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パイスラアーチャーの弓になりました

作者: C4-02

かなり短いです。


思いつきなのでご容赦ください。

 


 ここアングウィス王国の端にある街コーリン。

 その街の冒険者ギルドに一人の新人冒険者がやってきた。


 その少女の名はスノウ=コージー。

 見目麗しく、特徴をあげるとすれば豊満な胸部をした少女である。



 当然欲望にまみれた男性冒険者たちの目線はその一点に注がれている。

 彼女は肩からショルダーバッグを下げておりその肩紐は彼女の胸部に一筋の線を描いていた。


 俗に言うパイスラッシュ

 略してパイスラである。



 立派なスラッシュを持った彼女がなぜこのコーリンの街にやってきたかというと親元を離れ冒険者として独り立ちするためなのだ。



 ギルドの受付には二人の女性職員と一人の男性職員がいる。

 しかし、女性職員はあいにく目の前に客がおり接客の真っ最中だ。


 スノウは迷うことなく空いている男性職員の受付へと向かう。


「こんにちは、今日はどのようなご用件でしょうか?」


 男性職員は自らの欲望を封じ込めマニュアル通りの対応をする。視線は少しばかり下がっているが…


「冒険者に登録したいんですけど……」


 スノウは自信なさげに用件を伝える。

 聞き耳を立てていた男性冒険者達は歓喜に打ちひしがれる。


 冒険者に登録するということは自分はスノウの先達として指導する機会が得られるのだ。

 もしもこれが依頼などでは美しいスノウと触れ合えるのも限られた時間になる。しかし、冒険者になるのであれば話は別だ。これからいくらでもチャンスはある。


 男達は息をひそめる。

 スノウの次の言葉を逃さぬように


「冒険者登録ですね。年齢12歳以上であることが条件となりますが大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫です。今年で15になります」


 ギルマスが緊急依頼を出すときよりも静まり返ったギルド内に静かな歓喜が舞い起きる。


 15歳、つまりはこの国で成人として認められ結婚も許される年齢なのだ。


 多くの冒険者は都合のいい未来へと妄想の翼を羽ばたかせる。

 スノウに冒険者として手ほどきをする自分、そんな自分にスノウは好意を寄せる。そして多くのクエストをこなしゴールは結婚。

 単純明快にしてはっきりとした理想の人生設計だ。


 男達が妄想の世界に旅立っている間に職員は冒険者としての条件や諸注意を済ませてしまう。


「………、以上が冒険者として過ごすにあたってのルールとなります。よろしければこの書類にお名前と生年月日、出身地をお書きください。代筆も可能です」

「大丈夫です。名前は…えと、ス、ノ、ウ、コ、ー、ジ、ー、っと。生年月日は…よし。出身はテ、ィ、ト、む、ら……うん、できました。はい」


 男性職員は書かれた内容を確認するように軽く読み上げる。この世界に個人情報保護法など存在しない。


「それではカードを作りますので少々お待ちください」


 そういうと席を立ちカード政策の魔道具の元へと向かう。


 スノウは暇になったため周りの様子を観察している。

 冒険者達はその一挙手一投足に注目し話しかけるタイミングを今か今かと狙っている。


 ちなみになぜ話しかけないかというと受付中に割り込みをすると受付嬢達からの制裁が待っているのだ。冒険者達もそんな冒険はしたくないようでそのあたりは冷静だ。



 しばらくして職員がカードを持ってくる。


「こちらがスノウさんのギルドカードになります。紛失された場合は再発行料がかかりますので無くさないように気をつけてください。他に何かご質問はありますか?」


 冒険者達はついにやってきたタイミングを逃さないため誰一人として話をしない。


「いえ、特にはありませ


 スノウの話の終わりを予感し、男性冒険者達が一斉にスタートを切ろうとした瞬間ギルドにドアの開閉音が響く。


「ん。」

「なんだい、嬢ちゃん冒険者になったのかい?」


 タイミングよくギルドに入ってきたのは女性三人で組まれたパーティー『ガーネット』の面々だった。

 ドアの開閉音で隙を突かれた他の冒険者より先にスノウに話しかけたのはガーネットのリーダー、ザクロだ。


「はい、そうなんです。今登録してもらったばっかりで……」

「そいじゃアタシらがしばらく面倒見てやるよ。アタシはCランクパーティー『ガーネット』のリーダー、ザクロ。こっちのローブを着てるのがハナで、デカい剣を担いでるのがミノリ。あんた名前は?」

