こんにちは勇者です。魔王さんのお宅はこちらですか?
僕は勇者だ、代々の勇者。
500年以上続く勇者の家系だ。
俺の一族はずっと魔王さんを探している。
勇者が魔王さんを探すのは当たり前だろう?
色んな町で情報を集めているが、
「すいません、勇者ですが、このあたりに魔王さんは居ますか?」
そんな事を質問すると何故か皆立ち去ってしまう。
おそらく魔王さんが怖い人なのだろう。
自分で探すしか無いのだろうな。
今日もフィールドを歩いては魔王さんを探しているがなかなか見つからない。
時には自転車で、時には電車で、
遠くの街には行けないので、家のある足立区を中心に活動している。
父も祖父も曽祖父もそのまたじいちゃんも結局は見つけられなかったらしい
一度、大昔に第六天魔王という人が居たらしいが、その人は魔王さんじゃ無かったらしい
これは僕の代でなんとかしないといけない、
そんな使命感に燃えて今日も自転車で探していた。
16才になったらバイクの免許を取って探せる範囲は多くなるだろう。
しかし僕は極普通の高校生のため、探せるのは日曜と祝祭日だけだ。
長期の休みには泊りがけで探しに行くこともある。
母は「いい加減にしなさい、お小遣い減らすよ」と言うが
祖父は「どんどんやれ」と小遣いをくれる
どちらの言うことを聞くべきか、そんなことは決まっているでしょ?
父はもう勇者をやめてしまって久しい。
僕が生まれる前に勇者じゃなくなってしまい普通のサラリーマンをしている。
生まれた時から勇者であり、生涯勇者として過ごすのが
僕の家系の使命なのだが、父は諦めてしまったらしい。
その時はじいちゃんが相当怒って父は勘当されてしまった。
だからじいちゃんの家に行けるのは僕だけだ。
今日は練馬のじいちゃんの家に行くことにした、古文書が見つかった、と電話がかかってきたのだ。
じいちゃんの家に行くと
「おぉ、よう来たな、勇者」と言ってご馳走を振る舞ってくれた
寿司だ。
僕は寿司が大好きだ、特にエビが好きだ、エビなら20貫はぺろりだ。
あとはそうだな、鉄火巻とサーモンも好きだ。
サーモンってなんだかモンスターっぽい名前と言うだけで子供の頃からよく食べていたらしい。
寿司を食べながらじいちゃんは古文書を見せてくれた。
「ワシの曽祖父が書いたものらしいのじゃが、埼玉県あたりがあやしいらしい、ワシは練馬区だと考えていたんじゃがの」
とじいちゃんは当てが外れて悔しがっていた。
僕は今考えていることをじいちゃんに言うことにした。
「じいちゃん、僕今普通二輪免許を取るために自動車学校に通ってるんだ、
免許が取れれば行動範囲が広がるでしょ?埼玉県でも群馬県でもどこでも行けるようになるよ。
ただ、免許は取れてもバイクがないと無理なんだ、バイトで貯めたお金も自動車学校で使い切っちゃったし。」
そう言うとじいちゃんは
「ワシが買ってやろう、オートバイの店に今から行くぞぃ!」
とじいちゃんがプリウスで連れて行ってくれた。
「このプリウスっていう車はな、燃費がええんじゃ、環境にやさしい。
お前も勇者なら環境に優しいオートバイを買わないとな。」
じいちゃんはそう言うけど、僕はカッコイイバイクが欲しい。
実はネットで見つけていた、CBR250RかYZF-R25、Ninja250
この3台で考えていた。
さすがに高校生に50万円は無理ですよ、と諦めかけていた。
でもじいちゃんがタンスから100万円を出して
「買いに行くぞ」と言ってくれた。
僕はものすごく嬉しかった
じいちゃんは
「お前はよくやってる、中学生の頃からあんな父親に変わって魔王を探していたな」
そういって褒めてくれた。
僕は中古車でも良いよ、と言ったが
「勇者には新車で買ってやる、ワシのプリウスも新車で買った!」
じいちゃんはそう言うけど、もう25万キロも走ってる。そろそろ乗り換えたほうが良い。
でも、気に入ってるようなので言わなかった。
最初にカワサキ、次にホンダ、最後にヤマハに行って
どれもかっこいな、勇者っぽい。
「決めた!やっぱり色は大事だと思うしNinja250のライムグリーンだ!」
じいちゃんは
