雨上がりに
「アメンボあかいなあいうえお――ってあるだろ?」
「なんだよ、藪から棒に」
こいつが急に脈絡なく話題を振ってくるのはいつものことだ。
「アメンボは赤いか?」
「あー」
なるほど、そうきたかと思う。
さっきまで雨が降っていたのが嘘のように晴れていて、僕は水たまりを照らす虹に気付く。最初は水たまりにアメンボがいないかなと思ったのだけど、十一月にはさすがにいないか。
「赤いと思ったことはないが、アメンボは舐めると甘いらしい」
「え!? まじか」
「まぁ、今はあんまり見かけないけどな」
「いつか食ってみたいな……」
「いや、アメンボは食いもんじゃねぇし」
笑って空を見上げると、一番星を見つけた。手を伸ばせば届きそうなくせに、近くて遠い。
あっという間に陽が暮れるのはこの時期だからだろうか。彼の輝く瞳に夜の色が映っている。
「――いつまでこうしていられるんかね」
「まぁ、望むならいつまでもじゃね?」
「だと良いけどな」
僕たちは、高校卒業後の進路が違う。だから、いつまでも、とはいかない。
「帰るか」
「そうだな」
寄り道はもうできないかもしれない――なんとなく、僕はそう思った。
《了》