56 小話『自由』~妄想に妄想を重ねていたら~
「自由とは死ぬことだよね」
幼馴染みは、突然言い出した。
「生きていくということは、何かに縛られているということでしょう。なら、私は自由になりたいよ」
彼女は尚もその眼差しを変えずに、立ち止まった。私は置いてけぼりだ。何があった、と聞くよりも、頭の中も体も寒くて仕方がなかった。昨日はあんなに暖かかったのに、一日で地面は真っ白だ。
「ねえ、聞いてるの」と、少し不機嫌になった彼女の顔が近づき、私は頷くしかなかった。その迫力がこわかった。もしかしたら、寒くて震えているだけかもしれないが、「ふ~ん」と疑いの目にぶるりとした。
彼女が面倒臭い。
そして、早く建物の中に入りたい。
けれど、彼女は積もった雪を払い、ベンチに座ってしまった。
「私はね、疲れたのよ」
「年末だもんね」
うんうん、わかるよと隣に座ったが、彼女の眉間に皺が寄っただけだった。
「馬鹿ね、数字が一つ変わるだけよ。私が言っているのは、人生の話よ」
彼女はお気楽ね、と鼻で笑った。
「繰り返し繰り返し、新しいことを始めても中身はちっとも変わらない。みんなルールの上に成り立っているじゃない。好きなことだと思っても、好きなことだけじゃない、同じよ。みんな」
「それで、死にたいのか」
「そう。終わらせたいの」
「どうやって?」
すると彼女は俯いてしまった。じっと瞬きもせずに、足元をグリグリと動かした。そして茶色に染まったところで、私の前に立った。
「殺して。私を解き放って。自由にして」
でも私は、そんな彼女を置いて公園を出た。
馬鹿らしい。
それを自由だと思っている彼女が、その後どうなるか考えてもいない彼女が、そして彼女を大事な幼馴染みだと思っていた自分が。
だから、私は彼女から離れようと決めた。
〇〇〇〇
自由についての自分の考えを込めて書いてみたが、その考えを読んでくれた人全員が全員わかるかは、わからん。
もし、文章力もとい表現力が上手くなったとしても、100%同じく捉えてもらえることなんてないよなぁ。
万人に受け入れられるものなんてないし、万人に受け入れられないものもない、多数派か少数派でしかなくて、どちらに入っていなくても“その他”もあったり。ほら、よくアンケートとかにあるでしょ?
自由って自分が決めることだよね、と思う。
で、ルールという土台の上にあるんだよ。自分ひとりしか生きていない世界じゃないからね。小さな枠から大きな枠まで、その枠から外れてくれなんて他人の自由を侵す権利なんて他人にはないよね。
なんて。