「ス、スノウ=コージーって言います。新人なのでFランクです。武器は弓を使ってみたいです」


 冒険者達は落胆した。

 せっかくの可愛い女の子を見た目はよくとも気が強いことで有名なガーネットに奪われてしまったのだ。

 悔しくとも多くの冒険者は手を出せなかった。Cランクというと中途半端なように聞こえるがDランクまでとは隔絶した差があるのだ。

 昼間っからギルドの酒場にいるメンツのほとんどはDランクにすぎず格上のガーネットに指導係を変われとは言い出せないのだ。


「弓を使いたいって言うけどあんた買うつもりなのかい?それともなんかあてでもあるのかい?」

「はい。登録してから取りに行こうと思ってたんです。少し待っててもらえますか?取ってくるので」


 スノウはそれだけ言うとギルドから駆け出していった。ザクロ達はどこにだよなんて突っ込みつつもスノウの帰りを食事でもしながら待つことにした。



 *



 むっ!スノウが近づいてきたな。


 俺の探知魔法に引っかかったぞ。



 現代日本で幸せん位過ごしていた俺は不慮の事故で死んで目をさますと弓になって洞窟に安置されていた。


 何言ってるかワカンネって思うだろうが最初は俺もわからなかった。体は動かんしお腹もすかん。しゃべることはできていたようだが相手もいない洞窟では独り言に過ぎなかった。


 ある日見事な体つきの少女が俺の前にやってきたのだ。


 それも見事なパイスラッシュを装備して。



 恋に落ちた。


 俺はこの子に使われるために生きよう。

 そう決心したのだ。


 少女の名はスノウといい実家は農家で15になったら独り立ちするように言われているそうだ。


 それを聞いた俺は冒険者になることを勧めた。



 なぜなら俺はチート弓となっていたからだ。


 弓魔法という技能を習得しており俺が認めた使用者が使えば百発百中、矢は自動生成、属性効果付きの矢も作れるし姿を隠している相手にも探知魔法との組み合わせでどこからでも狙撃できる。

 近接戦闘になっても俺のボディはそこらの剣よりずっと切れ味をよくすることができた。


 スノウにはまだこのことを伝えてはおらず、冒険者登録を終えたら一緒に練習する予定なのだ。



「アルクさーん?スノウですよー。お迎えに参りましたー。いきましょー」


 前世の名前でもよかった厨二心が働いてあえてフランス語にしてみた。

 スノウは俺に声を出して話しかけるが俺からは弓魔法のテレパスを使う。


 《ここだ、スノウ。登録は終わったのか?》

「はい。職員さんも優しくてすぐに終わりました。今日から冒険者デビューです。よろしくお願いしますね」

 《もちろんだ。君のことは私が守るよ》

「ふふふ、頼りにしてます」


 スノウは私を持ち上げるとショルダーバッグの要領で弦を斜めがけにしてしまった。


 つまり今私の体の一部はスノウの突起部に挟まれているのだ。さらに側から見ればスノウは今Xスラッシュしているのだ。


 たまらない

 弓生活は最高だぜ!


 *



 今日ギルドで知り合ったスノウという女の子は冒険者でもないのに弓を持っているという。


 ミノリの予想では親のお下がり、ハナは手作りなんじゃないかという。アタシとしてはお下がり説が有力だと思うがどうだろうね。


 それよりもアタシらがスノウに声をかけた時のギルドの男連中の顔ときたら絶望に染まってて最高に面白かったよ。王都にある活動画転写機とやらで自分たちの顔を見えてやりたいぐらいだったよ。

 スノウは女の私から見てもかなり魅力的だったからね。


「ザクロさーん。取ってきましたよー」


 噂をすれば影ってとこかい。

 スノウが帰ってきたよ。さてさてどんな弓を持ってくるだろうね。


「早かったじゃないか。それでその弓はどうしたんだい?」


 見た目はいたって普通だね。胴の部分が少し金属で補強されてるのかくすんだ銀色してるけど。


「これは洞窟の中で見つけたアルクさんって弓です。私を守ってくれるそうです」


 おいおい何を言い出すんだい。

 喋る弓なんてあるわけないだろ

 ましてや武器に名前までつけるなんてこの子変わった子だね。


「へぇ、弓があるんだったらあとは矢と矢筒を買えばいいわけだね。お金はあるのかい?」


 まあなんだっていいさ

 厄介な子だったら最低限基本を教えてお別れで、使えるようだったらパーティーメンバーに入れてやるだけさ。


「うん…うん……あのザクロさん、アルクが言うには矢も矢筒もいらないそうです」


 はぁ?

