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サロン・ド・メロ  作者: ロッシ
3/15

第三話 開かれる世界

 次の日の朝早く、ディアナは宿の自室を出た。

その日はいつになくアクティブな印象で、

髪は後頭部でシニョンを作って纏めているし、襟元と袖口を紐で留めた、白いふんわりとしたブラウスの上には黒いゆったりしたサロペット。

足元もいつものオックスフォードではなく、ペタンコの黒いフラットパンプスを合わせていた。

安宿の食堂で手早く朝食を済ませると、小さな革のポシェットを肩から掛け、いそいそと宿を後にした。

ルチルがそれに気が付いたのは、ディアナの後ろ姿を窓の中に見付けた時だった。


 ベッドの上で上半身を起き上がらせると、ワサワサと髪を掻きながら部屋の中を見回した。

ディアナのベッドの脇には大きなボストンバッグ、裁縫箱が置かれたまま。

安堵の息を漏らしたと同時に、ふたりのベッドの間にある燭台の足元に置かれたメモに気が付いた。

『公園に行ってきます。』

丁寧な字で記されていた。


「どこの公園だべさ。」


それもそうだが、当面の問題は今日の衣装のことだった。ひとりで選ぶにはまだまだ修行が足りない。

と言うよりも、多分、何百年修行しても体得できない自信すらあった。

が、それすらも杞憂だった。

部屋の片隅の小さな椅子の背もたれには、今日のルチルの衣装が用意されていた。


「ここに気が付くなら、どこの公園に行くか書かかないとならんことにも気が付くべきだべさ。」


ひとりで笑った。




 この港街は比較的乾燥した土地に位置する。その日の空も、雲ひとつ無い快晴だった。

宿から最も近くにある公園に辿り着いたディアナは大きく伸びをした。

白亜の石造りの家々が立ち並ぶ住宅街に、ポツリと開けた公共の公園。

ディアナが到着するよりも更に早くから、近所の老人達が集まっていた。

それぞれが思い思いに話し込んだり、体操をしたり、ボールゲームをしたり。


「おはようごぜぇます!」


ディアナはそんな老人達の輪の中に飛び込んでいった。



 ディアナに用意されていた、黒いピッタリとしたカットソーと、腿の部分を魔物に引っ掻かれたみたいに切り裂かれた黒いスキニーパンツに体を捩じ込んだ後、くるぶし近くまで丈のあるグレーのロングカーディガンを羽織り、白いブーツの紐を締めてから、ルチルは部屋を後にした。


