96 でぃす・いず・あ・ぺん
第2外国語で専攻したのは、仏語であった。そのときの先生は「世界一美しい言語だ」と言っていたが、誰基準であったのか今もわからない。別に、何でもいい。
で、さてさてと教えられたアベセデ…を駆使し、作り上げたのは、やはり英語のときと変わらなかった。
そして、出された最初の課題は、『自分の部屋の状況を書いてきて下さい』
……自分が悪かったのかもしれない。いや、上にあるか下にあるか、はたまた隣にあるか、「これはお気に入りのペンです」しか書きようがなかった。
だから私は、事細かく何の上に何があってとしつこく書いて提出した。幼い日の思い出の品であるとか、親友から貰ったのだとか、彼女とは今度会って遊ぶのだ、その日の思い出もまた一緒に並ぶことになるだろう… だの、書く術を持たず、心にしまって教卓にあげた。
そんな昔話を思い出して、自分の書いた文章を読んでみると、日本語のくせにあの日の仏語を書いている。
部屋の中央にはテーブルがある。
テーブルの上にはグラスが二つある。
テーブルの右側に本棚がある。
本棚には漫画が並んでいる。私は漫画が好きだ。
―― こんなものを書きたい訳じゃない。




