表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
統合失調症の彼女の異世界  作者: 古川葵
9/16

第九話

 深夜、遠乃は目を覚ました。


 どうしてこんな時間に目を覚ましたのか、自分でもわからなかった。傍らに置いた腕時計を確認すると時刻は午前二時を示している。


――誰か、いる?


 遠乃は反射的にベッドサイドテーブルに置いたSCARを手にとった。樹脂、冷たい感覚。


 何者かが、いる気がした。グロックをショートパンツの後ろに差し込む。


 SCARを構えた。照準するのは唯一の出入り口であるドア。


――抑制した、足音。数人分のそれは階下をゆっくりと歩きまわっている。


 どっと嫌な汗が吹き出した。


――まだ、上がってこない。


 遠乃はおろしたままだった髪をさっとまとめた。近接戦になる気がした。


 一階の階段近くに、気配を感じた。飛び出すべきか、待つべきか、一瞬迷った。


「っ!」」


 遠乃は思わず小さく舌打ちした。初歩的なミス、というより実戦経験が足らない事によるミス。武器を作ることに執着しすぎて、予備の弾倉を用意するのを忘れていた。


 いまから『出力』して間に合うだろうか?否、『出力』中は無防備になる。今ある分だけでなんとかするしかない。


 階段を、上がってくる。遠乃はSCARのグリップを強く握りしめた。


 殺さなければいけない。


 ここで生きていくためには、殺さなければいけない。


 親指でセレクターを弾いた。安全装置から、オートマチックへ。引き金を絞れば、引き金を引いている間中、弾丸が出続ける。


 ドアノブが回った。ドアが数センチ開いた瞬間に、遠乃は引き金を絞った。


 銃口から閃光が弾けた。耳をつんざく発砲音。伸びるマズルブラストが、月明かりだけが照らす部屋を彩った。


 男の悲鳴。そして反撃の銃撃が飛んできた。遠乃は片膝を立てた姿勢で短連射を数撃見舞った。


 気配が後退したのを見て、遠乃は強烈な前蹴りを穴だらけのドアに叩き込んだ。弾かれるように一瞬退き、SCARを構える。死んだばかりの男が血だらけでドアの前に倒れていた。


 侵入者は負傷したらしく、血が廊下を挟んだ反対側に続いていた。


 銃を構えたまますばやく移動すると、足を負傷した男が別の部屋に逃げ込むところだった。遠乃はなんのためらいもなく引き金を引いた。


 これで、二人、足音を聞いた限りでは、もう一人くらいはいてもおかしくない。


 その瞬間、銃撃が飛んできた。大口径。散弾銃らしき銃声に遠乃は飛び退いた。


 廊下に向かって、めちゃくちゃに撃っていた。蝶番に命中したらしく、ドアが半分外れた。


 五発、六発。遠乃は自然と発射された弾丸の数をカウントしていた。自分でもどうしてそんなことをしているのかわからなかった。


 八発。銃撃が、止んだ。遠乃の身体は自然に動いた。


 半分外れたドアを蹴破り、室内に侵入した。大柄な男が、弾切れの半自動式の散弾銃を構えたまま立っていた。


「クソ、テメエ――」


 言いかけた男の胴体に、銃撃。SCARに残った四発の弾丸が、男の腹部に吸い込まれた。


 男はたたらを踏んで後退したが、まだ立っていた。――防弾ベスト。レベル三以上の、セラミックプレートを内蔵。


 男がわめきながら半自動式の散弾銃――イズマッシュ・サイガ一二だ――を棍棒のように振り回した。


――ただの大ぶりだ。遠乃は自分でも驚くほど冷静だった。


 打撃が通り過ぎた瞬間に、遠乃は飛び込んでいった。SCARの銃床を振り上げる。


 乾いた音とともに、樹脂製の銃床が男の顎を跳ね上げた。男の膝が笑った。散弾銃が男の手を離れる。


 男はそれでもなお闘おうと拳を構えた。格闘技経験者らしいジャブの連打。


 遠乃はそれをパディング――掌で打撃を逸らすボクシングの技術――でいなし、前腕部で受け、ダッキングで躱した。お返しとばかりに右ストレートをがら空きの腹部に捻じ込む。


 男が腹を殴られて動きを止めたところで、右足を上げた――回し蹴りの予備動作だ。それに反応して、男がガードを固めようとする。


 フェイントだ。遠乃は足をおろし、ショートパンツに挟んだままのグロック一九を抜いて、撃った。


 防弾ベストのない、腿に。前腕部に。ひざまずくような姿勢になったところで、眉間に照準した。


「――あなたの仲間は?」


 自分でも驚くくらい冷たい声だった。


「ふ、二人だけだ」


 激痛に脂汗を流す男が呻いた。


「どうしてここがわかった?」


「電気が、電気がついてるのが見えたんだ。だから誰かいるだろうと……金が奪えると思ったんだ」


「そう」


 遠乃は引き金を引いた。九ミリの弾丸が男の頭蓋骨を破壊した。黄土色の脳梁が露出する。


 酷い臭いだった。遠乃はSCARを拾い上げ、弾倉を交換した。同じようにグロック一九拳銃にも新しい弾倉を『出力』して、取り替えておく。こんな騒動を起こしてしまった家にはいられない。遠乃は暗い街へ歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