「ねぇ、私の連れ、どこ行くって言ってたぁ?」


食堂で調理をしていた女将に尋ねた。


「あの子かい?すぐ近くの公園だと思うよ。」


「あんがと。」 


女将に差し出された丸いパンをコーヒーと一緒に腹に収めながら、ルチルは壁の時計を見た。


「あと10時間かぁ。」




 ディアナの転がした球は、見事にゲートをを潜り抜けた。


「やったぁー!」


スティックを振り上げながら、ディアナは飛び上がって喜んだ。


「やったぁー!じゃないわ。

何度言ったら分かるんじゃ。ちゃんとゲートの数字順に通さんといかんとおしえたじゃろうが。1も2も飛ばして3に入れる奴がおるか。」


「ひゃあー。そうだったべ。すみませんですだぁー。」


「まったく最近の若いもんときたら、こんな簡単なルールも分からんか。」


「すみませんですだぁー。」


しょんぼり。と言う表現がここまで似合う人間もそうはいないだろう。

ディアナは今にも泣き出しそうに眉を下げ、必死に謝っていた。


「まぁまぁ、バロッタ爺さんや。せっかくこんな若い娘が一緒に遊んでくれとるんだから、そんなガミガミ言いなさんな。」


「そうじゃ。お前さんのせいでこの娘さんは、もう二度とわしらと遊んでくれなくなるかもしれんぞ。」


「そうじゃそうじゃ!謝れ!」


「わ、わしが悪いんか!?」


仲間に責められバロッタ爺さんもしょんぼりだ。


「謝ることないですべ。オラ、とっても楽しいべ。また混ぜてくんろ。」


「かぁー!嬉しいこと言うねぇ!やいバロッタ爺!謝れ!」


「結局それか!!」



 公園の外。馬車などの侵入を防ぐため、腰丈ほどの高さの柱が立っている。

ポケットに手を入れ、その柱に腰掛けながら、

老人に囲まれながら笑顔を見せるディアナを、ルチルは公園の垣根の隙間から見つめていた。

日が少し高くなった頃、老人達は道具を片付け、ディアナに手を振りながら引き上げていった。

それと同時に、老人達と入れ替わるように公園に現れたのは小さな子供達だった。


「よぉーっし!昨日の続きやろうぜぇー!」


「じゃあ、マリオが鬼だじょ!」


「えぇー?また僕なのぉー?もうやだぁー。」


「マリオが走るの遅いのが悪いんだぞ!」


「だって僕ずっと鬼なんだもん。もうやだ!」


「じゃあ、私が鬼になってあげるべ。」


「え!?いいの!?」


「いいべー。その代わり、みんな、頑張って逃げないと捕まえちゃうべぇー!」


「きゃー!きゃー!」


「わぁー!にげろぉー!」


蜘蛛の子を散らすように逃げる子供。

それを追うディアナ。

皆、楽しそうに笑っている。

子供の鬼ごっこは長い。実に長い。

ディアナも若いとは言え、子供の持久力には敵わない。

くたびれて走るのもままならなくなり、音を上げたようだ。

砂場の辺りにしゃがみ込むと砂の山を作り始めた。

子供達もそんなディアナの元に徐々に集まっていき、いつの間にか全員が砂遊びを始めていた。


「ねぇねぇ、おねーちゃん。これ、お団子ね!」


「これはパン!はい、どーじょ!」


「これは、これは、これはホッケの唐揚げだぞ!」


「うわぁ、美味しそうだべぇー。いただきまぁーっす♪」


砂のご馳走を前にいつの間にやらおままごとが始まる。

少し大きな女の子がお母さんで、同じく少し大きな男の子がお父さん。小さな子達はそれぞれ子供達やペットの猫らしい。

ディアナが一番年下の末妹。

そんな感じのやり取りか聞こえてきた。


そんなままごとがしばらく続き、お父さんとお母さんが家財道具の購入で揉め始めた頃、子供達の母親と思われる女達が現れた。

ディアナは服の砂を払うと、女達に挨拶をしていた。

初めこそ少し警戒する素振りを見せていた女達だったが、子供達がディアナにべったりと纏わりつくのを見ると、この少女が悪い人間ではないと判断したらしい。

子供達は再び鬼ごっこに戻り、母親達とディアナはベンチに腰掛けた。

ほんの少し会話を交わしただけで、女達は声を上げて笑い始めた。


 日がかなり高くなった。昼時だ。

子供達を連れて親達が帰宅を始めた。

どうやら最もディアナになついた子供の親がディアナを昼食に招待したようだが、彼女は首を横に振った。

