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美人な幽霊は幽霊が苦手なようです。 - Episode of Zero - (アンソロ)

作者: 牡牛ヤマメ


 ――この世に幽霊は存在しているのか。


 現代社会を生きていれば、誰しも一度はその疑問が頭をよぎるだろう。

 科学的根拠がないからと否定する者もいれば、オカルト的観点から肯定する者もいる。

 今も昔も議論が交わされ、結局は答えが出ないままになっている。


 ――なんてことを語っているが、まあぶっちゃけそんなのはどうだっていい。


 ほんとうに幽霊がいてもいなくても、それで何かが具体的に変わるわけではない。せいぜい退屈を紛らす程度の話題になればいいと思っている。


「と――、灯也(とうや)さぁん! た、助けてくださいぃっ……!!」

「……はぁ」


 深々とため息をつき、部屋のなかを(、、、、、、)浮遊する(、、、、)白装束の少女(、、、、、、)を見上げる。その後ろを透明な球体がいくつも追いかけており、彼女はそれから逃げ回っていた。

 もはや見慣れてしまった光景だ。無視を決め込み、手元のスマートフォンに視線を戻す。


「と、灯也さん、無視しないでぇっ!! お願いですから助けて――い、いやあああぁぁっ!? こっち来ないでくださいぃっ!!」


 ああ喧しい喧しい。うるさいから騒ぐならよそでやってくれ。


 さて――ここでもう一度さっきの疑問を繰り返したいと思う。

 この世に幽霊は存在しているのか。

 もし俺がそれを問いかけられたら、きっとこう答えるだろう。


 俺の部屋で(、、、、、)泣きべそかいてるぞ(、、、、、、、、、)――と。


        ◇   ◇   ◇


 それからしばらくして床にへたり込んだ彼女は、肩で息をしながらどんよりとした空気を醸し出していた。

 彼女を追いかけ回していた球体はもうどこにも見当たらない。

 どうやら満足して帰ってくれたようだ。いつものことである。


「し、死んじゃうかと思いました……」

「……いや、お前もう死んでるだろ」


 ちょっと面白い発言にぽつりとこぼせば、彼女は恨めしげに睨み上げてくる。

 しかし悲しいかな。そんな溢れんばかりの涙を浮かべていては迫力もへったくれもない。

 それ以前に、彼女の容姿で怖がれというのが難しい注文だ。


 黒曜石のごとき美しい黒髪に陶磁器のような白い肌。顔立ちは愛嬌に溢れ、とろんと下がった目尻など彼女の無害さを象徴しているかのようだ。

 しかしそれを差し置いて目を引くのが――白装束の上からでもはっきりわかる、溢れんばかりの豊満な双丘だ。さっきの出来事のせいで着衣が乱れたのか、胸元が大胆にはだけてしまって目のやり場に困る。


「……見えそうだぞ」

「へ? ――わわっ!?」


 俺が胸元を指差しながら言えば、ようやく自分の格好に気づいたらしい。

 顔を真っ赤にし、慣れた手つきで白装束の乱れ直していく。


「……灯也さんのえっち」

「ああそう。勝手に言ってろ」

「む――むうぅぅぅっ!!」

「……あ?」


 うつ伏せでベッドに寝転がったまま少しだけ振り返れば、怒ってるのか膨れてるのかよくわからない表情で殴りかかってくる少女の姿があった。

 両の拳をぶんぶんと振り回し、これでもかというほど肩を叩いてくる。

 ――もっとも、幽霊に何をされたところで痛くも痒くもないわけだが。


「……何やってんの、お前」


 触れないのわかってるだろ、という気持ちを込めて言ってやる。


「どうして! さっき! 助けてくれなかったんですかぁっ!!」

「うっ!?」


 耳元で叫ばれ、おもわず変な声を出してしまう。


「灯也さんはいっつもそうです! わたしが助けてって言っても何もしてくれません! もっとわたしに優しくしてください! たくさん甘やかしてください! あとちょっとはドキドキしてください!」

「追い出さないだけありがたいと思え、このバカ……っ」


 不意打ちを食らったせいで耳の奥がキンキンする。

 たしかに俺から彼女に触ることも、彼女から俺に触ることもできないが、こんなふうに実害はしっかりあったりするのだ。

 つうか最後のはなんだ。変な期待してんじゃねぇよ。


「……幽霊のくせに幽霊が苦手ってどういうことだよ、まったく」

「うっ……」


 すると今度は彼女が変な声を上げ、気まずそうに視線を宙に彷徨わせた。


「し、しょうがないじゃないですか……苦手なものは、苦手なんですから……」

「幽霊のくせに」

「二回も言わないでください!」

「…………」

「む、無視しないでくださいよーっ!!」


 涙目になりながら、再びぽかぽかと殴りかかってくる幽霊少女。


 ――ああほんとう、なんでこんなことになったのやら。


 そう、事の発端は今から二週間前。

 ちょうど夏休みに入る当日まで遡る――のだが、残念ながら今回はここまで。


 この幽霊少女との出会いは、また今度語ることにしよう。

 



 この小説はイラストレーター・北彩あい先生(@kitasaya1833)のイラストを元にした作品です。

 長編用に構成した設定の一部を短編にまとめてみました。

 ラノベ数冊分くらいありそうなのはここだけの話。

 以下のURLからイラストを見れますので、これを読んでちょっとでも興味が沸いた方はぜひとも覗いてみてください。

https://twitter.com/i/moments/884552195433054208


「#なはがな」、「#美人な幽霊は幽霊が苦手のようです」で検索検索ぅ!

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