「小さいけどよく走るのか?環境にやさしいのか?」といろいろ訊いてくるが
「リッター30キロは走れるみたいだよ」というと
「プリウスより走るのか、それはすごいのう」
そう言って感心してくれた。
「流石勇者じゃ、よく考えておるわ。」とNinja250を買ってくれた、現金払いだ。
ヘルメットも手袋も革ジャンもカッコイイジーンズも買ってくれた。
じいちゃんは太っ腹だ。
「装備は大事なんじゃ」と言って今買える最高の装備を用意してくれた。
大体納車の日が俺が免許を取る日と同じになる。
ついにその日が来た。バイクが届いたんだ。
母は「お義父さんはいつもあんたに甘いんだから」
と言って文句を言ったが、母の実家のほうがお金持ちなのに母方のじいちゃんは何もしてくれない。
それどころか「魔王なんて探すのはやめなさい」とまで言ってくる。
僕の、いや、一族のライフワークを否定するのはやめて欲しい。
納車の日の晩に叔父から電話がかかってきた。
叔父も勇者だが、仕事が忙しすぎて魔王さんを探せる時間がないらしい。
「聞いたぞ勇者、お前はよくやってるようだな。愛知県に来たら一度家に来なさい」
そう言われた。
叔父は自動車メーカーに務めているのでてっきり叱られると思ったが、
勤め先はトヨタだったのでホンダやスズキを選ばなかったことに怒っていたわけじゃなかった。
関東は僕の担当だ、頑張らないと。
そう思って休みのたびに埼玉に行って魔王さんを探していた。
有力な情報を聞いたのはバイクに乗り始めて2ヶ月位経った時
買い物帰りのおばさんに尋ねた時のことだ
「魔王さんね、聞いたことあるわよ。確か東京の練馬区に引っ越したんだったかしら?」
僕は驚いた、すごく驚いた、じいちゃんは正しかったんだ!
早速練馬のじいちゃんにその話をすると
「そうか、はやりのぅ」と言って喜んでいた。
僕はじいちゃんが喜んでくれるのが嬉しい。
探す場所が大体決まったので僕はバイクで走り回った。
聞き込みもした。
探偵と間違われたこともあったが、勇者です。と言うといつものように去っていった。
勇者って孤独なのかな?と僕が考えていた時
見つけた!ついに魔王さんを見つけたんだ。
コンビニから帰ろうとしている人に尋ねると
「うん、僕は魔王だけど?」と言われた
だけど思っていた魔王さんとは少し違ってて、メガネを掛けて小太りだった。
「近いから寄ってく?散らかってるけど」
と言われて僕は二つ返事で付いて行った。
ついに魔王さんと出会えたんだ。
「それで、えーと君の名前は?僕は魔王ユキヒロって言うんだけど」
買ってきた弁当を温め直ししないで食べながら言われて
「勇者です」というと魔王さんは驚いた。
「そっかぁ」と言って急に立ち上がり僕に向かって
「もしワシの味方になれば練馬区の半分をお前にやろう」と言った。
そして
「これって代々僕の家に伝わる言葉なんだ。勇者に出逢えば言いなさいって」
そう言ってまた弁当を食べだした。
食べ終わるのを確認して
僕は魔王さんに「いいえ」と答えた。
魔王さんは
「そうだよね、平成の世の中にそんなの無理だよね」
僕は魔王さんといろいろ話をした。
僕の父が婿養子になって竹中になってしまい勇者姓を捨てたこと。
僕が生まれた時にじいちゃんが勇者っていう名前を付けたこと。
僕のじいちゃんが練馬に住んでいるってこと。
魔王さんも話しだした
魔王家の一人っ子で派遣で働いていること。
年は38才で彼女が出来たことがないこと。
だから多分自分が最後の魔王になるだろうってこと。
僕は胸をなでおろした。
もし僕が魔王さんを見つけられなかったら永久に魔王さんが見つからなかったんだ。
これは偶然かも知れないけど、魔王さんも寿司だとエビが好きらしい。
あとはアニメとゲームが好きというところも僕と同じだった。
魔王さんは最後に僕に向かって
「僕みたいになっちゃいけないよ?魔王家は多分滅んじゃうからね?」
悲しそうにそう言った。
僕は魔王さんに挨拶をして
「いつでも来ていいよ、勇者くん」と言われて家に帰った。
魔王さんはやっぱり滅んじゃうのか。と考えて少し寂しくなった。