鼓動 新星の消失
アダムが誕生したと紹介された。
私より少し若いぐらいの少年が、流暢に言葉を話していたのを覚えている。
「アダムのことが気になるか?」
世話係の彼が寂しそうに言うものだから、「そんなことないよ」と答えた。
気ならないというのは嘘だったけれど、好きという訳ではなかったし。
彼にアダムの話をする気にはなれなかった。
それから、数日たった現在。
生物たちへの精神支配に、機械生命体へのシステム破壊。
周囲が混乱している最中で唯一まともに動けたのは、精神支配に抵抗する私だけだった。
私は、世話係が止める言葉も聞かずに飛び出す。
「どうしてこんなことを!?」
事件の発端である、アダムに叫ぶ。
「人間が機械に支配されるなんておかしいだろ?イブ、君ならわかってくれるよね。」
「バカバカしい。そんな話、山ほど聞いたことあるよ!それが間違ってるってことぐらい、誰だって知ってることなのに!」
人間によるロボットの支配。ロボットによる反乱。一度は聞いたことがある作り話。
なのにアダムは、不思議そうに首をかしげながら「なんの話だ?」と聞いてきた。
「やっぱり、あなたにはわからないんだね。」
出会った時から感じた違和感。
おそらくアダムには、私と違って思い出がない。思いやりを知らない。人間らしさというものが、ない。
この反乱は、彼の心によるものではない。彼の知る限りの常識としての、単なる行動である。
「ごめんね。私にあなたは救えない。」
言っても無駄。時間も無い。とすれば、私にできることは一つ。
自分の意識と、彼の意識を無理矢理つなげて停止させることだった。
「お前っ正気か!?自分が犠牲になってもいいのか!」
「あいにく、一回死んだようなものだしねっ。痛覚もないから怖くもないよ!」
また、嘘をついた。
でもやるしかない。止めるにはこれしか思いつかない。必死だった。
流れぬ涙の代わりに、熱くなる目頭。
最期に、あの世話係の姿が浮かんだ気がした。