名残惜しそうにする子供達に手を振ると、ディアナは再びベンチに腰を下ろした。

親子連れが去った後、公園に現れたのは作業着姿の男達だった。

皆が一様に屈強な肉体を持っている。

男達はベンチに腰を落ち着けると、弁当袋を広げて昼食を摂り始めた。

ディアナもポシェットから小さな包みを取り出した。サンドイッチだった。

大男達と共に昼食を。というのは流石に気がはばかられるのか、ディアナは男達を眺めながら、ひとりベンチでサンドイッチを頬張っていた。

サンドイッチを喉に詰まらせた。

苦しそうに胸を叩くディアナ。

そんなディアナに、近くのベンチに座っていた中年の大男が水筒を差し出したのだ。

ディアナはそれを受け取ると、胸につかえたパンの塊を飲み下した。


「大丈夫か?お嬢ちゃん。」


「あ、ありがとうごぜぇましただ。」


「飲みもんもねぇで食うと体に毒だぜ。そいつぁまだ口付けてねぇから、お嬢ちゃんにやるわ。」


「そ、そんな!そしたらおじさんの飲み物が無くなってしまうべ。」


「なぁに、こいつらから貰うから気にすんな。」


そう言って親指で指し示した先には、爽やかな笑顔を湛える強面の男達。


「俺はこの街に出稼ぎに来てるんだがよぉ、故郷にちょうどお嬢ちゃんくらいの年頃の娘を残してきててなぁ。なんか、お嬢ちゃん見てたら恋しくなっちまったぜ。」


笑顔こそ浮かべているが、男の目は寂しげだ。

ディアナも故郷に家族を残してきている。

男の気持ちはよく分かる。

いつの間にやら隣同士のベンチをくっ付け、ディアナを囲むようにしての昼食会。

ひと切れのサンドイッチを大事そうにかじる姿を不憫に思ったのか、男達は自分の弁当から少しずつおかずをディアナに分けてくれた。


「そんな、悪いべ。」


「気にすんなって。」


いつの間にやら、ディアナの膝の上の包み紙は豪勢なご馳走にと変わっていた。

ディアナは大事そうにそれを味わった。


 昼休みが終わる頃、男達はディアナに手を振ると仕事に戻っていった。

公園にはまた静寂が訪れた。

昼下がりの公園には人の影はない。

ディアナはベンチに腰掛けたまま、静かに空を眺めていた。

遥か遥か高く、大きな鳥が舞っている。

優雅に。

ディアナの心はその鳥へと馳せた。

思えば、本当に遠くへ来た。

家を出たのはいつ頃だっただろう。

密林の国の港を出て、山岳の国へ。

運河を通り抜けるとそこは砂漠の中の大河。

その大河の河口に拓けたこの港街に辿り着くまで、実に数ヶ月。

それから水の都に渡り、ルチルと出会い、再び港街へ。

ディアナの脳裏に両親の顔がよぎる。

途端に目頭が熱くなった。


「ダメだべ。今は、ダメだべ。」


目尻から冷たいものが頬を伝うのが分かった。


「あっ!おねーちゃん、いたぁ!」


そんな時、ディアナを呼ぶ声が聞こえた。

振り返ると、午前中に遊んだ、一番小さな女の子とその母親の姿だった。

急いでブラウスの袖で顔を拭った。


「おねーちゃん?えーんしたの?」


「してない、してないべ。元気だべ。」


「ごめんね、何度も。この子がどうしても、おねーちゃんとおやつ食べる!って聞かないから。」


母親の手には、ポットとバスケットが握られていた。


「おやつ?」


ディアナが空を眺め始めてからもうそんな時間が経っていたのだ。


ディアナと親子はベンチにフェルトのレジャーシートを広げると、お茶の道具とお菓子を並べた。

シンプルなビスケット、パウンドケーキ、可愛らしいヒヨコ柄のティーカップに紅茶。

至福の時だ。


「おねーちゃん、えーんしたらメよ。いいこいいこしてあげゆ。」


「うん。ありがとうね。ありがと。」


「はい!あーん!」


そう言って、女の子はディアナにビスケットを差し出した。


「あーん。」


首を前に伸ばし、ディアナはそのビスケットにかじりついた。

美味しい。

心からそう思った。




 そんなディアナと子供の姿を、垣根から覗くルチルもまた思った。


「なんで私、一日中見張ってたんだろ。」


日が暮れ始めた。


時間だ。


ルチルは公園の入り口へと回り込むと、ディアナの元へと歩み寄った。