 さすがについてけないよ空想の世界で冒険したいんだったら勝手にしな。


「何言ってるのさ。矢のいらない弓なんてマジックアイテムでもないんだから、バカにするならアタシらは帰らせてもらうよ」


 少し怒気を孕んで語尾が強くなってしまったかもしれないがこちとら命がかかってるんだ。


「うん…わかった。頼んでみる。ザクロさん、アルクが実力を見せたいから外に出ないかって言ってるんです。矢がいらないことを証明してみせるって。少しでいいんです、見てもらえませんか?」


 かーっ。ここまでバカにされて黙ってるわけにはいかないよ。どうやらミノリも同じ気持ちらしい。ハナは……気になってるようだね。

 まあ乗り掛かった船だ。一応付き合ってやるか。


 *




 スノウはギルドで先輩たちに教えを乞うたようだ。

 しかし、俺の言うことをあまりに正直に伝えすぎたせいか先輩さんの機嫌を損ねちまったようだ。


 ここは俺がババーンと派手なデモンストレーションかましてびっくりさせてやるぜ。


 やってきましたギルド付属の訓練場。


 遠距離武器用に木で作られた人形が置いてある。

 俺たち四人と一張り以外は入り口にいた職員しかいないようだ。

 ここなら喋ってもいいだろう。


『こんにちは皆さん、私が弓のアルクです』


「「「しゃべったー」」」


 ふふふ驚いてるようだ。

 テレパスじゃなくても話すことはできるのだよ


『スノウが嘘をついていないことを示すために実演して差し上げよう。このアルクに矢が必要ないということを』


 先輩方三人は完全に引いてる。


『それではスノウ、私の弦を引いてくれ』

「はいっ」


 俺とスノウの初めての共同作業だ。


 スノウは俺を力一杯引く。

 それと同時にスノウがどんな矢を放ちたいかのイメージが入り込んでくる。


 ストン


 訓練場の木人形にぽっかりと穴が開く。


 先輩方は口を開けたまま何も言わない。


『スノウ、次は属性矢を放ってみよう。しっかりとイメージして』


 グググっとスノウはイメージを固めたようだ。


 自分が名に冠しているスノウ、そう雪をイメージしている。完璧なイメージだ。


 ピキピシッ


 次の矢は木人形の胸の真ん中に命中し雪の華を形作っている。


 鈍感な部類に入るスノウもさすがにこれには驚いたようで「すごいです」としきりに俺を褒めている。


 すごいのは俺じゃないよスノウの胸の方が俺としてはすごいと思うよ。


「スノウ、あんたこの弓をどこで手に入れたんだい?これはオーパーツだよ。はぁーー」

『私がすごいのではないよ、ザクロ君。私とスノウだから出来たのだよ。よしんば君達が私を手に入れたところで私は普通の弓にしかならないからね。勘違いしないように』

「「「はいっ!」」」


 先輩方三人は私とスノウをやたらと褒め、パーティーに入らないかと勧誘してきた。

 これが野郎どもの欲に満ちたパーティーだったならばその場で無数の風穴を開けてやっていたところだがこの三人は十分に信頼できると思う。

 俺としては女性に囲まれるパーティーには夢があると思うし特に意見はしないでおこう。

 これはスノウが決めることだから。



 結局スノウはガーネットに参加することに決めた。


 これが伝説の女性Aランクパーティー『ガーネットレイン』の始まりの瞬間でということは誰も知らなかった。


 *   *   *



 王都にも名の知れた女性のみで結成されたパーティー『ガーネットレイン』の弓使いのスノウ=コージーは身を潜めていた。


 今回のクエストはアングウィス王国最南端に位置するバールビーフォレストのモンスターの大量発生を討伐するというものだった。



 ガーネットレインは四人パーティーで大剣使い、片手剣使い、補助魔導師、弓使いとバランスのとれた陣容である。


 それぞれ『両断の赤大剣』、『変幻自在のバックラー』、『円熟の術師』、『天下無双の魔法弓』と二つ名を持ちながらも驕ることない優れた人物とされた。


 四人の戦い方はほとんど基本のセオリー通りだ。


 まず弓で遠距離からの攻撃をする。

 大抵の敵はこの時点で全滅だ。


 その後魔法弓アルクの指示に従い殲滅していく。ハナは他の三人に補助魔法をかけミノリが突っ込む。ザクロがそれを援護し遠くの敵をスノウが射抜く。


 今回もセオリー通りに最大弓魔法をスノウがぶっ放す。

 森にいた魔物の八割はこの時点で脱落する。

 残りの二割はとっさに殺気を察知できた優秀なものだった。


 だったというのはアルクの探知魔法の情報通りに動きアルクの立案によるパワーレベリングによって数十倍の力を手に入れたミノリとザクロの二人が切り裂き、アルクを引き絞ったスノウの弓に撃ち抜かれてしまうからだ。



 そんな昔と違い格段に強くなったスノウだが一つだけ変わらないものがある。


 それは家を出るとき母から送られた思い出の詰まったショルダーバッグ





 によってできたパイスラである。

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[良い点] きょぬー [一言] 最後の一言でいい意味で台無しでした。
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