるよぉ。そしたら、売れ筋以外も売れる。まずはベースを固めること。これ、大事ねぇ。」
「言いたいことは分かるわ。だけど、だけどよ。」
「今、大事。これをやるかやらないか。ここが踏ん張りどころだよぉ。」
ルチルがヴィッキーの目を見据えた。
その目は、真剣そのものだった。
「ディアナ。決めなさい。」
ヴィッキーがルチルから目を逸らせた。
「オ、オラが!?」
突然の言葉に、ディアナは驚きの声をあげた。
「うちのトップはあんたよ。あんたが決めて。」
「でも、オラ、だって、でも。」
「ディアナ!」
ヴィッキーが声を荒げた。
ディアナの体が跳ね上がった。
「しっかりなさい。2度も言わせんじゃないわよ。あんたがトップよ。」
ディアナが唾を飲む音が聞こえた。
ルチルがディアナを見た。
ヴィッキーもルチルを見た。
ディアナが口を開いた。
「オラ、やりたい。」
ヴィッキーが勢いよく髪を掻き上げた。
「分かったわ。」
そう言うと、彼女は部屋の扉に手を掛けた。
「詳しい話は任せるわ。それとあんた、店に出ずっぱりは許さない。人を雇うか、でなければ定休日を作るか営業時間を短縮すること。いいわね?」
背中越しにルチルに一瞥をくれると、ヴィッキーは部屋を後にした。