ベンチの上で膝を抱えて、頭をその膝に埋もれさせて、ディアナは座っていた。


ルチルの足音を察知してか、ディアナが顔を上げた。


「おでこに跡が残ってますよぉー。」


ルチルは自分の額を指差して見せた。




 デパイへと向かう道すがら、ディアナは文房具店に立ち寄ると、質の悪いスケッチブックと24色の色鉛筆を購入した。

それだけを手に下げ、ふたりはデパイの扉を開けた。

開店直後のバーには客の姿は無い。

ふたりは昨夜と同じテーブルに席を取った。


「ご注文は?」


ルチルは野菜スープとポテトサラダを注文した。

ディアナは昼食もおやつも食べていたが、それを垣根の隙間から見ていたルチルと言えば、1日中飲まず食わずだったのだ。


「ディアナは?」


ルチルが問い掛けた。

ディアナは何も答えなかった。

ルチルがディアナに目を移した時、既にディアナは遥か遠くの世界へと翔び立った後だった。



 カウンター席で温かいスープを飲みながら、ほとんど味のついていないポテトサラダを食べる。

ニンジン、ダイコン、タマネギ、セロリを四角く刻み、コンソメベースの味付けで煮詰めたスープは空きっ腹に染み渡る。

サラダの方は、本来はマヨネーズで和えるはずだったものを、ルチルのリクエストでほとんどマッシュポテトの状態で器に盛られていた。

スプーンでポテトを口に運んではスープをすすり、またポテトを運ぶと今度はウィスキーを含む。

それを何度か繰り返した時だった。


「どんな食い合わせよ。」


背後から声がした。


「を。時間ぴったり。」


昨夜と同じくワンレングスの髪を中分けにしているが、今日は毛先を巻いてはいない。

大きな四角い黒眼鏡をかけ、薄い耳たぶからは白銀に輝く細いチェーンを垂らしていた。

黒いキャミソールの上に同じく黒いレース編みのロングスリーブ。胸元から肩、腕にかけてレースの隙間から白い肌が覗く。

膝下丈の真っ赤なタイトスカートには深いスリットが入っており、大人の色気を最大限に演出している。

よほど背の低さを気にしているのだろう。

今日も非常にヒールの高い、黒のショートブーツを合わせていた。


「昨日も思ったけどなんでそんなエロいの?」


「28にもなれば普通よ。」


「そんなもん?」


「あんたみたいな羨ましい顔してる女にゃ分からないでしょうよ。んで、あの子は?」


「あっち。」


ルチルはスプーンを咥えたまま、奥のテーブルを指差した。


「は?」


思わず声が上がった。

指し示された先に、スケッチブックに何かを書き込んでいるディアナの姿を見付けたからだ。

女は黒眼鏡を外しながらディアナの座るテーブルに近付いて行った。


「冗談でしょ?今、描いてるの?」


その言葉はディアナには届いていないようだ。

手を止めることなく、一心不乱にスケッチブックに向かっていた。

テーブルの上には、破りとられたページが何枚も何枚も散らばっていた。


「納期も守れないようじゃあ、プロとしてなんかとてもやっていけないわね。」


言いながらそのうちの1枚を手に取った。


その途端、女は総毛立つ思いに襲われた。


 


 それは、女児の絵だった。

胸元にフリルが何重にもついた白いワンピース。

胴回りに巻かれた黒いレースのリボンが際立っている。

スカートの裾にも幾重にもフリルが配置され、まるでお姫様のよう。

しかし、そのシルエットには動きやすさを感じさせるようなゆとりが取られているように見える。

子供の愛らしさと、活発な動きを両立させる、着る子のことを一番に考えた、そんなデザイン。

そのデザイン画を見た瞬間、女の頭の中に形が降臨した。

見た瞬間だ。

どんな素材で、どんな奥行きで、どんな丈で、どんなをラインを取り、どんなカーブを描くのか。

それだけじゃない。

どんな子供が着て、どんなことをして遊んで、どんな笑顔を浮かべるのか。

一瞬で、その服を着た子供の姿までが、女の頭の中に降り注いだのだ。


(嘘。嘘よ。)


女はもう1枚、デザイン画を手に取った。

それは老夫の絵だった。


(これも。)


もう1枚。

そちらは大男の絵。


(これも!)


