49 こさじ、飢えを考える
人間、腹が減っているときは何を考えるものなのだろうか……
と、ありがたいことに毎日の食に困ることなく生きている私の『飢え』というのは学生時代、財布に入っている金はどんどん使っちゃれ!な浪費精神でいたときに感じたもの。
冷蔵庫を開ければいつぞや買ったケッチャプだけ。冷凍庫は役に立たない冷えすぎた氷。運よく仕送りの米と海苔と、山盛りの塩。これでバイト代が入るまでの三週間を過ごさなければならなかった。
まあ、米あったからよかったものの、それでも辛いことは確かで、しかし自業自得なため援助は請えない。何故、あんなに、すぐに、金を使ってしまったのか、財布に残ったレシートの束を握り潰し、「ぐう」と鳴いた腹を撫でる。
腹が空く―― もう食べ物のことしか頭に浮かばない。情けなさにまた財布を覗き、空気を読まない「あ~甘いもの食いたい」思考で部屋中または服のポケットを漁る。
兎に角、金があればあれば!なんてグルグルと頭の中を巡り、「バレなきゃ」とイケナイことまで考えてしまう。
熱の足りない身体は寒くて(そのとき冬)、クローゼットからスキーウェアを引っ張り出して完全防備。身に付けていないのはゴーグルだけで、またポケットを漁る。
そうして、空腹を無視するため早く寝てしまおうとするが、余計に食べ物のことと浪費のことを考えてしまい眠れない。だからってテレビを点ければ、そんなときに限って食べ物特集ばっかりで、ゲームをしてもアイテムの食料に涎が出てくる。風呂に入ったって変わらない。
あー腹へった…
呟く言葉はそれだけ。
あと何日、残り何日。何度も何度もカレンダーを見て、ないとわかっているのに財布をまたまた覗く。
あー腹へった、あー腹へった。
お菓子食べたい。甘いもの食べたい。チョコ食べたい。アイス食べたい。ヨーグルトでもいい。あー肉食べたい。焼肉食べたい。ハンバーグ食べたい。ソースと肉汁がかかったコーン食べたい。ピザ食いたい――
ポストに入っていたチラシをじっと見つめ、学食で向かいに座る友人の飯を何ともないふりしながら眺め、バイト帰りにコンビニ袋(茶色)を持った人間を羨む。
そして、家に帰ってカバンをひっくり返すのだ。
いつの間か海苔は食いきり、ケッチャプは空になり、米を炊きまくっておにぎりオンリー。水をがぶ飲み。たまにお湯。風邪は引けねーと呪文を唱え、そうして、そうして、泣いて喜んだ給料日。
今ではいい思い出です。
で、『飢え』とは、いや『生きる』とは、まずは食べるということだな。腹が減っては戦はできぬ―― まさにその通りである。