もう1枚。

子供を連れた女の絵。


(これも。これも。)


次々とデザイン画を手に取っては、目を落とし、その度に全身が震えるのだ。


(これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれこれもこれもこれも!!!

これもよ!!

全部、全部、全部よ!

どれを見ても、浮かぶ!浮かぶわ!!

どんな服になるのか、どんな風に作ればいいのか!

どんな人の為の服なのか!どんな人に着て貰いたいのか!

浮かぶ!浮かぶのよ!)  


女はデザイン画を纏めると、ディアナの手元を凝視した。


ディアナが色鉛筆で1本の線を引いた。

同時に、女の頭の中に1枚の布がはためき、真っ直ぐにカットされ、形作られる。

ディアナの線と、女の面が、瞬時に一致するのだ。


次から次へとディアナの内包する感情の渦が吐き出されていく。

スケッチブックに鉛筆をつけると、途端に世界が広がる。

ものすごい勢いで、1枚描いては破り、また1枚描いては破り。

平面として生み出されるそよ全ての世界を手に取る度に、女の頭の中ではその人物が立ち上がり、色とりどり、華やかな、それでいて生命に溢れ、にも関わらず限りなく美しく、

次から次へと人々が笑顔を浮かべるのだ。



(こんなこと、こんなことって・・・。)



女はディアナの隣の椅子に腰を下ろした。

そして何も言うことなくじっと、静かに、ディアナが生み出すその世界に魅入られていた。


「どした?」


ルチルが女の椅子の背もたれに手を掛けた。


女は素早い動きで黒眼鏡をかけ直した。


「え?泣いてんの?」


ルチルはその顔を覗き込んだ。


「るっさいわね!酒よ!酒が足りないわ!!」


女が怒鳴り声を上げた。

その声が震えていても、ルチルは何も言わなかった。







「あはは!あは!あははは!!」


「ちょっと!飲み過ぎだからぁ!」


「だ、大丈夫だべか?」


いつの間にか日も変わり、昼間は快晴だった空は雲で覆われていた。

星も月も無い、真っ暗なビルヒルの路地を3人は歩いていた。

したたかに酔った女を両脇から支えながら。


「なんでそんな飲むかなぁ。」


「てか、そんな飲んでたんだべか?」


「目の前で浴びるように飲んでたでしょぉがぁー。そんな集中してたの?」


「いや、お恥ずかしいべ。いつもはこんなこと無いんだべが、なんか今日は何も分からなくなっちまって。」


「まぁね、確かに何も感じないくらいに描いてたもんねぇ。」


「たはは。本当にお恥ずかしいべ。」


「はぁずかしいことなんてないわよぉーう!」


ディアナの言葉に、ぐったりとしていた女が突然反応を示した。


「うわっ!びっくりしたべ!」


「あんたねぇ、あんたのねぇ、あんたはねぇ!」


女はルチルの手を振りほどくと、勢いよくディアナに掴み掛かった。


「あんた、あんたって、あんたって・・・」


ディアナの顔を両手で掴んだ女の頬が、大きく膨らんだ。


「ひゃあぁぁー!!吐く!?吐くんだべか!?」


「ちょいちょいちょい!人に掛けるのは無しだからぁー!」


ルチルに引き剥がされ、女はよろめくように道端に向かって歩いていくと、民家の壁に手を付いた。


「おろろろろろろろろ!!」


「うぇー・・・・」

「うぇー・・・・」



ひとしきり吐き出し、それでも尚、えずいている女の背を擦るふたり。

ようやく落ち着いてきたようで、女は再び千鳥足で歩き始めた。


「ちょっと、大丈夫だべか?」


ディアナの問い掛けに、女はすっと姿勢を正した。


「大丈夫。大丈夫よ。」


雲が切れ、月が顔を覗かせる。

その優しい光が、女を照らし出した。


「このヴィクトリア・ハイセヘムスが、あんたのパタンナーになってあげるわ。

だから、あんたの夢は、


大丈夫・・・・・・


・・・・・・・おろろろろろ!!」






つづく。


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